2017年12月26日火曜日

構築された仏教思想:道元 仏であるがゆえに坐す

石井清純 2016 佼正出版社

道元の思想を,中国禅の流れから,その対比でもって明らかにしていく,非常に丁寧で分かりやすい本でした。まずは道元の略歴を追い,彼の辿った道を押さえた上で,その著作を紐解いていくので,なぜそういう考えに至ったのか,なぜそういうことを主張しているのかが分かって,読んでいて合点がいきました。

たまたま最近読んだ,メルロ=ポンティの紹介本と,構成が似ていて,読みやすかったです。非常に勉強になりました。道元を知るには,おすすめの本です。

2017年12月25日月曜日

5つのチベット体操:若さの泉

ピーター・ケルダー(著)渡辺昭子(訳)2004 河出書房新社

1993年初版,2004年改訂新版です。いわゆる「チベット体操」の本です。儀式(体操)の仕方が詳しく載っているだけでなく,そもそもこの本は,ちょっとした不思議な小説の体裁を取っていて,それがまた魅力的です。つい,試したくなります。

巷には,この体操(チベット体操,チベットヨガ)の教室やインストラクター養成講座があります。お金を払ってそうした教室や講座に通うのもの良いですし,1200円のこの本を買ってよく読んで丁寧に自分で実践するのでも良いかと思います。それくらい,5つの儀式の動作はまったく複雑ではありません。

2017年12月12日火曜日

パーマネント神喜劇

万城目学 2017 新潮社

悪くない。でもやっぱり,ホルモーや鹿男やしゅららぼんが面白かったところからすると,期待していたよりはイマイチではありました。トヨトミも,若干好きじゃなかったので,常に自分にとってストライクということはないでしょうから。でも基本的に万城目作品は面白いので,次に期待します。

2017年12月4日月曜日

実践!瞑想の学校

ネルケ無方,プラユキ・ナラテボー,藤田一照,島田啓介,宮下直樹,井上ウィマラ 2017 サンガ

それぞれの著者が,それぞれの(宗教)実践をどう捉えているかが分かる本でした。ワークショップやインタビューなどを文字起こししたものが大半なので,読みやすいです(最後の井上ウィマラ先生のものだけ書き下ろしです)。

タイトルは「瞑想」とありますが,瞑想をどう定義するかが人によって違いますので,そうなると坐禅と瞑想の違いだとか,瞑想実践と宗教実践の違いだとかが曖昧になります。

どれも究極的には同じところを目指している(と思う)ので,違いを生じさせる言葉や定義の問題は些細なことではあるのですが,こうして同じ仏教系の人たちでも,各人がそういう些細なことに意外とこだわっているのだなということも分かる本です(説明上,仕方のないことなのかもしれないですが,どれも結局,単なる「言葉」や「概念」にすぎません)。

私は最近,南伝だろうが北伝だろうが,坐禅だろうが瞑想だろうが,実践的にはほぼほぼ同じことをしようとしているのであって,違いはあれどそれはどれも些末なことであり,そんなことはどうでもよいのであり,そういう違いにこだわるのは無駄な気がしてなりません。

たぶん,そんなことにこだわっている時点で,なんだかこう,禅的ではない。ような気がします。

2017年11月29日水曜日

メルロ=ポンティ

村上隆夫 1992 清水書院

本書は1992年刊の新装版であり,2014年刊です。前半はメルロ=ポンティの生涯,後半はその研究について,丁寧に分かりやすく解説しています。ですので,メルロ=ポンティの入門書として良書なのではないかと思います。

というのも実は,メルロ=ポンティの思想は断片的には知っていましたが,原著はもちろん入門書もちゃんと読んだことはなく,まずはこの本が一番読みやすそうだったので手に取ったわけです。期待通りでした。

これを機に,もう少しハードなメルロ=ポンティの研究書だとか,さらには原著にもいずれ挑戦してみようと思いました。

2017年11月17日金曜日

禅・チベット・東洋医学

藤田一照・永沢哲 2017 サンガ

禅僧の藤田一照氏とチベット仏教研究者の永沢哲氏の対談本です。禅仏教とチベット仏教の邂逅。お二人の知識と造詣の深さに驚嘆します。重要なのは,二人とも実践者ということ。副題が「瞑想と身体技法の伝統を問い直す」となっている通り,身体的実践を伴わなければ意味がない,というところがポイントになっています。

