2014年12月28日日曜日

八極拳と秘伝:武術家・松田隆智の教え

フル・コム(編) 山田英司(著) 2014 東邦出版

「強さへのあこがれ」。このことに尽きるかもしれない。武術をやってみようと思う誰もが,まずは第一に強さへのあこがれが意識的に無意識的にもあるのは当然だと思うけれども,それを徹底的に突き詰めていくとこういう風になるんだろうね。

で,良く言えば(ポジティブに見れば),読んでいてワクワクさせる武勇伝とビルドゥングスロマンと師弟愛の物語,悪く言えば(ネガティブに見れば),ごくごく限られた世界で強いの弱いの上手いの下手だの効くの効かないのとせせこましいただの自慢話。

小説にしたら面白いと思う。なぜなら小説は架空の話だから。これが現実だと思うとどうも鼻につく。そんなに強いの弱いのに,よく長年こだわれるなぁと思う。それに例え著者らは毎日何時間も稽古しているとしても,○○流だとか○○拳だとかをたった数年間でいくつも修得したかのように言うのはどうなんだろう。武術ってそんなに易いものなのかね。

○○拳とやらを一つとっても,修得したな~俺,とある日ふと思うのに普通,何十年とかかるんじゃないだろうか。○○拳だとか××拳だとか■■拳だとか,そんなにあれこれ習って,その一つ一つはそんなにどんどん修得できて,すぐさま人に教えられるものなのかな。

これがもし小説なら,その辺は全部受容できる。夢枕獏ばりに,あり得ない若さで奥義の術を体得した超人的登場人物が出てきても,それは良しとしましょう。その方が面白いから。だから山田英司氏,これ,あくまで<小説>として書けば面白かったのに(そう,だからこの本,小説だと思えば,面白いんです)。

いやまぁ,しかし,そうは言っても,何歳になっても強さにこだわって術の錬磨を続けているこの山田氏の情熱には脱帽である。強いの弱いのってのが,ある一定の人には人生を大きく規定するほど,強烈な動因になりうるんだなと言うことを,感じました。

ほっとする老子のことば:いのちを養うタオの智慧

加島祥造 2007 二玄社

「老子道徳経」の現代語訳ですが,加島氏の詩的センスでもって,柔らかく優しい言葉になっています。とても良い。読んでいて気持ちが良い。拙訳『タオ・ストレス低減法』にも,「老子」の引用(第42章)があったので,私の訳よりもずっと良いと思い,加島氏の訳をそのまま使わせていただいています。

2014年12月22日月曜日

たたずまいの美学:日本人の身体技法

矢田部英正 2011 中央公論社

「日本人の」としているけれども,なんとなくそれは江戸時代や明治・大正・昭和初期ぐらいを想定しています。まぁ,こういう議論は良くあるから,特に本書だけに限ったことではないけれど,なぜ「日本人」というときの「日本人」はちょっと昔の「日本人」なのだろうか。

確かに文献的史料や図像的な史料が限られているからだろうけれども,そもそも江戸時代後期や明治期だって,その時代の影響を受けて成立しているのが身体技法だろうから,それよりも前の例えば鎌倉時代だとか室町時代だとかとはまた違った技法なんじゃないだろうか。飛鳥,奈良,平安だってそうでしょう。そうなると,奈良や室町だとかの頃の日本人は「日本人」じゃないのか,という話になる。なぜそう思うかというと,では,現代の日本人は「日本人」じゃないのか,と思うからだ。なぜ日本人の身体技法というものを過去に求めるのだろうか。それもなぜかだいたい江戸時代。そんなに江戸時代がすごいのか。そんなに江戸時代好きか。

本書はこうも言う。長い歴史によって培われた身体技法は,無意識的だから,簡単には変化し得ない。変化するとすれば特別な訓練(芸道や武道)によってぐらいしか変わらない。しかし,そう言いながら,最近の日本人は下駄を履いて歩く技法が失われていると指摘する。あれ?無意識に染みついてるから早々には変化しないんじゃなかったっけ?

とまぁ,前半ですでに,論理的な矛盾だとか,著者の主張に合わせた現象の解釈だとか,読んでいて何とも腰の収まりが悪く,そのむずがゆさに耐えられず,真ん中ぐらいで読むのを止めました。

2014年12月19日金曜日

日本人の身体

安田登 2014 ちくま新書

能楽師でありロルファーである安田登氏の日本人論。「日本人の身体」というタイトルなので身体の話かと思いましたが,全体としては,身体論というより日本人論,さらにいえば「昔の日本人」論と言って良いくらいの広い内容です。それを『古事記』や『聖書』などを手がかりに浮き彫りにしていこうという展開。ざっくりと結論づければ,日本人はもともと,あいまいで境界のないぼんやりとして寛容でおおまかな(身体)感覚を持っていたけれど,近代の西洋化によってそうではなくなってしまった,という主張です。著者の安田氏本人も,書いている内に考えがどんどん広がった,とあるようにとにかく話はあちこちに飛びます。ただ,もともと能楽師になる前は漢語辞典の編集に携わるなど,漢字の専門家だそうなので,語源や起源となる象形文字からの説明がよく出てきます。まぁしかし,この方,とにかく博学,博覧強記です。しかもロルファーだし。

