2012年10月31日水曜日

The Essence of Budo: A Practitioner's Guide to Understanding the Japanese Martial Ways

Dave Lowry 2010 Shambhala

Black Belt誌に何十年にも渡り武道エッセイを書き続けているDave Lowryの単行本。今はKarate Wayというエッセイを毎月号,書いています。そのエッセイが毎回面白くてためになるので,今回,彼の本を買って読んでみたわけですが,武道を客観的な視点から眺める良いテクストであるし,そもそも,Daveの日本武道に関する理解と洞察は,非常に正確かつ深いので,日本人の書いた怪しい武道関連の書籍やエッセイよりも,数段優れていると思いました。日本文化に対するステレオタイプ的な間違った解釈や偏見も見当たらず,歴史考証も正確で,その辺の日本人より日本文化・日本武道を深く理解している。脱帽です。Daveは空手家なので,主に空手を題材に書いている点も,個人的には読みやすく,かつ,参考になりました。

2012年10月20日土曜日

死体は見世物か:「人体の不思議展」をめぐって

末永恵子 2012 大月書店

かつて私もこの「人体の不思議展」を見に行ったことがあります。たしか2003年の東京展(国際フォーラム)。ごく興味本位で人体の内部,それも模型ではない本物の人間の内部が見てみたいという好奇心のもと,また,展示の希少性のゆえに,行きました(学術的な展示だろうから,今回行かなかったら,二度と見られない,という思い込み。実際はその後も至る所で巡回開催してましたけど)。そのときの心情は,半分は「見世物小屋」見物根性ではないとは言い切れません。

行ってみて思ったのは,「この死体は中国人のようだけど,たぶん,死刑囚とかなんだろうな」と思い,生前の生活を想像すると,ここで展示されていることにちょっと違和感を覚えました。死体ではあっても,人が展示されていることの,なんとも言葉では表しにくい違和感です。こうして展示されてしまったのは,元・死刑囚だからか?元・死刑囚だから何をされても文句は言えない?いやそれはまたおかしい。人は人だ。中国はそういうことが許されている国なのか?この人は生前に,こんな風に展示されると分かってたのかな?(分かってないだろうな,さすがに,東京で一般人向けにこのポーズは)などなど。あとは,死体が展示されているということの,おぞましさ,というか,笑えない感覚というか。そもそもそれが,元々足を運ぼうと思った「見世物小屋」見物根性,つまり,怖いもの見たさの源泉でしょう。

ただ,人間の内部の構造を見るという機会は,模型でさえ普段はないので,貴重な体験ではありました。もしただの模型展示だったら,注意が向かず,動機づけられず,見に行かなかったでしょう。人体の内部を見たからどうだ,というわけではないですが,本物だからこそ,人体の内部をこの目で見たいという動機づけが湧いたのもまた,事実です。私たちには,身体感覚,内臓感覚というものがあります。ですが実際それがどういう形をしているのかということを,普段は,絵や図や写真などでしか見ることはありません。それで十分といえば十分ですが,実際目の前で実物大の身体内部を見ることは,その身体感覚,内臓感覚をよりリアリティ(具体的イメージ)をもって感じることにつながります。人体の内部を見たいという欲求は,その,身体感覚,内臓感覚の裏付けが欲しいという欲求です。ただ,それは普段の生活の中で頭から離れないぐらい強い欲求ではありません。だから,模型の展示であればスルーしてしまうところでしょう。本物の人体であるという強烈なアクセントが,そうした欲求を満たしたいという興味とリンクしたことは,また,まぎれもない事実です。

一方,展示そのものとは別の次元で感じていた違和感もありました。それは,希有な学術展示だと思っていたので,その後,日本全国で巡回開催をしているのを新聞で見る度に,なんだこれは興業なのか,真面目な学術展示ではなくて営利目的なのか,死体をこんな風に商売に使っていいのか,何だかいやらしいなぁこの興業,という違和感です。

そういう諸々の違和感を抱えていたので,早速,本書を購入。読んでみて,私が抱いていた違和感1つ1つの謎が解けました。何がどう問題なのかが,分かりやすく紐解かれています。この「人体の不思議展」の巡回興行に,言葉では表しにくい違和感を感じていた方は,本書を読むと丹念に言葉で表してくれているので,是非一読を。

2012年10月17日水曜日

サブカルで食う:就職せずに好きなことだけやって生きていく方法

大槻ケンヂ 2012 白夜書房

オーケンの,生き方指南。どこかの(アマゾンの?)書評にもあったけど,生き方指南だから,普段のエッセイみたいな,のほほん全開の語りではない。ですます調だし。けれど,ところどころ吹き出してしまう面白さは,この本にもあります。まぁしかし,エッセイや映画評論の方が,断然面白いな,オーケンは。サブカルで生きるためには,「才能・運・継続」で,後は自分の好きなジャンルに対する情熱と言っているけれど,まぁ,その通り。なお,それは結局,何もサブカルに限ったことじゃないけどね,と本書の中でも言っています。それもその通り。それで,事実サブカルな人ってのは,サブカルで食いたいと思ってなるんじゃなくて,結果的にサブカルで食ってるんじゃないかな,本来。なりたくてなるもんじゃない気がする。気がついたらサブカル者。それが真実かも。

2012年10月13日土曜日

実戦武術物語

姉川勝義 1995 壮神社

本書はある意味,不条理実験小説である。著者の回顧録かと思いきや,いつの間にか(段落や節が変わることなく)一人称の「私」が別の人物になっていたり,どこからどこまでが他書の引用なのか分からなかったり,突如として現代語が古語・近代語に変わったり(たぶん,何かをそのまま引用しているのだと思うが,切れ目がないために,どこからどこが引用か分からない),さらには突然,「以下略」として終わったり。内容も,「だから何?」という話も多く,最後の章などは術技について図入りの解説が並んでいるだけで,これがどういう技術体系のどういう部分の何を表すのかも,はっきりしない。そして予想通り(笑),突然終わって,完。読んでいて目眩のする本書は,だから,不条理実験小説として読めば面白い。しかし,著者である姉川氏が,戦後の混乱する昭和期に,武道・武術を巡って,有象無象の人たちに会い,走り抜いた熱い魂は,ひしひしと伝わってくる。こういう人生は,良い。

2012年10月12日金曜日

Striking Thoughts: Bruce Lee's Wisdom for Daily Living

Bruce Lee, John Little (Ed.) 2000 Tuttle

ブルース・リーのインタビュー,メモ,手紙などの断片集です。30年前(ちょうど没後10回忌のリバイバル)に衝撃を受けてから,私の今ある人生のあり方の多くを方向付けたブルース・リーは,このときすでにマインドフルネスでした(マインドフルネスという言葉は使っていないけど)。本書を読んでまた,勝手に因縁を感じています。ブルース・リーがいかに東洋と西洋の哲学に精通していたか,またそれを実践していたかが,分かります。