ただ,タイトルに「東洋医学」とあるけれど,そこまで東洋医学のことはそんなに語っていません。むしろ,「禅とチベット」で良いような気がしました。

しかし,いずれにせよ,チベット仏教の様子が少し分かり,そこから禅を見ることで禅も少し分かり,ひいては,仏教という営みが見えてきます。対談なので読みやすいですし,二人の語りが的確なので,展開が明瞭でブレにくいのも,良いです。

2017年11月3日金曜日

新世紀ゾンビ論

藤田直哉 2017 筑摩書房

ゾンビを視点にした社会批評・文化批評の本です。読みやすく,3日ほどで一気に読みました。「ゾンビ」という解釈の視座が,読みながら目まぐるしく変わるので,読んでいてジェットコースターみたいででしたが,その視座それぞれはそれなりに面白かったです。「ゾンビ」も,映画ばかりでなく,むしろゲームだとか最近のアニメだとかが中心で,後半は特にそっちに突入していく感じです。これほどまでにゾンビが増殖しているとは,よもや,知りませんでした。

2017年10月29日日曜日

このせちがらい世の中で誰よりも自由に生きる

湯浅邦弘 2015 宝島社

まず表紙が良い。とても良い。そして中身ともよくフィットしています。とある40歳過ぎのサラリーマン(「男」)と,奇妙な老人(「老人」)との対話形式なので,まずもって,読みやすい。

この「男」(サラリーマン)が,とてもリアリティのある悩みや問題を「老人」にぶつけ,「老人」が老子や荘子で答えるというパタンなのですが,良さのポイントは,「男」が反論するところです。現実的な制約やしがらみや状況を踏まえて,老子や荘子のようには行かないでしょう,そこは無理でしょう,と都度都度反論するところに,老荘思想をよりよく理解する工夫がなされています。

というのも,老荘思想は,それだけを単独で一方通行で読むと,理想論かあるいは説教集のようになってしまうからです。それでも良いと言えば良い。そういう理想論に自分をどう近づけていくかも,自己を考える上で必要だからです。本書はその点,この「男」にその役目を担わせています。だから,読みやすい。

老荘のニュアンスを掴みたければ,専門書に近いものよりも,こういう読み物の方が良い。我々のような専門家ではない素人にとっては最適です。でもこれ,かの有名な湯浅先生が書いているところもまた,ミソでしょう。おすすめです。

2017年10月22日日曜日

マインドフルな毎日へと導く108つの小話

アジャン・ブラム(著)浜村武(訳) 2017 北大路書房

これは面白い本です。短い108つの話が収められていますが,これは,タイの高僧アジャン・チャーの元で修行したオーストラリア在住のイギリス人仏僧である,アジャン・ブラムの講話集です。

ユーモアと含蓄のある話は,読んでいて飽きません。翻訳も滑らかで読みやすい。話の一つ一つに,「はっ」とさせられます。読みながら,「そうなんだよな~」「うんうん,たしかにね~」「これだよ,これ,こういうことだよ」と思わずうなりながら読んでしまう本です。

原題は,”Opening the door of your heart"なので,そのまま訳せば『心の扉を開く』です。なので,決して昨今流行の「マインドフルネス」を身に付けようとすることに主眼を置いて書かれた本というわけではありません。内容は,もっと広い意味で,仏教的な考え方,在り方,ライフスタイルを伝えようとするものです。だからとても良い本です。

2017年10月13日金曜日

禅思想史講義

小川隆 2015 春秋社

平易な日本語と,古典の分かりやすい現代語の訳や解釈もあいまって,とても分かりやすく読みやすい本です。やはり,本格的な学術書となると,漢語や古語が難しいし,禅や仏教の専門的な用語が出てくるとこれも一つ一つ理解しながら読むのはなかなか骨が折れます。その点,この本は,禅の通史として,唐代と宋代の中国禅を中心に,最後は鈴木大拙に至るところまでをざっくりと解説しています。大きな流れを掴むことが目的だとまえがきにもあるように,その目的は十二分に達成されています。禅の研究は専門的にはもっとずっと深いのだろうけれど,本書のこれはこれで,とても勉強になりました。

2017年10月1日日曜日

書楼弔堂・炎昼

京極夏彦 2016 集英社

どんな感想もありきたりになってしまってつまらないですが,とにかく,京極は面白い。今回のこれも突き抜けて面白い。至福。出版からずいぶん時間が経ってしまって,買ってずっと置いてあったのですが,ようやく読めました。前回の『破暁』とは,語り手が変わりました。次はどうなるのか。いやしかし,面白い。