2014年12月12日金曜日

<法華経>の世界

ひろさちや 2014 佼正出版社

法華経の全28章を丁寧に一つ一つ順を追って,分かりやすく説明しています。順を追ってはいますが,適宜,理解を促すあるいは深めるために,先んじて後の章の内容を補足的に説明したり,ここの章のこれこれは後のこれこれという章ともこういう風に関連してきます,と臨機応変に解説しています。勉強になりました。ただ,自分はつくづく漢語の読み下し文を読むのが下手だなと思いました(読みにくくて,いまいち意味が入ってこない)。高校の時,漢文の勉強をちゃんとしておけば良かった・・・。こういうのが,まさしく,教養ですね。

2014年12月3日水曜日

身体の知性を取り戻す

尹雄大 2014 講談社現代新書

本書の主張をざっくりと(勝手に)解釈すれば,「身体の自然な声を聴け」ということかと思います。それには大いに同意します。本書は,著者の武術修行の経験を踏まえつつ,なんとかそのことを伝えようと書かれた力作です。これは内容的なこととして,これとは別に読書中あるいは読後感として思ったのは,著者は,なんでこんなにイライラしているのか,ということです。イライラしているというか,怒っているというか,悲しんでいるというか。言葉の選びがとげとげしいのかもしれない。でもそれは著者の思いが滲み出ているものだと言えます。3.11以降に書こうと思ったテーマだと,あとがきにあります。だから悲しいのか,だから怒っているのか。しかし,誰に対する苛立ちなのか,自分に対する苛立ちなのか,世の中に対する苛立ちなのか。とにかく,本書全体を包むオーラが「怒り」あるいは「苛立ち」のような気がするのは,僕だけだろうか。

2014年11月25日火曜日

老子 訳注帛書「老子道徳経」

小池一郎 2013 勉誠出版

あらためて『老子』を読もうと思って買いました。とりあえず現代語訳だけ読みました。現代語訳に訳注が付き,訓読の読み下し文があり,校定本文がありこれに校注が付き,と手元に置く資料としては完璧です。

2014年11月23日日曜日

太極拳に学ぶ身体操作の知恵

笠尾楊柳 2009 BABジャパン

素晴らしい。実に良いことがたくさん書かれている。Yang Chengfuの高弟・陳微明の『太極拳術』(1925年)の巻頭にある「太極拳十訣」を,丁寧に一つ一つ解説した本です。単に原文の意味を読み下しただけではなく,笠尾氏の武術家としてのこれまでの経験と知識に基づいて,分かりやすく解いています。その味は,長年稽古してきた武術家の試行錯誤の末に至る経験知・身体知がベースになっています。だから,笠尾氏の経験を,「太極拳十訣」を通して感じる,そういう本でもあります。笠尾氏の筆致も穏やか。太極拳をやる人は,是非読んだ方が良いし,それなりの人はもうすでに読んでいるはずの,そういう必読書の一つと言えるでしょう。

2014年11月14日金曜日

引っぱって,ゆるめて疲れない身体になる方法

藤本靖 2013 メディアファクトリー

ロルファーの藤本靖さんの本。簡単にできる目と耳と口と鼻をゆるめるワーク。ロルフィングに出てくる「筋膜」による理論的説明はよく知らないのでなんとも言えないけれど,いずれのワークにおけるインプットとアウトプット,つまりこうすればこうなる,というのは概ね体感できる。確かに耳を優しく引っぱったり,鼻の付け根を優しくつまんだり,その他いろいろなワークは,簡単にできてそれなりの変化はある。繰り返すが,これを「筋膜」というロルフィング特有の理論で説明するか,あるいはその他の理屈でも整合性をもって説得的に説明ができそうな気もするけど,とにかく,ワークとしてはどれも,難しくなくて,良い。基本,優しく柔らかく。あと,本書の最後に触れられている「薄膜」を張るという意識の持って行き方は,意外性があって,また確かにその通りに感じるので,おおなるほど確かにと思った。接点の緊張を緩和する。うん。これはなかなか使えます。今度学生に紹介しよう。

2014年11月12日水曜日

動ける身体を一瞬で手に入れる本

中嶋輝彦 2013 青春出版社

3つの動作に集約しているところはとても魅力的。ただ,この3つのどの動きも腰を前傾させて反らせるポーズで,どうも腰に良くないような気がしないでもない。実際,教示に従ってやってみたけれど,あまりよろしくない。こういうのは,やっぱり,ちゃんと実際にトレーナーに教わらないと,正しいフォームは身につかない気がする。本書は親切にネット上に動画を提供しているけれども,それとて,やはり,見よう見まねになってしまう。だから,この本の本当の効用は,正しいフォームを身につけないと何とも評価できない。あともう一つ本書の良くないところは,フォームの説明に「グィーッ」とか「スッ」とか「キュッ」とか「ポーン」とか,そういう擬態語(擬音語)が肝心なところで使われていて,一体どんな風にやるのか,平たく言えば,イマイチ分かりにくい。「スッ」って言われても・・・。

2014年11月11日火曜日

江戸しぐさの正体:教育をむしばむ偽りの伝統

原田実 2014 星海社新書

「江戸しぐさ」を信じている人は,是非,本書を読みましょう。「江戸しぐさ」ってのが,例の,「傘かしげ」「こぶし腰浮かせ」ってのは聞いたことがあったけど,なるほど,こういうカラクリだったのか。これ,かなり稚拙な大ボラ話なのね。で,これが今や「道徳」の副読本になってるって言うから,すごい話です。大丈夫か,学校教育。全国の小学校の先生,もし「江戸しぐさ」なるものが教科書や副読本に出ているようだったら,授業で「やっちまう」前に,とりあえず,本書を読みましょう。

