2016年12月31日土曜日

「病は気から」を科学する

ジョー・マーチャント(著)服部由美(訳) 2016 講談社

端的に,面白い。この本で取り上げられていることは,言うなれば,身体的な病気に対する心理学的な影響だ。プラセボを,物理科学的ではないからと言って排除するのではなく,心理学的な効果として物理的に何が起こっているのかも含めて,実質的な効果として,追求しようとしている。

心理屋である私からすれば,心理学的な影響は至極普通なメカニズムだと思うけれども,つまり日本語タイトルにあるように「病は気から」の部分はそれなりに大きいと思うのはごく自然なんだけれども,一般的な医学や科学の世界からすれば,眉唾な,胡散臭い,怪しげな効果の類に入れられるわけで,そこから出発している本書は,とても新鮮である。

そもそも,たしか,本書の第9章がマインドフルネス瞑想を取り上げていたことがきっかけで買ったと思う。瞑想の研究はここ数十年で増え続けている。マインドフルネス研究もその一つだ。

本書の良いところは,西洋医学の文脈には載らない療法や治癒プロセスを,十把一絡げに代替医療として排除・否定してしまうのではなく,一つ一つ丁寧に取材し,調べ,心理学的な影響を認めて遡上に載せている点だ。無論,心理学とは科学であり,メカニズムも科学的に説明可能なものである一方で,科学のロジックから大きく外れた療法は明確に否定している。

洋の東西を問わず,世界のあらゆる代替医療を一括りにして排除・否定する論を張る本もあるけれど(それはそれで立場も明確で面白いけれど),本書はその意味で非常にニュートラルであり,科学的である。

心理屋は,読んでおくべきでしょう。日本語訳も分かりやすい。

2016年12月6日火曜日

禅の教室:坐禅でつかむ仏教の神髄

藤田一照・伊藤比呂美 2016 中公新書

良い。とても良い。まず伊藤氏の問いが良い。そしてそれに真摯に一生懸命応える藤田師がまた良い。もちろん,テープに取った音声を起こして,読みやすく編集し直しているんだろうけれど,二人の問答が,こぎみよくて,良い。

何より,本書のテーマは,「禅とは何か」だと思う。で,ここでの一つの答えとしては,禅とは仏教すること,仏教の実践が禅だということ。仏教にはいろいろ教義やら経典やら言葉がたくさんあるけれど,要は身体で坐れ,っちゅうことだと。

僕などは,やっぱり,仏教の専門でないし,仏教の世界は広くて深いから,生兵法で仏教用語をかじったり仏典の概要を知ったりしたところで,中途半端になるだけだと,常々思っています。

だから,坐る。

坐ることは,掛け値なしに,誰が坐っても坐るというただ一点については,同じ。シッダールタも藤田師も僕も同じ。

僕のような一般人は,仏門に入るわけではないけれど(出家するわけではないけれど),仏教することはできる。仏教するとはこういうことだということを,教えてくれる一冊です。

なお,本書の中で,坐禅と瞑想は違うとか,禅とマインドフルネスは違うとか,ときどき出てきますが,そんなのはたぶんどうでもよいことであって(いや,禅僧のみなさんや南方仏教の方からするとそうは行かないのかもしれないのですが),結局のところ藤田師もどうでも良いと思っているのではないかと勝手に推察して,つまり,要はごちゃごちゃ言ってないで,難しい仏教の教義や経典なんかも放っておいて,まぁ,とにかくただ坐るのが,良いんじゃないかと,僕は思います。

ごちゃごちゃ面倒くさいことは全部置いて,打坐。シンプル。

2016年11月25日金曜日

老荘思想の心理学

叢小榕 2013 新潮新書

面白い構成になっています。いわゆる,道家の寓話(寓言)がまず紹介され,それに関連する心理学の知見が添えられる,という構成になっています。その話,全部で34個。なので,ちょっとした時間の隙間に1~2個の話を読めば,あっという間に読み終わります。