是非ともさらに京極ファンが増えることを期待し,未だ京極を知らない方にはこの書楼弔堂シリーズから入っていただき,原点の京極堂シリーズ(百鬼夜行シリーズ)まで遡っていただくのも良いと思います。

2017年9月21日木曜日

哲学しててもいいですか?文系学部不要論へのささやかな反論

三谷尚澄 2017 ナカニシヤ出版

絶対に読んだ方が良い。そして、今すぐにでも読んでおいた方が良い。本というのは、内容にもよるけれど、時代や状況によって、読むべきタイミングというのがあると思いますが、この本は、教養(教育)ということを考える人にとっては、今すぐにでも読んだ方が良い、そういう本です。

一方で、この本は、30年後、50年後などにも取り上げられることを期待するし、その時どう読まれるかも、想像すると楽しみです。ああ、30年前はこんな状況だったのね、とほのぼのと読めるのか、あるいは、危惧していた最悪の状況になってしまっているか。日本という国が、知を、教養を、どこまで真剣に深く考えたかが、それを左右します。

願わくば、その道を間違えないように、大学教育に関わる人は、この本を絶対に読むべきです。読んで欲しい。読んで下さい。お願いします。

2017年9月9日土曜日

タオは笑っている

R.M.スマリヤン(著)桜内篤子(訳)1981 工作舎

読んで面白い本というのに巡り会うと,わくわくして人に言いたくなります。そういう本です。タオが好きな人は,読んで損はない本です。タイトルは,『タオは笑っている』ですが,原題は"The Tao is silent"です。どちらも良いタイトルです。

タオは言葉にしづらい(できない)けれど,タオってこんな感じ,というのがフワッと感じられる,そういう本です。1981年出版の本ですが,中身はまったく色褪せていません。なにせタオについての本ですから,当然,色褪せることはありません。

著者のスマリヤンは,今年の2月,つまり半年くらい前に亡くなりました。97歳。著名な論理数学者であり,哲学者であり,プロ級の手品師であり,そしてこの本の著者です。なんて素敵なんでしょうか。是非一読をオススメします。

2017年8月29日火曜日

ゾンビ学

岡本健 2017 人文書院

「ゾンビ」というコンテンツを様々な角度から考察した本です。いわゆる,映画紹介的な評論の本ではありません。ですから,作品によってはときどきネタバレのものもありますから,ゾンビものをまだあまり見ていない人はご注意(というか,こんなタイトルの本を読むのはゾンビものはよく見ている人だろうから,心配無用か・・・)。

著者は,「コンテンツツーリズム学」というのが専門であり,もう少し広い学問領域でいうと「観光社会学」ということらしい。本書には,うれしいことに,私の論文も引用してくれています。ありがとうございます。だから社会学の人ってのは,分野に偏らず,広くいろいろな文献を読むんだなぁと感心しました。

とにかく広く多様な角度から考察しているので,その点で,まとまりのようなものは少し欠ける気もしましたが,ゾンビ(映画やアニメやマンガなど)を研究するための「軸」を可能な限りたくさん提供しているという点は,非常に意義深いです。だから「ゾンビ学」というタイトルなんですね。

ゾンビ関連の研究本は,海外ではたくさんあって,その翻訳本が日本でいくつか読めますが,社会学的な視点でのものはなかったように思います。その意味では,日本では新しいのかなと思います。また,本書にはゾンビ以外のホラー・オカルトの対象に関する研究本も合間合間に紹介されていて,とにかく,世の中にはいろいろと読み切れないほど面白い本があることも,知ることができました。

2017年8月19日土曜日

「密息」で身体が変わる

中村明一 2006 新潮選書

2006年に出版されていたのに,本書に今まで辿り着けずにいました。自分の情報収集能力の稚拙さを思い知ります。空手の呼吸法はこの「密息」そのものです。知らずに拙著『空手と禅』では,この(空手の)呼吸法をとりあえず(胸式や腹式や逆腹式とは異なるという意味で,また丹田を充実させ続けるという意味で)「丹田呼吸法」として説明していました。

「密息」とは,骨盤を後傾し,吸いで腹が膨らみ,吐きでも腹を凹まさない,つまり,ずっと腹を出し続ける呼吸法です。私はこれを空手の師から習いました。

なお,身体術として骨盤を後傾させる技法は,日本だけでなく,中国の太極拳でもインドのヨーガでも,やります。太極拳もヨーガも,呼吸法が最重要の要素です。だからこの「密息」をもっと詳しく歴史的文化的に調べて辿っていけば,面白い研究になるんじゃないかと思いました。

