2019年12月27日金曜日

錯覚の科学

クリストファー・チャブリス,ダニエル・シモンズ(著)木村博江(訳) 2014 文春文庫

我々人間は,認知に関する様々な側面で判断や思考が歪んでる(自分の都合の良いように曲げている)ことを,身近な例から心理学の知見を用いて説いている科学読み物。著者等は,「見えないゴリラ」実験で2004年にイグ・ノーベル賞を受賞した二人。いや実は,恥ずかしながら,この「見えないゴリラ」実験を知らなかったのでyoutubeを見てみたら,こりゃ面白い。

本書に出てくる話はしかし,基本的には心理学をやってれば(研究知見や,統計に関する解釈論など)どの話もどこかで聞いたことのある話であり(でも本書の根幹となってる「ゴリラ」実験は知らなかった・・・笑),ただそれらが上手に「錯覚」という筋に並べられているので,とても分かりやすく楽しい本になっています。日本語の訳も,読みやすいです。

2019年12月15日日曜日

ヤンキーと地元:解体屋,風俗経営者,ヤミ業者になった沖縄の若者たち

打越正行 2019 筑摩書房

これぞ研究。すごい。沖縄の暴走族の若者に混じって参与観察を10年に渡って続けてきた社会学者。驚嘆する。尊敬する。沖縄のヤンキー文化(労働や収入という側面から見れば,極めて過酷な底辺の文化)を垣間見ることができて,その内容の濃さとリアリティと,そしてやっぱり,島特有の閉塞感(単純に,海に囲まれていて,そこから出ることにワンクッションある社会特有の空気)が満ちた本になっています。沖縄は,狭い。でもって,陸続きじゃないから,簡単に離れられない(余所に行けない)。

沖縄は観光面の華やかさばかりが取り上げられるけど,お金を使いに来る観光客は「客」なのであって,リゾート地特有で,本土から移住する人も多い。それもお金を落とすから良いのだけれど,また一方で,当たり前だけど,そこに住む地元の人たちがいるわけです。そのメインの人々の世界って,「客」の視点では見えてこない。だから、こういう本は、ものすごく貴重だと思う。

2019年12月13日金曜日

生きられた<私>をもとめて:身体・意識・他者

田中彰吾 2017 北大路書房

ラバーハンド・イリュージョン,離人症,身体パラフレニア,鏡像認知,BMI,他者問題,心の理論,といった話をもとに,心の哲学や心身問題・他者問題について紡いだ本です。テーマは本当に心躍ります。東海大学の田中先生,このテーマ,この領域では第一人者です。学会発表や論文はこれまで拝見したこともありましたが,著書を読んだのは初めて。文章もとても分かりやすく,つっかえずに読み切りました。身体系の領域でも,また,心の科学(心の哲学)の領域でも活躍されているので,次回作に期待が膨らみます。

私も身体や心の哲学には興味関心が強いので,こういうテーマが大好きなのですが,さて,自分で現象学をやろうと思うと難しいし,方法論的にはなんとなくフィットしない。理論心理学会にも以前に一度入ったけど,読むのは良いがやるのは難しい(ので,辞めました)。自分はやっぱり思考が(典型的な)心理学なのだと,改めて思い直します。好き嫌いと得意不得意(できるできない)は,簡単なところでは同じですが(好きこそ物の上手なれ),突き詰めると別ですね。ということで,現象学的心理学・身体性哲学は,読む専門でやる専門ではないから,(同い年の)田中先生に期待!

2019年12月6日金曜日

心を救うことはできるのか:心理学・スピリチュアリティ・原始仏教からの探求

石川勇一 2019 サンガ

全編,同意です。心理学に関する評価も,原始仏教に関することも,いずれもその通りだと思いました。トランスパーソナルについてはあまりよく知らなかったので,本書を読んで勉強になりました。全体の主張としては,心理学もトランスパーソナル(スピリチュアリティ)も対症療法としては良いけど,根治療法としてはやっぱり原始仏教であって,そこに至るための手段として心理学(臨床心理学,心理療法,認知行動療法)やトランスパーソナル(スピリチュアリティ)を上手に使いながら,最後は原始仏教が教えるダンマ(法)へと通じるセラピーが良いよね,という話です。

一点,「精神分析は(科学的)心理学からのパラダイムシフト」的なことが書かれていますが,そもそもフロイトの頃にはまだ心理学が「実証科学」になりきっていない頃だと思うので,ちょっと違うかなと思いました。でも,気になったのはそこだけ。

ここまで徹底して修行・実践する石川先生はすごい。同い年です。1971年生まれ。尊敬します。

2019年11月30日土曜日

はじめての認知言語学

吉村公宏 2004 研究社

前半は良かった。認知言語学の「認知」の方に焦点が当てられています。後半は比較的「言語」の方に焦点が当てられていて,やっぱり基本的には「言語学」の一つであることをつくづく感じました。