2014年11月7日金曜日

たった7つのポーズで身につく「掤勁」養成法

スコット・メレディス(著)大谷桂子(訳) 2014 BABジャパン

うううむ。これは・・・。

何かを言おうとしているその熱意は伝わるけれども,何を言おうとしているのか,その具体性・科学性・客観性に欠ける言葉の選択が,意味を不明にさせている。これは日本語訳の悪さもあるけれど(訳者がこの手の話の専門でなければ,訳したらこんなすっちゃかめっちゃかな訳になるのかもしれない),いや,訳者の大谷さんという人の肩を持つとすれば,原文も結構癖のありそうな本なので(随所に,「達人=変人」と勘違いしたような表現が散りばめられているのが,なんとも鼻につく),このスコット・メレディスという人が悪いかもしれない。

いや,何やら伝えようとしているものは,何となくこれのことかなという実感は,ある。しかし,それを伝えようとするための言葉選びが良くない。かつ文章も悪い。要するに分かりにくい。悪文である。本人は悦に入っているようだが,そんな個人的陶酔につきあってられない。加えてその翻訳書ということで,おそらく,専門外の人が訳しているから,その分かりにくさが倍増している。

4分の1まで読んで断念。というか,時間がもったいないので中断。

山で正しく道に迷う<絵>本

昆正和 2014 日刊工業新聞社

僕は山には登りません。が,タイトルが面白そうだったので手に入れて読みました。副題に,「”まさか!”の原因は山ではなく,”心”が作り出す」とあるからです。ほほう。山登りにはどんな心理学的要因が関係して道に迷うんだ?と興味をそそられたわけです。著者はリスク管理の専門家だそうで,その専門的知見から,自らも登山家である経験を踏まえて,心のどこに隙ができるのかだとか,こういうときはどう対処したら良いのかなどが,いろんなシチュエーションで,あれこれ書かれています。読んで半分,山に登った気分になりました。

2014年11月3日月曜日

The Harvard Medical School Guide to Tai Chi: 12 Weeks to a healthy Body, Strong Heart & Sharp MInd

Peter M. Wayne & Mark L. Fuerst 2013 Shambhala

これは良い。素晴らしく良い本です。太極拳の本は世の中に無数にあるけれど,この本は太極拳についてサイエンティフィックに書かれた,希有な学術書です。基本的にはだから,読者は,太極拳を教えてる人,医療や教育に用いている人,そして研究している人を想定しています。太極拳の術理の理論的な要素,効果の背景とメカニズムと構造,そしてそれらを支える各種の科学的知見を丁寧に記述して解説した本。本書で出てくる太極拳は,Cheng Man-Ching(鄭曼青)の鄭子太極拳なので,楊式である。ただどの流派も原理は同じであり,本書にはその原理的な部分をプログラムにしているので,プログラム以外に習うなら何式でも良いとあります。しかし,繰り返しますが,非常に良い本です。良書中の良書。太極拳家には,必読書です。ただ,注を除いても270ページある分厚い本なので,読むのに一月掛かりました(笑)。

2014年11月1日土曜日

治す空手

山田治義 2014 中央公論事業出版

著者は糸東流であり,取り上げているのが「テンショウ」と「ナイファンチ」であり,何よりタイトルが良かったので買って読んだけれども,うううむ残念ながら,何ともはや,人にお勧めできるような中身ではありませんでした。(しかし,山田派糸東流修交会義心館は,世界の会員数が五万人,とあります。独自に世界大会もやっているらしい)

ところで,この「中央公論事業出版」というのは,検索してみたら,自費出版専門の出版社でした。関連会社は読売新聞と中央公論新社とあります。中央公論新社は読売新聞傘下ですから,要するに,この「中央公論事業出版」とうのは読売新聞系の自費出版専門会社,ということですね。雑誌・単行本・新書を出している「中央公論新社」とは同じ読売傘下でも,まったく別の会社です。

2014年10月3日金曜日

死神の浮力

井坂幸太郎 2013 文藝春秋

前回の,『死神の精度』が面白かったので,買いました。さすが井坂幸太郎なので,面白い。がしかし,今回はテーマが,「自分の子どもが殺される」という話なので,心が痛すぎました。よくこんな痛い話を書けるなぁと,読みながら,そのことに感心。痛すぎて,もう,途中何度も読むのを辞めようと思ったことか。でも最後まで読んでしまいました・・・。結末(というか,井坂小説に明確な終わりってのはあんまりないだろうから,そういう意味では,井坂の今回の終わらせ方)知りたさに。で,痛すぎるので,読まなきゃ良かったと,半分後悔しています。だから,この小説は,軽い気持ちで読み始めると失敗します。井坂の話はディープな,心をえぐる話もちょくちょくあるけれど,これは今までで一番痛かった。あまりにも痛い話だから,死神・千葉の生真面目で滑稽なやりとりに(たぶん,笑う場面に)笑えない。登場人物たちの友情や信頼という場面に,ホッと涙できない。それくらい,今回はテーマが痛い。だから,読むんじゃなかったと半分後悔しています。震災で一時期書けなくなったってどこかで書いてたけど,最近,作品を連発してますね。(今回,こんなに痛かったのに,また買っちゃうんだよなぁ,きっと)