ただ,惜しむらくは,添えられる心理学のネタが,あんまり関係ないものだったり,一定の領域に偏っているものだったりと,その辺りが寓話にフィットしてないアンバランスな(やや強引な)感じがするなぁと,個人的には思いました。でも,こういう試み自体は新鮮で面白いので,読むに耐えずに本を閉じる,なんてこともなく,最後まで楽しく読めました。

2016年11月19日土曜日

「今,ここ」に意識を集中する練習:心を強く,やわらかくする「マインドフルネス」入門

ジャン・チョーズン・ベイズ(著)高橋由希子(訳)2016 日本実業出版社

原題は,”How to Train a Wild Elephant: And Other Adventures in Mindfulness"です。その意味は本書に出てきます。本書は,日常生活におけるマインドフルネス実践を,53個紹介している,というものです。瞑想実践の入門書ではなく,マインドフルでいるための練習を,日常生活の中で取りかかりやすい(中には難しそうなワークもありますが)状況やきっかけを使って,行っていこうという本です。

なので,日常生活の中でマインドフルでいるというのはこういうことか,ということを一つ一つ丁寧に知る,そういう本にも仕上がっています。マインドフルネスの実践はなにも,坐って瞑想しているときだけではありません。朝起きて夜寝るまでが全部マインドフルネス実践なんですが(だからライフスタイルなのですが),それを知る,とても良い本です。良書です。おすすめです。

2016年11月4日金曜日

読むだけ禅修行

ネルケ無方 2014 朝日新聞出版

ネルケ無方師の,禅語や経典の中の言葉にちなんだ34個の話です。師の書く本はいつも読みやすく,今回のこれも,読みやすい。テーマになる「言葉」と,それを一行で述べたタイトルと,もう少し詳しく書いた100字禅語の解説,そして4ページぐらいの本文という構成です。

何より,その「言葉」を表した書と俳句が添えられていて,これもとても良い。書(墨象)は師本人が書いたもので,たぶん,俳句も本人が詠んだものなのではないかなと思います。

これに,随所に,安泰寺での生活風景を映した写真が添えられています。これもまた,リアリティがあって,良いです。

禅的な生き方を味わえる,とても良い本に仕上がっています。


2016年10月24日月曜日

中国武術秘訣:太極拳・君子の武道

清水豊 (2015) ビイング・ネット・プレス

武術家であるならば,本書は,絶対に読んだ方が良い。「太極拳」と書名にあるので,太極拳家以外の人が手に取ることは少ないと思いますが,太極拳家などの中国武術家に限らず,空手や合気や剣や柔などあらゆる武術家にとっても,武術の本質に書かれたものなので,読んで損することは絶対にありません。

こういう優れた書は,是非,どこかの誰か,本質を理解する外国人武術家あるいは外国人翻訳家が(いや,もちろん,外国語に堪能な日本人武術家でも翻訳家でも良いのですが),英語にでも翻訳して世界に発信すべきではないかと,そのくらい思います。

ただ少なくとも,我々日本人にとっては,清水豊氏が日本人であり,武術という営みの本質をこうした分かりやすい文章で読める喜びと恵みは,非常に大きいといえます。

ここで書かれていることは,何も,太極拳や形意拳や八卦拳に限るものではありません。もちろん,著者は太極拳家・八卦拳家ですから,その術の本質として論を進めています。しかし要は,武術家一人一人が,その術をどう修行(稽古)するか,自分自身にとって修行(稽古)するとはどういうことかという問題であり,そうなれば,本質論として同じところに還元できるわけです。

本質は,術や流派を超えた共通の理として,確固として存在します。ですから,本質は,太極拳も空手も同じです。ひいては武術全般について同じだと思います。本書は太極拳や八卦拳についての本ではありますが,そこには武術稽古の本質が,丁寧に書かれています。武術家,必読書です。

2016年10月3日月曜日

下り坂をそろそろと下る

平田オリザ 2016 講談社現代新書

我が国が下り坂(衰退期)にあるというのは本当にその通りだと思います。強く同意します。だから今後は「勝たなくても負けない」ようにどうやって過ごしていくか,よくよくアイディア絞って考えなくちゃいけないよ,というメッセージにも強く同意します。

