2015年12月24日木曜日

現実を生きるサル 空想を語るヒト:人間と動物をへだてる,たった2つの違い

トーマス・ズデンドルフ(著) 寺町朋子(訳) 2015 白揚社

2つの違いとは,ヒトが心の時間旅行(メンタルタイムトラベル)することと,他者の心を読むこと(心の理論),という話。どこかで聞いたことのある話だと思ったら,やはり,著者のズデンドルフは,マイケル・コーバリスの直弟子でした。コーバリスのThe Recursive Mindと,基本的には同じことを主張していますので,そのアップデート版だという位置づけでしょうか。

訳は,とても読み易い日本語です。だから,翻訳物でよくありがちな,読んでいてその日本語が分からんよ,ということはない。著者は研究者らしく,地道に知見を積み重ねて結論(暫定的な結論)を導こうとする点,好感が持てます。ただ,読み物(一般啓蒙書)としては,少々,ロジックがくどいかもしれない。要点をまとめれば,半分ぐらいになりそうな気もしないでもない。つまり,この手の話に,読者がどこまで詳しいエビデンスを求めているかに依存すると思いました。

でも,良書です。ヒト(人間)の基本的な心のスペックはどんな具合かを知る上で,勉強になります。

2015年12月5日土曜日

[新版]心を清らかにする気づきの瞑想法

アルボムッレ・スマナサーラ(監修) 2013 サンガ

スマナサーラ師の,「いつくしみの瞑想」(慈悲瞑想)と,各種「ヴィパッサナー瞑想」の紹介をしたDVD付きの本。瞑想の実践方法中心。ヴィパッサナーは,立つ,歩く,坐る,を<実況中継>する方法が説明されています。まずは,理屈や用語などややこしいことはさておいて,とにもかくにも,実況中継瞑想をしましょう,そうすると,少しずつ変化が感じられますから,という本です。

なお,この本には,慈悲瞑想はサマタ瞑想だと書いてあるけれど,うううん,そうなのかな~。慈悲瞑想って,マインドフルネス瞑想(=止観=サマタ&ヴィパッサナー)とは違うと思うんだけど。(マインドフルネス瞑想をする前にしばしば,準備として慈悲瞑想をする,というのは聞きますが・・・)

2015年12月4日金曜日

憎悪の広告:右派系オピニオン誌「愛国」「嫌中・嫌韓」の系譜

能川元一・早川タダノリ 2015 合同出版株式会社

右派論壇誌(右派系オピニオン誌)の新聞広告(中吊り広告)に出ている見出しを元に,近年の右派思想を分析する,という趣旨の本。

いやしかし,普段,確かに新聞の下段に出ている広告だとか,電車の中吊り広告で,見掛けるには見掛けるけれど,それほどちゃんと見出しの文字を追ったこともなかったし,ましてや買って読むこともないし,どういう類の雑誌なのか詳しく知らなかったのですが,こういう雑誌が刊行(主に月刊誌?),それも複数刊行されていて,その中身がどういうものなのか,この本を読んでとてもよく分かりました。

ただ,この本の難を言えば,せっかくなるほどと思える面白い分析をしているのに,分析対象である広告そのものも文字情報だし,本文は当然文字情報だし,さらに広告の説明も細かい文字情報だしで,構成上,目に入ってくる情報が過多な感じがどうしても否めません。また,本文と,その本文が示している広告の図の掲載位置が近かったり遠かったりで,それも読みにくさを助長しています。であるからこそ,もう少し丁寧に,広告の文字を細かく追わなくても,本文を読むだけで楽しめるようになっていたら良かったなと,思いました。(あるいは,1つの広告で,見開き1ページあるいは2ページ構成にする,とか)

あと,なんというか,全部で13章に分かれていますが,各章テーマに違いはあれ,分析(ツッコミ)のパタンが一本調子なので,それもまたちょっと単調で重たい気がしました。

2015年12月3日木曜日

大地に触れる瞑想

ティク・ナット・ハン(著) 島田啓介(訳) 2015 野草社

ティク・ナット・ハン師の,マインドフルな瞑想に関する本。アメリカの書店に行けば,宗教のコーナーの戸棚一段,ティク・ナット・ハン師の本でしたから,海外ではダントツの,絶大な人気です。これまで何冊か訳書を読みましたが,これもその中の一つ。テーマは大地です。

全体を通して,感謝をしながら,今ここにある幸福を感じながら,慈悲や思いやりを持って,マインドフルに,生きましょう,というメッセージです。優しさgentlenessと柔らかさsoftness,が全体を包んでいます。

上座部仏教(南方仏教,テーラワーダ仏教)は,禅仏教に比べると,こういう,優しさや柔らかさ(緩やかさ?)があるような気がします。禅仏教は,もうちょっと,ストイックな感じです。削ぎ落としていくような厳しさがあります。対して道教はもっと「生々しく」活き活きとした感じ。活き活きと柔らかく。でも,どれもやっぱり行き着くところは同じではないかと思います。

いろいろ読むと,アプローチが相対化されて,良い。

2015年12月1日火曜日

「絶対ダマされない人」ほどダマされる

多田文明 2015 講談社+α新書

多田氏の詐欺・悪徳商法に関する最新の新書。これまでもいくつか著書を読んでますが,今回は,現代の詐欺の総覧的な本で,その種類や手口について,紹介しています。世の中ほんとうに,騙そうとする輩がいかに多いか。怖い怖い。これを読んで,ダマされないようにしましょう。