2014年9月28日日曜日

ヨガを科学する:その効用と危険に迫る科学的アプローチ

ウィリアム・J・ブロード(著) 坂本律(訳) 2013 晶文社

ヨガに関して,その歴史から流派から,科学的な検証を経た知見の数々までを徹底的に調べてまとめた本。ヨガを習って実践してる人もそうですが,少なくとも,何らかのヨガを教える人にとっては,これは必読書でしょう。だから,ヨガ教室に行ったら是非,その先生にこの本を読んでいるか聞いてみると良いかもしれない。2013年2月刊行なので,さっそくこの本を読んでいるようだったら,その先生はたぶん正解。しかし,ヨガの世界も千差万別多種多様。武術の世界と似てます。ヨガ(ヨーガ)が,マインドフルネス瞑想の主要な技法に組み込まれているので,こういう本を買って読んでみたけれど,とりあえず,ヨガのことが少し分かった気がします。後はいずれ,一度,機会を見つけて実践してみよう。

2014年9月20日土曜日

疲れない身体の使い方

小笠原清基 2014 アスペクト

小笠原流宗家嫡男による,小笠原流礼法の基本に沿って,正しい立ち方歩き方坐り方を解いた本。ここで「正しい」とは,「本来人間の骨格・体格に合った無理のない」という意味。現代人はその基準からはずれて無理のある立ち方歩き方坐り方をしてしまっているが故に疲れる。だから,正しい方法で動作すれば,疲れないのだ,ということ。ただし,間違った(歪んだ)方法で今まで動作することが身に染み込んでしまっているために,いざ正しい方法で動作すると,当面はよけいに疲れる,というパラドックス。でもそれを越えれば,疲れない身体を取り戻すことができる。小笠原流礼法は,武士の礼法であり,武士が日々身体を整え鍛えるためにまとめられた動作術,とある。本書によればそれの味噌(コア,核)は,内腿のインナーマッスル。ここが要であり,小笠原流礼法の動作はほぼ全部ここんところを鍛えるために練られている。文章も分かりやすく,要点が絞られていて,良い。武道家,あるいは,身体をやる人には必読。ところでこの著者の小笠原清基さん,筑波の大学院で神経科学で学位,現在製薬会社とあるから,もしかしたら小川研か一谷研だったのかな。

2014年9月16日火曜日

天狗芸術論・猫の妙術

佚斎樗山 石井邦夫(訳注) 2013 講談社学術文庫

武術の,特にメンタルな部分を解いた武道伝書。大天狗と古猫が語る奥義。仏教的つまり禅的なものも語られるけれどもそこはわずかで,道教的な気にまつわる話が多い。あとがきを見ると,荘子思想の立場から書いてるからだろうとのこと。なるほど。全体的にだから,道家である。だから,仏家に対する冷めた見方もまた面白い。

2014年9月5日金曜日

眩談

京極夏彦 (2012) メディアファクトリー

『幽談』『瞑談』に続く第三弾。短編が8つ。どれも良い。さすが京極。あっという間に読んでしまった。『眩』なので,どの話もくらくらとする話。眩惑的。話の調子や物語の設定はどれも違っていって,8つの物語は全部リズムが違う。でも,読みながら段々,どれもくらくらしてくる。

2014年8月14日木曜日

On Tai Chi Chuan

T. Y. Pang (1987) Azalea Press

ホノルルでのタイチーの師であるSteven Youngの師の著書。つまり,僕の先生の先生がかつて書いた本,ということだ。

太極拳とは単なる護身術や健康体操以上のものである。太極拳とは哲学である。哲学的知である。そういうことが書いてある。ただ,全編そういう話ばかりでなく,そのことを踏まえた上で,さて,太極拳をどう練るか,ということで,実践する際の数々のコツや示唆も数多く示されている。太極拳に関する歴史や古典や重要人物の紹介も満載である。

さて本書は1987年の著であるが,これ以降,こういう哲学的な議論というか,太極拳の本質に関する議論というのは,なさているのだろうか。本書でも書いてる通り,世の太極拳に関する本は,技術書ばかりで,理論書も伝説のようなものを史実のように説明しているものだったりして,ちゃんとした太極拳に関する本がない,とPang先生はおっしゃる。

この本は約30年前の本なのだから,その後,太極拳の本質に関する議論というのは,きっとなされているはずだと期待する。ただ,我が国に関して言えば,ざっと検索するに,太極拳の理論的な本というのは,それほど多くなさそうな気がする。まずはその辺りを読んでいってみることにしよう。

いずれにせよ,太極拳とは何か,本書はその本質を理解する上で必読の一冊だろう。名著である。

2014年8月3日日曜日

Zen In the Martial Arts

Joe Hyams (1982) Bantam Books

数々の著名なマーシャル・アーティストたちの教えを受けた,ハリウッドのエッセイストの,武術エッセイ。タイトル通り,武術修行によって培われる禅的な教えを,さまざまな武術家とのエピソードや,自身のエピソードを踏まえて語られる。「禅」というものを,西欧人の目からストレートに見た姿が描かれている。極端な例もあるけれど,全体的には,この著者が武術を真摯に稽古してきた様子がうかがえる。

ホノルルの本屋の武術・格闘技コーナーに置いてあった。最新の武術書・格闘技書に紛れて,30年も前の本なのに,ペーパーバックと,さらにその簡易普及版まで(2冊)も置いてあったということは,これ,長く読み継がれている名著のようである。