1.もはや日本は,工業立国ではない。
2.もはや日本は,成長社会ではない。
3.もはやこの国は,アジア唯一の先進国ではない。

その通りだと思う。そうは言いつつ,どこかこれに抵抗する気持ちも正直ある。平田氏はそのこともちゃんと織り込み済みです。抵抗する気持ちは多少なりともあるけれど,これが現実であり,この通りだとやっぱり思います。だから,受け容れましょう。そこから始まるし,そこからしか始まらない。

発展成長拡大路線な社会はいずれ頭打ちになるわけで,いつまでも成長し続けることは無理であり,日本はもうすっかり頭打ちになっていることは随分昔から分かっているわけで(四半世紀前のバブル崩壊がその証左),だとすれば,持続可能な経済レベルでゆっくり落ち着いて身の丈にあった社会を作って行こうとするのが,やっぱり,まともな判断であり,正しい方向性だと思います。そして,本書が提案する方向性が,「文化」と「コミュニケーション」です。本当に,良い提案です。

心ある人は,是非一度,本書を読みましょう。

2016年9月25日日曜日

鬱屈精神科医,占いにすがる

春日武彦 2015 太田出版

春日武彦氏の著作は,前から好きで,よく読んでましたが,このところご無沙汰していたので久しぶりに目に止まり買って読んだら,うううむ,あれれれ,こんなにネットリした感じの文章を書く人だったっけ,まるで別人とまでは行かないけれど,昔はもうちょっとドライというかシニカルというか,アンニュイだけれどストイックというか,なんかそういう感じの人だと思っていたけど,こんなにウェットで湿度の高い書きっぷりでものを書く人だったっけ,と,そんな感想です。なんか,スマートなキレ味がすっかり抜けて,なんだかとってもネバネバドロドロな感じ。

シニカルで,世間から少し距離を置いた,厭世的というか,諦観してる感じが良かったんだけれど,タイトルに偽りなく,ことごとく「鬱屈」していて,なんだか妙に人間的というか俗っぽいというか,あまりにも普通すぎて,申し訳ないけれど,この程度の思索だったら,なんか素人の私的な自伝(自分史)読んでるみたいで,なんだか読むに値しないなぁと思い,途中で断念しました。

もともとこういう文章だったのかもしれず,そうなれば,原因は読み手である僕自身が変わったのかもしれず,春日氏が変わったのではない可能性も高い。しかし,もう,諦観したシニカルな文章は,書かないのかね。

2016年9月15日木曜日

「モテない人」と「仕事がない人」の習慣:ダメ男,38のエピソード

ヒロシ 2016 バジリコ

結果的には,芸人・ヒロシ氏の半生をざっくり綴ったエッセイで,まぁ,面白かったけれど,タイトルは全然中身とフィットしていない。せいぜい副題が中身を示しているぐらいで,本題は,ちょっとどうかと思う。

ヒロシ氏が,その独自の視点で,「モテない人」と「仕事がない人」の習慣を38の視点から分析する,というものを想像していたけれど,全然違いました。要するに,繰り返しますが,エッセイです。

発見は,ヒロシ氏が,僕と同学年だった,という事実です。いや,もっとずっと若いかと思ってました。応援します。

2016年9月14日水曜日

「超」入門!論理トレーニング

横山雅彦 2016 ちくま新書

本書は,論理(ロジック)とは何かを丁寧に解説した入門書ですが,一方で,よくよく考えれば「日本人にとっての”入門書”」であることに思い至るわけで,そのことから,本書は文化論でもあります。

思い返せば,今から25年(四半世紀!)前の学生の頃,当時,福沢一吉先生(認知神経心理学)がアメリカから帰国され,「ディベート」の授業か何かをされていたのを受講し(あるいは,神経心理の講義中にディベートの話をされたのか記憶が定かでないが),本書にある論理(ロジック)について学んだ(知った)のを覚えています。