マインドフルネス瞑想入門

吉田昌生 2015 WAVE出版

数々あるマインドフルネス本の中でも,この本はかなり良い。これまで何冊も読んできましたが,この本は,マインドフルネスで押さえておきたいエッセンスを,丁寧に無駄なく,それでいて簡潔に,説明しています。マインドフルネスに関する本は今,巷に数多く溢れていますが,この本は絶対に読むリストに入れておいた方が良いと思う。

この吉田氏は,ヨギーですが,ヨーガ的な説明や解釈に偏らず,いわゆるカバットジン的な(心理学的な)マインドフルネス瞑想をする際の要点やコツを中心に,ほんのわずかにではありますが軽くプラーナとか気とか仏教的背景にもサラッと触れながら(深追いせず),解説しています。入門書だからといって端折ることなく,マインドフルネス瞑想とは何をどうすることなのかについて,押させるべきところは押さえている感じです。

だからとても良い。瞑想を続けていても,ついつい自分よがりになっていきます。なのでときどき初心というか本質を振り返る意味で,たまに読み直してみるとよいだろう,そう思える本でした。

これは買って損はないです。

ただし3点,細かいですが気になる点がありました。だけど,たったの3点。

・「怒り」についてはちょっと別,ということを書いています。確かに書いているようなこともあるかもしれませんが,しかし,僕は怒りも同じように扱えると思っています。マインドフルネスというアプローチを考えると,特にこの場合はこれ,あの場合はこれと,例外を示さないことの方が良く,というか,例外はなく同じように扱えるわけで,その意味で,「怒りは別」みたいな書き方はちょっと誤解を招くかと思いました。

・「脳」に関するところは,間違っていないようで,ただ,後半,あいまいな感じになります。そもそもここでは,脳の可塑性を前提として,マインドフルネスが影響する,ということだけ分かれば良いので,脳に関する詳しい話や厳密な議論は,直接的には必要なかったかもしれません。

・最後に「思考」に関して,認知を変容する,という話になっていますが,しかしこれは,典型的なCBTの話であって,せっかくここまで全編マインドフルネスについてほぼ隙の無い丁寧は本になっているのに,なぜここで少し歴史を戻るのか,と思いました。いやもちろん,マインドフルネスも感情や思考をターゲットにしてはいるのでCBTの流れの中に組み込まれるわけですが,しかし,扱い方が根本的に違うわけで,感情や思考をどう変容しようかという話ではなくてどう付き合おうかという提案なわけだから,ここで認知の変容,のような話はマインドフルネスの本質と拮抗するように読めます。


2015年11月27日金曜日

響きあう身体:「気」の自然観・瞑想法・占術

坂出祥伸 2014 関西大学出版部

これまでにも数々の「気」や「道教」に関する著書のある坂出先生の,特に「気」に関するところについて述べた論文,評論,書評等々をまとめたものです。なので,同じような論が何度が出てきますが,それはそれで,ああそれが重要なポイントなのだなと分かるので良いです。

とにかく,「気」に関して客観的に精緻に解いていて,それが「道教」の中で,あるいは,中国的な精神世界の中でどういう風に位置づいているのかが,とてもよく分かる良書です。そもそも,坂出先生の(論文以外の)書き言葉は,(対談を文字起こししたものもあるので,その部分は話し言葉ですが)とても分かりやすい自然で平易な文章であり,僕のような門外漢も読める,良い本でした。勉強になりました。

2015年11月20日金曜日

観ずに死ねるか!傑作青春シネマ邦画編

2014 鉄人社

映画監督,俳優,漫画家,イラストレーターなどの著名人延べ80人が,それぞれの独断と偏見で語る,「青春映画」評。タイトルは「傑作青春シネマ」となっているので,取り上げる映画はどれも「青春映画」なのかと思いきや,各人がこの執筆依頼で取り上げるものには,大きく分けて二種類あると思いました。

一つは,タイトル通りの,青春(=10代?)ど真ん中の少年少女が主人公の映画を取り上げる人と,もう一つは,自分が青春ど真ん中のときに観た映画を取り上げる人。前者は本書のタイトル通りに「青春映画」評になっていますが,後者の場合は,その映画を観たときのことを回想しての自分の「青春」評になっています。まぁしかしそこのところは厳密に区別できるわけではないだろうから難しいところだろうけれど,やっぱり,前者と後者はちょっと違うよなぁと思うわけです。

だから,後者のものをタイトルにすれば,「私の青春時代に観た傑作シネマ」なのかなと思うのです。それはそれで面白いから,買うと思う。

でも,これだけ80人もの著名人が「青春」映画を語ると,人ってのは,それぞれオリジナリティの高いことを言おうとしつつ,結局,なんとなく同じことを言ってるなと感じる節もあります。個人差とは,言い方,表現の仕方,切り口の違い。ただそうなると何かそこに本質というかイデアのようなものがあるような気もしてきますが,そういうものでもない気もします。青春って,何だ?

