2018年12月31日月曜日

武士マチムラ

今野敏 2017 集英社

『義珍の拳』『武士猿』『チャンミーグヮー』に続く,今野敏の沖縄空手シリーズ。面白かった。

しかし,この,自分が感じている面白さは,一般の読者も同じなのだろうか。言ってみれば,これはマニアックな武術小説(?)であって,今野敏の本職である警察小説ではない。今野敏ファンの人は,その一環として読むかと思うので,版元の採算は合うのだろうけれど,果たして,武術(特に空手,特に沖縄伝統の空手)を全くやっていない人がこれを読んで,どういう風に面白いのか,知りたいところではある。

僕の場合は,このシリーズ,涙するほど激しく感動的なのです。なぜなら,ここに出てくる人物のことごとくをすでに知っているからです。知っている名前がバシバシ出てきて,小説の中で生きた人間として苦悩し,成長し,活躍する。名だたる手の達人たちが,幼少のころ,青年のころ,壮年のころに,出会い,名を名乗り,語り合う。時には一戦交えたりもする。史実かどうか分からないけれど,そんなことを言ったかもしれない,そうだったのかもしれないと,読んでいてわくわくする。

次の作品を,心から期待しています。さて次は誰だ?今野氏が首里手の人なので,基本,首里手の達人でしょう。となれば,糸洲安恒,安里安恒,この辺りか。


2018年12月21日金曜日

テーラワーダと禅

アルボムッレ・スマナサーラ/藤田一照 2018 サンガ

対談なので読みやすい。テーラワーダ仏教と禅仏教(曹洞宗)の,仏教としての同じところと違うところが感じられる対話になっています。

2018年12月14日金曜日

「こつ」と「スランプ」の研究:身体知の認知科学

諏訪正樹 2016 講談社選書メチエ

倫理審査や統計分析を必要としない心理学,僕はこれを「一人心理学」ととりあえず呼んでいましたが(湯浅泰雄先生的には「主観主義的科学」),これを正式にやるとすれば,それはつまり現象学的な研究なのか,理論的な研究なのか,質的な分析なのか,はたまた人文学的な思想研究なのか,どういう風にアプローチすれば良いのか,その方法論について,ここ1~2年,いろいろさまよってきました。

が,本書を読んで,身体や感情を研究するアプローチとして,一つ,見えた気がしました。なるほど,一人称研究。からだメタ認知。これは面白い。お会いしたことはないですが,諏訪先生,ありがとうございました。道が拓けました。

この方法論を使えば,感情研究や身体教育研究に,そのまま使えます。「一人心理学」ができそうです。

2018年11月12日月曜日

”手のカタチ”で身体が変わる!

類家俊明 2018 BABジャパン

「ムドラ」とは,主には手のカタチなわけですが,本書は,ヨーガをする上でアーサナをするときの手の意味に注目した本と思っていただけると良いかと思います。

ですから,基本的にはヨーガの本です。アーサナ(ポーズ)をするとき,手がどのようになるとどうなるか,ということが著者の経験や知識に基づいて,書かれています。

通常のヨーガの本は,あんまり手のカタチに注目したり,そこについて事細かく解説していることはないので,参考になると思います。

現象学的な心:心の哲学と認知科学入門

ショーン・ギャラガー,ダン・ザハヴィ(著) 石原孝二・宮原克典・池田喬・朴崇哲(訳) 2011 勁草書房

心理学や認知科学が扱うテーマについて,現象学というのがどうアプローチして,どういう意義や貢献があるか,ということを説いた本です(だと思います)。

現象学は,面白いと思います。通俗的には「内観」と同義のように扱われてることがありますが,内観とは違います。なんというか,とても丁寧に経験を扱います。

ただ,この本を読んで思ったのは,私は「内観」のように,ざっくりと精密でない方が性に合っていると感じました。現象学は,やっぱり,哲学だから難しい。いや,難しいかどうかではなく,性に合うか合わないか,と言う方が正しいかも。哲学も面白いと思いますが,ざっくりした話ではなく本気で取り組むとなると,やっぱり性に合いません(だから「分かりやすい」心理学やってるわけですが)。