おそらく,心理学論文を読む上で必要な知識だから,ということだった記憶があります。科学をする上で,本書の示す論理(ロジック)は,必須の知識です。なぜなら,科学は西洋的な思考の産物であり,西洋はロゴスの世界であり,ロゴスの世界に生まれた人たちにとって論理(ロジック)は空気のようなものだからです。その西洋的科学の世界でやっていくためには,論理(ロジック)を理解しておく必要があります。

福沢先生の授業を聞いて,当時,「おお,なるほど」と感心した覚えがあり,だからこそ,今でもそのことをよく覚えているわけですが,本書を読んで改めて,論理(ロジック)の構造をよくよく理解し直しました。これから研究者になろうとする者,特に心理学のような「科学」をやろうとするならば,こういうのは,学生のうちに身につけておく教養だと思います。論理(ロジック)は,科学的営みの大前提であり,基本中の基本です。

本書によって,日本人にとってなんでこういう入門書が必要なのかが,改めてよく分かります。科学を志す高校生・大学生にとって,必読書です。

2016年9月3日土曜日

ソマティック心理学への招待:身体と心のリベラルアーツを求めて

久保隆司・日本ソマティック心理学協会(編) 2015 コスモス・ライブラリー

「ソマティック心理学」として久保隆司氏を中心に設立された日本ソマティック心理学協会のメンバーによる,身体と心に関する幅広い論考を集めた本です。話題は幅広いので,通して読んでいて飽きませんし,読みたい章だけ読むのもアリです。

副題にあるように,リベラルアーツ,です。「身体」というキーワードを軸に,「心理学」の枠には収まらない,幅広い視点や知識が絡んできます。近年,その「身体」が一つの潮流になっていますが(「身体」からのアプローチ,20世紀後半の認知革命・認知主義に代わる21世紀の身体革命・身体主義,とでも言いましょうか),その一翼が,このソマティック心理学,でしょう。

色々と,勉強になります。


2016年7月30日土曜日

ふだん使いのナラティヴ・セラピー

D. デンボロウ(著) 小森康永・奥野光(訳) 2016 北大路書房

とても良い。ナラティヴというアプローチというのはこういうことなのだ,ということが肌で感じられる良書です。

まず,日本語訳がとてもこなれていて読みやすい。翻訳書としては,これがやっぱりとても大切だ。原著者の英語の文章力も重要だけれど,それを日本語に訳す翻訳者の言語的なセンスは,翻訳書の良し悪しを大きく左右する。だから,翻訳というのは,単なる機械的な書き換えではなくて,技芸でありアートだと思います。(自分の翻訳は優れている,という意味ではなく,改めてそう心がけていこう,という意味で,です)

というわけで,日本語として「つっかえる」ところは,全編通じてほとんどなく(したがって読むにあたってストレスを感じないから),非常に読みやすい。だからこそ,ナラティヴ・セラピーというものを心から味わって読める一冊になっています。たくさんの事例(ナラティヴ)がふんだんに盛り込まれています。

世に,ナラティヴに関する本はいくつも出ていますが,専門的なものを読む前に,まずはこの本を読むと,本質や様子が(おそらく)ちゃんと分かって良いと思います。

2016年7月6日水曜日

この英語,どう違う?

ルーク・タニクリフ 2015 KADOKAWA

「○○vs.●●」という形で解説されていて,違いが分かって,それなりにためになる。結構知らない差もあって,それなりに面白い。文章の量も多くないので,すぐに読み切れます。

2016年7月4日月曜日

ブッダの脳:心と脳を変え人生を変える実践的瞑想の科学

リック・ハンソン,リチャード・メンディウス(著) 管靖彦(訳) 2011 草思社

それなりに情報的価値も高いけれど,若干,訳語が気になりました。例えば,おそらくimplicit memoryを,潜在記憶ではなく,「暗黙の記憶」と訳したり(explicit memoryは顕在記憶ではなく「明白な記憶」),など。原著の言い回しがもともと読みにくい文章なのか,翻訳の日本語が分かりにくいのか,どちらとも判別しにくいですが,いずれにせよ,訳語や文章が,若干,読みにくい。

