2013年11月28日木曜日

サイコパス:秘められた能力

ケヴィン・ダットン(著) 小林由香利(訳) (2013) NHK出版

The wisdom of Psychopaths (2012) の邦訳。サイコパスの機能性について最新の議論をふまえた良書。大平さんと大隅くんの,最後通牒ゲームの研究も引用されていました。数々の実験が出てきて,面白そうなものがいろいろと紹介されています。決して系統的な議論展開ではないですが,とにかく,ひたすらに,サイコパシー特性を裏返して見ればいかに人間社会で有利な機能性を帯びてくるかを,いろいろな証拠を並べて述べている本です。マインドフルネスとの共通性は,なんとなく気づいていましたが,後半にその議論が出てきて,やっぱりそうだったんだなぁと納得。なお,本邦訳の難点は,もしかしたら原著もそうなのかもしれないけれど,洒落た言い回しをしようとするためか,分かりにくくて読みにくい箇所がけっこうあるところ。

2013年11月6日水曜日

Clash! 8 cultural conflicts that make us who we are

Markus, H.R., & Conner, A. (2013) Hudson Street Press

文化的自己観(相互独立的-相互協調的)でもって,いろいろな二項対立を説明できる,という話。単に西洋東洋の文化差だけでなくて,男女だとか,白人と有色人種だとか,都会と田舎だとか,金持ちと貧乏だとか,エビデンスに基づいて話を構成しているから,非常に説得的でクリアです。

ただ,本書とはあんまり直接的には関係ないけれど,読んでいて気分が悪いのは「有色人(種)」(people of color)という言い方。そうやって言う以外に言い方がないから,「非白人」のことをそう書いているわけです。が,そもそも僕らは元々,自分たちに「色が付いている」という観念そのものを持っていない。あくまで白人から見たら”色”が付いているということらしく,むりくりBlackだとかWhiteだとかYellowだとか,勝手に付けられているわけです。まぁ,白を無色だとしてそれ以外を有色,ということですね。ということは白人は無色人(種)ということか。それで,そういう白人から見た世界に従って”有色人(種)”という表現をすること自体が(白人と非白人という分け方が),そしてそれを読まされること自体が,気分を悪くする,ということですね。向こうが勝手に概念を作ってこちらが勝手にその枠組みに入れられる感が,気持ちの良いものではない。あと,著者二人はいわゆる白人なので,白人が,白人とそれ以外,という図式を語ることそのものが,若干,陳腐に見えなくもない。

ただ,本書の英語は読みやすく,ロジックも明確なので,文化的自己観を知る上で,良い本です。だけどやっぱり,原書を読むのは時間が掛かります。