2015年8月28日金曜日

教団X

中村文則 (2014) 集英社

分厚いですが,その分,読み応えあります。中村文則氏は,芥川賞の又吉直樹氏がかねてより絶賛していて,その又吉氏のエッセイか何かで見て,以前,『銃』を読んだことがあります。『銃』は良かった。なんていうか,主人公の内面を丁寧に描写する感じが,良かったです。

今回もまた,登場人物たちの内面を丁寧に描いています。それから,あえてそうしているんだろうけれど,とにかくやたらセックス描写が多い(笑)。今回は,そういうテーマだからね。そうなんだけど,予想以上に紙面を割いています。

新興宗教がテーマの小説に,篠田節子『仮装儀礼』というのがあって,これはものすごく面白かった。どちらも人間臭さを扱ってるわけですが,『仮装儀礼』が新興宗教への信仰や洗脳・カルト化みたいなところに焦点を当てているのに対して,どちらかというとこの『教団X』は(宗教を扱ってはいるけれどもそれを使って)宇宙とは何かとか生きるとは何かとか意識とは何かとか感情とは何かとか,そういった人間という存在そのものにテーマがあります。

2015年8月18日火曜日

Tao Te Ching: The Definitive Edition

Lao Tsu (translated by Jonathan Star) (2001) Tarcher Cornerstone

『老子道徳経』全81章の英語版です。英語版はたくさん出ていますが,このJonathan Starの訳は,内容的にも正確かつ詩的にもすばらしい,と解説にあります。他の英語版を読んだことがないのでなんとも言えないですが,少なくとも,漢語の原文やその読み下し文などよりは数段,意味が分かるし,中身が入って来ます。

なんで英語版を読んだかと言えば,翻訳家であり詩人でありタオイストである加島祥造先生が『道徳経』を訳していて,その訳がとても良くて,その加島先生が,老子や道教をやるようになったのが,最初,英語訳の『道徳経』を読んで感動したから,という話を書いていたからです。

その話が頭のどこかにあって,ちょうどホノルルのアラモアナセンターにある大きな本屋で武術本やら仏教・道教本やらを物色していたときに思い立ち,見つけて買った,という次第です。さて,英語訳だとどうなんだろうと,僕も体験したかったからです。

実際,加島先生が読んだのはJonathan Starの訳ではないと思いますが(タオ関連の本がすでに1993年に出ているから),加島先生の言う通り,読み下し文やその現代語訳なんかよりも,数段,読みやすかったです。加島先生の日本語訳(例えば『「老子」新訳』2013)はとても詩的であり,このJonathan Starの訳もまた詩的であり,両者は似ています。

もしかしたら,先に加島先生の訳を読んでいたから,このJonathan Star訳も,すーっと読めたのかもしれません。いずれにせよ,このJonathan Star訳は,オススメです。