ただ,認知言語学の面白さは,第一に,その身体性にあります。第二に,認知が言語に現れるということは,つまり,言語で認知が垣間見られる,ということです。この2点は,主義・立場としても,また,アプローチとしても,面白いし,具体的で分かりやすい。

認知言語学はさらに深めたいと思っています。

2019年11月24日日曜日

やさしく学ぶYOGA哲学:ウパニシャッド

向井田なお 2016 Yoga Books

本書は,ヨガスクールの教科書なのだと思います。タットヴァボーダ,カタ・ウパニシャッド,ケーナ・ウパニシャッド,カイヴァルヤ・ウパニシャッドの,サンスクリット語と日本語訳と解説です。大著です。「やさしく学ぶ」というタイトル通り,やさしく書かれています。400ページの大著なので,読むのは大変でしたが。

まずはこの辺りからウパニシャッドを,と思って読みました。この後,いくつかもう少し専門的なウパニシャッドの本を読んでみようかなと思います。

2019年11月18日月曜日

認知言語学:基礎から最前線へ

森雄一・高橋秀光(編著) 2013 くろしお出版

専門書です。「基礎から最前線へ」という副題にある通り,しかも,工夫されていて,各テーマ(章)ごとに,<基礎編>と<最前線編>で構成されています。しかし,<最前線編>が難しいのは当然として,同じ人が書いているためか,その<基礎編>もやっぱり難しい。まぁ,専攻の学部生や院生なら,このくらい標準的なのかもしれません。ただ,章によって分かりやすい文章と分かりにくい文章があるのは,執筆者の個性だと思います。途中で読むのを断念しました。本棚に置いておいて,またいつか。

学びのエクササイズ:認知言語学

谷口一美 2006 ひつじ書房

とても分かりやすい入門書。ちょうど半期の講義分(イントロ+14章)でできていて,文章も平易で,図も多用されていて,最後に演習的な課題が付いていて,各章ごとにテーマを丁寧に理解できるようになっている。認知言語学で扱うテーマに一通り触れられる,とても良い入門レベルの教科書です。

2019年11月15日金曜日

ことばの認知プロセス:教養としての認知言語学入門

安原和也 2017 三修社

コンパクトな入門書なので,とりあえず,認知言語学の触りだけでも,という方にはオススメです。1~2時間あれば読めます。ものすごく分かりやすく,噛み砕いて書いてありますので,高校生以上であれば,いや,中学生でも,読めると思います。巻末の「読書案内」も,日本語で読める本を探すのにとても参考になりました。

2019年11月13日水曜日

別冊サンガジャパン5 禅:ルーツ・現在・未来・世界

2019 サンガ

禅やマインドフルネスに関するシンポジウムのレポート(講演内容の掲載),著名な禅僧へのインタビュー,歴史や伝播についての小論など,多面的にいろいろと情報満載でした。インタビューはどれも,楽しく読めました。

2019年11月7日木曜日

荘子と遊ぶ

玄侑宗久 2010 筑摩選書

荘子と禅の本ですが,タイトル通り,実際に荘子(荘周)が出てきて毎回あれこれやりとりする,どこから現実でどこから虚構なのか分からない,面白い本になってます。老子も良いけど,荘子も良い。

玄侑宗久師の名前は知ってましたが,著書は初めて読んだと思う。こういうフランクな感じなのか~。だから人気があるんだな。面白いから,また他の著書を読んでみよう。

2019年10月26日土曜日

認知哲学:心と脳のエピステモロジー

山口裕之 2009 新曜社

これは名著である!

絶対に読んだ方が良い。心理学をする者,心とは何か,私とは何か,意識とは何か,感情とは何かなどなど,古典的基本的なテーマはしっかり盛り込まれつつ,かつ,山口先生本人の考えもしっかり主張されつつ,全編,非常に分かりやすい語り口でもって書かれていて,ものすごく気持ちの良い本になっています。

実を言うと,この本が存在することは前から知っていたのですが,「認知哲学」「心と脳」「エピステモロジー」とあって,なんとなく敬遠していて,手に取らずにいました。特に,「脳」の話にばかりなると面白くないなぁとか,エピステモロジーって何だ?とか,なんとなくタイトルから勝手に内容を想像したりできなかったりして,買わなかったのです。

しかし,全然,脳の話ばかりじゃなかった。エピステモロジーは,フランス思想で言うところの「科学(の)哲学」ということらしい。そして,中身はもっと,「心理学」の話,心理学で扱う対象を哲学する,「意識の科学」「心の哲学」の本でした。