2014年6月19日木曜日

10-Minute Primer TAI JI QUAN

Zhou Qingjie (2014) Singing Dragon

楊式太極拳の10式を紹介している珍しい太極拳の本。10-Minute Primerなので,『10分間で超入門:太極拳』というところか。太極拳の全般的な背景や流派なども簡単に分かりやすく解説してあって,良書です。世にはごまんと太極拳の本がある中で,楊式の10式を紹介している本は,今まで見たことがないので,そういう意味では,貴重な本です。

2014年6月1日日曜日

マインドフルネス:気づきの瞑想

バンテ・H・グナラタナ(著) 出村佳子(訳) 2012 サンガ

ヴィパッサナー瞑想を,徹底的に平易にかつ丁寧に紐解き,実践方法を説明した良書。というか,まさに実践のための基本書か。出家したり瞑想センターに通ったりせず,一人で実践できるよう,実践中に遭遇する様々な困難への対処法なども事細かに書かれている。そういう意味で,坐るにあたってのヒント満載の教科書だ。個人的には「眠気」への対処法がためになった。坐っている人は絶対に読んだ方が良い一書。というか読まないと損する一書。

2014年5月12日月曜日

ブッダの幸せの瞑想

ティク・ナット・ハン 著 島田啓介・馬籠久美子 訳 2013 サンガ

呼吸に戻りなさい。これが本書のメッセージです。とにかく,いろいろな場面や状況を踏まえつつ,たくさんの実践方法を紹介しています。南フランスのプラム・ヴィレッジというところでやっている色々な実践を,惜しみなく盛り込んでいます。なので,これをすべて普段の生活に取り入れようというのは到底無理。唱えると良い言葉や詩もたくさん掲載されているけれど,これとて全部が全部覚えて唱えるのは到底無理。つまりバカ正直に実践の手順を覚えようものなら,どれだけの時間が掛かるやら分かりません。それでは本末転倒です。もちろん,ティク・ナット・ハン師も訳者も,そういう風に本書を読むことは期待していないでしょう。だから,ここに色々な実践方法を上げながらティク・ナット・ハン師が,読者に何を伝えようとしているか,その本質というか核心が大事であり,具体的な実践方法はその例だと思った方が良い。だからその実践方法に忠実に従う必要はない。各自の問題に照らし合わせながら,これはというのを1つ2つ,自分なりに応用してみれば,それで十分でしょう。読みやすくて良い本です。で,言いたいことはただ一つ,呼吸に戻れ,です。

2014年4月30日水曜日

老子と太極拳

清水豊 2013 ビイング・ネット・プレス

『老子』(『道徳経』)の81篇(章)に沿って,そこで書かれている思想を紹介しつつ,それが太極拳とどう関係しているか,太極拳的にはどう解釈できるか,ということを丁寧に書いている意欲的な著作。太極拳の歴史や技術に関することもチラホラ出てきて,武術・武道好きにも読み応えがある。太極拳が「道(タオ)」へと至る最適なアプローチであることが,繰り返し述べられている。太極拳に関する立場は,いろいろあるので清水氏の説が唯一正しいものではないと思うけれども(特に,清水氏は,「陳氏は太極拳ではない」という立場と,「今現在最高の究極的な太極拳は鄭子太極拳だ」という立場を取っている。太極拳家からすれば,この辺りはいろいろと議論のあるところだろう),とにかく,この,太極拳という技法が「道(タオ)」に通じるというのは,その通りだと思う。勉強になりました。空手は稽古がそのまま禅そのものだということを僕は訴えているわけですが(拙著『空手と禅』を参照),身体を通したアプローチという意味で,やろうとしている中身,行こうとしている方向性など,仏教と道教の違いは微妙にあるものの,構造的にはほとんど同じです。

2014年4月19日土曜日

道教の世界

菊地章太 2012 講談社選書メチエ

道教の歴史と現状,それを踏まえた道教の特徴,仏教や儒教との関係と比較など,「道教」の全容を知る良書,ではないでしょうか。というか,道教に関してそれなりにいろいろと書いている本を初めて読んだので,的確なのかそうでないのか判断つきにくいところはあるけれども,読みやすいのは確か。ただ,この菊地章太という先生の文章の書き方が非常に特徴的ではあります。こういう文章を書く人は,これまで記憶にない。それぐらいに独特である。例えば,接続詞はほとんどなく,各文も短い。そういう短い文が並んでいる。まるで誌のような文章です。非常に珍しい。もしかしたら,普段もこういう感じで話しているのかもしれない。そういう,特徴的な書き方です。これには最初ちょっと慣れなかったけれど,半分過ぎた頃にはだんだん慣れてきて,この人の文章の独特のリズムに気持ちよさも感じるようになりました。まぁ,それくらい,日本語としても非常に分かりやすい文章でした。

2014年4月1日火曜日

タオの気功:健康法から仙人の修練まで

孫俊清 1995 築地書館

武当龍門派気功の入門書。まずは実践,という主旨の本で,4分の3は気功実践に関する解説です。図と説明で非常に分かりやすく解説されていますから,「こんな感じかな?」と実際にやってみることができます。呼吸と気(のイメージ)の合わせ方など,個人的には,空手にも応用できる点がいくつかありました。また,スワイショウや站椿,開合,無極(で立つ法)といった基本的な気功のエクササイズや,あるいは制定の近代的な八段錦などとも(当然ながら)共通する修練が多数含まれていて,そうしたエクササイズの意味や方法の理解を深められます。道教やタオの思想については,最終章にまとめられていますが,本書は実践中心なので,それらについて詳しく知りたければ他書に依った方が良いでしょう。