2018年11月2日金曜日

沖縄空手道の歴史

新垣清 2011 原書房

夢想会・新垣師範の,渾身の力作です。もともとは月刊『空手道』(廃刊)の長期連載だったようですが,沖縄(琉球)の歴史に始まり,空手史にとって重要な沖縄の様々な歴史的(政治的)背景を丁寧に辿り,現代に名が残る様々な武人について丁寧に調査を行い,沖縄の武術がどのように形成・発展してきたかを,詳細に記述しています。

非常に勉強になりました。そして,その丹念な調査に基づく史実を手繰ることで,空手という武術とその歴史に関する認識が新たになりました。そしてそこで語られる新垣師範の主張は,私が常々感じていた私自身の身体感とも一致していて,疑問が解消され,なるほどそういうことかと納得した次第です。

いやしかし,よくここまで色々と調べたものだと,感服いたしました。史実と推測の区別については「ここからは筆者の推測」ときちんと明示して述べておられるし,伝聞・口伝・噂などについては「これは筆者確証なし」と明示しておられるので,その点も非常に誠実だと感じました。

2018年10月17日水曜日

退歩のススメ

藤田一照・光岡英稔 2017 晶文社

お二人の対談本です。対談本なので気軽に読めます。古の身体に戻れ,という話です。それを,禅と武術の観点から対話しています。藤田先生からのリクエストで光岡氏との対談企画が成立したとあとがきにあるように,全体的には,藤田先生が尋ね,光岡氏が答えるという構造になっている気がします。

うううむ,しかし難点は,対談なので,問いというか謎に関する深まりというか,ある種の答えのようなものがあいまいなまま,次の話題に移ってしまうところがあります。もちろん,直に話している二人にとっては「見えた」のかもしれないですが,読んでいる方は「見えにくい」。会話がかみ合っているようなかみ合っていないような感じもある。全体的に未消化感があるのは否めない。たぶん,実際の間合いやあいづちや言葉の細かいやりとりは,書籍にする段階で省かれているし表現のしようがないところもあるだろうから,仕方が無いことかもしれないけれど。

光岡氏の「しゃがむ」ワーク(「立ちしゃがみの型」)は使えそうなので,早速使おうと思います。

2018年10月14日日曜日

身心変容の科学:瞑想の科学

鎌田東二(編) 2017 サンガ

研究ができる人,する力のある人,推進力・エナジーのある人というのは,本当にすごいなと感心します。一応,同業者ではありますが,本当に凄いなぁと感心します。私はこんなにエナジーはない(笑)。共通するのは,その「疑問追求力」というか「謎を解明したい欲求」というか,そういうのが振り切れて強いんだろうと思いました。

特にすさまじいなぁと思ったのは,編者の鎌田東二先生と,町田宗鳳先生。もちろん,内田樹先生も永沢哲先生も。いずれも著名な人で,ただその著名な理由はそもそもそのすさまじさにあるわけですが。この本に出てくる先生の多くは,すさまじいエナジーを発しています。有り余るエナジー故に,いろんなところでいろんなことをしています。とても一人の人間がしてきたことには思えないぐらいの,広さと深さ。到底,真似できません。

さて,内容的には,基本的には「瞑想」に焦点を当てていますが,そこから身心変容や宗教といった話題にも広がっています。今後,第四巻まで続くようです。

2018年10月2日火曜日

サピエンス全史 上・下

ユヴァル・ノア・ハラリ(著)柴田裕之(訳) 2016 河出書房出版社

これは面白い!あのプロスペクト理論で有名なノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンは,2回読んだらしい。そのくらい,壮大なスケールとぶれない客観的視点で人類史を読み解いた名著だと思います。