たまたま去年,徳島大学で集中講義をさせてもらって,たまたま徳島大学にある本屋さんをぶらついていたら,徳島大学が誇る哲学者・山口裕之先生(本書執筆時は「准教授」ですが現在はもう「教授」です)の著書が平積みされていて,パラパラと中身をめくり,「おお,これは買おう!」と思った次第です。

買って良かった。そして,読んで本当に楽しかった。人間を考える根本的なところで「感情」を重視しているところも,私としてはフィットするし,勉強になります。山口先生の他の本も読んでみよう。

2019年10月17日木曜日

稽古の思想

西平直 2019 春秋社

「稽古」は単なる練習とは違う,その稽古の特殊性を語る本なのだけれど,身体論でよく出てくる話を引用しつつ,自身の考えを述べるときはその根拠がよく分からない。言いたいことはなんとなく分かるけれども,例えばそこに自身が行ってきた稽古の感覚というのが根拠にあるのならば,ある意味で論理はぶっ飛んでいても説得力はあるのだが,この著者が一体どのような稽古を積んできたのか皆目分からないので,考えや主張にまるで説得力が無い。ページ数を稼ぐために文字もやたらと大きく,行間もやたらと広い。老眼にはやさしいけど,中身は残念。なぜこれが商業ベースの書籍(しかもハードカバー)となり得るのか,理解できない。かくいう私は思わず買ってしまっているわけだけど(笑)。春秋社は懐が深い。批判的ですみません。

2019年10月12日土曜日

他者問題で解く心の科学史

渡辺恒夫 2014 北大路書房

心理学とはどういう学問か。私は心理学者として「心」を扱っているわけだけが,それは一体何をしている学問なのかをよくよく考えたい人は,絶対に読んだ方が良い本です。疑問に思っていたことが,ここにまとめて書いてありました。分かるところとよく分からないところがありますが,それはまたこれから色々と考えていく楽しみになりました。良書です。

2019年9月28日土曜日

リベラルアーツの学び方

瀬木比呂志 2015 ディスカバー

著者の個人的な読書術と読書歴を一冊の本にした感じです。著者のファンにとってはたまらない本だと思います。とてもたくさん,様々な分野の本を読んでおられることはよく分かりました。


2019年9月23日月曜日

十牛図:禅の悟りにいたる十のプロセス

山田無文 1982 禅文化研究所

臨済宗の禅僧,元花園学園大学学長,山田無文老師53歳(昭和28年)のときの,「十牛図」についての解説。廓庵師遠禅師による絵(図)と詩,およびそれに対する廓庵の弟子である慈遠のコメントを,山田老師が説いています。

言葉一つ一つが分かりやすく,本当に講義を聴いているかのようです。また,愛知県出身の老師の尾張訛の言葉がまた,同郷である私にはよく響きました。名著の一つです。

2019年9月17日火曜日

すごい博物画

デイビッド・アッテンボロー,スーザン・オーウェンズ,マーティン・クレイトン,レア・アレクサンドラトス(著) 笹山裕子(訳) 2017 グラフィック社

15~17世紀ごろのヨーロッパ人によって描かれた博物画。レオナルド・ダ・ヴィンチ,カッシアーノ・ダル・ポッツォ,アレクサンダー・マーシャル,マリア・シビラ・メーリアン,マーク・ケイツビーの画。いずれも,基本的に植物学や昆虫学といった自然科学的な視線で描かれているわけですが,その微に入り細に入った画筆がすでに芸術となっています。

面白いのは,静物画のように,何かをただ書き記したというのではなくて,その人の好みで植物と動物が,寸法を無視して,描き込まれているところ。何かと何かを勝手に闘わせたり,何かを何かに勝手に這わせたりしてます。

今では,写真技術や撮影技術が高度になっているので,こういう,手書きの資料は不要なのかもしれないですが,かつてはこれが学術研究資料だっただと思うと,動植物を捉えたこうした絵は,とても貴重だったのでしょう。目の保養になりました。

2019年9月13日金曜日

フィルム・スタディーズ入門

ウォーレン・バックランド(著)前田茂・要真理子(訳) 2007 晃洋書房

2007年に発行で,2019年で第6刷まであるので,非常に売れている本なんだと思います。というのも,映画批評をする上での視点と作法が,分かりやすく書かれているからです。本書にもあるとおり,これは,高校生か大学1年生が「映画学」「映画研究」を専攻するにあたって最初に読んでおくと良い本です。教科書としても良いですし,教養書としても良いぐらい,門外漢の私でも読めます。

最近,映画関係の本を何冊か読んでいますが,この本は,読みやすいのでオススメです。

2019年9月5日木曜日

教養としての認知科学

鈴木宏昭 2016 東京大学出版会

良書。とても分かりやすい。そしてときどき緩いコメントやボケが入っていて,本当に鈴木先生の講義を聴いているかのようです。認知科学という学問が何をどう扱う学問なのか,今までどのように扱われてきたか,今はどうか,これからはどうなっていくべきかも語られています(もちろん,「今」はどうかが,本書のメインです)。

