2013年12月21日土曜日

修業論

内田樹 2013 光文社新書

「するめ」のような本になればと願っていると,ご自身があとがきで書いておられる。噛めば噛むほど味が出る。たしかにそんな本になってます。一読しても分かるような分からないような箇所が数カ所あります。具体的にそれはどういう稽古でどういう状況のときどのような感覚になるのかを,事細かく言語化してくれればと思いましたが,そもそもそういう言語化が難しい可能性もあるし,あるいは内田氏が意図的にそこのところは言語化していないのかもしれないけれど,とにかく,そういう箇所もいくつかあって,そこは少し歯がゆいかな。しかし,それは,実際,たとえば合気をしてみないと分からない,つまり,身体的に内田氏のいう武道を体験しないと分からないかもしれない。合気はだから,空手とはまた違うアプローチを持った,ちょっと特別な武道かもしれないと,本書を読んで改めて思いました。

2013年12月11日水曜日

アップデートする仏教

藤田一照・山下良道 2013 幻冬舎新書

武道・武術専門誌『秘伝』に掲載される藤田先生との対談の収録時に,先生から直接いただいた一冊。ようやく読む時間が取れたので,読ませていただきました。仏教1.0から3.0へ向かう流れが,お二人のリアルな会話で展開される点が,非常にエキサイティングでした。結論を一言でまとめると,仏教3.0とは身体だ!ということでしょうか。身体。藤田先生の坐禅も『現代坐禅講義』にもある通り「身体」だし,山下先生の瞑想も「身体」です。ところで,『現代坐禅講義』を読んだときに書いたブログに,藤田先生とはご縁があればいつかきっと会えるでしょうと書きましたが,その通り,こうして会って対談することができました。縁に感謝。『秘伝』2月号(1月14日発売)に,対談掲載予定です。

2013年12月5日木曜日

日本人の知らない武士道

アレキサンダー・ベネット 2013 文春新書

武士道の要諦は「残心」であり,死を意識することで生を全うすること,生きる上でバランス感覚を持つことであるとし,こうした武士道の優れた精神は武道(著者の場合は特に「剣道」)を通して獲得することができる,ということを訴えている良書。武士道(精神)とは本質的にはどういうことかを,時代時代の変遷も踏まえて平易な語り口で書かれているので,分かりやすい。そして,現代日本における武道の衰退への嘆きも本書のポイント。特に「柔道」における武士道精神(武道精神)の消失は救いがたいことを,本書の中で再三にわたって指摘しています。武道とは武士道であり,その精神性と宗教性に着目した考察の一つとして,参考になりました。

2013年11月28日木曜日

サイコパス:秘められた能力

ケヴィン・ダットン(著) 小林由香利(訳) (2013) NHK出版

The wisdom of Psychopaths (2012) の邦訳。サイコパスの機能性について最新の議論をふまえた良書。大平さんと大隅くんの,最後通牒ゲームの研究も引用されていました。数々の実験が出てきて,面白そうなものがいろいろと紹介されています。決して系統的な議論展開ではないですが,とにかく,ひたすらに,サイコパシー特性を裏返して見ればいかに人間社会で有利な機能性を帯びてくるかを,いろいろな証拠を並べて述べている本です。マインドフルネスとの共通性は,なんとなく気づいていましたが,後半にその議論が出てきて,やっぱりそうだったんだなぁと納得。なお,本邦訳の難点は,もしかしたら原著もそうなのかもしれないけれど,洒落た言い回しをしようとするためか,分かりにくくて読みにくい箇所がけっこうあるところ。

2013年11月6日水曜日

Clash! 8 cultural conflicts that make us who we are

Markus, H.R., & Conner, A. (2013) Hudson Street Press

文化的自己観(相互独立的-相互協調的)でもって,いろいろな二項対立を説明できる,という話。単に西洋東洋の文化差だけでなくて,男女だとか,白人と有色人種だとか,都会と田舎だとか,金持ちと貧乏だとか,エビデンスに基づいて話を構成しているから,非常に説得的でクリアです。

ただ,本書とはあんまり直接的には関係ないけれど,読んでいて気分が悪いのは「有色人(種)」(people of color)という言い方。そうやって言う以外に言い方がないから,「非白人」のことをそう書いているわけです。が,そもそも僕らは元々,自分たちに「色が付いている」という観念そのものを持っていない。あくまで白人から見たら”色”が付いているということらしく,むりくりBlackだとかWhiteだとかYellowだとか,勝手に付けられているわけです。まぁ,白を無色だとしてそれ以外を有色,ということですね。ということは白人は無色人(種)ということか。それで,そういう白人から見た世界に従って”有色人(種)”という表現をすること自体が(白人と非白人という分け方が),そしてそれを読まされること自体が,気分を悪くする,ということですね。向こうが勝手に概念を作ってこちらが勝手にその枠組みに入れられる感が,気持ちの良いものではない。あと,著者二人はいわゆる白人なので,白人が,白人とそれ以外,という図式を語ることそのものが,若干,陳腐に見えなくもない。

ただ,本書の英語は読みやすく,ロジックも明確なので,文化的自己観を知る上で,良い本です。だけどやっぱり,原書を読むのは時間が掛かります。

2013年10月18日金曜日

現代オカルトの根源:霊性進化論の光と闇

大田俊寛 2013 ちくま新書

名著です。精神世界,オカルティズム,新宗教などを読むときの,非常に役立つ背景知識を提供してくれます。特には,トンデモ本(およびと学会関連本)が発する奇想の数々を読み解く上で,とても参考になります。そうした奇想の背景を,非常に分かりやすく,順を追って,丁寧に説明しています。「霊性進化論」という概念の発生と現代のオカルト諸派に与えている影響が,きれいにまとまっています。良書です。トンデモ本マニアの方々には是非お勧めです。