2017年8月11日金曜日

比較思想論

中村元 1960 岩波全書

そもそも比較思想論って何だろうと思い,買いました。そのほんの少しだと思いますが,様子をうかがい知ることができました。定価「380円」と印字されています。文章も漢字も,今からするとあまり使わない用法だったりして,興味深かったです。

2017年7月27日木曜日

身体はトラウマを記録する:脳・心・体のつながりと回復のための手法

ベッセル・ヴァン・デア・コーク(著)柴田裕之(訳) 2016 紀伊國屋書店

読むのに約1ヶ月かかりました。大著です。しかし,最後まできっちり読まずにはいられない,そういう本です。これこそ名著であり,これこそ必読書です。

ヴァン・デア・コークはトラウマティックストレスの臨床と研究における第一人者であり,本書に書かれていることの説得力は図抜けています。それは自身の臨床経験と科学的研究に裏付けられています。何よりその情熱と向上心に感動します。

まずそもそも,臨床心理学を志し,臨床心理士になって相談やカウンセリングをしようと思う院生は,絶対に読んでおいた方が良い。というか,読まずに臨床やるのは,半端も半端,モグリだとたしなめても良いと思う。そのくらい,重要なことがぎっしり詰まっています。1ページさえも書いてあることに無駄のない700ページ弱の大著です。トラウマティックストレスの歴史そのものであり,そして最新のアプローチの数々であり,何が重要で何が重要でないか,その本質を丁寧に伝え,訴えている,そういう,熱い本です。かつ分厚い。

だから臨床の院生は修了するまでに絶対に読むべし。

そして基礎の院生も,読んでおいて損はありません。基礎系はやがて衰退し,臨床系一本になるであろう「心理学」という学問で食っていくためには,臨床的な観点と知識は,確実に役立つから,というかこれからは必須だから,若い基礎系の人は読んでおいて損はありません。

2017年6月21日水曜日

マインドフルネス瞑想・ヨガ

山口伊久子 2016 日本文芸社

マインドフルネス瞑想やヨガを用いたマインドフルネス瞑想の実践の書です。3分の2は実践について丁寧に詳しく解説してある一方で,前半(前の3分の1)で,簡潔に理論的な背景や取り組み方などが説明されていて,親切です。

マインドフルネスは何より実践が大切であることは本書にも再三書かれている通りであり,そのために,なるべく易しく取り組めるようなワークがいくつか紹介されています。とにかく,マインドフルネス瞑想をやってみたい人,周りにそういう教室や瞑想会がない人は,本書を読んでみて,一度,ご自身でまずは体験してみる,手探りで取り組み始めてみるのが良いでしょう。

2017年6月9日金曜日

感情を生きる:パフォーマティブ社会学へ

岡原正幸(編著)小倉康嗣・澤田唯人・宮下阿子 2014 慶應義塾大学三田哲学会叢書

まさにタイトル通り,生きられる経験を第一人称的に語る。これを「社会学する」とするこの<感情社会学>という領域は,とても興味深く面白いアプローチでした。不勉強故,こういう学問領域というかアプローチがあるのを初めて知り,これまで抱いていた社会学のイメージが崩れました。

何より,自分の一人称的な生を生々しく,しかし,客観的な視点は維持しながら書くというこの,オートエスノグラフィーというやり方が,心理屋の私からするとすごく新鮮でした。

というのも,一般的な心理学の訓練を受けていれば,一人称的視点での記述は,それが深刻な問題であればあるほど巻き込まれ混乱するし,鼻持ちならない自己陶酔や自己満足に陥って,まるで客観性を保てないとして,避けようとします。ですが,本書で出てくる5編のそれは,どれもそういう落とし穴に落ちることなく(いや,かろうじて保っているのかもしれないけれど),自身の感情体験を,巻き込まれることなく丁寧に追っていて,非常に訴えるものがありました。

得てして社会学は,理論的な話ばかりで生のデータのない難しい学問,データがあったとしても意識調査のような表層的な現象把握的な学問,というイメージでしたが,こういう,生の経験に一人称的に迫った社会学もあるのだと,驚きました。いわば,哲学・現象学と心理学の間ぐらいの感じでしょうか。

2017年6月7日水曜日

新しいスポーツマンシップの教科書

広瀬一郎 2014 学研

まず,スポーツをしている学生や生徒,子どもたちは,読んだ方が良いと思う。でも,中身をちゃんと理解できるのは志の高い大学生以上か,せめて高校生以上かなぁと思う。易しく書かれているので,中学生以下でも,分かる子は分かるだろうけれど。