その上で,その知識でもって広く人間を知り,広く生活に応用する,まさに「教養」としての認知科学を提供しています。こういう本を書きたいと思うけど,それはまたいつか。


2019年8月21日水曜日

心身問題物語:デカルトから認知科学まで

岡田岳人 2012 北大路書房

これは面白い。心身問題について,デカルトから現代(の認知科学)まで,読み物として非常に楽しく読めました。登場する人物の伝記を交えての展開が読みやすさ(面白さ)の重要なポイントです。難解な哲学書とは違って,17~20世紀の西洋哲学史が舞台の小説としても読める。文章が読みやすい。リズムが良い。哲学的説明と伝記的物語が上手に継ぎ目なく絡んでいる。説明のための例も分かりやすい。この手の話が好きな人は,絶対にオススメ。

2019年8月7日水曜日

認知言語学入門

籾山洋介 2010 研究社

「認知言語学」とはどういう学問なのか,ものすごく分かりやすく書かれています。特に,説明するための例文が「日本語」というところが非常に良い。

そして、認知言語学は非常に面白い。言語学の一つだけど,認知科学の一つだとも言える。心理学(認知心理学)的な発想や視点も多いので,心理屋には親和性が高い。

これを機会に,「認知言語学」をいろいろ勉強してみましょう。と思いました。

2019年7月28日日曜日

「身軽」の哲学

山折哲雄 2019 新潮選書

山折氏,八十八歳。ご自身の人生を振り返り,今の心境を,西行・親鸞・芭蕉・良寛から見る。その「かろみ」に憧れ,自身もまたそこに至ることを望む。

西行・親鸞・芭蕉・良寛の,活き活きとした(生々しい)姿を,半分小説半分評論のような文章で綴っています。この本のテーマが「半僧半俗」「非僧非俗」「脱僧脱俗」であり,それが身軽さの所以なら,この本そのものからも身軽になった山折氏を感じます。

2019年7月22日月曜日

うつくしい博物画の記録

ウェルカム・コレクション(編)堀口容子(訳) 2019 グラフィック社

綺麗な装丁の本。図版は少ない。色見本など,博物学の初期?の資料がいくつか丁寧に載せてある。

2019年7月19日金曜日

身体感覚を取り戻すハンナ・ソマティクス

平澤昌子 2013 BABジャパン

フェルデンクライス・メソッドをベースに,トーマス・ハンナが創始した,ハンナ・ソマティックスの入門書。アプローチの背景的な理論は,センサリーモーターアムネジア(感覚運動健忘症)。無意識のうちに筋肉が収縮し,身体各部の嫌みや不調をもたらしている(ひいては心理的にも不調をきたす)という考えです。これに基づき,その,無意識的に(不随意に)収縮している筋肉を,意識的に(随意に)収縮させ,意識的に緩めることで,本当のリラックスを得よう,というエクササイズです。

普通のリラクセーションやマッサージやストレッチングの考え方だと,違和感や痛みのある部分を伸ばしたり,揉んだり,緩めたりとするわけですが,このハンナ・ソマティックスのやり方は,「パンディキュレーション」というものです。これがなかなか発想として逆転している感じがオリジナルです。具体的には,無意識に収縮して硬くなっている部分(筋肉)を,まずは意識的に一度収縮させて,その後,意識的にゆっくりじわじわと戻していく,というやり方。ただ緩めるのではなくて,ゆっくりじわじわ戻すところが特徴的(このためには筋肉のコントロールが必要)。つまり,無意識から意識に,筋肉を取り戻す,ということ。

私は左肩の凝りが慢性的に続いているので,早速,試してみました。すると,「おお!」という具合に,今まで揉んでほぐしてだと効かなかったのが,このパンディキュレーションでやると,スッと凝りが解消しました。うん,効くね,これ。個人的には,今後も使っていきたいと思います。

ただ,こういう身体的なアプローチは,いろいろあるのですが,いろいろあるのはなぜかというと,効く人と効かない人がいるからです。人の身体は千差万別ですから,あるメソッドは効くけどあるメソッドは効かない,というのはよくあります。万人に効くメソッドはない,ということです。だから胡散臭いと思われる節もありますが(笑),まぁ,そういうものです。

広い意味では,西洋医学的な薬なんかも同じで,効果のある人とない人といるわけですが,こうした身体的なメソッドやセラピーや東洋的な身体技法などは,さらに幅が広いと思います。ですから,やってみて効けば儲けもの,というぐらいが適当かと思います。誰にでも効く,というわけではありません。その人に合えば,合う方法が見つかればラッキー,ということです。