2013年10月9日水曜日

ユリイカ 7月臨時増刊号 総特集=岡村靖幸

足立桃子(編) (2013) 青土社

 岡村ちゃん論です。岡村ちゃんに対する愛があふれんばかりに満載。今現在,学生の前でファンだと公言しても,今の若い人って彼のこと全然知らないし,そもそも自分が学生の頃の20年前だって,「岡村靖幸ってすげえんだよ」って周りに熱弁しても,(岡村ちゃんが,ではなく,いや岡村ちゃんとともに)そう言っている僕自身がヘンな人的な扱いを受けて,まぁ,とにかく,今も昔も,メジャーでないことは確か。
 1990年の春に大学進学とともに上京して,同時に上京した高校時代の無二の親友に,「岡村靖幸を聴け。とにかく聴け。すごいから」と諭され(というか,半ば強制的に下宿先でCD『早熟』を聴かされ),『聖書』の歌詞と岡村ちゃんの声と歌い方に衝撃を受けたのが始まりでした。
 岡村ワールドを知らない御仁に『聖書』の歌詞内容をかいつまんで説明すると,クラスの女の子が35歳の既婚中年と不倫してるわけだけど(たぶん,主人公はその女の子のことが好き),そんなのは本当の恋じゃない,僕の方がずっといい,なんつっても,同級生だし,バスケット部だし,青春してるし,背が179センチもあるんだぞっ!!と心の中で叫ぶ,っつう歌詞です。バスケ部で179センチだぞ,おれは!!なのになんであんなオッサンが良いんだよ~~~(涙)。歌い方も凄い。♪どきゅせーだし,ばすけっっっぶーーだぁし,じっさいせいしゅし,てるし,せっがっ,ひゃくななじゅーきゅ♪です。うううむ,表現しきれません。一度聴くべし。
 もちろん,『聖書』の他にも名曲は数多い。『家庭教師』『カルアミルク』『だいすき』『Peach Time』『(E)na』・・・他,まぁ,要するに,全部良し。岡村ちゃんの魅力はもちろん曲の凄さもありますが,作詞作曲編曲などなど,全部自分でやっている。そして,さらにすごいのは,そのダンス・パフォーマンス。その辺の,最近中学校「ダンス」必修化に伴う小中学生総ダンサー化してやたら見かけるようになった,取って付けたようなヒップホップやロッキングやブレーキングじゃないですよ。ベースはMJやプリンスにあるようですが,しかし,もう,岡村ちゃんオリジナルなダンスなのです。こんなの,人が真似できるわけがない。要するに,トータル・パフォーマーとしてのオリジナリティとスペシャリティに,圧倒されるわけです。
 他の追随を許さないばかりに,孤高の存在ではなく,異端の存在になってしまった,と,本書のどこかに誰かが書いていました。まさにその通り。最近,『ぶーしゃかLOOP』が,ちょっと話題になりました。喜ばしい限りです。今秋出る,『ビバナミダ』,良いなぁ,これまた。岡村ちゃん,健やかに,マイペースで,少しずつで良いから,焦らず,いつまでも,歌い続けてください。
 

2013年10月5日土曜日

Changing Emotions

Dirk Hermans, Bernard Rime, Batja Mesquita (2013) Psychology Press

最先端の感情研究者30名(共著者を入れればもっと),錚錚たるメンバーの,今一番興味関心のある話題を,平均見開き4ページぐらいで短く紹介している本です。それこそ自分が興味関心のあるところだけ,斜め読みしました。見開き4ページぐらいで短くまとめられてるので,さらっと読みやすいです。タイトルは「変化する感情」ですが,内容的には感情の獲得,維持,変容(介入)といったところで,感情の維持過程だとか長期的なスパンでの変容過程といったものばかりではありません。今,どういう研究がホットなのかを知るひとつの手がかりにはなりました。

2013年9月27日金曜日

荒天の武学

内田樹・光岡英稔 (2012) 集英社新書

合気道家でフランス現代思想の内田氏と韓氏意拳の光岡氏の対談。内田先生の序文にもあるように,話が噛み合っていないところがやや散見されますが,この辺りは,対談だから仕方がないとして,お二人の武に関する考え,そして武を通した社会に関する考え,人間に関する考えがざっくばらんに語られています。ただこれも対談だからですが,前後で矛盾する(ように見える)言説があったりして,ときどき「???」なところもあり。内田先生の本はこれまでのいくつか読んで,参考になるもの参考にならないもの色々ありましたが,光岡英稔という人の考えを初めて読んでみて,こういうことを考えている武術家なんだと,その断片を垣間見ることができました。

2013年9月24日火曜日

オーケンのこのエッセイは手書きです

大槻ケンヂ (2013) ぴあ

オーケンのエッセイ。雑誌『ぴあ』(廃刊)に連載していたエッセイの書籍版第五弾(?)。毎度面白い。オーケン自身も自覚しているように,実際最近つとに脂が抜けてますます「のほほん」全開で,良いです。高校生の頃から筋少聴き始めて,ときどきオーケンの本を読んで,もうかれこれ四半世紀。長いね~。