2014年3月29日土曜日

日本文化における時間と空間

加藤周一 2007 岩波書店

前半の,時間のところだけ読みました。予想通りであるところとそうでないところ,それぞれありました。が,あまりわくわくはせず,途中で読むのを止めました。

2014年3月24日月曜日

増山超能力師事務所

誉田哲也 2013 文藝春秋

新聞広告の期待通り,けっこう面白く読めました。ところどころ,その設定はないだろ,とか,そのセリフはないだろ,とか気になるところはありましたが,それはたぶん,趣味の問題ぐらいの些細なところで,まったく気にならない人は気にならないかと。なんでしょう,それから,全体的にセクシャルな描写を随所ににじませるのは,この人の手法なんだろうか。にじませなくても,十分面白いのに。

2014年3月19日水曜日

現代思想10月号(2013年第41巻第13号)総特集:ブルース・リー没後40年,蘇るドラゴン

2013 青土社

2013年。タイトル通り,ブルース・リー没後40年です。1940年11月27日に生まれたブルース・リーは,1973年7月20日,32歳の若さで死にました。語り出したらキリがないのであれこれ書きませんが,ブルース・リー熱に侵された人(主に男子)は得てして,「私の(私と)ブルース・リー」を熱く(暑苦しく)語るという症状を示す,といったことを,本書の中で映画評論家の北小路隆志という人が書いています。まさにその通り。授業中に半ば無理矢理聴かされるうちの学生も,きっと暑苦しいと思ってることでしょう(笑)。本書は,思想史・映画評論・文学・俳優他,いろいろなジャンルの人がブルース・リーにまつわるいろいろな話をしています。そして,全体的に,熱い(暑苦しい:笑)。それはきっと,(北小路氏を除く)執筆者の誰もが皆,ブルース・リー熱に未だに侵されているからだと思います。ブルース・リーの映画を観たことが一度もない人(主に男子)は,今すぐTSUTAYAに行って借りて観るべし。私のオススメは,『ドラゴン怒りの鉄拳』と『ドラゴンへの道』です。『ドラゴン危機一発』はまだ洗練されていない感じがして(怪鳥音もヌンチャクもまだ無い),一方,最も有名な『燃えよドラゴン』はオリエンタル趣味がやや出ていてストーリーも大味な感じに仕上がっているからです。もちろんどちらもブルース・リーが観られるし,特に『燃えよドラゴン』はハリウッド映画としてブルース・リーを世界中に知らしめた名作という意味では,いずれも観るに値しますが,なんというか,ブルース・リーらしさのようなものが滲み出てるのは,『怒りの鉄拳』と『への道』かなと,個人的には感じています。特にはやはり,『怒りの鉄拳』で道場に一人殴り込みに行くところと,『への道』のラストのコロシアムでのチャック・ノリスとの対決は,未だに鳥肌が立ちます。ああ,結局,あれこれ書いてしまった・・・。

2014年3月11日火曜日

ボディワークと身心統合

清水諭・吉田美和子・遠藤卓郎(編) 2014 創文企画

遠藤先生のところだけ読みました。先生が20年来実践してこられた,身体技法(呼吸法や気功)を用いた大学体育授業のまとめです。身体をただ<感じる>のみならず,それを<考える>ことが大学教育・教養教育としては必要だということを,おっしゃっています。そこんところがないと,大学の授業がただの(技法だけを教える)カルチャーセンターになってしまう,と。身体技法に興味関心のある者にとっては,長い年月をかけて繰り返し実践してこられた授業ゆえに,他にも含蓄のある話が随所に詰まっています。

2014年3月8日土曜日

マインドフルネス・ストレス低減法ワークブック

B.スタール&E.ゴールドステイン(著)家接哲次(訳) 2013 金剛出版

ワークブックなので,中身がとても具体的で,マインドフルネス訓練の実際をよりよく理解できる良書です。本来ワークブックなので一気に読み通すものではなく,あれこれと書き込みながら,実習しながら,読み進めていくようにできています。1章1週間単位でできているので,週1の授業で本書を見ながら実習し,次の週の授業までホームワークをしてくる,というサイクルでちょうど10週+αぐらいで終わるようになっています。紹介されているヨーガも,おそらく見た感じではそれほど難しくありません。また,日本語訳も非常に読みやすい。で,その日本語訳は,家接さん。たしか大学院の1つ後輩だったかな?ずいぶん長いこと会ってませんでしたが,ここへきて名前を見て驚き。家接さん,良い仕事してるなぁ。いずれどこかでまた会えるような気がしています。

2014年2月27日木曜日

日本人はなぜ存在するか

與那覇潤 2013 集英社インターナショナル

面白く,分かりやすく,読みやすく,内容も一貫していて,あっという間に読了。主には,社会学における「再帰性」という概念(あらゆる制度や概念や言説などはすべて,任意に作られた共同幻想だといったような考え。本書では「共同幻想」とは言ってないけど,たぶんだいたいそんな感じ)で,「日本」にまつわる話を分解しています。ここでいう「再帰性」は,だから,何も新しい考えではなくて,共同幻想であり,言語ゲームであり,社会的構成主義であり,ナラティブであり,色即是空空即是色であり,といった具合にいろんな形で語られていますから,本書が何か独創的で新鮮なことを言っているわけではありませんが,特には「日本」に焦点化して一つ一つ丁寧に説明的に議論していて,「なるほどなぁ」「そうだよねぇ」「たしかになぁ」と面白く読めました。本書が,大学における教養科目の講義録をベースに作られている点からも,その分かりやすい説明的な流れが非常に納得できる,良い構成になってます。こういう教養科目を受けられる,愛知県立大学の学生は,幸せです。