2019年7月14日日曜日

映画分析入門

マイケル・ライアン,メリッサ・レノス(著)田端暁生(訳) 2014 フィルム・アート社

映画学の教科書。映画というアート,メディアを読み解くにあたって,その撮影の技術やスタイルから意味を読み解いて行く前半部分と,歴史やイデオロギー,政治や科学など,様々な視点からの批評の方法について紹介している。前半は,色々な映画を題材に表現技法を解説してるところは面白い。後半は,批評の視点を一つないし二つの映画を挙げて照会しているけれど,批評の仕方を解説するというよりは,批評の例を読んでいる感じなので,面白いところと面白くないところあり。ただ,前半だけでも,買って読む価値はあります。

2019年7月6日土曜日

路上観察学入門

赤瀬川原平・藤森照信・南伸坊(編) 1993 ちくま文庫

本書は,1986年刊行の本が文庫化されたものです。今和次郎・吉田謙吉に端を発する考現学の流れを汲む路上観察学。『超芸術トマソン』や,マンホール,女子校制服,解体建築物のカケラなど,どうでもいいもの,何の役にも立たないもの,つまり資本主義経済からはみ出してるか,そのマージナルにあるものを,観察し,記録する。ただそれだけ。いやはや,面白い。

これは博物学に近いという本書諸氏の考えのもの,早速,博物図の本を数冊注文しました。楽しみです。

2019年7月1日月曜日

「知としての身体」を考える:上智式教育イノベーション・モデル

鈴木守他 2014 学研

どの章も非常に魅力的でした。講義を本にした形なので,まるで講義を聴いているようで,とても読みやすい。内容も,身体に関して多岐に渡るので飽きない。この講義科目は,きっと面白いだろうなぁ。今でもやってるのかな。

「身体」と「身体知」がテーマの授業で,いろんな分野の先生が語る。体育・スポーツの先生だけじゃないから面白い。宗教学や社会学,言語学の先生が身体を語る。

上智は革新的だと思う。「ウェルネスと身体」という実践と講義から構成された授業科目があるそうです。体育って,ただ競技やフィットネスをやって汗流して体動かす,とかだけじゃなくて,こういう,身体を知る,って授業はやっぱり体育の一つの本義だと思います。それが体育の,人間学としての重要な核だと思います。

2019年6月18日火曜日

はじめての認知科学

内村直之・植田一博・今井むつみ・川合伸幸・嶋田総太郎・橋田浩一 2016 新潮社

認知科学の成り立ちとアプローチの仕方を知ることができる,分かりやすい入門書です。何を研究対象としているか,どういう立ち位置から考えているか,どういう問題が展開されうるかが,ざっくりと解説されています。一つ一つの研究の詳しい話は,他書や元論文に譲ることにしていて,ここでは,ニュアンスを感じ取ってもらうための本という感じに作られています。タイトル通り。

2019年6月14日金曜日

超芸術トマソン

赤瀬川原平 1987 ちくま文庫

「考現学」そして「路上観察学」なんて言葉を辿っていく内に行き着いたのが,「超芸術トマソン」。赤瀬川原平(2014年没)の名前はもちろん知っていて,記憶に近いところでは1998年の「老人力」(流行語大賞にもなった)ですね。

その赤瀬川氏による「路上観察学」。これは分かります。顔が中身を表しているから,そんなには驚かない。しかし,その後ろでチラチラとくっついている「超芸術トマソン」とは一体何なのか?「超芸術」?で「トマソン」?

読んで分かりました。そういうことね。いやしかし,これだけ時を経ると,なんで「トマソン」なのか,「ロビンソン」でも「ワトソン」でも「ダビットソン」でもなくて,「トマソン」なのか,なんでカタカナなのか,どういう意味なのか,皆目見当がつかなくて,そもそもこの突き抜けたネーミングのセンスは何なのか,それだけでただ衝撃を受けました。

そういえばそうだったと思い出したのは,赤瀬川氏は,愛知県立旭丘高校美術科(通称「旭美(きょくび)」)のご出身。そう,高校の先輩だったのでした(私は普通科ですが)。

2019年6月8日土曜日

リベラル・アーツとは何か:その歴史的系譜

大口邦雄 2014 さんこう社

リベラル・アーツについて,ギリシャ・ローマの時代から現代まで丁寧に辿る大著。前半は,西洋史,西洋宗教史(ユダヤ・キリスト教史)とも言えます。全体としては,大学教育史でもあります。勉強になりました。