2013年9月17日火曜日

トンデモ本の新世界:世界滅亡編

と学会 (2012) 文芸社

「世界の滅亡」「終末思想」絡みで集めた<と学会>のトンデモ本シリーズ。できれば毎年1冊のペースで出してくれるとうれしいんだが,ほぼ定期刊行していた「と学会年鑑」「トンデモ本の世界」シリーズが出なくて,こうして特集的なものになりつつあるのは,編集方針の変更なのかな。最近は,執筆者のメンツが広がってるせいもあり(なんと,会員は120名!),収拾つかなくなってるのかね。いずれにせよ,毎度,クオリティの高さは維持しているので,はずしません。

2013年9月10日火曜日

遠野物語remix

京極夏彦・柳田圀男 2013 角川学芸出版

京極夏彦による,柳田圀男著『遠野物語』の現代語訳版。実際の遠野に行って景色と雰囲気を確かめたくなります。柳田の原著も昔に読んだ気がするけど,はるか昔,こういう内容だったかはよく覚えておらず,京極らしさも出ていて,良いです。平地人を戦慄せしめよ。

2013年9月2日月曜日

ザ・万字固め

万城目学 2013 ミシマ社

『鴨川ホルモー』『鹿男あおによし』『プリンセス・トヨトミ』『偉大なる,しゅららぼん』のマキメ氏のエッセイ。以前に読んだエッセイは確か,『ザ・万歩計』だったかな。ゆるいエッセイで面白く,マキメ氏の人柄が滲み出てたので,このエッセイ集も購入。本書も,ゆるくて面白いです。

2013年8月21日水曜日

談志が死んだ

立川談四楼 2012 新潮社

落語家・立川談志が死んだのは,2011年11月21日。古参の弟子である著者がその前後のことの顛末を書いた小説。小説って言っても,落語家や場所や建物や団体は,ほぼ実名です。もちろん,立川談志は知ってるけれど,談志の若い頃は知りません。『笑点』の司会はちょうど私が生まれる直前のことでした。そのころからドタバタとあれこれあって,立川流を創設。しかし,実に多くの人がこの立川談志に惚れてるなぁ,ということがしみじみ伝わります。傍若無人,唯我独尊,厚顔無恥,色んな修飾が浮かぶけど,それでも愛されるわけだから,ホント,凄い人だったんだろうなぁ,きっと。さて,この人の落語をちゃんと聞いたことがないので,改めて,今度聞いてみよう。

2013年8月13日火曜日

荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟

荒木飛呂彦 (2013) 集英社新書

前著『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』を読んで,そこそこに面白かったので第二弾の映画論である本書も買って読みました。ぼちぼち面白い。この,荒木という人のごく個人的な趣味・趣向で観てきた映画について語る本です。今回のテーマは「サスペンス」。まぁしかし,この「サスペンス」という言葉をかなり広く使っているので,論理的な厳密性は目をつむりましょう。とにかく,この,荒木氏が,自身の創作にあたり,おそらく(本書に出てくる映画以外にも)ものすごい数の映画を観ているということと,映画を非常に緻密に分析的に鑑賞しているということは,よく伝わりました。荒木ファンの方は必読ですね(私は特に荒木ファンというわけではないけれど,楽しく読めました)。

2013年8月8日木曜日

ワセダ三畳青春記

高野秀行 (2003) 集英社文庫

ちょうど私も同じ頃ワセダにいました。もちろん,高野氏のような三畳一間じゃなくて,普通のワンルームのアパートです。早大生は,彼のようにコアにワセダ界隈に住む人もいれば,西武新宿線沿いなどちょっと離れたところに居を構える人もいていろいろ。私は後者。いやしかし,当時,たしかに構内にはホント,7年生8年生なんて人(たいがいそういう人は見た目も行動も怪しげな人たちですが)がうろうろしてましたから,その中にこの高野氏もいたわけです。私も,高野氏ほどではないですが,早稲田祭でゲリラパフォーマンスとかやって,ワセダを楽しんでました。懐かしい。読み物としても,面白い。一気に読んでしまいました。この,高野氏は他にも興味をそそるタイトルの本を出してますので,是非読んでみたいと思います。

2013年7月31日水曜日

So now you're a zombie: A handbook for the newly undead

John Austin (2010) Chicago Review Press.

訳せば,『今日からあなたもゾンビ:新人ゾンビのための案内書』といったところか。と,アマゾンを検索してみたらすでに翻訳書が出てました。『ゾンビの作法:もしもゾンビになったら』でした。他に似たような本も出てて,そっちは,Zombie survival guide的なもの(ゾンビから身を守るマニュアル。複数あります)。好きだねぇ,アメリカ人は。でもって,本書,随所が凝りに凝っていて,よくもまぁ,ゾンビネタだけでこれだけ細かいところまで(あまりにもくだらないどうでもいいことまで)あれこれ考える,そのオタクぶりに驚嘆しました。一方で,本書は,ゾンビの目から見た人間の様子を描いているので,ちょっとした人間行動学・心理学にもなってます。さて,そのうち,Zombie survival guideでも読んで,ゾンビに備えておくか。

2013年7月17日水曜日

残り全部バケーション

伊坂幸太郎 2012 集英社

あいかわらず,面白い話を考えるなぁ。井坂氏の小説の手法は,どこかのエッセイで書いていたけれど,結末をあえて書かない,あいまいに終わらせる,後は読者の想像にまかせて余韻に浸らせる,ということで,今回のこの手法通り。いや,分かってはいるけれど,はまるね,この手法は。小説は読者の想像力に依存するから,いかにその想像力をフルに発揮させるか,そのために,よく構成されています。また,結末に至るまでの伏線の張り方も,いつもながら,震えます。井坂本を全部読んでるわけじゃないけれど,どれも外さないね,この人は。

