2017年6月9日金曜日

感情を生きる:パフォーマティブ社会学へ

岡原正幸(編著)小倉康嗣・澤田唯人・宮下阿子 2014 慶應義塾大学三田哲学会叢書

まさにタイトル通り,生きられる経験を第一人称的に語る。これを「社会学する」とするこの<感情社会学>という領域は,とても興味深く面白いアプローチでした。不勉強故,こういう学問領域というかアプローチがあるのを初めて知り,これまで抱いていた社会学のイメージが崩れました。

何より,自分の一人称的な生を生々しく,しかし,客観的な視点は維持しながら書くというこの,オートエスノグラフィーというやり方が,心理屋の私からするとすごく新鮮でした。

というのも,一般的な心理学の訓練を受けていれば,一人称的視点での記述は,それが深刻な問題であればあるほど巻き込まれ混乱するし,鼻持ちならない自己陶酔や自己満足に陥って,まるで客観性を保てないとして,避けようとします。ですが,本書で出てくる5編のそれは,どれもそういう落とし穴に落ちることなく(いや,かろうじて保っているのかもしれないけれど),自身の感情体験を,巻き込まれることなく丁寧に追っていて,非常に訴えるものがありました。

得てして社会学は,理論的な話ばかりで生のデータのない難しい学問,データがあったとしても意識調査のような表層的な現象把握的な学問,というイメージでしたが,こういう,生の経験に一人称的に迫った社会学もあるのだと,驚きました。いわば,哲学・現象学と心理学の間ぐらいの感じでしょうか。

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