教養として,この本は読んでおいた方が絶対に良い。必読書中の必読書だと思う。早速,この著者の次の作品,『ホモ・デウス』(上・下)も買ってしまいました。

付け加えておきたいのは,翻訳者である柴田氏の,滑らかな日本語訳です。この本が日本で売れているとしたら,内容はさることながら(なにせ世界30カ国で公刊されているらしいので),その理由の少なくない部分は,柴田氏の翻訳の上手さだと思います。非常に読みやすく,こなれた日本語に訳されています。だから訳し方の拙さで詰まることが全くありませんでした。普通に日本人が書いた文章を読んでいるような,そんな滑らかさでした。

海外の書籍の翻訳本は,当たり外れがあります。それは,日本語訳がこなれていないと,非常に読みにくくて疲れるからです。なので,この柴田氏の訳した本は,きっとどれも読みやすいと思います。

2018年9月6日木曜日

虚談

京極夏彦 2018 角川書店

やっぱり上手いなぁ。収録されているどの短編も秀逸です。全部で9編。不穏だし,恐いし,不気味だし,それでいて洒落てるし。言葉がどう紡がれるか,一行一行,一字一字がわくわくします。帯にもあるように,虚構と現実がぐにゃりと入り交じります。

2018年8月29日水曜日

R帝国

中村文則 2017 中央公論新社

良い。すごく良い。一気に読みました。ものすごく面白い。そして本当につくづく,その風刺に感心しました。こうして言葉に紡ぐことは,簡単なようで簡単ではない。日頃思う現代社会,現代日本の様子を丁寧に,本当に丁寧に描写しています。

『銃』『教団X』『私の消滅』もすごく良かった。そして続く今作もすごく読み応えがありました。いつの間にやら,私の好きな作家の一人になっています。次回作も期待。

2018年8月25日土曜日

やわらかな言葉と身体のレッスン

尹雄大 2015 春秋社

『身体の知性を取り戻す』に続いて,著書の本を読みました。そして,うううむ,良い感想が見当たらない。

なんというか,世界をもう一度立ち返って,身体の感覚に立ち返って眺めてみましょう,ということだろうか。一言で言えばそういうことかもしれません。全編覆っているニュアンスからすれば,著者の世界を眺める眼がとても敏感で原初的で,そういうナイーブな観点で眺めてみるのが本質なんじゃないでしょうか,我々人間はそういう本質にオブラートが掛かっていたり,本質からずれていたりして,世界を上手に感得していないんじゃないか,ということを言っていると解釈しました。いや,ぜんぜん違うかもしれません。

2018年8月19日日曜日

空手の合気 合気の空手

泉川勝也 2018 BABジャパン

剛柔流泉武会三代目宗家・泉川勝也師範は,吉丸慶雪師から大東流を学び,剛柔流の術理を深め,長年研究した成果である技法の一端を開陳したのが本書です。

最近こうした技術書をあまり読んでませんでしたが,やはり,いろいろと研究されている人の言うことは,読んでいて面白いです。特には,我が師である小林真一先生や其の師である故・西田稔先生のおっしゃることと相通じていると,空手家として納得・安心できます。そうなってくると,この先生の言うことは信用できる,ということになって,なるほどそういう風にも考えられるのか,そういう観点もあるのか,そういう解釈もできるのか,といろいろと勉強になります。

空手家の方は,読んで損はありません。なお,スポーツ空手(競技空手)をされている方には,あまり得はありません。古流の,沖縄の,本来の空手術を稽古されている方には,勉強になると思います。

2018年8月13日月曜日

トラウマをヨーガで克服する

デイヴィッド・エマーソン エリザベス・ホッパー 伊藤久子(訳) 2011 紀伊國屋書店

本書は,ヴァン・デア・コークの創設したトラウマ・センターで実践されているヨーガ「トラウマ・センシティブ・ヨーガ」の背景と,実際の基本的なワークと,実践における注意点などをまとめた本です。