2013年7月16日火曜日

唯幻論大全:岸田精神分析40年の集大成

岸田秀 2013 飛鳥新社

かの「ものぐさ精神分析」の岸田秀です。私はてっきり,岸田本の”有名どころ”を再編したのが本書なのかと思って買ったのですが(「ものぐさ・・・」など),とにかくこの人,細かくいろいろと雑誌などに書いていて,そうしていろいろと書いたものを再編したのが本書です。「ものぐさ・・・」を読んで心理学をやろうと思った私にとって,岸田精神分析を久しぶりに読み,やっぱりこの人の書く文章は面白いなと再確認。精神分析そのものに関する評価は置いておくとして,ただ,本書を読んでみて,「ものぐさ・・・」よりも,もうすでに精神分析は関係ないような論理と主張が展開されてます。岸田本人は精神分析にこだわっているようだけれど,必ずしも精神分析理論がなくても成立する論理と主張だということです。しかし,学生に,買って読むと良い,とは言いにくい厚さだなぁ(笑)。

2013年6月27日木曜日

心の折れたエンジェル

大槻ケンヂ 2011 ぴあ

良いなぁ,あいかわらず,オーケンのエッセイ。本書にも自分で書いてるけど,ネタがときどきかぶってるな。でも,面白いから,良い。

2013年6月24日月曜日

屍者の帝国

伊藤計画×円城塔 2012 河出書房出版社

伊藤計画氏の未完の作品を,円城塔氏が大半を引き継いで書かれた小説。始まってから3分の1は謎解きと冒険活劇で,その舞台設定も19世紀末ということもあり,さて一体どうなるんだと楽しく読めた。しかし,話のスケールの大きさ故に,これをどうやってまとめて落とすんだろうと,後半に入るにつれて,正直言えば,良く分からんドタバタになり,まぁ,よく読めば理屈はあるようでないような,そんな煙に巻かれた終わり方でした。でも,映画にはしやすいだろうなぁ。ハリウッドでこんな映画があっても違和感はない。しかし,すごいのは,もちろん伊藤氏のプロローグだけど,でも短いプロローグだけから,よくこれだけ話を膨らませたなぁと,円城氏の想像力もまたすごい。

2013年6月14日金曜日

炎上する君

西加奈子 2010 角川書店

短編集。ピースの又吉直樹氏が読書エッセイ集『第2図書係補佐』で勧めてたので,読みました。舞台設定はどれも面白い。けど,全部最後は幻想的に終わるパタン。ほのぼの?まろやか?前向き?ほんわかと終わるのが好きな人は好きかな。僕はなんだか,もう少しはっきりばっさり(ポジでもネガでも)終わる方が好きだね,どうも。ガツーンと来てドンヨリするのでも,スカーッとしてハレバレするのでも。とは言ってもいろいろだけど。この短編集は,どれもファンタジックで茫洋とした感じで終わる。僕は意地悪な性格なもので,読後,著者がさて一体どんな顔してるのか,ネットで拝見。山崎ナオコーラ,怒るぞ(笑)。と思ったら,お二人,お友達なのね。どうぞご勝手に。

2013年6月13日木曜日

皮膚感覚と人間のこころ

傳田光洋 2013 新潮選書

面白くない。「・・・と人間のこころ」と題されているから,「こころ」の話,心理学と言わないまでも思考や感情の話が読めるのかなと思ったら,ほとんど皮膚の話。それも皮膚のかなり細かい科学的メカニズムの話。「こころ」が絡むのはほんのときどき。期待ハズレでした。なので,途中で読むのを止めました。

2013年6月10日月曜日

トーキョー・プリズン

柳広司 2008 角川文庫

『ジョーカー・ゲーム』の柳広司。『ジョーカー・ゲーム』の筋書きや展開の面白さは秀逸だったけど,この『トーキョー・プリズン』も,ノンストップで,まったく飽きさせない展開。面白い。トリックというか,話の精妙さがいい。なお,この『トーキョー』(単行本,2006)の方が『ジョーカー』(2008)より先でした。2011年の『怪談』も良かった。柳広司は,これからちょくちょく,読むようにしよう。

2013年6月5日水曜日

箱男

安部公房 1973 新潮社

言わずと知れた安部公房の代表作の一つ『箱男』。タイトルがそもそも秀逸。箱男だよ,箱男。さて,安部公房を読んだのは実は初めて。なんとも怪奇。話には聞いていたけど,これが安部公房か~。1973年と言えば自分がまだ2歳。昭和48年。トリッキーな小説ってのは形式あるいは装置としていくらでも考案されてるんだろうけど,その実験的な原型は安部公房だったりするのかな。いや,これとて海外の小説に範を得ているのかもしれないけど,いずれにせよ,摩訶不思議な,目眩がしてくる小説。安部公房の他の作品も,いずれ,読んでみよう。