とまぁ,青春語りをあれこれ100編近く読んで,最後は少し食傷気味。

2015年11月13日金曜日

知識ゼロからのマインドフルネス:心のトレーニング

長谷川洋介・貝谷明日香 2015 幻冬舎

ビギナー向けの,マインドフルネス瞑想実践の入門書です。はじめてマインドフルネスに接する人に,何をどれくらい,どのように伝えるのかについて知りたくて,購入して読みました。イラストを駆使してなんとかマインドフルネス瞑想の感覚を伝えようとしている,その工夫と努力は感じられます。イラストも多いので,正味1時間もあれば読めます。

2015年11月11日水曜日

腕振り健康法 スワイショウ入門

楊進(監) 雨宮隆太・橋逸郎(著) 2015 ベースボース・マガジン社

いわゆる「スワイショウ」だけを取り上げた入門書。やり方と効用が,簡潔に書かれています。DVDも付いてます。スワイショウはもうすでに,太極拳や健康体操の教室,武術・武道の道場からウェブサイト,YouTubeなど動画,書籍,ブログ等々でもうさんざんっぱら取り上げられているので,今更感はあるかもしれませんが,しかし,スワイショウ「だけ」にフォーカスして書かれた本ってのは,おそらくこれが最初なのではないかと思われます。その意味では,新しい,希有な本です。

2015年11月10日火曜日

道教の歴史

横手裕 2015 山川出版社

中国思想史としての道教史の,本格的な専門書です。張り切って専門書を読んで道教史を学ぼうと意気込んで読み始めました。いや,途中まではそれなりに面白く読めました。専門書の割に,文章は平易で分かりやすいのです。著者の研究者としての真摯な態度と人柄が伝わってきます。しかし,いかんせん専門書であるが故に,途中からだんだんと飽きてきてしまいました。やはり,どうしても淡々と一本調子で研究知見が並んでいる感が否めないのと,とにかく,古代中国の書名・人名・土地名などがたくさん出てきて,真ん中ぐらいで情報過多になってしまいました。負荷が高い。でも,基本的にこれは,良い本です。文章以外に,写真資料,地図資料,歴史資料,用語資料等々,道教の総合事典的な意味で,情報の網羅性も高いと思います。

というわけで,私のような素人が道教史を学びたければ,もっとソフトな概説書が良い,ということですね。

2015年11月4日水曜日

4コマ漫画で体感するから身につくほんとに使えるリアルな英語フレーズ

米田貴之 2014 朝日出版社

良い。一番良い点は,まぁ,この本の特徴として長いタイトルにも書いてある通り,4コマ漫画中心に,コンパクトにまとまっている点。選んでいるフレーズも厳選していて,良い。たいがいこの手の本は,出てくるフレーズを全部丸覚えするのは不可能なわけで(学習書じゃないし),ああ,あのときああ言ってたのかとか,こういうときこういうのねとか,そういう,経験に知識を足し算するぐらいのつもりで読むものであって,そういう意味では,気軽に読めて,良い本です。なんていうか,著者の(学校で勉強した語学というよりは)生の経験に基づいている感じは,確かに,出ています。

2015年11月2日月曜日

人生で大切なことはオカルトとプロレスが教えてくれた

大槻ケンヂ・山口敏太郎 2015 KADOKAWA

著者らは1966年(昭和41年)生まれ。二人とも自分より5歳上ですが,この本で出てくる話題は大半が分かるし,知らなかったネタも面白い。大槻氏・山口氏同様,この手の話が僕は好きなのだ。昔から筋少のファンで,大槻氏の本は(小説はそんなんでもないけれど)評論・エッセイは結構片っ端から読んでます。だからもう,読んで面白いことは読む前から分かってるんだけど,山口敏太郎という人が,かなり怪しい面白い人だと言うことを知ったのは収穫でした。

それで,この本の一つの主張というか結論をあえて書けば,フェイクをフェイクとしてどれだけリアルに楽しめるか,というスタンスが大切だということでしょうか。武術的にはやっぱり,「間合い」が大切,ということになりましょうか。

いやしかし,山口敏太郎(著)の本をamazonで検索したけど,怪しい本たくさん書いてるなぁ(笑)。でも,すっかり忘れているだけで,この中で1冊2冊は,すでに読んでる可能性あるな。

2015年10月29日木曜日

英語の雑談力があがるちょっとしたフレーズ

モーゲンスタン陽子 2014 幻冬舎

さらっと読めます。ネイティブがよく使う一言フレーズだとか,ちょっと気の利いた単語・用法などが,大雑把にカテゴリー分けされて羅列されています。表現の由来や使う場面などが,簡潔に添えられていて,分かりやすい。ただ,読後感としては,いつかどこかで役に立つのかどうかさえも分からない豆知識をたくさん読んだ,という感じです。英語トリビア?

2015年10月23日金曜日

別冊カドカワ【総力特集】新日本プロレス

2015 KADOKAWA MOOK

新日本プロレスの特集です。世代的には,「金曜夜8時」が小学校高学年ぐらいです。猪木,ホーガン,タイガーマスク(初代),を毎週見ていました。ちょうどその頃,ジャッキー・チェンが流行る中,僕はブルース・リーの10回忌リバイバルにはまったわけですが,一方で,新日本プロレスも大好きでした。『プロレス・スーパースター列伝』とかを夢中で読んでました。

さてそれから30年を経て,テレビでたまたま「スイーツ真壁」(真壁刀義選手)を見てしまい,彼の放つ男臭さに魅入ってしまいました。いやはや今,新日本にはこういう魅力的な人がいるんだ,と。そこから,そういえば,棚橋弘至選手ってのがエースなんだよなぁとか,最近,本間朋晃って選手もクローズアップされてるなぁとか,そうだ,そもそもライガーはまだ現役みたいだし,タイガーも4代目で,天山や小島もいて,中西や永田とか・・・と,そこそこ知ってる選手がいることに気がつきました。

そうこう考えていると,なんと,地方巡業で近所の体育館に来る!ということを街中のポスターで知り,これは観にいかねば!!と思い,生まれて初めて,先日,プロレスを生で観戦したわけです。いやぁ,楽しかった。プロレスは,映像で観るのもそれなりですが,ライブは全然違います。プロレスは,ライブです。音楽もそうですが,やっぱり,ライブは良いです。

みなさん,新日本プロレスを,是非一度,観にいきましょう~!

