2012年11月26日月曜日

日本SF全集1

日下三蔵(編) 2009 出版芸術社

1957年から1971年までに出版された,SF短編15編掲載。日本SF草創期の著名な作家の作品のアンソロジーなので,必ずしもいわゆる「代表作」だけを集めたものではない。編者の選択基準は,巻末の座談会で披露されている。星新一,小松左京,眉村卓,筒井康隆,平井和正,半村良,あたりは私でも(名前だけは)知っている有名どころ。全6巻の予定だが,現時点で第2巻まで出ている。私は1971年生まれなので,この第1巻までがちょうど,生まれる前までのSF。まだ戦争の記憶が新しく,それでいて,今からすればずいぶんとレトロな,それでいて世の中の復興著しい戦後昭和の香りが漂っていて,なんとも感慨深い。親父やお袋は,こういうSFを読んでたのかな(読んでなさそうだなぁ:笑)。

2012年11月15日木曜日

ネットと愛国:在特会の「闇」を追いかけて

安田浩一 2012 講談社

いわゆる「ネット右翼」と呼ばれる人々と,そこから表に出てきた「行動する保守」と呼ばれる団体に関するルポです。その存在と実態を知る上で,良書です。表層的な解説書ではなく,客観的な視点から組織会員の深層に踏み込んでいて,その点でも良書です。講談社ノンフィクション賞と日本ジャーナリスト会議賞を受賞しています。

2012年11月9日金曜日

大山倍達の遺言

小島一志・塚本佳子 2012 新潮社

極真空手創始者・大山倍達先生が死去した後の,極真会館分裂に関するノンフィクション。『大山倍達正伝』の続編です。読み物として,よくできています。もしかしたら空手や武道・格闘技に興味がないと面白くないのかもしれないですが,個人的には,飽きさせない構成で,一気に読みました。大山倍達という人の魅力があまりにも強すぎて,そういうカリスマがいなくなった後の組織というのを,いかにまとまって維持するのが難しいかを証明する好例です。社会心理学,組織心理学の格好なテキストとも言える。

しかし,本書では,福島の三瓶啓二師範(新極真会)が,徹底的に「悪者」的位置づけで書かれていますが(ものすごい悪人で,分裂騒動の元凶は三瓶氏である,と暗に言っているぐらい),いや実際そうなのかもしれないけれど,名誉毀損などで訴えられないのか,要らぬ心配をしてしまいます。半ば人格否定に近い書きっぷりです。そりゃ,新極真会から取材拒否されるだろうな。本書は関係者への取材に基づいて極力主観を交えずに書いたと宣言していますが,しかし,著者(小島・塚本)の主観が混じらない客観的な書き物などありえないので(構成や言葉の選び方など),これはあくまで小島・塚本両氏の立場から見たドキュメンタリーと判断するのが良いでしょう。しかし,読み応えのある,極めて面白い一冊でした。

2012年11月2日金曜日

<香り>はなぜ脳に効くのか:アロマセラピーと先端医療

塩田清二 2012 NHK出版新書

(メディカル)アロマセラピーに関する最新の状況について書かれた本です。統合医療として,アロマセラピーをいかに医療・健康増進・病気予防に利用するかということについて,科学的に検討されつつある,ということを分かりやすく書いた良書ではあります。しかし,1点,なぜアロマセラピーでなければならないのか,つまり,植物由来の精油が効くという知見があるならば,その成分と適切な含有量を備えた薬を開発すればいいのではないかと思った次第です。薬というのは元来,そういうものなんじゃないのかな。そこでなぜアロマセラピーなのか,と言う点です。それはたぶん,やはり<香り>やトリートメント(マッサージ)によるリラクセーション効果だとか,施術者との会話だとか,そういった,植物精油の薬理学的な効果以外の部分がけっこう大きいと思うのです。代替補完医療が正統医療に組み込まれない理由は,こうした,薬理学的な効果以外の効果を同定・査定できない,また,それはその手法の唱える本来の効果ではないからでしょう。例えばプラシーボ効果。代替補完医療の怪しさは,その手法が唱えている理論や理屈以外の,単なるプラシーボ効果で成り立っているというのが,一般的な理解です。だから,アロマセラピーも,プラシーボを越える効果を科学的に示すことができなければならない。本書に載っている科学的なデータも,統制群の設定がいまいちなものが多い。つまり,これはアロマセラピーだと称して,精油でない合成香料を加えた水かなにかで施術したときの効果を比較検討しなくてはいけない。ただ,やみくもにアロマセラピーを喧伝するのではなく,本書の著者のように科学的にアプローチしようという姿勢は素晴らしいと思います。