2013年5月31日金曜日

ピエール瀧の23区23時

ピエール瀧 2012 シナノパブリッシングプレス

電気グルーヴのピエール瀧氏。はちゃめちゃな印象があるけれど,意外と常識のあるちゃんとした人でした(笑)。もちろんそのはちゃめちゃ振りを期待して買った面もあるけれど,そりゃ,ちゃんとしてないとこういう取材は成立しないわな。区ごとに夜散歩する本だけど,区によっては散歩するだけだったり,店を訪れたり,人を訪ねたりと,変化があって読み飽きない。とにかく面白い。一緒に東京23区の夜を歩いたような,そんな感じになれます。歩きながら撮った写真が多数掲載されてるのもそれに貢献してます。その写真に写るピエール氏がまた氏らしく,どれも変で良い(笑)。

2013年5月27日月曜日

2013年5月24日金曜日

Crazy Like Us: The globalization of the Western Mind

Ethen Watters 2010 Robinson

精神疾患に関する疾病観と治療法,具体的にはDSMによる診断と,主にアメリカにおいて確立されている疾患の背景理論と治療アプローチが,特にアジアアフリカ地域に輸入されることによって,当地で新たにアメリカ的精神疾患が作り出される,ということを主として主張している本。綿密に諸方面から調べ上げてて,作り上げられていく様子を丹念に追っている。この著者の主張は,ある精神的変容(症状)に対して,当地には当地の文化に依存した解釈と治療法があり,DSMと相容れない場合があるが,アメリカ的な考えが普及することによって,当地にはそれまでなかった似て非なる症状を示す患者が出てくる,ということ(香港での摂食障害,ザンジバルでの統合失調症,日本でのうつ病)。場合によっては,まったくなかった疾患が新たに創出されることも(スリランカでのPTSD)。示唆としては,当地の文化を尊重したアプローチをすべきだと,繰り返し伝えているような感じ。精神疾患は「作られる」ものだという議論は昔からあるけれど,その一つ。精神医学者や心理学者の信念やら,製薬会社の思惑などが絡んで,ちょっと怖い。読みやすい英語でした。

2013年4月28日日曜日

あなたはなぜ「嫌悪感」をいだくのか

レイチェル・ハーツ(著) 綾部早穂(監修) 安納令奈(訳) 2012 原書房

すごく面白い。いわゆる「科学読み物」の範疇だけど,専門書とも言える情報量。一般に,海外では科学ライターといった職業の人があるトピックについて分かりやすく面白く伝える,というパタンはよく見かけます(日本にはあんまりこの類の本は見かけない)。それは科学ライターという専門職が書く読み物なので,当然,よく書けていて面白い。一般の読者に売ってナンボなので。しかし,この本は,心理学者の書いた本であって,まずは,自分自身の専門分野をこれだけ面白く書けるその文章力に脱帽です。専門のトピックを専門書として書くのは普段の仕事なので何ら難しくないのですが,こうして,一般の読者にも面白く読める文章を書くというのは,なかなか難しいだろうと想像します。そして,今まで読んだ海外の科学読み物の中でもベスト3ぐらいに入る面白さ。読み進めるにつれて,まさに「嫌悪感disgust」ワールドに引き込まれていきます。研究が広がる面白さ,展開する面白さ,あれとこれとが関連する面白さ,人間の奥深い謎を紐解く面白さ。感情研究をしている院生なら是非読むことをオススメするし,学部学生だってこれを読んで感情研究の面白さ,研究するってことの面白さが伝わるんじゃないかなぁ。いやしかし,「嫌悪感」って凄い。研究の対象にしたくなってきた。ちなみに私の嫌悪感受性は(本書の中に尺度があります),普通より結構(かなり)高かった(笑)。ところで,読みやすい理由の一つには,訳文の日本語が分かりやすい,というのもあろうかと思います。だからこの翻訳家の方(安納令奈氏)と監修者の綾部さんのセンスと力量が極めて高い,という証拠でもあります。なお,本書はその監修者の綾部さんからタダで(謹呈して)いただきました。研究室に立ち寄ったときに見つけて「この本,オモシロそうですね~」と言ったら,その場で気前よく一冊下さいました。大いに感謝です。周囲に宣伝しておきます。

2013年4月17日水曜日

ゾンビ日記

押井守 2012 角川春樹事務所

『攻殻機動隊』『イノセント』など,かの押井守氏の小説。小説としては三流。しかし,「死と戦争」「兵器と死」「死と身体」というテーマに関する論考だとして読めばそれなりに。ゾンビの設定は,押井氏が自分の考えを述べるための装置であり,小説の格好をしているだけとも読める。ゾンビものの設定としては奇抜で,この世界では,ゾンビはただ単に徘徊するだけ。襲ってこないし,人肉も食べない。感染もしない。腐らない。原因は不明。唯一,ゾンビを倒す方法は頭部を破壊するという点だけは,踏襲している。でもそのせっかくの斬新な設定が深まっていかない。だから小説としては三流。ゾンビものの新機軸,と思って期待して買うと肩すかしに会う。押井氏のウンチクを堪能したい人は是非。

2013年4月13日土曜日

The Compass of Pleasure

Linden, D.J. 2011 Penguin Books

ドラッグ,脂っこい食事,セックスなど,人の行動を司る脳の快楽回路(pleasure circuit)に関する本。文章は非常に読みやすい。例も分かりやすい。ただ,その背景として神経科学的な解説に終始するので,ちょっと疲れます。疲れたので半分ぐらいまで読んで断念しました。もうおなかいっぱい,という感じです。この本,すでに翻訳されてますね。そのものズバリ,『快楽回路』です。原題は,「快楽のコンパス」。

