2017年3月26日日曜日

マインドフル・フォーカシング:身体は答えを知っている

デヴィット・I・ローム(著) 日笠摩子・高瀬健一(訳) 2016 創元社

いわゆるフォーカシングの「フェルトセンス」について,丁寧かつ徹底的に,そして段階的に説明し,実践の仕方を解説した本です。だから,フォーカシングの全容を伝えるものではなく,その核心的な部分を述べたものです。

かくいう私は,フォーカシングについてはまったくの素人で,今回,少しでもフォーカシングについて知りたいと思って,読めそうなところとして,タイトルから選んだのが本書です。そして,選んで良かった。フォーカシングはマインドフルネスと通じるところがあるよね,としばしば言われ,そのポイントがフェルトセンスであって,サブタイトルも「身体は答えを知っている」だから,きっとピンと来やすい話だろうと予想していましたが,予想を裏切らない内容でした。

徹底的に身体感覚に終始しているのが,本書の良いところです。フォーカシングのその他の理論的背景はとりあえず置いておいて(素人の私にはそこまで盛りだくさんだとかえって混乱するでしょう),フェルトセンスにこだわって,ブレずに,書かれています。

今度はフォーカシングの全容について,また別の機会に読んだり学んだりしたいと思いました。

2017年3月13日月曜日

コンビニ人間

村田沙耶香 2016 文藝春秋

言わずと知れた第155回芥川賞受賞作。ようやく読むことができました。どんな物語なのか,書評など予断となる情報をほぼ一切入れずに,ページを開きました。ふううん,こういう話だったのかぁ,とちょっと予想が外れました。

心がちくちく痛くなります。個人的には,僕は一応,心理屋なので,ささやかですが背景知識が多少あるので,余計に痛く思うのかもしれません。そうか,そういう風に映るのか,そっちから見るとそう見えるのか。しかし36年間,コンビニに勤めて18年間,こういうことはなかったのか,ああいう場合はどうするのか,大丈夫なのか,問題は起きないのか,これからいつまで行けるのか,とかいろいろと思いを巡らせてしまいました。

あっという間に一気に読みました。きっと1~2時間あれば読めます。そして,読んでみる価値は十二分にある本です。

2017年3月12日日曜日

身体と心をととのえる禅の作法

藤井隆英 2016 秀和システム

禅のアプローチの,特に調身と調息のところに重点を置いて,どうあればよいかをとても分かりやすく易しく説いている良書です。ポイントを絞って,回りくどい修辞をせず,また,専門的な仏教の解説を極力避けながら,禅の方法論のエッセンスを抜き出しいてるので,仏教の素人である(私を含めた)一般向けには,非常に良いと思いました。(著者は,曹洞宗の禅僧であり,かつ,整体師でもあります)

坐禅は身体的アプローチです。なにせ「調身・調息」というぐらいですから,はっきりそう明示されているわけです。しかし,一見動かずじっと坐って(本当は「じっと」はしていなくて,呼吸でわずかに揺れているし,姿勢も微妙に変化していますが),あたかも心に浮かぶ雑念と格闘して無心になろうとしているかのように思われているので,なにやらゴリゴリの精神的(認知的)アプローチだと勘違いされています。でもそれは大きな誤解。「調心」は,「調身」と「調息」の結果です。本書を読めばそのことが簡潔に書かれています。

2017年3月9日木曜日

夜を乗り越える

又吉直樹 2016 小学館よしもと新書

又吉さんの文学(小説)論・芸人論です。過剰に情熱的な芸人・文学者である一方,それ(自分自身)を冷徹に見つめる批評家でもあり,その意味で,極端と極端の間で結果的に非常にバランスが取れている形になっています。

漫才(やコント)や小説によって人をどう楽しませるかという徹底した作り手・書き手の視点と,そもそも本来お笑いや小説が好きで堪らない読み手の視点が,つまり,陰と陽が絶妙に混ざった,良い文学論・芸人論になっています。

なお,ここで「本」と言っているのは,たぶん,ほぼすべて「小説」のことを指しています。とにかく本(小説)は良いよ,というメッセージ。僕は,本を読むなら小説に限らなくて良いと思いますが,いずれにせよ,教科書以外,本をほとんど読まない最近の学生には,まずこれを読ませたい。