だから,より重要なのは,その種目の指導をしている先生(指導者,コーチ,監督)であり,先生たちは絶対に読んでおかなければならない必読書だと思う。そういう,ものすごく重要で核心的でクリティカルなことの書いてある本です。その上で,この本に書いてあることは当然ながら理解して,学生や生徒,子どもたちに伝えていかなければならない。そういう,ものすごく重要な責務を負っているということを,指導の先生は理解しなければいけないと思う。

特には,学校の部活や町道場で柔道や剣道や空手道などいわゆる「武道」を指導している先生は,まず,本書を読むと良いと思います。我が国は戦後,「武道」を「スポーツ」の一種と捉えてきたので,おそらく多くの先生が,「武道」と「スポーツ」を区別していない(混同している)からです。

つまり,本書を読めば,自身が指導しているのは「武道」ではなくて「スポーツ」であることを,知ることができます。そして,願わくばその上で,では「武道」とは何かを,よく考えてほしいからです。その際は是非,拙著『空手と禅』をお読みいただきたいです。

2017年6月4日日曜日

ゾンビでわかる神経科学

ティモシー・バースタイネイン,ブラッドリー・ヴォイテック(著)鬼澤忍(訳) 2016 太田出版

面白い。神経科学の話は,単語が難しいのと,話がややこしいのとで,いつもチンプンカンプンになるけれど,この本は最後まで楽しく読めました。なにせ,話のネタが「ゾンビ」ですので,ゾンビのことを考えたり,ゾンビに襲われる人のことを想像しながらだから,ふむふむなるほどと読めてしまう。

もともと原著(”Do Zombies Dream Undead Sheep?”)でこの本の存在を知り,だから原著を買おうと思っていたのですが,そのときすでに日本語訳(本書)が出ていることが分かり,神経科学の本だし,日本語にしようと思ったわけです。だから,翻訳者と出版社に感謝。

日本語訳も分かりやすくて,自然に読めました。神経科学の話だから,翻訳書として日本語で詰まるようだとアウトでしたが,訳が自然なので最後まで読めたと言えます。翻訳者の鬼澤氏の力も,だから,大きい。

ゾンビ好きの人,神経科学のさわりを知りたい人には,お勧めです。原著は2015年のPROSE賞というのを取っていますので,面白さお墨付きです。原著タイトルからして,著者らのセンスが光る。ゾンビは不死羊の夢を見るか?

2017年5月31日水曜日

太極拳のヒミツ

真北斐図 2017 BABジャパン

最近の『誰にも聞けない太極拳の「なぜ?」』『HOW TO太極拳のすべて』に続く,真北先生の新刊です。月刊『秘伝』の企画でお会いするのを機に,『秘伝』編集部より新刊を送っていただき,早速読みました。これまでの真北先生の著書で書かれていることからさらに深部,エッセンス,原理に近いところのお話で,今回もまた,武術稽古に役立つヒント満載でした。

真北先生の書かれることは,外見的な形よりも,内面的な感覚に関することがほとんどであり,その点,私が求める武術稽古の本質に近く,前々から真北先生の著書は参考にしていました。武術の本質を探究しているのであれば,太極拳家の方はもちろん,空手家や合気道家の方なども是非,読むと感じるところがきっとあろうかと思います。

2017年5月17日水曜日

老子×孫子:「水」のように生きる(教養・文化シリーズ 別冊NHK100分de名著)

蜂屋邦夫・湯浅邦弘 2015 NHK出版

老子と孫子を対比させての,分かりやすい解説本。共通点は「水」。まぁ,それだけではないけれど,両者には非常に似通ったところがある,ということで,面白く読めました。何より,孫子に関してはじめてその内容にちゃんと触れましたので,とても勉強になりました。読みやすい本ですので,老子と孫子を同時に知りたければ,是非,買って損はありません。お得です。

2017年5月5日金曜日

虚実妖怪百物語「序」「破」「急」

京極夏彦 2016 角川書店

「序」「破」「急」の三冊,読みました。いやしかしやっぱり面白い。ギャグ満載,妖怪満載,でもってシリアスな戦いや謎解きもあり,実在する人物(と同名の登場人物)も満載で,いろいろな意味で楽しめるエンターテイメント。故・水木しげるに捧げる大スペクタクル小説。最後は少し泣けました。