2013年4月3日水曜日

Martial Arts as Embodied Knowledge: Asian Traditions in a Transnational World

D. S. Farrer & John Whalen-Bridge (Eds.) 2011 Suny Press

武術に関する人類学的?研究。方法論が違うからか,なんだか当を得ない書き方,言葉の選び方なので,途中で読むのを止めました。同じ「言葉」なのに,分野が違うとこうも選ぶ言葉が違うものかな。やはり,心理学だと,読みやすい。なんていうか,使う動詞や文章構造に慣れているというか。その他,何をどう探求していくのか,先行き(展開)が見えないのも,読むのに苦労する理由の一つかな。心理学なら,次はこうなるだろうなとか,こういうエビデンスならこういう風に展開するだろうなというのがある程度予想できるから,読みやすいのかも。

2013年4月2日火曜日

「空気」の研究

山本七平 1983 文春文庫

日本人特有の,「空気」による意思決定の支配。元々の単行本が昭和52年4月発行。分析はその通りであり,今も昔も変わらない。要するに,集団状況における社会的圧力の話で,日本人は特にこの「空気」に弱く,自縄自縛の状態になり,まさに自爆するということ。惜しむらくは,昭和50年頃ってのはこういう文章(日本語)を書くのが通例だったのかどうかは分からないけれど,なんとも読みにくい。本書はたぶん,名著と言われる部類なので,当時はとてもよく売れた本なんだろうけれど,言葉一つ一つが硬いし,文の一つ一つが長いし,順接なのか逆接なのか分かりにくいし,主節と従属節が入り組んでいて意味が捉えにくい。なので,半分ぐらい読んで,読むのを止めました。

2013年3月22日金曜日

中村文則 2012 河出文庫

中村文則,初めて読みました。彼のデビュー作『銃』。なんだか切ない話でした。この文庫版には『火』という短編もくっついています。こっちもなんだか切ない。やりきれないというか何というか。『銃』は,いろんなところで高い評価を聞くので,いつか読もうと思ってようやく読めました。やりきれない話だけど,あるね,こういう感覚。Kellyが人はsecretsが必要だ,なんてことをオランダの会議の時に言っていたけど,それはある面その通りです。でも一方で,『銃』の主人公のように,表出もしたくなる。Pennebakerもだから,正しい。大学生ぐらいの時の心情を再び思い返してみたい人は,是非。でも,こういう感覚がまったくなかったっていう人もいるんだろうな,きっと。

2013年3月21日木曜日

堕落論

坂口安吾 2011 ハルキ文庫

安吾の堕落論。20数年ぶりに再び読んでみた。まったくウル覚えで,だいたいこんな事書いてあったよなというイメージぐらいしか残っておらず,果たして,今回再読してみて,そうかこういうことを書いていたのかと思い直しました。ハタチ前後の頃に読む安吾と,アラフォーで読む安吾は,違うなとしみじみ。記憶では当時,「堕落論」というタイトルからして刺激的だったけど(でもって何をこんなに怒りとも叫びとも嘆きとも分からないことと切々と書いているのかと不思議だったけど),今読めばずいぶんとちゃんとしたこと(まっとうなこと)を書いてるなと思う。安吾はでも,49歳で死んでるんだよな。堕落論を発表したのは,彼が40歳のとき。だからか,妙に共感してしまう。

2013年3月15日金曜日

荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論

荒木飛呂彦 2011 集英社新書

ソフトに読める(ホラー)映画論。あの『ジョジョ』の根底に流れている荒木ワールドの源泉の一つ。マニアです。マニアだけど,ハードすぎなくて良い。極端なマニアの,「知ってる人にしか分からない」的な,排他的な映画論でないのが良い。ネタバレの話はほとんどなく(唯一,「シックス・センス」だけ),取り上げた映画を読者がほどよく観たくなる,良い映画論です。プロの映画評論家とはまた違った味がある。しかし,この人,ホラー映画マニアだねぇ。その愛情は,全編にほとばしってます。

2013年3月13日水曜日

「生きづらい日本人」を捨てる

下川裕治 2012 光文社新書

日本を脱出(?)し,アジア(沖縄を含む)で暮らす日本人のルポ。どの話もそれぞれ,日本の「生きづらさ」が浮き彫りにされている。ここで包括的に「生きづらさ」としているけれど,もう少し分解すると,資本主義,拝金主義,バブル崩壊,あるいは物価高,仕事のなさ(リストラなど),要は全部,「お金」に関わることでした。色んな意味でお金に振り回された末に,貧しい生活だけれどもお金に振り回されないアジアの国々に長期滞在(移住)している人たち。冒頭,著者は,「沖縄病」という言葉を使っているけれど,少しだけ分かる気もする。

2013年3月10日日曜日

間抜けの構造

ビートたけし 2012 新潮新書

「間」に関わる,たけしの色んな話。分かってる人の話は素直に読める。なにしろ,この人はとてもバランス感覚が良い。総じてまとめると,間の分かってる人はメタ認知ができている人だ,ということを言っている。まさにその通りだと思う。だいたい間の悪い人は,自分が客観的に見えていない。おまえはどうなんだと言われそうだけど(笑)。たけし自身,どうも若い頃はそうでもなくて,ただでも,嗅覚だけは人並み外れて良かったのかな,きっと。時代を読む嗅覚。空気を読む嗅覚。間を読む嗅覚。まぁ,しかし,たけしのことだから,バランス感覚があるように見えるのもまた高度にメタ認知してのことだと思うけど。つまり,メタ認知していることをメタ認知している。

