2016年2月29日月曜日

瞑想を始める人の小さな本:クヨクヨとイライラが消えていく「毎日10分」の習慣

パトリツィア・コラード(著) Lurrie Yu(訳) 2015 プレジデント社

マインドフルネスに関する,コンパクトで,装丁やイラストも綺麗な本です。大きさも手のひらサイズで,わずか100ページ弱。マインドフルネス瞑想を始めて見ましょうと誘いかける,優しい本です。

ただ,思うに,もしこれが本当の意味で全くの初心者が読んだら,掲載されているエクササイズのいくつかは,文章を読んだだけではどうやって良いのかよく分からないし,マインドフルネスや瞑想などの経験のある人の指導がないと,どういう状態を指しているのか分かりにくいところがある,のではないかと思います。

瞑想エクササイズは,シンプルな方が良いと,個人的には思います。だから,本書の中でも,簡単な(ただし,それを続けようと思うと難しかったりする)エクササイズは非常に良いですが,身体の各所を観察するようなエクササイズは,早々に読んでできるようなものではないと,僕は個人的には思います。身体感覚って,難しいよ。

だから,この本は,コンパクトで文章も少なく,イラストも装丁も綺麗な,かわいらしくて取っつきやすい本ですが,マインドフルネス瞑想としてよく用いられるワークが,一通り,書かれている感じです。ものによっては,だから,難しい。

2016年2月27日土曜日

総員玉砕せよ!

水木しげる 1995 講談社文庫

2015年末,「水木しげる」が亡くなりました。説明の必要のない,かの手塚治虫に並び称される,日本の偉大な漫画家です。小さい頃,あのおどろおどろしいゲゲゲの鬼太郎を描いた漫画家に左腕がないことを知って,なぜ腕がないのかが理解できず,薄暗い恐怖感のようなものを覚えたのを記憶しています。

理由は大人になって後から知るわけで,それは戦地で吹き飛ばされたから。つまり,水木しげるは第二次大戦で徴兵されて激戦地に向かい,終戦を迎えて復員した傷痍軍人なのであり,この本は,その,水木しげるの戦争(戦場)体験に基づいた戦記物です。

妖怪漫画もそうですが,独特のあの細かい書き込みの絵を,右手一本で描く。描くことへの鬼気迫る執念。それは戦地で亡くなった戦友たちの怨念でしょうか,そんなものを,左手をラバウルに置いてきた代わりに右手に背負い込んできたかのようにも,思えます。まるで水木の右手が独りでに絵を描いているかのように。

この漫画は,淡々と前線の,それもジリ貧の戦力の日本帝国軍の,明日も知れぬ前線の日々が描かれていて,だからとてもリアルで,心が痛くなります。本当に行ったことのある人しか描けない,想像では絶対に描けない,そういう当時の様子が,描かれています。

2016年2月24日水曜日

はじめてのマインドフルネス:26枚の名画に学ぶ幸せに生きる方法

クリストフ・アンドレ(著) 坂田雪子(監訳) 繁松緑(翻訳) 2015 紀伊國屋書店

良い。とても良い。まず,絵が良い。画集として,良い。その絵の解説書として,良い。26枚の絵を語りのきっかけとして,マインドフルネスについて,丁寧に解説しています。全部で24章に分けて解説していますが,章ごとに,「レッスン」として実践法というか,その章の内容に見合った瞑想法や生活方針が,書かれています。

本国フランスでも32万部のベストセラー,この他,世界12ヶ国で翻訳されてます。それだけの人気が出る理由も,分かります。文章が読みやすいのと(これは日本語の翻訳者の力量もある),装丁も綺麗です(ただ,これも,日本語版の装丁者の力量もある)。

マインドフルネスを語るとき,語り方は様々です。また,微妙なところ,細かいところは,多少の違いも,あります。でもそれもまた,味があってよい。この人はマインドフルネスをこう解釈しているのだな,それもアリだな,いやこれはちょっと違うなとか。それらはそれらで,良い勉強になりますし,また,良い発見になります。

だから,マインドフルネスや禅は,一つの本に傾倒するのも良いですが,色んな本を読む方が良いと思います。マニュアル本やあるいは原典・原著であればそれを何度も読み返す,ということがありますが,ある概念があって,それは,言語化してすぐさま誰もが客観的に理解できる数学的なものでなければ,それに関する言説を,分け隔て無く読むが良いと思います。

本書は,マインドフルネスについて,読んでおくと良い本の一冊です。

2016年2月6日土曜日

怒り:心の炎の静め方

ティク・ナット・ハン(著) 岡田直子(訳) 2011

その方法は,意識的な呼吸と意識的な歩行。これを実践し気づきを養う。そして,コンパッション(思いやり,慈悲)の心をもって相手に接する。本書はこのことを,いろいろな例を示したり,色んな側面から説明したりしています。

怒りを拒絶したり捨て去ろうとしてはいけない。受け入れる。胃が痛いからと言って胃を捨て去ろうとはしない。足が痛いからって足を切り捨てたりしない。自分の赤ん坊が泣いているからといって,置き去りにしない。全力で癒そうとする。全力であやそうとする。怒りも同じである。怒りもまた自分の一部であり,だから,怒りを全力で癒さなくてはならない。全力であやさなくてはいけない。

良い教えです。

2016年2月2日火曜日

戦後日本の宗教史:天皇制・祖先崇拝・新宗教

島田裕巳 2015 筑摩選書

「宗教学者・島田裕巳の集大成!」と帯にある。戦前の国家神道体制の成り立ちから,そこを基軸に戦後50年間の間,宗教,特に新宗教がどう展開してきたかを,概ね時間軸に沿って丁寧に解いている。300ページだけれど,1ページの文字数は少なく,また,文章も平易なので,さらっと読めます。

中身は,副題にある通りの3本の軸に沿って書かれているけれど,ざっくり分けると,国家神道(特に靖国神社)と創価学会とオウム真理教の話が中心です。この辺の話に興味関心のある人は,面白く読めると思います。一方で,新新宗教辺りを期待した人には,ちょっと肩すかしにあうかもしれません。