2017年10月29日日曜日

このせちがらい世の中で誰よりも自由に生きる

湯浅邦弘 2015 宝島社

まず表紙が良い。とても良い。そして中身ともよくフィットしています。とある40歳過ぎのサラリーマン(「男」)と,奇妙な老人(「老人」)との対話形式なので,まずもって,読みやすい。

この「男」(サラリーマン)が,とてもリアリティのある悩みや問題を「老人」にぶつけ,「老人」が老子や荘子で答えるというパタンなのですが,良さのポイントは,「男」が反論するところです。現実的な制約やしがらみや状況を踏まえて,老子や荘子のようには行かないでしょう,そこは無理でしょう,と都度都度反論するところに,老荘思想をよりよく理解する工夫がなされています。

というのも,老荘思想は,それだけを単独で一方通行で読むと,理想論かあるいは説教集のようになってしまうからです。それでも良いと言えば良い。そういう理想論に自分をどう近づけていくかも,自己を考える上で必要だからです。本書はその点,この「男」にその役目を担わせています。だから,読みやすい。

老荘のニュアンスを掴みたければ,専門書に近いものよりも,こういう読み物の方が良い。我々のような専門家ではない素人にとっては最適です。でもこれ,かの有名な湯浅先生が書いているところもまた,ミソでしょう。おすすめです。

2017年10月22日日曜日

マインドフルな毎日へと導く108つの小話

アジャン・ブラム(著)浜村武(訳) 2017 北大路書房

これは面白い本です。短い108つの話が収められていますが,これは,タイの高僧アジャン・チャーの元で修行したオーストラリア在住のイギリス人仏僧である,アジャン・ブラムの講話集です。

ユーモアと含蓄のある話は,読んでいて飽きません。翻訳も滑らかで読みやすい。話の一つ一つに,「はっ」とさせられます。読みながら,「そうなんだよな~」「うんうん,たしかにね~」「これだよ,これ,こういうことだよ」と思わずうなりながら読んでしまう本です。

原題は,”Opening the door of your heart"なので,そのまま訳せば『心の扉を開く』です。なので,決して昨今流行の「マインドフルネス」を身に付けようとすることに主眼を置いて書かれた本というわけではありません。内容は,もっと広い意味で,仏教的な考え方,在り方,ライフスタイルを伝えようとするものです。だからとても良い本です。

2017年10月13日金曜日

禅思想史講義

小川隆 2015 春秋社

平易な日本語と,古典の分かりやすい現代語の訳や解釈もあいまって,とても分かりやすく読みやすい本です。やはり,本格的な学術書となると,漢語や古語が難しいし,禅や仏教の専門的な用語が出てくるとこれも一つ一つ理解しながら読むのはなかなか骨が折れます。その点,この本は,禅の通史として,唐代と宋代の中国禅を中心に,最後は鈴木大拙に至るところまでをざっくりと解説しています。大きな流れを掴むことが目的だとまえがきにもあるように,その目的は十二分に達成されています。禅の研究は専門的にはもっとずっと深いのだろうけれど,本書のこれはこれで,とても勉強になりました。

2017年10月1日日曜日

書楼弔堂・炎昼

京極夏彦 2016 集英社

どんな感想もありきたりになってしまってつまらないですが,とにかく,京極は面白い。今回のこれも突き抜けて面白い。至福。出版からずいぶん時間が経ってしまって,買ってずっと置いてあったのですが,ようやく読めました。前回の『破暁』とは,語り手が変わりました。次はどうなるのか。いやしかし,面白い。

是非ともさらに京極ファンが増えることを期待し,未だ京極を知らない方にはこの書楼弔堂シリーズから入っていただき,原点の京極堂シリーズ(百鬼夜行シリーズ)まで遡っていただくのも良いと思います。