2019年2月27日水曜日

タコの心身問題:頭足類から考える意識の起源

ピーター・ゴドフリー=スミス(著)夏目大(訳) 2018 みすす書房

タコマニア哲学者によるタコの本である。イカマニアでもある。そう思って読んだ方が良い。決して哲学の小難しい本ではありません。タコやイカは,人間と全然違う進化をしてるけど,結構,人間臭いところもある。さて,そんなタコやイカの主観的経験ってどんな風なんだろう,というところからあれこれ書いている。そういう本です。

とにかく徹底的にタコやイカについて観察し,調べ,考えている。ここまで来ると,愛である。なにせ,タコを観察するために,何時間も海に潜ってただ見てるだけ,なんてことを喜々としてやって,文章にしてるわけだから。

しかし,マニアっぷりも,ここまで徹底すると,研究になり,そして商売になる。この人はこれで飯が食えるわけです。いや,タコとイカだけで飯食ってるわけではないかと思いますが,いずれにせよ,哲学者として著名なわけです。素晴らしい。尊敬に値します。

哲学の本というよりも,半分は進化論や生物学や心理学(認知科学)の本です。その辺りの領域横断的な学際性も,読んでいて面白いのかもしれません。

2019年2月18日月曜日

泊手突き本

山城美智 2018 CHAMP

沖縄拳法沖拳会・山城美智師範の「突き」に関する本です。主にナイファンチ(ナイハンチ)の要諦とその解説が中心です。勉強になりました。稽古に活かせそうなところや,身体操作のヒントもたくさんありました。ただしかし,やっぱり,分かりきったことですが,こういう身体的な技法は実際に習わないと,本当のところ,言葉や絵だけではなかなか分かりません。いつか実際に教わってみたいので,セミナー等々の機会があれば行ってみたいと思います。

ホモ・デウス(上)(下)

ユヴァル・ノア・ハラリ(著)柴田裕之(訳) 2018 河出書房新社

前作『サピエンス全史』が人類の誕生から現代までの話で,今作は人類のの今とこれから未来の話。人類の未来に関する本ですが,予言本ではなくて,つまり現代批評です。

前作もそうですが,この著者のロジックはとても説得力があり,読み進めていて引っかかるところがない。書いていることは刺激的ですが,なるほどと思える論理展開であり,書き方として非常に自制的であり,バランスが取れている(偏向していない)からだと思う。ただ自分の主張だけを押しつけてくるのではなく,そうではない立場の考え方もあることを述べながら丁寧に進めていく点に,読む側としては,彼の主張に引き込まれているミソがあると思いました。

エビデンスも領域問わず広範に渡っていること,皮肉やシャレも随所に効いていること,そしてもう一つは,前作もそうでしたが,翻訳者の訳文が非常に読みやすいこと,この辺りが,読んでいて気持ちが良いのだと思います。訳文が,日本語のリズムとしてこなれていて,上手いと思う。

内容的には,本作の場合,前作よりも,より心理学的というか,哲学的というか,心,感情,精神といったことが重要な(本書全体を通してのテーマ的な)感じになっています。だからより面白いと感じるのかも。

前作と併せて読むのが良いと思います。読んでおいて絶対に損のない,いや,いろんな意見のある中で,「今」,読んでおくべき本ですね。