2013年3月9日土曜日

2013年3月7日木曜日

箱根駅伝を歩く

泉麻人 2012 平凡社

私は箱根駅伝ファンである。また,かつて泉麻人氏の著書を読んで面白いと思った記憶もある。そこで,購入。しかし,結論を先に言えば,あんまり面白くないぞ,この本。いや,もしかしたら,東京や神奈川の地理に詳しい人であれば,結構面白いのかもしれない。しかし,東京や神奈川に直に住んでなくて,箱根駅伝のコース周辺について,土地名や道路名だけで位置関係やイメージが湧かない人にとっては,まったく面白くない。加えて,泉氏が実際に歩いて,コース周辺の名所旧跡を探訪するという企画だが,話の大半はその歴史的由来ばかり。平坦な紹介ばかりで話に浮き沈みがない。ときに,思い出したように無理矢理ランナーの気持ちと重ねたりして,それもあざとい。まぁ,「箱根駅伝地理派」と自称しているので,良いんだけど。半分まで読んで,読んでいて何も感じないので,読むのを止めました。

2013年3月6日水曜日

教科書に載っていないUSA語録

町山智浩 2012 文藝春秋

アメリカという国のリアルな生活実態,アメリカ人のリアルな心象風景を垣間見るには,この,町山智浩氏の著書が良い。もちろん,これもまた町山智浩という人の目から見たアメリカだし,そもそも書いていることが全部本当かどうかも分からないけれど,とてもリアリティがあるし,かつ,軽くて面白い。この,町山氏のアメリカ話も面白いけど,本業?の映画評論の方もまた面白い。

2013年3月1日金曜日

現代坐禅講義:只管打坐への道

藤田一照 2012 佼正出版社

強為ではなく云為で坐る。坐禅は身体運動である。副題にあるとおり,道元の唱えた只管打坐とは何か,その本質を徹底的に追求した,良書中の良書です。著者の藤田禅師の言いたいことは痛いほど分かります。全面的に同意します。初心者,入門者でも坐禅の妙味は味わえるはずだし,そうでなければ坐禅ではない,という思いもよく分かります。坐禅に対する偏見を払拭したい,本来の坐禅を伝えたい。そのことを追求されている藤田禅師は素晴らしい。縁があれば,その座禅会に参加したい。まぁ,求めずとも,縁があれば会えるだろうし,縁がなければ会えないでしょう。ただそれだけです。しかし,やはり難しいのは,坐禅というものに初めて接する人にとっては,この本に書いてあることはたぶんあんまりピンと来ないのではないかと思う,ということです。坐禅をしてあれこれ考えて考えた末に,あれこれ自分なりに実践して実践した末に,あれこれ探求して探求した末に,ここに辿り着けば,この本に書いてあることは,本当に,なるほど確かにそうだ,そうそうこの感覚だ,こういうことなんだよ,というような,ためになることが宝石箱のように詰まっています。でもそれは,実践してきた人にしか,たぶん,なかなか伝わらないのかなとも思いました。坐禅とは何かを分かった上でやらないと時間の無駄になる,という本書のサブメッセージも,分かります。が,坐禅とは無縁だった人に坐禅とは何かを伝えるというのが,いかに難しいかということも改めて読んで感じます。空手も同様で,本来の空手とは何かを伝えるために,空手に対する偏見を払拭する必要があって,そうでなければ,本当の空手の良さは伝わらないし,せっかく空手(らしきもの)をやっても意味はないしと思いつつ,一体どうやってそれを伝えようかは,常日頃思い悩んでいますが,なかなか良い答えが見つかりません。試行錯誤です。藤田禅師が坐禅について目指そうとしていることと,同じだなと,読みながらつくづく思いました。でも,だから,本書は,その意味で意欲的で挑戦的な,良書中の良書です。日々坐ってる人にとっては,読んで損はない,必読書です。

2013年2月9日土曜日

The Karate Way: Discovering the spirit of practice

Dave Lowry 2009 Shambhala

かの,Black Belt誌長期連載のDaveの空手エッセイ。空手や武道に関する思想的な話は,一つの考え方として非常に面白いしまた参考になるけれど,こと技術論になるとそれはどうなんだろうと思ってしまう。Daveは松濤館流です。たぶん,日本空手協会か国際松濤館の系統です。松濤館流は松濤館流なりの理合があり,それはそれで敬意を表するが,たとえば前蹴り蹴込みだとか横蹴りといった技について,それをやっている空手が正統な空手(というか,空手そのもの)と言わんばかりに技術論を事細かく書かれると,ちょっとどうかと思う。技術論的には,いろいろあるでしょう。横蹴り?糸東流の形には横蹴りなんてないぞ。膝への足刀蹴りはあるけど。前蹴りとて,「蹴込み」と称するものは,私のやる形にはないぞ(松濤館流では,確かに,蹴込みってのを稽古するね。横蹴りも然り)。もちろん,技術論でも原理原則について議論するなら良いけれども(それが空手的身体に関する核心的な身体論であれば),各論的な技術論は,賛否が分かれるところだから,他流から見れば滑稽に見える場合もありうることを,Daveは分かって書いているのだろうか。こんなに日本の歴史や空手や武道の背景に詳しいのに,技術的には松濤館流しか知らないような節があるところが,惜しいなぁ。他流に関しても,知識だけじゃなくて,ちょっとぐらい身体的に体験してみると良いです。部分的には結構違うけど,本質的には同じところがあるのが分かる。この本がDaveの2冊目だけど,もう買わないかも。