2017年4月26日水曜日

世界一ゆる~いイラスト解剖学:からだと筋肉のしくみ

有川譲二 2017 高橋書店

これはいい。解剖学にはほぼ素人の私にも,分かりやすいイラストと説明で,だいたいの仕組みが理解できました。ストレッチングを実践に取り入れているので,筋肉の説明をある程度はする必要があり,そのときに解剖学的な知識はそこそこは必要だと思い,買って読みました。

2017年3月26日日曜日

マインドフル・フォーカシング:身体は答えを知っている

デヴィット・I・ローム(著) 日笠摩子・高瀬健一(訳) 2016 創元社

いわゆるフォーカシングの「フェルトセンス」について,丁寧かつ徹底的に,そして段階的に説明し,実践の仕方を解説した本です。だから,フォーカシングの全容を伝えるものではなく,その核心的な部分を述べたものです。

かくいう私は,フォーカシングについてはまったくの素人で,今回,少しでもフォーカシングについて知りたいと思って,読めそうなところとして,タイトルから選んだのが本書です。そして,選んで良かった。フォーカシングはマインドフルネスと通じるところがあるよね,としばしば言われ,そのポイントがフェルトセンスであって,サブタイトルも「身体は答えを知っている」だから,きっとピンと来やすい話だろうと予想していましたが,予想を裏切らない内容でした。

徹底的に身体感覚に終始しているのが,本書の良いところです。フォーカシングのその他の理論的背景はとりあえず置いておいて(素人の私にはそこまで盛りだくさんだとかえって混乱するでしょう),フェルトセンスにこだわって,ブレずに,書かれています。

今度はフォーカシングの全容について,また別の機会に読んだり学んだりしたいと思いました。

2017年3月13日月曜日

コンビニ人間

村田沙耶香 2016 文藝春秋

言わずと知れた第155回芥川賞受賞作。ようやく読むことができました。どんな物語なのか,書評など予断となる情報をほぼ一切入れずに,ページを開きました。ふううん,こういう話だったのかぁ,とちょっと予想が外れました。

心がちくちく痛くなります。個人的には,僕は一応,心理屋なので,ささやかですが背景知識が多少あるので,余計に痛く思うのかもしれません。そうか,そういう風に映るのか,そっちから見るとそう見えるのか。しかし36年間,コンビニに勤めて18年間,こういうことはなかったのか,ああいう場合はどうするのか,大丈夫なのか,問題は起きないのか,これからいつまで行けるのか,とかいろいろと思いを巡らせてしまいました。

あっという間に一気に読みました。きっと1~2時間あれば読めます。そして,読んでみる価値は十二分にある本です。

2017年3月12日日曜日

身体と心をととのえる禅の作法

藤井隆英 2016 秀和システム

禅のアプローチの,特に調身と調息のところに重点を置いて,どうあればよいかをとても分かりやすく易しく説いている良書です。ポイントを絞って,回りくどい修辞をせず,また,専門的な仏教の解説を極力避けながら,禅の方法論のエッセンスを抜き出しいてるので,仏教の素人である(私を含めた)一般向けには,非常に良いと思いました。(著者は,曹洞宗の禅僧であり,かつ,整体師でもあります)

坐禅は身体的アプローチです。なにせ「調身・調息」というぐらいですから,はっきりそう明示されているわけです。しかし,一見動かずじっと坐って(本当は「じっと」はしていなくて,呼吸でわずかに揺れているし,姿勢も微妙に変化していますが),あたかも心に浮かぶ雑念と格闘して無心になろうとしているかのように思われているので,なにやらゴリゴリの精神的(認知的)アプローチだと勘違いされています。でもそれは大きな誤解。「調心」は,「調身」と「調息」の結果です。本書を読めばそのことが簡潔に書かれています。

2017年3月9日木曜日

夜を乗り越える

又吉直樹 2016 小学館よしもと新書

又吉さんの文学(小説)論・芸人論です。過剰に情熱的な芸人・文学者である一方,それ(自分自身)を冷徹に見つめる批評家でもあり,その意味で,極端と極端の間で結果的に非常にバランスが取れている形になっています。

漫才(やコント)や小説によって人をどう楽しませるかという徹底した作り手・書き手の視点と,そもそも本来お笑いや小説が好きで堪らない読み手の視点が,つまり,陰と陽が絶妙に混ざった,良い文学論・芸人論になっています。

なお,ここで「本」と言っているのは,たぶん,ほぼすべて「小説」のことを指しています。とにかく本(小説)は良いよ,というメッセージ。僕は,本を読むなら小説に限らなくて良いと思いますが,いずれにせよ,教科書以外,本をほとんど読まない最近の学生には,まずこれを読ませたい。