2014年2月24日月曜日

読む坐禅

中野東禅 2013 創元社

読みやすい本です。ただ,「読んでいると,なんだか坐禅をしているような気分になります」と帯には書いてありますが,別にそんな気分にはなりません(笑)。坐禅にまつわる話を,ざっくばらんにあれこれ書いているエッセイ集みたいな感じです。本書を通じて一貫して東禅師が訴えているのは,「寂静」です。坐禅は寂静。静かに安らいだ状態。そこに落ち着くこと。その落ち着き,安らぎ,静けさになりきること。だいたいそんな感じのことでしょうか,それを,あれやこれやの例やら話やらで,伝えようとしています。

2014年2月15日土曜日

意拳・気功

張紹成 2012 BABジャパン

站椿功や開合の解説は,役に立ちました。勉強になりました。気功のメカニズムや効果に関してはいろいろな考えがあるので何とも言い難いですが,本書は現代科学的な理解の枠組みを若干超えたところに,その現象の原理を見いだしています。気功といえばこういう説明をしがちな面はしばしばありますから,本書が奇書,というわけではなく,その意味ではよくある気功の本ではあります。その辺りが少々ついていけないですが,本書で紹介されているエクササイズは,身体運動として,バランスを養ったり,ストレッチしたり,また,自分の身体の微細な感覚に注意を向けたりという面では,ところどころに神秘的な説明を持ってこなくても,十分に意味があると思いました。気功は,背景に気や陰陽といった道教の考えがありますので,もちろんそれと結びつけることで意味が深まるわけですが,そういう説明をあえてしなくても,心身の修養法として十分に効果がある,ということです。むしろ,そういう神秘的非科学的な説明が,「気功」を怪しくて胡散臭いものに見せているところがあるような気がします。ただ,気功にもいろいろあるので,本当に怪しいものからちゃんとしたものまで,ピンキリではあります。なので,体育学・スポーツ科学・心理学に基づいた,もっと淡泊で科学的な気功の本があれば読みたいです。

2014年2月14日金曜日

謎の独立国家ソマリランド

高野秀行 2013 本の雑誌社

大著です。分厚い。各方面で評価の高いノンフィクション。確かに高野氏の文章は面白いし,臨場感があって一緒に旅をしているような気にさせます。が,本書は,読み進めていて,とうとう,飽きてしましました。いや,こういう冒険譚が好きな人,元々高野ファンの人には非常にたまらない大作なんだろうとつくづく思います。文章は面白い。でも,要は,この,ソマリランドや旧ソマリアの話に,飽きてしまいました。読んでいて,一体高野氏がどこに向かっているのか,どこに行こうとしているのか,何を探しているのかが,いまいち分からず(もちろん,たぶんそんなものはなく,よく分からない「謎」の国家を,「謎」だから,実際に行って見聞しているわけだけど),そのために,結果,ソマリランドやソマリアは実際はこういうところでした,という報告を高野氏の面白い文章で読んでいるだけ,ということになってきて,結局,飽きてしまったという次第です。有名な『幻獣ムベンベを追え』を読んでないから,それだけはいずれ,読もうと思います。

2014年2月8日土曜日

三戦の「なぜ?」

クリス・ワイルダー(著)倉部誠(訳) 2012 BABジャパン

タイトルの前には正確には「日本の空手家も知らなかった」と刺激的な惹句が付いている。確かに競技中心のスポーツ空手の道場であれば,ここで書いていることは(競技にとって)まったく無用であり,おそらく,そういう道場ではこういうことは一切教えないだろう。競技中心の元選手であった先生は,こんなことは習ってないので知らないだろうから,当然,自分の生徒に教えられるはずもない。確認したわけではないが,体感として,日本の空手道場の9割がスポーツ空手の道場だと想像すると,確かに「日本の空手家」はここに書いていることは知らないという言葉はあながち間違いではない。しかし,少なくとも私の道場ではここで書いていることの大半は普通にやっているし実践もしている。一部,そうしない方がむしろ身体操作的には良いだろうと思える箇所もあるけれども,概ね賛同できる。なので,読んでみて新たな発見や得したところはわずかだけれども,そのわずかな発見があっただけでも得したといえる。なお,本書は,実践する上で関係のない内容の話が書かれていたり,関係があるのかないのかよく分からない(笑)名言が各章ごとに書かれていたりして,読んでいて混乱する点はイマイチ。本書全体の格調を高めよう,サポーティブな理屈で埋めようという意思が感じられるけれども,そういう脚色はしなくても,十分に良い内容ではあるから,その点,残念。

2014年2月5日水曜日

聖なる怠け者の冒険

森見登美彦 2013 朝日新聞出版

期待して購入し,読み始めたけれど,率直に言えば,ところどころの場面は面白いんだけどれど,全体的には面白くなくて,もう最後の最後のところで我慢しきれず,読むのを止めました。森見小説と言えば,『太陽の塔』『四畳半神話体系』はものすごく良かった。しかし,『きつねのはなし』はまだしも,『夜は短し歩けよ乙女』あたりから,「ん?」という感じで,この人こういう幻想的な小説を書くのが好きなんだと思うようになり,あまり読まなくなりました。ただ,『恋文の技術』は爆笑なのでおすすめ。そこでこの『聖なる・・・』ですが,『きつね・・・』『夜は・・・』と同系統ですね。もうたぶん,森見小説は,なんとなく,買わないような気がする。残念。