目当ての真壁選手も観ることができたし,あと,棚橋選手の放つオーラも凄かった。オカダ選手が注目されがちですが,やっぱり,棚橋選手は,圧倒的に,良い。そして,異彩を放つ中邑真輔選手。田口選手も良かった。ストロングスタイルな新日本には今,こんな面白い人もいるんだと感心。キャプテン・ニュージャパンも妙でした(笑)。それから,理由は分からないけれど,なぜか前から好きなのが永田選手。いつまでも現役で頑張って欲しい。ライガーもやっぱり,良いなぁ。

というわけで,なかなかしょっちゅう観戦,というわけにはいきませんが,機会があれば是非また,行きたいです。この本は,そのための副読本として,たいへん充実した本でした。新日本に久しぶりに触れる方,入門本として,僕のような再入門者には,ちょうど良い濃さの本です。

2015年10月20日火曜日

The Little Zen Companion

David Schiller 1994 Workman

訳せば,『小さな禅の友』というところか。10センチ四方の小さな本ですが,ページ数は400ページ弱。1ページに1つ,禅僧や禅問答(公案)の言葉が書かれています。中にはジョン・レノンの言葉など,(ジョン・レノンは禅を理解していただろうけれど)直接禅に関係のない古今東西の「禅的な」言葉を集めた金言・格言集です。ところどころに,コーヒーブレークとして,禅語の解説や人物紹介などが挿入されています。

ただ,こういう金言・格言集は,その金言・格言があまり脈絡なく出てくるので,都度都度,何のことだか分からない場合が多いのもたしか。というのも,文章なら文脈的に推測できる単語も,単独で出てくるとさっぱり分からず,さくさくと理解できないもどかしさがあります(ただし,この本は一応,似たようなことを言っているものは連続させていますから,その点は親切です)。

2015年10月12日月曜日

ハリウッド・スターはなぜこの宗教にはまるのか

ジョン・スウィーニー(著) 栗原泉(訳) 2014 亜紀書房

原題は,"The Church of Fear"つまり『恐怖の教会』。これでは何のこっちゃ分からん,ということで日本語版のタイトルはこうなっています。トム・クルーズとジョン・トラボルタが信仰していることで有名な,サイエントロジーを番組で取材したBBC記者の,取材過程の顛末を詳細に追った本です。

一般論として,プロの翻訳家でさえも,日本語訳がこなれている本って,少ない気がします。やっぱり原著に忠実に訳そうとするとどうしても堅くて分かりにくい日本語の文章になってしまう。僕も人のことは言えないけれど(笑),一般論として,翻訳物は,読みにくいものが多い(日本語が分かりにくいから,そのせいで中身の良さまで損なわれてしまい,読むのを途中で止めてしまう。もったいない)。

その点,本書の日本語は,全体的にとても滑らかで読みやすい。これはやっぱり,翻訳者の力だと思います。

朝日新聞の書評に載っていたので買いました。その書評にあったとおり,これは「ハリウッド・スター」がサイエントロジーにはまる理由を分析しているのではなく,ハリウッド・スターなど有名人を広告塔に抱えるサイエントロジーという団体がどのような性質の団体かを番組製作を通して告発する,そういう本です。面白い本なので,おすすめです。

2015年10月1日木曜日

英語でブッダ

大來尚順 2015 扶桑社

仏教の教えや概念,用語を英語で言うと・・・というのを集めた本。その解説をする際に,教えや概念,用語にまつわる筆者の考えや思いなどを,短いエッセイ的な感じでまとめています。もう少し濃厚に仏教的な解説を英語でしているのかと思ったのですが,思ったよりもずっと軽い本です。半日で読みました。

ただ,後半の,お経の英訳のところは,読み飛ばしました。般若心経などの英訳が載せてあるのですが,パーリ語,サンスクリット語がそのまま含まれるので,意味を理解するのにちょっと負荷が掛かる感じがしたので。

2015年9月29日火曜日

蛭子能収のゆるゆる人生相談

蛭子能収 2015 光文社

この前読んだ,『ひとりぼっちを笑うな』に続き,「蛭子さん」の本をまたしても読んでしまった。『ひとりぼっち』で書いていることと重なる部分もあって,両方読めば,この人の人生観をより深く堪能できます。

蛭子さんの言っていることは深い。真理というか原理というか,そういう本質的なところをストレートに(他者からの評価という枠組みから離れたところで)生きようとしている蛭子さんは,ある種,非常に仏教的です。

2015年9月25日金曜日

火花

又吉直樹 2015 文藝春秋

ようやく読みました。誰もが知る,今一番有名な,芥川賞作品。ピース又吉氏の本は以前,『第2図書館補佐』を読んで,この人すごい本読んでるんだなぁ,本が好きなんだなぁと,感心していました。他には『まさかジープで来るとは』も読みました。