できれば,ヴァン・デア・コークの『身体はトラウマを記録する』(紀伊國屋書店)も一緒に読むか,むしろ先に読むことをお勧めしたい。『身体は・・・』は,ヴァン・デア・コークの自伝でもあり,トラウマの研究史でもある名著ですが,後半はトラウマの治療における身体の重要性へと焦点が移っていきます。そこではいくつものアプローチが紹介されていますが,その中の一つがヨーガです。

本書は,そのヨーガ・プログラムについて詳しく書かれたものです。だから,トラウマ・センターにおける取り組みをより長いトラウマ研究の中で位置づけ,なぜ身体性が重要なのかという理論的な背景を理解しておくためには,『身体は・・・』の併読がベターということです。

心理臨床に携わる人で,トラウマを扱おうという人は,必ず読むべき本だと思います。

2018年7月20日金曜日

からだの文化:修行と身体像

夏目房之介他 2012 五曜書房

2010年に学習院大学で開催された2日間のシンポジウムとワークショップをまとめた本です。マンガ,瞑想(仏教),中国武術,ピアノ,ダンスと多岐に渡る分野の中で,何かを習得する,鍛える,練る,上達させる,表現するというような過程での身体性を軸に,それぞれ展開されています。

個人的には,天台小止観の話(師茂樹)とダンスの話(山田せつ子)が,面白かったです。もともとは,野村英登さんという,武術や道教などの精力的に研究をされている方がいて,その人の話が読みたくて買いました。ですので,野村さんの話は無論,良かったです。丹田の話です。

慶應の藤沢で,やっぱり同じような身体教育のプロジェクトをやっていますが,こういうのに自分が興味があるからなのか,あるいは,こういうのが時代的要請としてあるのかわかりませんが,身体が世の中のテーマの一つになっているんでしょうかね。良いことです。

2018年7月8日日曜日

謎の映画

山崎圭司・別冊映画秘宝編集部(編) 2017 洋泉社

「謎の映画」というタイトルなので,理解しがたい映画,不可思議な映画,難解な映画,という意味だと思い,ジャンルは多岐に渡るだろうと想像しました。が,主にはホラー映画が取り上げられている感がありました。確かにホラーは不条理なことが多いから,謎だらけだろうけれど,素人的には,SFからヤクザ映画やカンフー映画まで,いろいろ謎の多い映画はあると思います。

昔,大槻ケンヂの『オーケンの,私はへんな映画を観た!!』(シリーズで2冊)というのがありましたが,ああいうのを期待していました。こっちは「キネマ旬報」で,『謎の映画』は「映画秘宝」。映画秘宝の方が,怪しい映画に強そうなので,いずれ「へんな映画」なんての,出して欲しいです(探せばすでに出てそうですが)。

2018年7月3日火曜日

感情とは何か:プラトンからアアーレントまで

清水真木 2014 ちくま新書

「感情とは何か」というタイトルだから,古代から現代までの哲学者によるその答えの系譜を解説した新書かと思いきや,そうではありません。科学的な感情理解(「感情」というブラックボックスに対し,入力と出力から規定していく知的パズル,と本書では評されている)ではなく,感情とは何かの問い方を説いたもので,決して何らかの答えが書かれているわけではありません。

本書を読み終わることようやく,この本のそういう主旨に気がつきました(笑)。いわゆる心理学的な感情理解のようなものを否定するんだけれど,じゃあ感情って何なの?という問いに対する答えは見えてこず,なんとなくずっと肩透かしにあったような感じが続くのですが,要するにここでは答えは求めておらず,でも科学的な感情理解では感情を理解したことにはならんよね,で,哲学者はどう問うてきたか,どう問うのが本質的に適切かを説いている,そういう本です。

なので,正直言えば,全体的には分かったような分からないような,そんなところです。ただ少なくとも,改めて,哲学って答えじゃなくて問いなんだ,ということが分かりました。そして個人的には,こういう感情の哲学のようなアプローチの方が丁寧で面白いことも,改めて感じました。