また,「ブッダの脳」と銘打っているからには,仏教瞑想やマインドフルネスやコンパッションなどに絞っての議論だと想像していたのですが,原著者の専門からなのか,広く「瞑想」という範囲でいろいろ論じられている部分もあるような気もします(この話は,必ずしも仏教やマインドフルネスとは違うんじゃないかなぁ,というところがときどき,ある)。となれば,「ブッダの脳」というよりは,「瞑想の脳」とか「瞑想する脳」とかの方が内容にフィットするような気もします。まぁしかし,原題もBuddha's Brainだから,タイトルは正しいのだけれど。

引用文献リストもきちんと載っていて,その点はとても丁寧な本だと思います。また,脳に関する様々な研究知見も,勉強になります。ただ,途中で読むのを止めました。

2016年6月24日金曜日

スター・ウォーズ 禅の教え エピソード4・5・6

桝野俊明 2015 KADOKAWA

映画『スター・ウォーズ』のエピソードⅣ~Ⅵの中の場面を添えながら,禅語を紹介する,という本。装丁は綺麗です。紙質も良い。写真もオールカラー。禅語は全部で86。

なお,桝野師がスター・ウォーズを鑑賞して,86の禅語を思いついた,というよりは,先に禅語があって,それに近い場面を充てた,と言う方が近いかも。というのも,あんまり禅語と合ってない,やや無理矢理な場面選択もあったので(笑)。

しかし,スター・ウォーズの場面の写真と解説は,禅語の意味を考えるヒントにはなりますし(場面に合っていても合っていなくても),むしろ,個人的に良いと思ったのは,禅語の下に,その禅語の持つ中心的な意味あるいはメッセージを現代語で表現し直していて,それに英訳が付いていることです。こうして現代日本語と英語に訳すことで,意味が分かりやすくなっています。これにさらに,桝野師の言葉による解説が加わっている,という形式で,全部で86,禅語が並んでいます。見開き1ページで1語なので,読みやすい。

2016年6月20日月曜日

ヒトでなし

京極夏彦 2015 新潮社

京極の新シリーズ。底抜けに面白い。さて,このシリーズ,次にどう展開するのだろうか。最近は他に,書楼弔堂シリーズも出ているわけだから,新たな京極ワールドの展開に心が躍ります。さて,次はどんな話を聞かせてもらえるのか。

今回のこれは,しかし,タイトルからは全く中身は予測できませんでした。「ヒトでなし」というタイトルに,本の表紙カバーイラストは,犬のようなヒトのような絵。ただ,その横には「金剛界の章」とあります。これがヒントです。中を読めば,分かります。読んでいて,「そういう話か~」「そっちへ行くのか~」と,その展開に驚きました。

とにかく,面白い。京極テイスト全開です。

2016年6月10日金曜日

心を浄化する瞑想入門:マインドフルネス

エド・ハリウェル(著)永峯涼(訳) 2015 KADOKAWA

数あるマインドフルネス本の中の一つですが,比較的最近の科学的知見も引用していて,巻末には引用文献リストもありますから,有益です。

2016年6月3日金曜日

HOW TO 太極拳のすべて

真北斐図 2015 BABジャパン

いろいろと勉強になりました。特には,屈筋と伸筋による説明は,なるほど~,という発見がありました。後半は24式の解説なので,24式を中心に,太極拳を丁寧に練りたい人には,良い本です。

2016年5月30日月曜日

真説・長州力 1951-2015

田崎健太 2015 集英社インターナショナル

「長州力」って,なんで魅力的なんだろう。とにかく,このプロレスラーを「見たい」と思わせる強い引力を持っている。そこにいるだけで,その存在感だけで,強さ,男臭さ,哀しみ,怒り,エネルギー,パワー,スピード,優しさ,温かさ,いろんなものを放っている感じがします。

