2016年5月30日月曜日

真説・長州力 1951-2015

田崎健太 2015 集英社インターナショナル

「長州力」って,なんで魅力的なんだろう。とにかく,このプロレスラーを「見たい」と思わせる強い引力を持っている。そこにいるだけで,その存在感だけで,強さ,男臭さ,哀しみ,怒り,エネルギー,パワー,スピード,優しさ,温かさ,いろんなものを放っている感じがします。

でもそれはただそこにいきなり現れてそういう存在感を放つのではなく,思い返せばこのノンフィクション作品に出てくる端々を,80年代の新日本プロレスから(熱狂的なプロレスファンというわけではないけれど)見たり読んだりしているから,というこちらの要因も含むと思いました。ああ,こうしてあれとこれがつながって,あのときのあれがこうなってああなって,あれはこういうことだったのね,と。

ということはつまり,80年代のあの金曜夜の『ワールドプロレスリング』から,プロレスという格闘技エンターテイメントが多かれ少なかれ好きな人にとっては,この本は,絶対に面白い。なぜ「長州力」を「見たい」と思うのか,人間・長州力の魅力の背景が,時間軸に沿って丁寧に手繰られていて,読んでいて引き込まれました。

単に長州力を持ち上げる虚飾にまみれた太鼓持ちな伝記ではありません。長州力という人間に誠実に迫った,ノンフィクションです。

2016年5月18日水曜日

恐怖の哲学:ホラーで人間を読む

戸田山和久 2015 NHK出版

本のタイトルだけで,これは面白そうだと思って買っておいて,さてようやく読む番が回ってきたので手に取ると,著者はなんとあの名古屋大学の戸田山先生。これはさぞ分かりやすくて面白い本に仕上がっているだろうと,わくわくどきどきしながら読みました。

期待通りの内容です。

以前,戸田山先生の『科学哲学の冒険』を読んだとき,なんて分かりやすくて,しかも,科学哲学っていう分野を面白くプレゼンしてる本なんだと,とても印象に残っていました。今回のこれも,とても分かりやすく丁寧に,情動(感情)をテツガク的に解きほぐしています。だから,結果,分厚くなっています(新書ですが400頁弱)。

感情研究をするなら,これは必読でしょう。哲学だけど,心理学者も,是非,読んでおくべきです。実際,心理でよく出てくるような話もたくさん出てきます。