2018年6月20日水曜日

身体知性:医師が見つけた身体と感情の深いつながり

佐藤友亮 2017 朝日新聞出版

医師であり合気道家である著者が,医学的な観点から身体について書いた本です。前半は医学の現場での話,後半は身体と感情の話や,東洋的なアプローチも絡みながら病気やパフォーマンスの話になり,最後は精神医療の話と,多岐に渡ります。それと貫くキーワードが「身体知性」です。

著者の使う「身体知性」という言葉にはやや広がりがあって,全体を通して読んでみてこれという限定的な意味合いでは使っていないように思います。例えばそれは「直感(直観)」であったり,「生の体験」のようなものであったり,あるいは体感として蓄積された色々な「経験」であったり,言葉に表せない「感覚」的なものであったりと,とにかく私たちの存在のベースである身体から発せられる様々な情報を指しています。

医師ですので,医療現場,特に救急医療の現場の様子も随所にあって,楽しめました。最後の,内田樹先生との対談も,面白いです。

2018年6月4日月曜日

教育における身体知研究序説

樋口聡(編著) 2017 創文企画

「身体知」という言葉で語られる研究の専門書です。専門書なので、学問領域の違う門外漢には難しい。というのも、専門書や論文は、読みやすさよりは厳密さに重きを置いているために、一般読者を想定していないからかと感じました。

しかし少なくとも、教育学、体育学、芸術学など多様な領域の関わる学際的なテーマであることが再確認できました。

2018年5月30日水曜日

シャーデンフロイデ:人の不幸を喜ぶ私たちの闇

リチャード・H・スミス(著)澤田匡人(訳) 2018 勁草書房

本書は,妬みやシャーデンフロイデに関する心理学研究に基づく,科学読み物です。いわゆる専門書ではないので,一般の方が手にとって読みやすい構成になっている本です。内容は,いずれも馴染みやすい例が各章のテーマにちなんで展開されていて(モーツァルトやタイガー・ウッズ,テレビ番組から,ナチス・ヒットラーまで),論を支える心理学研究が分かりやすく解説されています。

そして何より,日本語の訳が良い。丁寧で読みやすくこなれていて,リズムも良い。さすが澤田さん。きめ細かい。彼の性格からも推し量れるが,おそらく,本文中,誤字脱字は一カ所もなかったと思う。(唯一,p.230の図6は,「実際」と「予測」が逆じゃないかと思うだが,違うかな?この通りで正しければごめんなさい。気になったのはそのくらい)

敵意とも関係しているので,怒りや攻撃といった対人関係上の感情や行動として,詳細に分かり,とても勉強になりました。我々人間のこうしたダークサイドを知りたい,理解したい,という人は是非。読み物として面白いです。

2018年5月11日金曜日

整体入門

野口晴哉 2002 ちくま文庫

身体論周辺で,野口と言えば野口三千三先生ともう一人,野口晴哉先生です。ようやく読みました。本書はもともと,1968年に『野口晴哉・整体入門』として東都書房より刊行されたものです。「活元運動」の野口整体です。こういう世界かと,楽しみながら読めました。野口三千三先生の方は,人間という身体的存在の探求,という感じに近いですが,こちら野口晴哉先生の方は,どうやったら治せるか,というところに力点があります。

しかし,これだけのことをたぶん一人で考えて研究して実行して施術して治して,とやるのは,並大抵のエナジーではないかとは,読みながら伝わってきます。それから,昭和30年代40年代の香りのする筆致が,なんだかとても懐かしい感じがしました。

(ちなみに,この記事を書いた5月11日の3日後,5月14日発売の月刊『秘伝』の特集が,「野口整体」でした。なんと奇遇な;笑)

2018年5月1日火曜日

禅マインド ビギナーズ・マインド

鈴木俊隆(著)松永太郎(訳) 2012 サンガ新書

ようやく読みました。スティーブ・ジョブズも愛読したという鈴木師の名著。道元の禅を忠実に実践していると,素人ながらに思いました。仏教イコール実践,実践イコール仏教であり,だからとにかく坐りなさいという鈴木師の話は,全体を通してシンプルです。ただ,シンプルゆえに分かりにくいところもあり,でも,その分かりにくさは禅そのものの言葉で伝えようとするときの分かりにくさであって,鈴木師の話の分かりにくさや翻訳の分かりにくさではありません。不立文字の禅は実践あるのみ,只管打坐の道元禅を,ただただ,アメリカの人たちに伝えようとした鈴木師の真摯な熱意が伝わる本でした。