さて,超有名な『火花』の感想です。そもそも「純文学」ってのを普段,どれほども読んでないのでどういう基準で評価するのが適切か分かりませんが,読後感としては,面白かった。もっとこうだったら良かったかなぁと思うところは端々ありますが,全体的には切なくて,良い。ただ,ラストは賛否が分かれるかも。天才と狂気は紙一重です。

又吉氏の次回作に期待しています。次はどんな物語なんだろう。

2015年9月23日水曜日

ヘイトスピーチ:「愛国者」たちの憎悪と暴力

安田浩一 2015 文藝春秋

安田氏の本は以前,『ネットと愛国』を読んだことがあります。あのときはまだそれほど知られていませんでしたが,だんだんと世の中に「ヘイトスピーチ」(の存在)が広まり,認知されるようになりました。

実際に街頭デモをこの目で見たことはありませんが,Youtubeにアップされているデモの様子はいくつか見ました。「ヘイトスピーチ」について知る上で,必読書です。

2015年9月16日水曜日

感じる力をとり戻しココロとカラダをシュッとさせる方法

藤本靖 2015 マガジンハウス

本書,藤本先生からご献本いただきました。ありがとうございます。

まず第一印象は,とにかく,分かりやすく伝えたい!という藤本先生の思いが全体から伝わってきます。その伝えたい思いの裏側には,人間の身体が持つ可能性の素晴らしさ,面白さが,あります。

藤本先生はロルファーなので,本書は全体的に「筋膜」で説明されていますが,背景の理屈が難しければそれは端折って,とにかく,「こうすると緩む」「ああするとリラックスする」という,インプットとアウトプットだけでも十分面白いし,役に立ちます。

中でも,「呼吸」の使い方,そして,緩めたいところ,ワークしているところへ息を持って行くときに,息がそっちへ自然に流れていく(「呼吸の波が届く」)と「おもう」と表現されているところが,良かった。「意識する」では強いし,「イメージする」では弱い。藤本先生の経験では,「おもう」と言うのが一番合っている,ということでした。なるほど。

加えて,特に最終章で強調されている,ココロとカラダの関係。カラダを使ってココロをほぐす,緩める,調える,シュッとさせる。そういうことだと思うのですが,これは本当に,僕が目指している,やろうとしていることと全く同じです。僕は心理屋なので,ココロから入ってカラダに至っているわけですが,藤本先生は逆に,カラダから入ってココロに至っている,ということでしょうか。

本書のテーマは,「身体を感じること」です。僕が普段使っている言葉でいえば,身体への気づき,でしょうか。感じるようになることで,自然とカラダは整ってくる,ひいてはココロも整ってくる。そういうワークがいろいろと詰まっています。

2015年9月14日月曜日

ひとりぼっちを笑うな

蛭子能収 2014 角川Oneテーマ21

「蛭子さん」の生き様をしたためた新書。たしか去年話題となり,ようやく手に入れて読みました。ベストセラーのようです。

この本にもよく登場しますが,『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』が好きで良く見ています。そこに登場する蛭子さんのノホホン振りが好きで,そんな蛭子さんが何を考えているのか興味があり,読みました。

なるほどその通りと思える,蛭子的生き方,実際にここまで徹底してできるかどうかは別として,大いに参考になります。僕もどっちかというと独りで自由にやる方が良いから,共感できます。

2015年9月10日木曜日

捏造の科学者

須田桃子 (2015) 文藝春秋

小保方氏のSTAP事件の全容を,毎日新聞の科学記者ならではの専門的な視点で緻密に解きほぐし,時系列で追っかけた,ノンフィクション。大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

ちょうどホノルルに渡航する前に事件(論文発表)が起き,事件の経過はネットで眺めていました。笹井芳樹氏の訃報も向こうで知りました。

この事件の舞台となった世界トップクラスの研究者陣と自分とでは,住んでいる世界が天と地の差ほど違いますが,同じ科学者・研究者として,この事件が起こった研究業界の背景や,当の小保方氏の言動や振る舞い,彼女に関わる周辺の指導的立場にあった研究者の言動や振る舞いなどなど,反面教師として,とても勉強になる意義深いドキュメンタリーレポートでした。

研究者は,この本,読んで損はありません。というか,むしろ,読むべきです。STAP事件を,単なる事件として見過ごすのではなく,教訓として,活かしましょう。

加えてこの事件は,社会心理学的な事例としてもまた,勉強になります。人はなぜ信じるのか,人はいったん信じたものをなぜ捨てられないのか。それを考える一つの事例になると思います。


ちなみに笹井氏は,学年はずいぶん違いますが私の高校の先輩であり,同じ校舎に3年間通ったんだなと想像すると,リアリティを強く感じ,その分,強い悲しみを覚えます。なんとも残念でなりません。ご冥福をお祈りします。

2015年8月28日金曜日

教団X

中村文則 (2014) 集英社

分厚いですが,その分,読み応えあります。中村文則氏は,芥川賞の又吉直樹氏がかねてより絶賛していて,その又吉氏のエッセイか何かで見て,以前,『銃』を読んだことがあります。『銃』は良かった。なんていうか,主人公の内面を丁寧に描写する感じが,良かったです。