2013年1月31日木曜日

マインドフルネスを始めたいあなたへ

ジョン・カバットジン(著) 田中麻里(監訳) 松丸さとみ(訳) 2012 星和書店

初版は1994年で,翻訳した原著は2004年版。カバットジンの『マインドフルネスストレス低減法』(春木豊 訳,北大路書房)の初版が1990年なので(日本語版初版は1993年),本書は,理論的背景や方法論が詳細に書いてある『マインドフルネスストレス低減法』の続編として,より一般読者向けに書かれた本である。なので,マインドフルネス訓練プログラムの厳密な内容や回数や期間などについては全く書かれておらず,単純に,マインドフルネスの思想というか,向かっている方向性のようなものが,いろいろな状況や例えを用いながら,書かれている。マインドフルネスの入門書としては,こちらの方が良いだろう。これを読んで思うところあれば,それから『マインドフルネスストレス低減法』を読んでみると良いかもしれない。基本的に,マインドフルネス瞑想は坐禅(道元禅,曹洞禅)と同じことを言っていて,本書に書かれていることは,例えば,澤木興道老師,内田興正老師,ネルケ無方老師あたりと同じである。が,しかし,違うのは(これは,マインドフルネスと坐禅が違うのか,あるいは,カバットジンと澤木老師が違うのか,あるいは,西洋人と東洋人の感受性や表現方法が違うのか,わからないけれど),坐禅がとてもからっとしているのに対して,カバットジンのマインドフルネスの話はとてもロマンチックである。なんというか,優しい,のである。対して坐禅というのは,優しさも厳しさもない,暖かさも冷たさもない。何もない。それが禅である。だから,そこのところが,マインドフルネスと坐禅の違いなのか,はたまた,違わないのか。

2013年1月22日火曜日

Getting Inside Your Head: What Cognitive Science Can Tell Us about Popular Culture

Lisa Zunshine 2012 The Johns Hopkins University Press

カルチュラルスタディーズを「心の理論」(Theory of Mind)でアプローチした本。名付けてCognitive Cultural Studies。以前から「カルチュラルスタディーズ」って何?とは思っていたけど,ここで出てくるのは,まずは文芸評論。途中まで読んだけれど,分析がマニアックすぎて,ついて行けず,断念。Embodied Transparencyとか,面白い概念だなと思って読んでいたけど。後半の映画評論とかテレビ評論とかまで辿り着けず・・・。

2013年1月19日土曜日

頭の中は最強の実験室:学問の常識を揺るがした思考実験

榛葉豊 2012 化学同人

タイトルに惹かれて買いました。著者は,読みやすいように口語っぽく書いていますが,なんとなく読みにくい(分かりにくい)日本語のため,座り心地の悪い気分になり,読むのを止めました。口語なのに日本語が分かりにくい。これなら,口語っぽく語りかける感じではなく,堅くても良いから読みやすい日本語の方がずっと良い。専門用語を何の説明もなく唐突に用いているのですが,口語なら全体的にソフトになるから良いとでも勘違いしているのかな。イラストがとっても馴染みやすいライトなもので,そのイラストがかなりの数挿入されていて,本文よりもこのイラストの方が意味が分かる(イラストを見て初めて,著者が言いたいことが分かる)。このイラストレーターは,この日本語から文意を理解したという意味で,偉い。

2013年1月18日金曜日

Social Psychophysiology for Social and Personality Psychology

Blascovich, J., Vanman, E. J., Mendes, W. B., & Dickerson, S. 2011 Sage.

訳せば,『社会性格心理学のための社会精神生理学』でしょうか。内容は,心臓血管系指標(心拍や血圧),皮膚コンダクタンス(SCR,SCL),表情筋と瞬目活動,コルチゾールについて,それぞれの特性と測定方法,分析方法などで注意すべきことやコツなどが,丁寧に分かりやすく書かれています。専門家向けの高度な技術書というよりも(そういう本は,あまりに専門的過ぎてそこに書いてることについての知識がまず先にないと意味が分からなかったりしますね),これから生理指標を研究計画に組み入れたいという人向けの入門書です(それでいて,それなりに知っておくべき専門的な知見も多数含んでいます)。初心者が知りたいと思うちょっとしたことがきちんと丁寧に載っている点は,非常に良書であり,参考になります。

2013年1月10日木曜日

ただ座る:生きる自信が湧く一日15分座禅

ネルケ無方 2012 光文社新書

安泰寺住職のドイツ人禅僧,ネルケ無方氏の,分かりやすい坐禅指南書。副題には「一日15分坐禅」とあるけれども,中身はそれを強く推しているわけではなく,一般的な坐禅を勧めています(一日15分でも,やるといいよ,という意味ぐらい)。また,「生きる自信が湧く」という副題も,本来の坐禅から考えればこれもまたナンセンスで,「坐禅をしても何にもならない」のが坐禅なので(と,ネルケ無方氏も本書の中で繰り返しそう書いているので),こういう副題は,本屋が付けるんだろうなと改めて思います。曹洞禅(道元禅)の指南書であり,公案をやる臨済禅ではありません。只管打坐。澤木興道禅師や内山興正禅師の流れです。途中,マインドフルネスとの違い,瞑想との違い,みたいなところが出てきますが,個人的には,マインドフルネス瞑想と根本的原理的にはそんなに違わないと思っています。坐禅入門の本はいくつもありますが,これはその中でも良書の一つです。