鈴木師は,私が生まれた8日後に亡くなりました。四十数年して,ようやく辿り着いた,そんな気持ちです。

2018年4月17日火曜日

秘伝マルマ ツボ刺激ヨーガ

伊藤武 2004 講談社α文庫

ヨガをやる上で,知っていると良い,ツボや経絡と関係する話です。ヨガの基本的なアーサナについて丁寧に説明されています。アーユルヴェーダと中医学は,全く同じではないですが,本質的には同じようなことを伝えていることが,よく分かります。陰ヨガ,経絡ヨガをやる人には,非常に有益な本です。一読をお勧めします。

2018年4月10日火曜日

欝な映画

山崎圭司・岡本敦史・別冊映画秘宝編集部(編) 2018 洋泉社

「欝」と言っても,ここで扱っている「欝」はかなり幅広い。だから,いろんな映画がここに含まれる。主人公が欝っぽい,監督が欝っぽい,ストーリーが鬱々としている,雰囲気が鬱屈している,などなど。紹介されている映画によっては,そりゃ欝じゃなくて統合失調じゃないかとか,心気症じゃないかとか,強迫性障害じゃないかとか,いろいろありますが,副題にもあるように「憂鬱,鬱積,鬱屈,救われない映画」を古今東西集めて紹介・解説・評論しました,という本です。

僕は,映画を大量に観ている映画マニア・映画オタクというわけではないですが,映画という映像と台詞と音の枠の中で何かしらが訴えられる(訴えるものがゼロというのもあろうけれど)という,この約2時間の表現形態が好きです。『映画秘宝』定期購読してます。

2018年4月5日木曜日

こころの病に挑んだ知の巨人:森田正馬・土居健郎・河合隼雄・木村敏・中井久夫

山竹伸二 2017 ちくま新書

精神医学・臨床心理学で著名な5人の病理論と治療論と人間論について解説した本です。著者は医学や心理学の専門家ではないので,本書は一種の科学読み物・科学解説本でしょうか。各人の主要な著作を読み解き,解説するというスタイルですが,著者自身が専門家ではない分,なんとなく概念や言葉だけを追っているような気が拭えず,途中まで読みましたが,読むのを止めました。手っ取り早く各人の理論を知るには良いと思います。

2018年4月1日日曜日

原初生命体としての人間:野口体操の理論

野口三千三 2003 岩波現代文庫

今更ながら,かの有名な野口体操の野口三千三先生の名著を読んだ。「今更」というところがミソで,今の自分が今読んだからこそ,ここまでこうして身に沁みるのだと思う。この本を多分,10年前20年前に読んでいても,ピンと来ないどころから,まったく何を言っているのかさっぱり分からなかっただろう。でも,今はものすごくよく分かる。

ここ最近何年も考えていたことは,この本にだいたい書いてあった。というか,野口先生が,自分の生まれた頃に,もうすでに今自分が考えていたり感じていたりすることをすでに考えていたり感じたりしていた,ということ。

もう少し厳密に言うと,こうなんじゃないかとなんとなく感じていたことを,この本の中ですでに言葉にして語られているものだから,「そうそう,そういう感じのことです,野口先生,私もそう思います」という感動。だいたい自分が考えていることは,方向的に間違ってなかったようだ,という安心。

無論,このレベルまで運動を微細に追求しているとはとても恐れ多くて言えません。ただ,自分が進んでいる方向に確信が持てる書でした。身体をやっている人は当然すでに読んでいるだろう書を,自分もようやく読みました。初版は1972年。私が生まれたのが1971年。生まれて10ヶ月ぐらい。