2017年2月28日火曜日

心とはなにか:仏教の探求に学ぶ

竹村牧男 2016 春秋社

竹村先生は現在,東洋大学の学長です。筑波の先生を経て,東洋の先生になり,今,学長です。魅力的なタイトルなので購入し,文字も大きく,語りかけるような文章で読みやすいなぁと最初は思っていたら,だんだんと仏教用語が増え,次第に手強くなり,面倒くさくなり,途中で断念しました。

一般書なのでしょうけれど,専門家による本なので,やはりそれなりに難しい。というか,仏教用語が並び始めるときつい。初歩的でざっくりした話ならついて行けるけれど,専門的になってくると,素人にはきつい。仏教研究するならこのくらいはすらすら読めるんでしょうね,きっと。

でも,文章は柔らかいです。お人柄が見て取れます。

2017年2月26日日曜日

自分でできるマインドフルネス:安らぎへと導かれる8週間のプログラム

マーク・ウィリアムズ ダニー・ペンマン(著)佐渡充洋・大野裕(監訳) 2016 創元社

マインドフルネスとは何か,どういう瞑想をどうやってやっていけばよいかを,丁寧に説明している,けっこう大著です。8週間分の瞑想を,章ごとに丁寧に説明し,実践中につまづきそうなことにも触れながら,また,実際にこの瞑想プログラムに参加した具体的なケース(事例)にもときどき触れながら,分かりやすく解説しています。

特には,最近,マインドフルネス関連の本や雑誌記事が大量に出回っている中で,マインドフルネスを十分に理解していない(ように思える)人が書いたり翻訳したりしていたり,あるいはきっとマインドフルネスを知らない雑誌編集者の方が社会的ニーズに応えるために(雑誌の売り上げを上げるために)取材ベースで流行のマインドフルネスを特集したり編集したりして(そのためにありがちな先入観や誤解が散見されていて),内容的にちょっとそれどうなんだろうなぁ,と思うことがあります。しかし,流行するってのは,こういうことですね。いろんな人がいろんなことを言います。俯瞰的に見れば,まぁ,僕も単なるその一人です。

その意味では,本書は,著者の一人がマーク・ウィリアムズですから,内容に関しては信頼できますし,確かに通読してみて,変だ妙だと思う箇所はありませんでした。日本語の訳も全体的に読みやすかったです。

というわけで,マインドフルネスをする上で,読んでおいて損はない本の一つだと思いました。

2017年2月4日土曜日

始めよう。瞑想:15分でできるココロとアタマのストレッチ

宝彩有菜 2007 光文社知恵の森文庫

「瞑想」のススメです。坐ってマントラを唱える集中瞑想です。瞑想とは何かと考えたときに,いろいろなものを含むんだということに,改めて気づきました。

何を良しとするのかは,難しいところだと思います。あれを良しとするとこれは悪し,となります。瞑想も,何を持って良しとするかが違えば,具体的な方法も違うし,心身の状態を表現する仕方も違ってきます。また,瞑想は微妙なものですから,言葉一つでずいぶん違ってきます。だから表現する言葉を選ぶ必要があります。選んだ言葉で,ずいぶん違ってきてしまいます。良し悪しとは別な意味で,違ってきてしまいます。

坐り方や身体の動かし方などは,とても参考になりました。

2017年2月2日木曜日

実践!マインドフルネス:今この瞬間に気づき青空を感じるレッスン

熊野宏昭 2016 サンガ

熊野先生による,東京マインドフルネスセンターでのワークショップを再構成したものです。なので,参加者がいる場で語っている内容になっています。分量としては半日で読めます。

内容的には,HayesのACTとWellsの注意訓練を絡ませながらマインドフルネスの実践をレクチャーするものです。手動瞑想も出てきます。マインドフルネスの実践の感覚を言葉で確認したい場合,熊野先生の生に近い言葉で説明されていますので,分かりやすいと思います。

いくつか,授業や研究会でも使えるワークが入っていたので,個人的にはとてもお得でした。

2017年1月28日土曜日

悪意の心理学:悪口,嘘,ヘイト・スピーチ

岡本真一郎 2016 中公新書

岡本先生は「ことば」が専門の,著名な社会心理学者です。本書はその岡本先生が,社会心理学と言語心理学の知見をベースに,いろんな状況や場面を例に「悪意」について説明したり考察したりしたものです。

