2016年2月27日土曜日

総員玉砕せよ!

水木しげる 1995 講談社文庫

2015年末,「水木しげる」が亡くなりました。説明の必要のない,かの手塚治虫に並び称される,日本の偉大な漫画家です。小さい頃,あのおどろおどろしいゲゲゲの鬼太郎を描いた漫画家に左腕がないことを知って,なぜ腕がないのかが理解できず,薄暗い恐怖感のようなものを覚えたのを記憶しています。

理由は大人になって後から知るわけで,それは戦地で吹き飛ばされたから。つまり,水木しげるは第二次大戦で徴兵されて激戦地に向かい,終戦を迎えて復員した傷痍軍人なのであり,この本は,その,水木しげるの戦争(戦場)体験に基づいた戦記物です。

妖怪漫画もそうですが,独特のあの細かい書き込みの絵を,右手一本で描く。描くことへの鬼気迫る執念。それは戦地で亡くなった戦友たちの怨念でしょうか,そんなものを,左手をラバウルに置いてきた代わりに右手に背負い込んできたかのようにも,思えます。まるで水木の右手が独りでに絵を描いているかのように。

この漫画は,淡々と前線の,それもジリ貧の戦力の日本帝国軍の,明日も知れぬ前線の日々が描かれていて,だからとてもリアルで,心が痛くなります。本当に行ったことのある人しか描けない,想像では絶対に描けない,そういう当時の様子が,描かれています。

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