こんなに赤線引っ張った本は,ホント,久し振りです。

2018年3月21日水曜日

気功家のための中医学入門

仲里誠毅 2016 ビイング・ネット・プレス

中医学に関する入門書です。最初の3分の1ぐらいは,中医学の概要であり,ここのところだけを読みました。残りの3分の2のうちのほとんどは,経穴の取穴方法や主治などの詳細な解説でしたので,読み飛ばしました。つまり,本書は,気功治療や鍼灸治療を実際にする方にとっての教科書的な本です。概要も,無駄なく淡々と書かれていますので,全体像を知るには良いと思います。

2018年3月16日金曜日

変調「日本の古典」講義:身体で読む伝統・教養・知性

内田樹・安田登 2017 祥伝社

「教養」ということを改めて考えさせられます。やっぱり,「誰とでも上手くやっていける協調的な人材を育てる」教育ってのは,もちろんとても大切ですが,たぶん,革新的で創造的なことをする人ってのは,そういう人ではないと思います。

他人に害を及ぼしたり迷惑をかけたりするのは問題があると思いますが,別に協調的でなくたって構わないわけで,教養ってのは,単に一律な汎用性の高い知識を幅広く身につけさせることではなくて,その人独自の世界を豊かにする入口や端緒を与えることなんじゃないかと思います。で,そういう人は,オリジナリティが高いから,協調的でない可能性の方が高い気がします。

何より,お二人の教養の深さ,幅広さに,驚嘆します。そこから生まれる真実味のある言葉に納得します。そしてきっとこのお二人は,誰とでも上手くやれそうな,協調性のある人とはとても思えない。そこがまた良い。

2018年3月4日日曜日

情動の哲学入門:価値・道徳・生きる意味

信原幸弘 2017 勁草書房

これは読んだ方が良い。感情(本書では「情動」)が,我々の認識や判断にどう関わっているか,つまり,我々の生にどう不可欠に絡まっているかを,丁寧にほぐしてくれます。各章の冒頭の導入で,生活上よくある出来事に触れてから始まるのも親しみやすく,微笑ましい。

恐怖,罪悪感,悲しみ,怒り,快不快など,出てきます。ただ,個別の感情を分析することが主眼ではなく,価値や道徳の判断という文脈の中で,感情がどう関わっているかを解く際に,いろいろな感情を例として取り上げています。

感情研究をしている人なら,これは面白いと思う。戸田山和久先生の『恐怖の哲学:ホラーで人間を読む』も面白かったけど,本書も面白い。感情の哲学は,面白い。

2018年2月20日火曜日

私の消滅

中村文則 2016 文藝春秋

ややこしい。でも面白い。精神科治療と記憶と洗脳が題材になっていて,記憶を失ったり記憶が入れ替わったりして私が私でなくなる話なんだけど,読んでいる一人称視点が本当のところ誰のどの視点なのか,よく分からなくなってくる。そういう風に仕掛けてある。

読後感は,あるいは,読んでいて,夢野久作の『ドグラ・マグラ』を思い出しました。と,思ってネットで検索したら,やっぱり同じ感想を持った人がチラホラ。小説内小説内小説のような,入れ子上の入り組んだ展開で,読む側を猟奇幻想の世界へ誘います。

2018年2月15日木曜日

身体の知:湯浅哲学の継承と展開

黒木幹夫・鎌田東二・鮎澤聡(編) 2015 ビイング・ネット・プレス

人体科学会企画の,内容的に非常に濃い本です。主には湯浅泰雄先生の主著『身体論』を中心に,その前後の著書での論考も踏まえて,著名な研究者や若手の方など,関係する諸氏の色々な角度からの話が,一冊の中に込められています。どの章も魅力的で,全編楽しくわくわく読み通しました。非常にエキサイティングです。