2019年6月1日土曜日

「感情」から書く脚本術:心を奪って釘づけにする物語の書き方

カール・イグレシアス(著)島内哲朗(訳) 2016 フィルムアート社

プロットや構成やキャラクターも大事だけど,何より大事なのは「感情」である,ということで,どういう脚本を書けば,脚本の下読みの人に読み飛ばされないかを,事細かく解説した本。映画とは「感情」を提供するメディアであり(したがって,ハリウッドとは「感情」を売るビジネスであり),映画になることを望む脚本を書くなら当然,その「感情」に訴えていなければ,相手にしてくれないのだから,脚本の1ページ1ページに感情的インパクトを残すような書き方をしていないといけない,という指南書です。

映画に携わる脚本家の人は,ここまで考えているんだと感心しました。非常に勉強になりました。が,脚本術として微に入り細に入っているので,だんだんと途中でお腹いっぱいになり,読むのを止めました(笑)。でも,良い本だと思います(脚本家を目指す人にとってと,映画業界を覗いてみたい人にとっては)。

2019年5月21日火曜日

ポリヴェーガル理論入門:心身に変革をおこす「安全」と「絆」

ステファン・W・ポージェス(著)花岡ちぐさ(訳) 2018 春秋社

ストレスへの反応としては,闘争逃走反応(fight-flight response)と相場が決まっていて,さらにここにfreeze(凍りつき?)反応があることは知識としてはありましたが,なるほどこういう風に複数の迷走神経系(ポリ・ヴェーガル)として段階的に働いているのかと,目から鱗が落ちました。

本書は,難解であるとされるポージェスのポリヴェーガル理論について,本人へのインタビューという形で,つまり,研究論文調ではなく,講演調の口語で理論を説明している点がポイントです。そのために,神経生理の話ですが,比較的分かりやすいです。インタビューなので,同じことを何度も繰り返し述べているところがやや難点ではありますが,それも,まずは理論の全容を知る上ではちょうど良いのではないかと思いました。次はもう少し専門的なものを探して読んでみよう。そう思える構成と内容です。

1994年に発表しているということで,もう随分前から理論は存在していたわけですが,迂闊にもノーマークでした。この理論は人間を理解する上で非常に重要です。心理学や精神医学領域における今世紀最大の知見と言ってもいいぐらいかも。だから必読だと思います。

まずは本書で,概要が読めて良かった。だから,この翻訳書は非常に良いです。研究者もそうですが,特に臨床家,トラウマ治療を専門としている人たちは,ヴァン・デア・コークの『身体はトラウマを記録する』とともに,必読書でしょう(そういえば,この本にもポリヴェーガル理論のことは書いてあったような記憶が)。

2019年5月10日金曜日

黄金の華の秘密

C.G.ユング・R.ヴィルヘルム(著)湯浅泰雄・定方昭夫(訳) 1980 人文書院

有名な,道家の瞑想本(『太乙金華宗旨』)のヴィルヘルムによる翻訳本。解説をユングが頼まれて書いている。ユングが,マンダラや元型など,自身の深層心理学の着想が正しいことを確信したと言われる道家思想の書。この解説を読めば分かるが,ユングはタオイズムにかなり精通しています。

そして何より,本書の内容がたまりません。道教の実践的側面である瞑想(内丹術)について,詳しく丁寧に書かれています。

そしてさらに,湯浅先生と定方先生による日本語訳,というところがまた味があります。湯浅先生の巻末の解説がまた勉強になります。そして定方先生の方はといえば,現在,仙人のような風貌になられています。去年あった人体科学会のセミナーでお会いしました。私の本のことをご存じでおられて,大変恐縮した次第です。

2019年5月1日水曜日

ジェダイの哲学:フォースの導きで運命を全うせよ

ジャン=クー・ヤーガ 2017 学研

面白い。エピソードⅣ~Ⅵを中心に,Ⅰ~Ⅲも加えて,登場人物たちの言葉から,ジェダイの哲学・思想を紐解く。フォースとともにあるジェダイたちの哲学は,今を生きる我々にもそのまま活かすことができる。

「フォース」は,そのまま「タオ」と言い換えても良い。あるいは「ダルマ」でも良いかもしれない。いずれにしても,その教えは現代的でもあり,古代的でもある。大昔から人はこの真理に気づいている。昔も今も変わらない。あとは実践するのみである。


2019年4月29日月曜日

荘子Ⅰ・荘子Ⅱ

森三樹三郎(訳) 2001 中公クラシックス

『荘子』は,実は初めて原書訳を読みました。今まで『老子』は,原書訳から英訳から解説から色々読みましたが,『荘子』は解説や入門書程度で,一度ちゃんと読もうと思って買ったのがこれ。訳本はいくつもあるけれど,なんとなくどうもこれが一番良さそうだと思って手に取りましたが,良い理由が分かりました。森先生の訳が良い!非常に分かりやすいし,読みやすい。読み進めるのが楽しくなる。ときどき挿入される内容解説も『荘子』理解の助けになる。やっぱりアマゾンの『荘子』本でも第一位。

