2014年2月27日木曜日

日本人はなぜ存在するか

與那覇潤 2013 集英社インターナショナル

面白く,分かりやすく,読みやすく,内容も一貫していて,あっという間に読了。主には,社会学における「再帰性」という概念(あらゆる制度や概念や言説などはすべて,任意に作られた共同幻想だといったような考え。本書では「共同幻想」とは言ってないけど,たぶんだいたいそんな感じ)で,「日本」にまつわる話を分解しています。ここでいう「再帰性」は,だから,何も新しい考えではなくて,共同幻想であり,言語ゲームであり,社会的構成主義であり,ナラティブであり,色即是空空即是色であり,といった具合にいろんな形で語られていますから,本書が何か独創的で新鮮なことを言っているわけではありませんが,特には「日本」に焦点化して一つ一つ丁寧に説明的に議論していて,「なるほどなぁ」「そうだよねぇ」「たしかになぁ」と面白く読めました。本書が,大学における教養科目の講義録をベースに作られている点からも,その分かりやすい説明的な流れが非常に納得できる,良い構成になってます。こういう教養科目を受けられる,愛知県立大学の学生は,幸せです。

2014年2月24日月曜日

読む坐禅

中野東禅 2013 創元社

読みやすい本です。ただ,「読んでいると,なんだか坐禅をしているような気分になります」と帯には書いてありますが,別にそんな気分にはなりません(笑)。坐禅にまつわる話を,ざっくばらんにあれこれ書いているエッセイ集みたいな感じです。本書を通じて一貫して東禅師が訴えているのは,「寂静」です。坐禅は寂静。静かに安らいだ状態。そこに落ち着くこと。その落ち着き,安らぎ,静けさになりきること。だいたいそんな感じのことでしょうか,それを,あれやこれやの例やら話やらで,伝えようとしています。

2014年2月15日土曜日

意拳・気功

張紹成 2012 BABジャパン

站椿功や開合の解説は,役に立ちました。勉強になりました。気功のメカニズムや効果に関してはいろいろな考えがあるので何とも言い難いですが,本書は現代科学的な理解の枠組みを若干超えたところに,その現象の原理を見いだしています。気功といえばこういう説明をしがちな面はしばしばありますから,本書が奇書,というわけではなく,その意味ではよくある気功の本ではあります。その辺りが少々ついていけないですが,本書で紹介されているエクササイズは,身体運動として,バランスを養ったり,ストレッチしたり,また,自分の身体の微細な感覚に注意を向けたりという面では,ところどころに神秘的な説明を持ってこなくても,十分に意味があると思いました。気功は,背景に気や陰陽といった道教の考えがありますので,もちろんそれと結びつけることで意味が深まるわけですが,そういう説明をあえてしなくても,心身の修養法として十分に効果がある,ということです。むしろ,そういう神秘的非科学的な説明が,「気功」を怪しくて胡散臭いものに見せているところがあるような気がします。ただ,気功にもいろいろあるので,本当に怪しいものからちゃんとしたものまで,ピンキリではあります。なので,体育学・スポーツ科学・心理学に基づいた,もっと淡泊で科学的な気功の本があれば読みたいです。

2014年2月14日金曜日

謎の独立国家ソマリランド

高野秀行 2013 本の雑誌社

大著です。分厚い。各方面で評価の高いノンフィクション。確かに高野氏の文章は面白いし,臨場感があって一緒に旅をしているような気にさせます。が,本書は,読み進めていて,とうとう,飽きてしましました。いや,こういう冒険譚が好きな人,元々高野ファンの人には非常にたまらない大作なんだろうとつくづく思います。文章は面白い。でも,要は,この,ソマリランドや旧ソマリアの話に,飽きてしまいました。読んでいて,一体高野氏がどこに向かっているのか,どこに行こうとしているのか,何を探しているのかが,いまいち分からず(もちろん,たぶんそんなものはなく,よく分からない「謎」の国家を,「謎」だから,実際に行って見聞しているわけだけど),そのために,結果,ソマリランドやソマリアは実際はこういうところでした,という報告を高野氏の面白い文章で読んでいるだけ,ということになってきて,結局,飽きてしまったという次第です。有名な『幻獣ムベンベを追え』を読んでないから,それだけはいずれ,読もうと思います。

2014年2月8日土曜日

三戦の「なぜ?」

クリス・ワイルダー(著)倉部誠(訳) 2012 BABジャパン

タイトルの前には正確には「日本の空手家も知らなかった」と刺激的な惹句が付いている。確かに競技中心のスポーツ空手の道場であれば,ここで書いていることは(競技にとって)まったく無用であり,おそらく,そういう道場ではこういうことは一切教えないだろう。競技中心の元選手であった先生は,こんなことは習ってないので知らないだろうから,当然,自分の生徒に教えられるはずもない。確認したわけではないが,体感として,日本の空手道場の9割がスポーツ空手の道場だと想像すると,確かに「日本の空手家」はここに書いていることは知らないという言葉はあながち間違いではない。しかし,少なくとも私の道場ではここで書いていることの大半は普通にやっているし実践もしている。一部,そうしない方がむしろ身体操作的には良いだろうと思える箇所もあるけれども,概ね賛同できる。なので,読んでみて新たな発見や得したところはわずかだけれども,そのわずかな発見があっただけでも得したといえる。なお,本書は,実践する上で関係のない内容の話が書かれていたり,関係があるのかないのかよく分からない(笑)名言が各章ごとに書かれていたりして,読んでいて混乱する点はイマイチ。本書全体の格調を高めよう,サポーティブな理屈で埋めようという意思が感じられるけれども,そういう脚色はしなくても,十分に良い内容ではあるから,その点,残念。

2014年2月5日水曜日

聖なる怠け者の冒険

森見登美彦 2013 朝日新聞出版

期待して購入し,読み始めたけれど,率直に言えば,ところどころの場面は面白いんだけどれど,全体的には面白くなくて,もう最後の最後のところで我慢しきれず,読むのを止めました。森見小説と言えば,『太陽の塔』『四畳半神話体系』はものすごく良かった。しかし,『きつねのはなし』はまだしも,『夜は短し歩けよ乙女』あたりから,「ん?」という感じで,この人こういう幻想的な小説を書くのが好きなんだと思うようになり,あまり読まなくなりました。ただ,『恋文の技術』は爆笑なのでおすすめ。そこでこの『聖なる・・・』ですが,『きつね・・・』『夜は・・・』と同系統ですね。もうたぶん,森見小説は,なんとなく,買わないような気がする。残念。