「悪意」ですので,本書を通して見ようとしているのは,話し手(メッセージの送り手)の「意図」です。話し手の意図というものがどう伝わり,聞き手(メッセージの受け手)にどう思われるか,どういう影響を与えるかを,丁寧に分析した本です。心理学の基本的な(教科書的な)知見も散見されますが,そうした基本的知見を「悪意」という横軸でもって横断的に切り取っていくとこういう風に関係するしこういう風に見えてきます,という本になっています。だからとても参考になりました。

岡本先生の文章は,平易で分かりやすい。例文の中には関西の訛りがときどき混じったりしていて,親しみが沸く。愛知学院大学は私の実家のそばというのもあって,これも勝手に親近感を覚える要因になっているかも。愛知学院大学の学生は,岡本先生の講義が聴けてうらやましい。

2017年1月20日金曜日

マインドフルネス入門講義

大谷彰 2014 金剛出版

瞑想実践と臨床経験と仏教に関する造詣の深さを礎に,実証研究(エビデンス)への確かな読み込みもあいまって,非常に勉強になるきっちりとした本です。注や引用文献も豊富で,これをお一人で書いたかと思うと脱帽です。

だからこれは一般書ではなく,専門書,それもかなり高度な専門書です。これからマインドフルネスを臨床実践に使いたいと思う人,研究対象にしたいと思う人などは,読んでおくべきでしょう。

エビデンスにこだわっている良書ですので,その意味でも逆に言えば,出版年である2014年時点での成果です。もうそれから数年経っていますが,特にはニューロサイエンス方面の知見は日進月歩ですので,この方面を研究したい人は,本書は参考程度に読まれると良いと思います。

著者が臨床家ですから,基本的には,臨床応用のためのマインドフルネスに関する話です。その点,仏教的マインドフルネス(本書ではピュア・マインドフルネスと命名)と臨床的マインドフルネスの区別を明確にしている点は,とても勉強になりました。分かってはいるつもりでしたが,ついこれらを区別せずに一緒くたにしてしまいがちで,この辺あいまいでしたが,本書を読んで合点がいきました。そして改めて,自分はどちらかというと,ライフスタイルとしての仏教的マインドフルネスを志向しているんだなと再確認しました。

なので,繰り返しますが,マインドフルネスの臨床応用や研究に興味関心のある人は,本書はとても参考になります。

2017年1月17日火曜日

図説マインドフルネス -しなやかな心と脳を育てる-

ケン・ヴェルニ(著) 中野信子(監訳) 2016 医道の日本社

装丁が綺麗で図や写真も豊富で,そもその「図説」とあるので面白そうだから買いましたが,最初の20ページぐらいですでに何カ所か,うううむ,それはちょっと違うんじゃないかなぁ,という箇所が散見されたので,読むのを止めました。

これは,著者自身が間違っているのか,翻訳が間違っているのか,どちらか分からないですが,マインドフルネスって,僕が思うに,とても微妙な感覚の話なので,言葉の一つ一つを丁寧に使わないと,すぐにピントがずれてしまいます。

本来なら感じるままに伝えたいわけですが,伝達手段として言葉は使わざるを得ず,そうなると言葉の限界ってのがあって,これが誤解や間違いを生む原因になります。だからこうして図や写真を使って説明,というアプローチが考えられるわけですが,しかし,本書を見る限り,図や写真はおまけで,言葉による説明はけっこう多いです。

大型本であり,情報量はけっこうあります。マインドフルネスをどう捉えるかは,武術をどう捉えるかに似ていて,人(師)によって表現の仕方はまちまちです。だから,この本はこの本で,きっと,良いと思える人はいるだろうから,それはそれで良いと思います。装丁や図やイラストや写真は,綺麗ですよ。

僕には合いませんでした。

入門 老荘思想

湯浅邦広 2014 ちくま新書

とても良い。面白い。分かりやすい。中国古典に関する本には,一般書なのになぜか学者然とした分かりにくい論文調の,あるいは書き下し文みたいな日本語だったりして,一般読者を置いてきぼりなものがときどきあるけれど,この本は,ものすごく読みやすい。まず,著者の湯浅先生(大阪大学)の書く文章が平易で整っているので分かりやすい。

本書の特徴は,『老子』と『荘子』の思想を内容的観点や歴史的観点からまとめなおし整理しつつ,かつ,最近出土した新資料に基づいて再解釈もしつつ,という点である。私のような門外漢の素人には,とても勉強になる。

老荘思想,道家思想のポイントや流れを踏まえるには,とても良い「入門書」である。おすすめ。