2018年2月20日火曜日

私の消滅

中村文則 2016 文藝春秋

ややこしい。でも面白い。精神科治療と記憶と洗脳が題材になっていて,記憶を失ったり記憶が入れ替わったりして私が私でなくなる話なんだけど,読んでいる一人称視点が本当のところ誰のどの視点なのか,よく分からなくなってくる。そういう風に仕掛けてある。

読後感は,あるいは,読んでいて,夢野久作の『ドグラ・マグラ』を思い出しました。と,思ってネットで検索したら,やっぱり同じ感想を持った人がチラホラ。小説内小説内小説のような,入れ子上の入り組んだ展開で,読む側を猟奇幻想の世界へ誘います。

2018年2月15日木曜日

身体の知:湯浅哲学の継承と展開

黒木幹夫・鎌田東二・鮎澤聡(編) 2015 ビイング・ネット・プレス

人体科学会企画の,内容的に非常に濃い本です。主には湯浅泰雄先生の主著『身体論』を中心に,その前後の著書での論考も踏まえて,著名な研究者や若手の方など,関係する諸氏の色々な角度からの話が,一冊の中に込められています。どの章も魅力的で,全編楽しくわくわく読み通しました。非常にエキサイティングです。

しかしつくづく,本というのは,いつ(何歳に),どのタイミングで読むかによって得るものが全然違うと,改めて思いました。『身体論』(講談社学術文庫)は,もう何年も前に読んだわけですが,自分がその段階にあるときに本書を読んだら,同じ感想が得られたかどうか,分かりません。下手くそな思索と実践を自分なりに重ねて,その上で読むから,違って見えてくる景色というのは,あります。