今回もまた,登場人物たちの内面を丁寧に描いています。それから,あえてそうしているんだろうけれど,とにかくやたらセックス描写が多い(笑)。今回は,そういうテーマだからね。そうなんだけど,予想以上に紙面を割いています。

新興宗教がテーマの小説に,篠田節子『仮装儀礼』というのがあって,これはものすごく面白かった。どちらも人間臭さを扱ってるわけですが,『仮装儀礼』が新興宗教への信仰や洗脳・カルト化みたいなところに焦点を当てているのに対して,どちらかというとこの『教団X』は(宗教を扱ってはいるけれどもそれを使って)宇宙とは何かとか生きるとは何かとか意識とは何かとか感情とは何かとか,そういった人間という存在そのものにテーマがあります。

2015年8月18日火曜日

Tao Te Ching: The Definitive Edition

Lao Tsu (translated by Jonathan Star) (2001) Tarcher Cornerstone

『老子道徳経』全81章の英語版です。英語版はたくさん出ていますが,このJonathan Starの訳は,内容的にも正確かつ詩的にもすばらしい,と解説にあります。他の英語版を読んだことがないのでなんとも言えないですが,少なくとも,漢語の原文やその読み下し文などよりは数段,意味が分かるし,中身が入って来ます。

なんで英語版を読んだかと言えば,翻訳家であり詩人でありタオイストである加島祥造先生が『道徳経』を訳していて,その訳がとても良くて,その加島先生が,老子や道教をやるようになったのが,最初,英語訳の『道徳経』を読んで感動したから,という話を書いていたからです。

その話が頭のどこかにあって,ちょうどホノルルのアラモアナセンターにある大きな本屋で武術本やら仏教・道教本やらを物色していたときに思い立ち,見つけて買った,という次第です。さて,英語訳だとどうなんだろうと,僕も体験したかったからです。

実際,加島先生が読んだのはJonathan Starの訳ではないと思いますが(タオ関連の本がすでに1993年に出ているから),加島先生の言う通り,読み下し文やその現代語訳なんかよりも,数段,読みやすかったです。加島先生の日本語訳(例えば『「老子」新訳』2013)はとても詩的であり,このJonathan Starの訳もまた詩的であり,両者は似ています。

もしかしたら,先に加島先生の訳を読んでいたから,このJonathan Star訳も,すーっと読めたのかもしれません。いずれにせよ,このJonathan Star訳は,オススメです。

2015年7月30日木曜日

The Manual of Bean Curd Boxing: Tai Chi and the Noble Art of Leaving Things Undone

Paul Read (2013)

Bean Curdって何だ?ということで検索すると,「豆腐」の英語訳らしい。ということは,Bean Curd Boxingを強いて訳せば「豆腐拳」か。何やら期待させるタイトルで購入しました。読んでみれば,筆者のフランクな文章のために,肩の力を抜いて読める。内容は,至ってタイチー(太極拳)から得られる心と身体の智慧について,分かりやすく丁寧に書かれている。ただ,特に斬新なアイディアや考えが書かれているわけではない。

だからそもそも,なぜタイチーの本とせずに豆腐拳としているのか,読んでもイマイチ伝わってこなかった。この内容なら,タイチーで良い。強いて名称を変えて新たな概念を提唱するわけだから,その新しい概念を提唱する意義あるいは新規な機能のようなものがないと,単に概念を増やしているだけで単なる水増しでしかない。

あえて読み取れば,豆腐拳とは,生活術そのものであり,タイチーはその生活術を身に付けるたけのアプローチ(方法論)である,といった具合か。でも,なんでその生き方指南の術を豆腐「拳」(?)(Boxing)とするのか,そこんところがイマイチ,ピンと来ない。

でも,決して内容的には悪く無い本です。

内容とは別に,面白いのは,この本は,筆者による半ば自費出版的なものなのか,たしかにISBNは付いているけれども,どうも正規の書店による販売ルートではなく,自費製作っぽいのです。Paul Readのウェブサイトを見れば,自分のタイチーに基づく考えや作品について,主にウェブ上でいろいろと情報を発信していて,他には電子書籍やCD,DVDなどを製造販売しています。

だからでしょうか,配送されてきた本,閉じ方が右左逆でした(笑)。まぁ,開いて読むには苦労はないのですが,扉の割り振りだとか,ページ番号やヘッダーの文字の位置なんかが本の内側(閉じてる側)に来ていて,なんか奇妙な本だなぁと思ったら,閉じてるところが左右逆なのに気がつきました。というわけで,非常にレアな本です。

2015年7月15日水曜日

サボタージュ・マニュアル

米国戦略諜報局(OSS) 越智啓太(監訳・解説) 国重浩一(訳) 2015 北大路書房

サボタージュ(Sabotage)とは,①労働争議中に労働者が機械・製品などに故意の損傷を加えること。②妨害・破壊行為,という意味です(研究社新英和中辞典)。

ネットで一時話題になったらしい本マニュアル(私は知りませんでした),何が面白いかといえば,敵国(占領国)にダメージを与えるために市民ができることを,ごくごく丁寧に事細かく説明していること,その大分は物理的な機械やラインなどの破壊行為だけれども,最後の特に人的な要因による組織の破壊行為は,笑える。

そこに書いてる破壊活動・妨害活動は,今まさに現代の組織体の中でも頻繁に行われているものであり,つまりは,いかに自組織内部に「レジスタンス」が多いかがよく分かります。