でもそれはただそこにいきなり現れてそういう存在感を放つのではなく,思い返せばこのノンフィクション作品に出てくる端々を,80年代の新日本プロレスから(熱狂的なプロレスファンというわけではないけれど)見たり読んだりしているから,というこちらの要因も含むと思いました。ああ,こうしてあれとこれがつながって,あのときのあれがこうなってああなって,あれはこういうことだったのね,と。

ということはつまり,80年代のあの金曜夜の『ワールドプロレスリング』から,プロレスという格闘技エンターテイメントが多かれ少なかれ好きな人にとっては,この本は,絶対に面白い。なぜ「長州力」を「見たい」と思うのか,人間・長州力の魅力の背景が,時間軸に沿って丁寧に手繰られていて,読んでいて引き込まれました。

単に長州力を持ち上げる虚飾にまみれた太鼓持ちな伝記ではありません。長州力という人間に誠実に迫った,ノンフィクションです。

2016年5月18日水曜日

恐怖の哲学:ホラーで人間を読む

戸田山和久 2015 NHK出版

本のタイトルだけで,これは面白そうだと思って買っておいて,さてようやく読む番が回ってきたので手に取ると,著者はなんとあの名古屋大学の戸田山先生。これはさぞ分かりやすくて面白い本に仕上がっているだろうと,わくわくどきどきしながら読みました。

期待通りの内容です。

以前,戸田山先生の『科学哲学の冒険』を読んだとき,なんて分かりやすくて,しかも,科学哲学っていう分野を面白くプレゼンしてる本なんだと,とても印象に残っていました。今回のこれも,とても分かりやすく丁寧に,情動(感情)をテツガク的に解きほぐしています。だから,結果,分厚くなっています(新書ですが400頁弱)。

感情研究をするなら,これは必読でしょう。哲学だけど,心理学者も,是非,読んでおくべきです。実際,心理でよく出てくるような話もたくさん出てきます。

2016年4月19日火曜日

本当の自分とつながる瞑想入門

山下良道 2015 河出書房新社

山下師の「青空」である自分に気づく瞑想です。『アップデートする仏教』(藤田・山下)では,対談形式ということもあり,いまいち「青空」の話がよく分からないままだったのですが,本書を読んで,非常によく分かりました。様々な仏教瞑想の本質的なところをまとめた,山下師独自の「ワンダルマ・メソッド」の紹介です。

瞑想とはどういうことか,マインドフルネスとはどういうことか,を山下師の視点と言葉でもって説明されています。瞑想が良い理由,瞑想のやり方,心構えなど,やさしく丁寧に書かれています。マインドフルネスの本は,最近,たくさん出ていますが,これはその中でも良書の一つです。

マインドフルネスは,語る人によって語り方が多少違うし,アプローチの仕方も多少違います。目指しているところはきっと同じですが,そこへ導く言葉や道筋が多少違ったりします。ですから,個人的には,マインドフルネス瞑想や坐禅を考えるとき,いくつもいろんな本を読んだ方が良いように思っています。そうすると,通底する核心(本質)のようなものが見えてくるからです。

その意味で,本書は,マインドフルネスや瞑想を考える,必読書といえるでしょう。

2016年3月30日水曜日

東山彰良 2015 講談社

遅ればせながらようやく,第153回直木賞受賞作を読みました。面白い。読み応えあり。ただ,選考委員の北方謙三氏の帯の惹句「二十年に一度の傑作!とんでもない商売敵を選んでしまった」はちょっと言い過ぎではないのかね(笑)。いや,面白いよ,面白い。本当に面白い。だけど,二十年に一度は言い過ぎでしょう。でも,上手い惹句だね~。さすが作家。

70年代80年代の台湾を舞台にしているところ,親子三世代が複雑に絡み合うところ,仁義・友情・家族愛,そして恋愛が詰まってるところなど,謎解きと冒険と成長があり,読み応えありです。日台合作で映画にでもなれば,面白いかも。

