2017年6月21日水曜日

マインドフルネス瞑想・ヨガ

山口伊久子 2016 日本文芸社

マインドフルネス瞑想やヨガを用いたマインドフルネス瞑想の実践の書です。3分の2は実践について丁寧に詳しく解説してある一方で,前半(前の3分の1)で,簡潔に理論的な背景や取り組み方などが説明されていて,親切です。

マインドフルネスは何より実践が大切であることは本書にも再三書かれている通りであり,そのために,なるべく易しく取り組めるようなワークがいくつか紹介されています。とにかく,マインドフルネス瞑想をやってみたい人,周りにそういう教室や瞑想会がない人は,本書を読んでみて,一度,ご自身でまずは体験してみる,手探りで取り組み始めてみるのが良いでしょう。

2017年6月9日金曜日

感情を生きる:パフォーマティブ社会学へ

岡原正幸(編著)小倉康嗣・澤田唯人・宮下阿子 2014 慶應義塾大学三田哲学会叢書

まさにタイトル通り,生きられる経験を第一人称的に語る。これを「社会学する」とするこの<感情社会学>という領域は,とても興味深く面白いアプローチでした。不勉強故,こういう学問領域というかアプローチがあるのを初めて知り,これまで抱いていた社会学のイメージが崩れました。

何より,自分の一人称的な生を生々しく,しかし,客観的な視点は維持しながら書くというこの,オートエスノグラフィーというやり方が,心理屋の私からするとすごく新鮮でした。

というのも,一般的な心理学の訓練を受けていれば,一人称的視点での記述は,それが深刻な問題であればあるほど巻き込まれ混乱するし,鼻持ちならない自己陶酔や自己満足に陥って,まるで客観性を保てないとして,避けようとします。ですが,本書で出てくる5編のそれは,どれもそういう落とし穴に落ちることなく(いや,かろうじて保っているのかもしれないけれど),自身の感情体験を,巻き込まれることなく丁寧に追っていて,非常に訴えるものがありました。

得てして社会学は,理論的な話ばかりで生のデータのない難しい学問,データがあったとしても意識調査のような表層的な現象把握的な学問,というイメージでしたが,こういう,生の経験に一人称的に迫った社会学もあるのだと,驚きました。いわば,哲学・現象学と心理学の間ぐらいの感じでしょうか。

2017年6月7日水曜日

新しいスポーツマンシップの教科書

広瀬一郎 2014 学研

まず,スポーツをしている学生や生徒,子どもたちは,読んだ方が良いと思う。でも,中身をちゃんと理解できるのは志の高い大学生以上か,せめて高校生以上かなぁと思う。易しく書かれているので,中学生以下でも,分かる子は分かるだろうけれど。

だから,より重要なのは,その種目の指導をしている先生(指導者,コーチ,監督)であり,先生たちは絶対に読んでおかなければならない必読書だと思う。そういう,ものすごく重要で核心的でクリティカルなことの書いてある本です。その上で,この本に書いてあることは当然ながら理解して,学生や生徒,子どもたちに伝えていかなければならない。そういう,ものすごく重要な責務を負っているということを,指導の先生は理解しなければいけないと思う。

特には,学校の部活や町道場で柔道や剣道や空手道などいわゆる「武道」を指導している先生は,まず,本書を読むと良いと思います。我が国は戦後,「武道」を「スポーツ」の一種と捉えてきたので,おそらく多くの先生が,「武道」と「スポーツ」を区別していない(混同している)からです。

つまり,本書を読めば,自身が指導しているのは「武道」ではなくて「スポーツ」であることを,知ることができます。そして,願わくばその上で,では「武道」とは何かを,よく考えてほしいからです。その際は是非,拙著『空手と禅』をお読みいただきたいです。

2017年6月4日日曜日

ゾンビでわかる神経科学

ティモシー・バースタイネイン,ブラッドリー・ヴォイテック(著)鬼澤忍(訳) 2016 太田出版

面白い。神経科学の話は,単語が難しいのと,話がややこしいのとで,いつもチンプンカンプンになるけれど,この本は最後まで楽しく読めました。なにせ,話のネタが「ゾンビ」ですので,ゾンビのことを考えたり,ゾンビに襲われる人のことを想像しながらだから,ふむふむなるほどと読めてしまう。

もともと原著(”Do Zombies Dream Undead Sheep?”)でこの本の存在を知り,だから原著を買おうと思っていたのですが,そのときすでに日本語訳(本書)が出ていることが分かり,神経科学の本だし,日本語にしようと思ったわけです。だから,翻訳者と出版社に感謝。

日本語訳も分かりやすくて,自然に読めました。神経科学の話だから,翻訳書として日本語で詰まるようだとアウトでしたが,訳が自然なので最後まで読めたと言えます。翻訳者の鬼澤氏の力も,だから,大きい。

ゾンビ好きの人,神経科学のさわりを知りたい人には,お勧めです。原著は2015年のPROSE賞というのを取っていますので,面白さお墨付きです。原著タイトルからして,著者らのセンスが光る。ゾンビは不死羊の夢を見るか?