と,このように(私のように)たぶん,多くの人がこの本を読んで首肯するのだろうけれど,しかし,多くの人が首肯するということはその人たちはこのサボタージュ・マニュアルに書いてあるような行為をしていないと主観的には認識しているといえる。しかし,よく考えてみたら,そんな大多数の人が主観的にはこういう破壊活動・妨害活動をしていないのなら,世の中もっとうまく回っているはずなんだけれど,実際はそうではない。むしろ,そういう多くの人たちが,自分以外の人たちがいかにここに書いてある破壊活動や妨害活動をしているか,嘆いているだろう。

つまりは,人というのは,自分のことは棚に上げて,まるで問題が無いかのように認識するものなのだ。問題を引き起こしているのはあくまで自分以外の人たちである,少なくとも自分は平均以上のまともな人間であると,強く信じている。そうやって多数の人が思い込んでいる。

この本は,「ああ,まるでうちの会社だ」「こういう人いるよね~」という,自分のいる環境を嘆いたり,他者をおもしろおかしく批判・批評したりする材料に用いられることが多いかもしれない。しかしそうではなくむしろ,知らず知らずのうちに,つまり非意識的(非意図的,自動的)に,自分自身もこの破壊活動・妨害活動に荷担していないかを考える材料にしてみてはどうだろうか。

あなたも知らないうちに,レジスタンスになっているかもしれません。

2015年7月9日木曜日

日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想

松村憲 2015 BABジャパン

昨今,マインドフルネス関連本が,まるで雨後の竹の子の如く,出版されています。それはそれだけニーズが高まっているということもありますし,一方で,ある種のブームなのでしょう。グーグルの社員もやってるらしい!というのがその火付けだったかもしれません。

本書は,そんな中でも,読みやすさ取っつきやすさを最大限に配慮した,ごくごく実践的なマインドフルネス瞑想の本です。タイトルにある「日本一わかりやすい」というのは,まぁ,厳密に比較しているわけではないでしょうから何とも言えませんが,いずれにせよ,その想いとしては,わかりやすさを重視していて,実際にわかりやすい内容になっています。厳密な理屈や背景は文中にときどき触れる程度に抑えた,「入門中の入門」的な本です。あとはやはり,これは著者の人柄が滲み出ているのか,全体に,柔らかい,優しい,暖かい感じのする本です。

なので,とにかく,まずはそのドアを開き,「こういうのがマインドフルネスか~」という体験をしてみることのきっかけ,とっかかりとしては,とても良い本だと思います。そして何かこういう方向性のアプローチ(つまり瞑想的なアプローチ)が肌に合うようなら,一つ一つ,関連本を手繰っていけば良いでしょう。マインドフルネスは奥が深いですので,そういうのを深めていくことも楽しみつつ。その一端に,拙著『空手と禅』も是非どうぞ。

2015年7月1日水曜日

火星に住むつもりかい?

伊坂幸太郎 2015 光文社

最初の4分の1ぐらいのところで,もう読むのを止めようかと思いました。そのくらい,読むに耐えない暗黒描写。人間の暗部を,よくもまぁこんな風に文字にできるなというぐらい,えぐい。

そこで一つ思ったことがあります。小説は,映画よりも,よっぽどリアルだ,ということ。

これはすでにどこかの誰かが気がついて,映画論とか小説論とかで語られている定番な事実なのかもしれないけれど,映画ってのは,俳優が演じますね。で,たしかに,良い演技悪い演技ってのがありますが,俳優の良い演技に加えて,監督や脚本家によるリアルな撮影と演出,実写であるという事実にさらにCGのような映像技術も加わったリアルな映像が後押しして,その映画に感情移入できればかなりリアルです。これは間違いない。

ですが,それでも俳優は俳優です。我々は俳優であることを暗に知っています。つまり,これは演技である,虚構である,フィクションである,ということをメタには分かっているわけです。映像がリアルな分,俳優が演ずることで虚構性が担保されています。

一方,小説はどうでしょうか。小説は,活字を追って読み進め,その活字から意味を読み取り,個々人の中で心象として物語を,場面を,イメージ化していく。刺激は,活字だけです。俳優は,いません。ですから,心の中に構築される世界に限れば,フィクションという記号はなく,極めてリアルです。頭の中のイメージに出てくる登場人物は皆,その人物本人であり,決して俳優の演ずる「役」ではありません。

もちろん,これは小説だ,本だ,単なる活字だというメタ認知が働けば,心的に構築された世界は虚構として崩れ去ります。ですから,映画も小説も,冷静に考えればどちらも虚構です。では,一体どちらがリアルに心に直接刺さってくるかというと,受動的に映像として受け止める映画よりも,むしろ,能動的に活字からイメージを構築する小説の方が,心理的には「来る」のではないかと,思ったわけです。

それは,登場人物が俳優の演ずる「役」でしかない映画と,登場人物が登場人物そのものの「本人」である小説との,違いです。

加えて,映像という視覚情報に頼った映画は,多くの情報がすでに用意されている分,脳があんまり働いていない気がしますが,活字という文字情報にしか頼っていない小説は,脳をフル回転して足りない視覚イメージを作り上げている(補っている)分,余計にリアルに「脳」が感じるのではないかと思うのです。


というわけで,伊坂小説は,心に痛い。でも,そこんところを超えて,ちょっと我慢してでも読み進めると,それなりに回収してくれます。だから,僕と同じように途中まで読んで心が痛くなっても,だまされたと思って最後まで読んでみてください。それなりに,救われます。