2016年3月15日火曜日

劇画ヒットラー

水木しげる 1990 ちくま文庫

水木しげるの戦争漫画。ヒトラーが画家になろうとウィーンに下宿しているところから,ナチス党の総統となり,ヨーロッパで戦争を始め,最後は地下壕で自殺するところまでを,淡々と描いています。ユダヤ人虐殺は,ヒトラーやナチス絡みでは必ず出てきますが,この物語では冒頭に出てくるだけで,後は,ヒトラー中心に誰と交わり,どうやってヨーロッパの国々や歴史が動いていったかだけを描いています。この,淡々とした感じは,おそらく水木漫画の特徴か,あるいはもしかしたら昭和の劇画の特徴なのか,はたまた伝記漫画の特徴なのか分かりませんが,いずれにせよ,セリフ付きの人物と風景とが連続する,そういう漫画です。

2016年3月14日月曜日

蛭子の論語

蛭子能収 2015 角川新書

「論語」を読みながら,蛭子氏が感想を述べる,という体裁の本。何か語るテーマがないと蛭子氏も語りにくいので,そこに「論語」を持ってきた,という本です。だから,別に「論語」じゃなくてもよい。「老子」(道徳経)でもいい。でも,道教だと蛭子氏の世界と近いので,あえて儒教を持ってきたのかもしれない。そうすれば,蛭子氏の世界が対比的により鮮明になるから。

2016年3月5日土曜日

今を生き抜くための70年代オカルト

前田亮一 2016 光文社新書

オカルト好きにとって,70年代のテーマのおさらい的な本。特に目新しい掘り出し情報はないけれど,71年生まれである私にとっては,懐かしいテーマがさらえて面白かったです。

2016年2月29日月曜日

瞑想を始める人の小さな本:クヨクヨとイライラが消えていく「毎日10分」の習慣

パトリツィア・コラード(著) Lurrie Yu(訳) 2015 プレジデント社

マインドフルネスに関する,コンパクトで,装丁やイラストも綺麗な本です。大きさも手のひらサイズで,わずか100ページ弱。マインドフルネス瞑想を始めて見ましょうと誘いかける,優しい本です。

ただ,思うに,もしこれが本当の意味で全くの初心者が読んだら,掲載されているエクササイズのいくつかは,文章を読んだだけではどうやって良いのかよく分からないし,マインドフルネスや瞑想などの経験のある人の指導がないと,どういう状態を指しているのか分かりにくいところがある,のではないかと思います。

瞑想エクササイズは,シンプルな方が良いと,個人的には思います。だから,本書の中でも,簡単な(ただし,それを続けようと思うと難しかったりする)エクササイズは非常に良いですが,身体の各所を観察するようなエクササイズは,早々に読んでできるようなものではないと,僕は個人的には思います。身体感覚って,難しいよ。

だから,この本は,コンパクトで文章も少なく,イラストも装丁も綺麗な,かわいらしくて取っつきやすい本ですが,マインドフルネス瞑想としてよく用いられるワークが,一通り,書かれている感じです。ものによっては,だから,難しい。

2016年2月27日土曜日

総員玉砕せよ!

水木しげる 1995 講談社文庫

2015年末,「水木しげる」が亡くなりました。説明の必要のない,かの手塚治虫に並び称される,日本の偉大な漫画家です。小さい頃,あのおどろおどろしいゲゲゲの鬼太郎を描いた漫画家に左腕がないことを知って,なぜ腕がないのかが理解できず,薄暗い恐怖感のようなものを覚えたのを記憶しています。

理由は大人になって後から知るわけで,それは戦地で吹き飛ばされたから。つまり,水木しげるは第二次大戦で徴兵されて激戦地に向かい,終戦を迎えて復員した傷痍軍人なのであり,この本は,その,水木しげるの戦争(戦場)体験に基づいた戦記物です。

妖怪漫画もそうですが,独特のあの細かい書き込みの絵を,右手一本で描く。描くことへの鬼気迫る執念。それは戦地で亡くなった戦友たちの怨念でしょうか,そんなものを,左手をラバウルに置いてきた代わりに右手に背負い込んできたかのようにも,思えます。まるで水木の右手が独りでに絵を描いているかのように。