2014年1月28日火曜日

岩波講座 日本の思想 第五巻 身と心:人間像の転変

苅部直・黒住真・佐藤弘夫・末木文美士(編) 2013 岩波書店

身体と心に関する思想的展開として,主には思想史・文化史・宗教学が専門の方達によって書かれた本。中世近世が中心。専門書なので,やはり難しい。特に中世の文献に関する記述(引用)部分は,正直言って,字が読めません(笑)。字が読めないから,意味が分からない。結果,面倒臭くなって,半分ぐらいまで読んで断念しました。各章,タイトルは面白そうなんだけど。

2014年1月25日土曜日

マインドフルネス瞑想ガイド

J.カバットジン(著) 春木豊・菅村玄二(編訳) 2013 北大路書房

「マインドフルネスストレス低減法」(春木豊訳・北大路書房)が,MBSRの全体を詳しく解説している本であるのに対して,本書は実際にマインドフルネス瞑想を実践するために,技法のインストラクトをCDに納め,実施の際の心構え(取り組む姿勢)としてのマインドフルネスの概要を解説しています。ごくごく端的にマインドフルネスとその技法を知るという点で,極めて良書です。CDも4枚付いています。ただやはり,カバットジンのマインドフルネスをじっくりと理解するためには,上記の「マインドフルネスストレス低減法」も併読した方が良いことに違いはありません。

2014年1月24日金曜日

タブーすぎるトンデモ本の世界

と学会 2013 サイゾー

「と学会年鑑」「トンデモ本の世界」シリーズとは別の,「タブー」をテーマにまとめた単行本。宗教,思想,政治などが主なネタ。いつも通りの一定のクオリティを保っています。今回も楽しく読めました。

2014年1月15日水曜日

認知考古学とは何か

松本直子・中園聡・時津裕子 2003 青木書店

「認知考古学」。なんと魅力的な領域名だろうか。海外ではcognitive archaeologyだそうでこういう名前になっていますが,心理考古学でも良いでしょう。その目指すところもとてもロマンティックであり,心理学者として興味深い。ただ,いかんせん,「考古学」であることには変わりなく,その考古学的な色合いがちょっと読んでいて疲れます。なので途中で断念。もうちょっと考古学的な説明は省いて心理的な面にごりごりと大胆にアプローチしてくれれば,さらに面白さが増すのになぁと,個人的には思いました。しかしそれでは,考古心理学,あるいは人類心理学になってしまうか。すでに進化考古学とか,心理人類学というのならありますね。たぶん本書はこの領域の教科書的な位置づけだろうから,私のような専門外の人間でも分かりやすい読み物のようなものがあれば,そっちを読んでみることにします。なお,この本はもう今から10年前に出版されたものなので,今はもっと発展してるんだろうと思います。期待してます。

2014年1月12日日曜日

身体論のすすめ

菊地暁(編) 2005 丸善

京大の共通科目「人文研的身体論のすすめ」というオムニバス講義を教科書にしたもの。どの章も飽きずに読める。が,面白くて印象に残るのは,編者でもある菊地氏の章。序章「寄せて上げる冒険」は,ブラジャーに関する論考。第4章「僕は,昔,皿洗いだった」は,京大生協食堂での皿洗いバイトに関する論考。どちらも語り口は軽妙,そして何より,アカデミックにブラジャーと皿洗いを語る様子は,この人の書く文章をもっと読みたいと思えるほど。さて,アマゾンで検索してみたけど,民俗学の学術書が二冊だけで,他には特にない。ネット検索してみると,未だ(2013年度)京大の助教のようでもある。この人,新書とか単行本をもっと書いたら,結構人気出て売れると思うんだけどねぇ。編集者の方々,是非この人をリクルートして世に出してください。

2014年1月7日火曜日

「死ぬのが怖い」とはどういうことか

前野隆司 2013 講談社

死にたくないと,普通,人は思う。これは死が怖いからではない。死んでしまうこと自体は別に怖くないけれど,でも,心の底からはっきりと死にたくないなぁと思うのはなぜだろう。その辺りが本書を読んで少しはっきりしました。私も前野氏と同様の意味で「死ぬこと」自体は全く怖くありません。その理由は本書に激しく同意です。が,死にたくない。本書は,死ぬこと自体は別に怖いことでもなんでもないということを懇切丁寧に説明している本として,とても良い。がしかし,ではなんでそれでも死にたくないと思うのかのところにはあんまりスポットを当てていない。私なりの現時点での答えとしては,自分の子どもと会えなくなるから,が一番の理由でしょうか。きっと,独身だったら,今この歳になって「死にたくない」と思わなかったかもしれない。独り身であれば,きっと生へのこだわりは究極的にはそれほどなく,そもそも死ぬこと自体も怖くないので,あとはせいぜい,死ぬときに痛かったら嫌だな,ぐらいしか「死にたくない」理由はなくなってしまう。いや,死んだらそもそも美味しいもの食えなくなるな,空手の稽古ができなくなるな,というのもあるから,そういうのが十分に生へのこだわりですね。今生かされていることに感謝して,精一杯満喫して生きましょう。