『荘子』を読むなら,これはオススメです。これで『荘子』全33編一通り読んだので,今度はあれこれ解説本にも手を出してみよう。

2019年4月5日金曜日

身体の時間:<今>を生きるための精神病理学

野間俊一 2012 筑摩選書

現代の精神病理を,身体と自己と時間といった観点から読み解いた本です。

正直書くと,ところどころ論理が飛躍してたり,話が尻切れトンボだったり,なんでそういう結論になるのかよく分からなくなるところが散見されるんですが,全体としては読めました。事例的な話は,とても参考になりますし,やはりリアリティがあります。

2019年3月30日土曜日

脚本を書くために知っておきたい心理学

ウィリアム・インディック(著)廣木明子(訳) 2015 フィルムアート社

この本は面白い。映画の脚本家のために,知っているとヒントになる心理学の話。ただ,「心理学」となっているけど,中身は「精神分析」です。原題もpsychoanalysisではなくpsychologyなので,意図的に「心理学」と書いているのは,まぁ,その方が通じやすいからでしょう。

なので,「精神分析」を映画を題材に学ぶ,という観点でも面白い本になっています。僕はむしろこの観点で面白かった。やや誤植が多い感はあるけれど,訳もこなれていて,読みやすかったです。

精神分析は,やっぱり面白い。なお,イントロダクションで,「精神分析は科学的な心理学者や医学者には人気がなく,非科学的な芸術家や俳優や作家には人気がある」と書いてました。その通り。

2019年3月21日木曜日

談 no.114 特集:感情身体論

乾敏郎・佐藤友亮・岡原正幸 2019 TASC・水曜社

それぞれの対談です。乾先生の本『感情とはそもそも何なのか』はすでに買ってあるので,そのうち読みます。佐藤先生の本『身体知性:医者がみつけた身体と感情の深いつながり』と岡原正幸先生の本『感情を生きる:パフォーマティブ社会学へ』はすでに読んでました。

というわけで,僕が興味関心を持つお三方のそれぞれの対談がつまった特集号だったので,即,買いました。いずれも,馴染む議論で,首肯できます。

しかし,ここに出ている,金巻芳俊さんの作品は,すごいなぁ。木彫り?

赤羽駅前ピンクチラシ:性風俗の地域史

萩原通弘・木村英昭(編著) 2018 渓流社

37年間分の風俗店のピンクチラシ・コレクション。別にエロを求めてではなく,あくまで純粋に収集として。すごいです。強烈に収集癖のある人なんだろうなぁ,たぶん。地図の描き方や書き込みや筆跡を見ても,緻密で細かい。

1978年から2015年の37年間です。1978年と言ったら,僕はまだ小学校1年生ですから,なんと果てしなく長い時間,集め続けたのか。もうホント,これだけで現代文化研究の貴重な歴史的資料です。

そういえば,祖父が死んだ時,彼の机の下から,いくつかの紙袋に入った大量のマッチ箱が出てきたのを覚えている。祖父はパイプ吸いで,たぶん,趣味は喫茶店巡り。そこでコーヒーを飲みながら何時間もかけてパイプを燻らす。社交性はあんまりない無口な人だったから,一人で名古屋の喫茶店巡りでもしてたんだろうけど,巡りながらマッチ箱集めてたんだろうなぁ。そういえば,緻密で細かい船の模型とかも作ってました。建築士でした。

2019年3月19日火曜日

心と身体がととのう「天台小止観」

高田昭和 2009 春秋社

岩波文庫の関口真大訳『天台小止観』は手強そうだと思い,まずとっかかりとしてざっくり「天台小止観」について知りたいと思って,とりあえず,読みやすそうな解説本的なところから入ろうと思い,読みました。その目的には適っている本です。ただ,高田氏の知識や学識が多分に含まれているので,「天台小止観」に基づいた仏教解説本,坐禅(仏教瞑想,止観)解説本,と考えた方が良いでしょう。

2019年3月16日土曜日

不道徳お母さん講座

堀越英美 2018 河出書房出版社

ほぼ同世代の筆者。子供も同じぐらい。思うところ感じるところはだいたい同じ。なんで小学校ってこんなことやるんだろう,という疑問をもとに,経緯を探っている,そんな本です。だから別に「お母さん」が「不道徳」になるための本ではないです。

中盤が母性幻想に関することで,あと,筆者が女性であることから「お母さん」とタイトルが付いているけれど,決して女性(お母さん)に向けた本というわけでもないです。

今に至る背景が分かって,いろいろ勉強になりました。

2019年3月15日金曜日

ヒトごろし

京極夏彦 2018 新潮社

新撰組副長・土方歳三の物語。1083ページ。京極夏彦の面目躍如,十八番である弁当箱小説。読み応えあります。幕末の志士は,得てしてヒーロー的に扱われますが,ここで描かれる志士たちはなんとも泥臭く,人間臭い。