この漫画は,淡々と前線の,それもジリ貧の戦力の日本帝国軍の,明日も知れぬ前線の日々が描かれていて,だからとてもリアルで,心が痛くなります。本当に行ったことのある人しか描けない,想像では絶対に描けない,そういう当時の様子が,描かれています。

2016年2月24日水曜日

はじめてのマインドフルネス:26枚の名画に学ぶ幸せに生きる方法

クリストフ・アンドレ(著) 坂田雪子(監訳) 繁松緑(翻訳) 2015 紀伊國屋書店

良い。とても良い。まず,絵が良い。画集として,良い。その絵の解説書として,良い。26枚の絵を語りのきっかけとして,マインドフルネスについて,丁寧に解説しています。全部で24章に分けて解説していますが,章ごとに,「レッスン」として実践法というか,その章の内容に見合った瞑想法や生活方針が,書かれています。

本国フランスでも32万部のベストセラー,この他,世界12ヶ国で翻訳されてます。それだけの人気が出る理由も,分かります。文章が読みやすいのと(これは日本語の翻訳者の力量もある),装丁も綺麗です(ただ,これも,日本語版の装丁者の力量もある)。

マインドフルネスを語るとき,語り方は様々です。また,微妙なところ,細かいところは,多少の違いも,あります。でもそれもまた,味があってよい。この人はマインドフルネスをこう解釈しているのだな,それもアリだな,いやこれはちょっと違うなとか。それらはそれらで,良い勉強になりますし,また,良い発見になります。

だから,マインドフルネスや禅は,一つの本に傾倒するのも良いですが,色んな本を読む方が良いと思います。マニュアル本やあるいは原典・原著であればそれを何度も読み返す,ということがありますが,ある概念があって,それは,言語化してすぐさま誰もが客観的に理解できる数学的なものでなければ,それに関する言説を,分け隔て無く読むが良いと思います。

本書は,マインドフルネスについて,読んでおくと良い本の一冊です。

2016年2月6日土曜日

怒り:心の炎の静め方

ティク・ナット・ハン(著) 岡田直子(訳) 2011

その方法は,意識的な呼吸と意識的な歩行。これを実践し気づきを養う。そして,コンパッション(思いやり,慈悲)の心をもって相手に接する。本書はこのことを,いろいろな例を示したり,色んな側面から説明したりしています。

怒りを拒絶したり捨て去ろうとしてはいけない。受け入れる。胃が痛いからと言って胃を捨て去ろうとはしない。足が痛いからって足を切り捨てたりしない。自分の赤ん坊が泣いているからといって,置き去りにしない。全力で癒そうとする。全力であやそうとする。怒りも同じである。怒りもまた自分の一部であり,だから,怒りを全力で癒さなくてはならない。全力であやさなくてはいけない。

良い教えです。

2016年2月2日火曜日

戦後日本の宗教史:天皇制・祖先崇拝・新宗教

島田裕巳 2015 筑摩選書

「宗教学者・島田裕巳の集大成!」と帯にある。戦前の国家神道体制の成り立ちから,そこを基軸に戦後50年間の間,宗教,特に新宗教がどう展開してきたかを,概ね時間軸に沿って丁寧に解いている。300ページだけれど,1ページの文字数は少なく,また,文章も平易なので,さらっと読めます。

中身は,副題にある通りの3本の軸に沿って書かれているけれど,ざっくり分けると,国家神道(特に靖国神社)と創価学会とオウム真理教の話が中心です。この辺の話に興味関心のある人は,面白く読めると思います。一方で,新新宗教辺りを期待した人には,ちょっと肩すかしにあうかもしれません。

2016年1月14日木曜日

ぼくらの哀しき超兵器:軍事と科学の夢のあと

植木不等式 2015 岩波現代全書

ミリタリー好きだと,その滑稽さが余計に面白いのかもしれない。滑稽さと真面目さは,裏表である。植木氏は,と学会の中心人物の一人で,と学会本でおなじみなので,期待通りと言えば期待通り。でも,全体的に軍事方面にマニアックなところもあって,ちょっと読んでいて疲れました。