しかしつくづく,本というのは,いつ(何歳に),どのタイミングで読むかによって得るものが全然違うと,改めて思いました。『身体論』(講談社学術文庫)は,もう何年も前に読んだわけですが,自分がその段階にあるときに本書を読んだら,同じ感想が得られたかどうか,分かりません。下手くそな思索と実践を自分なりに重ねて,その上で読むから,違って見えてくる景色というのは,あります。

2018年1月30日火曜日

陰ヨガの新しい教科書:インサイトヨガ

サラ・パワーズ(著)倉持清美(訳) 2017 ヨガブックス

最近ヨガをやるようになり,いくつか調べて,「陰ヨガ」というのが自分に合っているのではないかと思い,買いました。そして実際にヨガ教室で陰ヨガをしていますが,非常に良いです。ここでは簡単に書けない深みがあります。

陰ヨガが自分に合っていると思ったのは,経絡だとか陰陽五行だとか気だとか中国医学が関係しているので道家思想に通じているし,一方で,瞑想的要素が強いのでマインドフルネス瞑想や禅や仏教思想とも通じているからです。

いずれにせよ,この本は,日本では陰ヨガに関する本が少ない中,最も参考になる「教科書」です。無論,ヨガは実践しないと意味がないので,この本を片手に,日々,実践していきたいと思います。必携書です。

2018年1月23日火曜日

ゾンビ論

伊東美和・山崎圭司・中原昌也 2017 洋泉社

近頃,ゾンビ本が我が国でもよく出ています。海外(主にアメリカ人?)は,どうもゾンビ好きが多いようで,向こうでは前からゾンビ本はよくありましたが,我が国も最近,流行っているようです。

本書は,たぶん日本一のゾンビ映画マニアであろう伊東美和氏の本です。山崎氏と中原氏で3割書いていて,7割は伊東氏。もう,伊東氏一本でいいじゃん。山崎氏と中原氏の論調と比べると,二人が映画批評であるのに対して,伊東氏のはラブレターです。愛に溢れている。僕は,伊東氏のところが好きです。

僕のような,素人「ゾンビ映画」好きには,裏話や映画史も満載で,とても楽しめる一冊です。

2018年1月15日月曜日

禅マインド ビギナーズ・マインド2:ノット・オールウェイズ・ソー

鈴木俊隆(著) 藤田一照(訳) 2015 サンガ新書

いわゆる鈴木俊隆禅師の有名な講話集"Zen Mind, Beginner's Mind"に続く2冊目の講話集"Not Always So: Practicing the True Spirit of Zen"の日本語版です。翻訳は,藤田一照師です。

実は勘違いしていて,本書は,「禅マインド ビギナーズマインド」としてすでにサンガ新書で出ている松永太郎訳のそれの,藤田師訳版だと思い込んでいました。松永氏は翻訳家ですが,藤田師は禅僧なので,禅僧としての訳,という意味だと思っていたわけです。なので,改めて「禅マインド ビギナーズマインド」は買って読もうと思います。

さて中身ですが,俊隆師の講話は,日常語や例やイメージで分かりやすく語ろうとして成功している反面,語ろうとする内容そのものが抽象的で感覚的な場合,どうしても観念的になってしまって,自分にはよく分からんなぁ,というところがいくつかありました。

これは,言葉や訳の問題というよりは,そもそも言葉にしようとするそれ自体,言葉にしにくい(できない)ものだからだと,思います。そういう難しさ,苦労もまた,滲み出てくる,味わい深い一冊になっています。

2018年1月1日月曜日

成功者K

羽田圭介 2017 河出書房出版社

芥川賞受賞作品は読んでませんでしたが,路線バスの旅に出演してるときに着てたTシャツを見て,面白そうだと思って買いました。面白い。なお,主人公が30歳なのだけれど,もしこれを20歳のときに読んだら狂った小説だと思うだろうし,30歳の時に読んだら共感するだろうし,40歳を越えて50歳に近づこうとしている今の自分が読むと,全編通して冷や冷やするという代物です。

事件的なことは何も起こりません。少しずつ狂っていく。徐々に歪んでいく。読後にじわじわ来ます。だから面白い。