2015年5月23日土曜日

酒場詩人の流儀

吉田類 2014 中公新書

BS-TBSの「酒場放浪記」が大好きである。出てるDVDは全部持っている。そんな吉田類さんのエッセイ集。俳人でありイラストレーターであり,本書を読めば分かるように,登山家です。本書は,「新潟日報」と「北海道新聞」に連載していたエッセイをまとめたものなので,新潟や北海道にちなんだ話題が多い。そこに生まれ故郷の四国の話が絡む。もちろん酒の話題はたんまり出てくるわけですが,酒場の話はそんなに出てこない。むしろ,山の話,川の話,草木の話,動物の話が多い。だから,読後感は,「あれ,これ登山家のエッセイ集だっけ?」という感じ。吉田類ファンにとっては,吉田類さんの人となりが分かって,だからほとんど登山エッセイだけど,それでも面白い。

2015年5月19日火曜日

チャンミーグヮー

今野敏 2014 集英社

『義珍の拳』も『武士猿』も,面白かった。で,『チャンミーグヮー』である。端的には,面白かった。でも,この面白さは,空手をやってるからかなと思うのだけれど,どうなんでしょう。登場する名だたる空手家や,出てくる形を知ってるから,面白いのかもと,今回は思いました。

というのも,『義珍の拳』や『武士猿』の方が,なんていうか,キャラクター設定が良かったり,葛藤や成長を丁寧に描いているところが良かったりした気がします。いやもちろん今回もそういうビルドゥングスロマンなんだけれど,今回はより,空手の,特には少林流・少林寺流に代表される喜屋武朝徳先生系棟の空手を,かなり前面にマニアックに押し出した,言わば,今野塾小説的な色合いが強かった気がします。もちろん,個人的には,それがまた面白かったわけですが。

小説家「今野敏」と言えば,世間的には警察ものの方が有名?ですが,今野先生には引き続き,この,空手家シリーズを,是非お願いしたい。でも,喜屋武先生書いてしまったら,ある意味,今野敏先生的にはゴールなんだろうなぁと思いつつ,でも次に期待。

2015年5月15日金曜日

あやしい求人広告,応募したらこうなった。

多田文明 2015 文庫ぎんが堂

2010年に双葉社から刊行された『本当は怖い求人募集』に加筆・再編・改題して文庫化したものです。この著者の,キャッチセールスの体験ルポ『ついていったら,こうなった』とか,迷惑メールの体験ルポ『クリックしたら,こうなった』とか,どちらも面白かったので,本書も購入。

それなりに面白かったけれど,難点は,著者本人がこの執筆時点で40代半ばということで,怪しい求人広告の潜入ルポというよりは,この年代の男性が応募した場合どうなるかという意味合いが色濃く出ています。つまり,怪しい求人広告も確かにあるけれど,別に怪しくないアルバイトでの単なる40代男性体験ルポになっているものもあり,タイトルにやや偽りあり,か。

ま,タイトルはとにかく手にとって買ってもらうために煽るわけだけど,あれ,これってつまり怪しい求人広告と同じ戦略ですね。ひっかかりました。ただ,各種アルバイトの様子が知れて,それなりに面白かったので,良いです。

2015年5月12日火曜日

鬼談

京極夏彦 2015 角川書店

「 」談シリーズ第四弾。『幽談』『冥談』『眩談』に続く,『鬼談』。怖い。今回は,なんていうか,鬼になってしまった人の話の短編集。最初の一発目の作品はよく分からないエロな感じだったので,初出を見たら『エロティシズム12幻想』ってのに掲載されたものでした。やっぱり。

京極作品は,論理的な謎解きものと,ギャグものと,こういうなんていうか人間の業のような暗い話ものの大きく3種類かと思うんですが(もちろんそれだけじゃないですけど),今回の『鬼談』は,なんか読んでいてもう暗くて暗くて,滅入りました。なのでさっさと読了。

最近年を取ってきたからか,なんか暗い話は,しんどいなぁ。

2015年5月9日土曜日

アイネクライネナハトムジーク

井坂幸太郎 2014 幻冬舎

『首折り・・・』に続き,二冊連続で井坂を読みました。あとがきで自身が語っているように,井坂作品にしては珍しく(?),恋愛モノ,というか,出会いモノ,でした。登場人物それぞれの縁について,まずまずハッピーエンドで終わります。なんといっても,ハッピーエンドだろうと思わせる装置として,場面転換のところで,段落と段落の間に,「♪」マークが挿入されています。それは,本のタイトルが『アイネクライネ・・・』だからという理由もあるだろうけれど,これで不幸な結末だったら,ブラックすぎる。なのでどの話も安心して読める,ほのぼのしたものです。最後の章で,それらの登場人物とそのエピソードが,時間軸を前後しながら,つながってる様子が描写されて,愉快でした。

2015年5月4日月曜日

首折り男のための協奏曲

井坂幸太郎 2014 新潮社

久しぶりに小説を読みました。そしてやっぱり井坂小説は,面白い。仙台に縁のある井坂氏は,震災時,しばらく書く気力が失せたというようなことをどこかで読んだけど,この1~2年の精力的な執筆は,すごい。その生産スピードにまったく付いていけず,ようやく今,「首折り男のための協奏曲」を読むことができました。その他,いくつものタイトルの単行本が出ていますが,取捨選択して数冊購入。その第一弾です。

タイトル通り,最初の数編は首折り男の話ですが,それが続くのかと思いきや,探偵・黒澤の話が途中数編。だから,首折り男にまつわる連作,というわけではありません。最後にまた首折り男が絡んだ話。まぁ,それでも,どの短編も面白いから,良い。

京極夏彦,万城目学,井坂幸太郎,東野圭吾。他には最近,中村文則。この辺りは,世の中の評判通りではありますが,どれも当たりです。