持ち運びには向いていない辞書並みの厚さなので,自宅で少しずつ読み進めました。京極ファンはもとより,幕末の好きな人も読んでみると面白いかも。でも,沖田総司ファンは引くだろうなぁ(笑)。

2019年2月27日水曜日

タコの心身問題:頭足類から考える意識の起源

ピーター・ゴドフリー=スミス(著)夏目大(訳) 2018 みすす書房

タコマニア哲学者によるタコの本である。イカマニアでもある。そう思って読んだ方が良い。決して哲学の小難しい本ではありません。タコやイカは,人間と全然違う進化をしてるけど,結構,人間臭いところもある。さて,そんなタコやイカの主観的経験ってどんな風なんだろう,というところからあれこれ書いている。そういう本です。

とにかく徹底的にタコやイカについて観察し,調べ,考えている。ここまで来ると,愛である。なにせ,タコを観察するために,何時間も海に潜ってただ見てるだけ,なんてことを喜々としてやって,文章にしてるわけだから。

しかし,マニアっぷりも,ここまで徹底すると,研究になり,そして商売になる。この人はこれで飯が食えるわけです。いや,タコとイカだけで飯食ってるわけではないかと思いますが,いずれにせよ,哲学者として著名なわけです。素晴らしい。尊敬に値します。

哲学の本というよりも,半分は進化論や生物学や心理学(認知科学)の本です。その辺りの領域横断的な学際性も,読んでいて面白いのかもしれません。

2019年2月18日月曜日

泊手突き本

山城美智 2018 CHAMP

沖縄拳法沖拳会・山城美智師範の「突き」に関する本です。主にナイファンチ(ナイハンチ)の要諦とその解説が中心です。勉強になりました。稽古に活かせそうなところや,身体操作のヒントもたくさんありました。ただしかし,やっぱり,分かりきったことですが,こういう身体的な技法は実際に習わないと,本当のところ,言葉や絵だけではなかなか分かりません。いつか実際に教わってみたいので,セミナー等々の機会があれば行ってみたいと思います。

ホモ・デウス(上)(下)

ユヴァル・ノア・ハラリ(著)柴田裕之(訳) 2018 河出書房新社

前作『サピエンス全史』が人類の誕生から現代までの話で,今作は人類のの今とこれから未来の話。人類の未来に関する本ですが,予言本ではなくて,つまり現代批評です。

前作もそうですが,この著者のロジックはとても説得力があり,読み進めていて引っかかるところがない。書いていることは刺激的ですが,なるほどと思える論理展開であり,書き方として非常に自制的であり,バランスが取れている(偏向していない)からだと思う。ただ自分の主張だけを押しつけてくるのではなく,そうではない立場の考え方もあることを述べながら丁寧に進めていく点に,読む側としては,彼の主張に引き込まれているミソがあると思いました。

エビデンスも領域問わず広範に渡っていること,皮肉やシャレも随所に効いていること,そしてもう一つは,前作もそうでしたが,翻訳者の訳文が非常に読みやすいこと,この辺りが,読んでいて気持ちが良いのだと思います。訳文が,日本語のリズムとしてこなれていて,上手いと思う。

内容的には,本作の場合,前作よりも,より心理学的というか,哲学的というか,心,感情,精神といったことが重要な(本書全体を通してのテーマ的な)感じになっています。だからより面白いと感じるのかも。

前作と併せて読むのが良いと思います。読んでおいて絶対に損のない,いや,いろんな意見のある中で,「今」,読んでおくべき本ですね。

2019年1月19日土曜日

完全版社会人大学人見知り学部卒業見込

若林正恭 2015 角川文庫

オードリー若林氏のコラム。M-1で準優勝してから仕事が増え,その中で感じる日々のあれこれを,昔感じていた日々のあれこれと行ったり来たりしながら,その思いを綴っていて,面白い。やっぱり,こういう,偏屈でこだわりのある人が,普通の人の発想ではない観点で世の中を見るから,面白いだろうなぁ。そして何より,あんまり媚びてないところが良い。いや,媚びてることを自覚して媚びてるところが良い。そのことを媚びずにコラムに書いてしまっているところが良い。

2019年1月14日月曜日

怒らない禅の作法

枡野俊明 2016 河出文庫

「怒り」というテーマで,禅からどうやってアプローチするか,いろいろな例や話を交えながら,紹介しています。禅語もよく出てきます。1つの話が2ページもしくは3ページでまとまっていて,非常に読みやすいです。一つ一つ丁寧に生きることが,やっぱり大切。