2015年6月23日火曜日

天野祐吉のCM天気図傑作選

天野祐吉 2013 朝日新聞出版

天野祐吉さんは,2013年10月20日に亡くなりました。で,この本,12月30日に出てます。速い。それだけこの連載を重んじてたというわけでしょう。朝日新聞。僕もときどき読んでました。

1984年4月から連載開始,亡くなる直前の2013年10月16日の連載まで,約30年間,毎週コラムを書き続ける,それも,ほぼ同じ感性と視点でもって,ブレずに書き続けるってのは,ホント,凄いことだと思います。

CMを通して,時代も覗けて,面白い本です。ああ,そういえばそんなCMあったよな,とか,そんなCMあったっけ?なんてことを思いながら読むのもまた,楽しい。

2015年6月12日金曜日

怖い俳句

倉阪鬼一郎 2012 幻冬舎新書

確かに怖い俳句が並んでいるけれど,その怖さが一様ではなく,かなり広い意味で「怖い」という言葉を用いて,色々な句を入れています。前書きにもあるように,概ね時代に沿って並べているので,怖さがバラバラなところが逆に浮き彫りになってしまった感アリ。だから,まず,怖さの種類別に句を分け(たとえば,幽霊,虫,死,自然,実存とか),その中で時代順に追っていく構成にしていたら良かったかなと思います。一方で,僕自身が句を味わう素地がないこともまた,良く分かりました(笑)。新書なので,一つ一つの句について,もっと初歩的な説明を付けてくれてるのかなと思いきや(前書きには句評の専門用語は避ける,みたいなことを書いてはいましたが,それでも),味わい方以前にそもそもその短い文字数で書かれている句そのものの言葉の意味自体さえも即座に分からないものがときどきあり,それを解読することに労するので,味わうどころではない(味わう以前の問題である),ということが,良く分かりました。途中まで読んで終了。

2015年6月9日火曜日

書楼弔堂

京極夏彦 2013 集英社

ようやく読めました。あっという間に読めました。あれこれ他の本を読んでいて,楽しみに後回しにしていたために,今に至ってしまいました。いや,やはり,京極夏彦。傑作です。1ページ繰るごとに,ワクワクする。弔堂。シリーズ化されるのであれば,期待大。京極堂の黒い着流しに対し,こちら弔堂は白い着流し。死に装束である。

しかし,本書の最後,語り手というか物語の視点を提供している高遠彬がどこかへいなくなってしまうけれど,まぁ,次の作品ではまた別の人が出てくるのかね。中善寺秋彦の祖父?であろう人も最後に出てきたし,何かの伏線か。

とにかく,京極好きなら必読。いや,京極ファンは京極作品なら何でも読むんだろうけれど,やはり,僕は,彼のやたら怖い(厭な,不吉な)だけの話よりも,京極ならではのこういうからくりのある話の方が,好きです。

2015年5月23日土曜日

酒場詩人の流儀

吉田類 2014 中公新書

BS-TBSの「酒場放浪記」が大好きである。出てるDVDは全部持っている。そんな吉田類さんのエッセイ集。俳人でありイラストレーターであり,本書を読めば分かるように,登山家です。本書は,「新潟日報」と「北海道新聞」に連載していたエッセイをまとめたものなので,新潟や北海道にちなんだ話題が多い。そこに生まれ故郷の四国の話が絡む。もちろん酒の話題はたんまり出てくるわけですが,酒場の話はそんなに出てこない。むしろ,山の話,川の話,草木の話,動物の話が多い。だから,読後感は,「あれ,これ登山家のエッセイ集だっけ?」という感じ。吉田類ファンにとっては,吉田類さんの人となりが分かって,だからほとんど登山エッセイだけど,それでも面白い。

2015年5月19日火曜日

チャンミーグヮー

今野敏 2014 集英社

『義珍の拳』も『武士猿』も,面白かった。で,『チャンミーグヮー』である。端的には,面白かった。でも,この面白さは,空手をやってるからかなと思うのだけれど,どうなんでしょう。登場する名だたる空手家や,出てくる形を知ってるから,面白いのかもと,今回は思いました。

というのも,『義珍の拳』や『武士猿』の方が,なんていうか,キャラクター設定が良かったり,葛藤や成長を丁寧に描いているところが良かったりした気がします。いやもちろん今回もそういうビルドゥングスロマンなんだけれど,今回はより,空手の,特には少林流・少林寺流に代表される喜屋武朝徳先生系棟の空手を,かなり前面にマニアックに押し出した,言わば,今野塾小説的な色合いが強かった気がします。もちろん,個人的には,それがまた面白かったわけですが。

小説家「今野敏」と言えば,世間的には警察ものの方が有名?ですが,今野先生には引き続き,この,空手家シリーズを,是非お願いしたい。でも,喜屋武先生書いてしまったら,ある意味,今野敏先生的にはゴールなんだろうなぁと思いつつ,でも次に期待。

2015年5月15日金曜日

あやしい求人広告,応募したらこうなった。

多田文明 2015 文庫ぎんが堂

2010年に双葉社から刊行された『本当は怖い求人募集』に加筆・再編・改題して文庫化したものです。この著者の,キャッチセールスの体験ルポ『ついていったら,こうなった』とか,迷惑メールの体験ルポ『クリックしたら,こうなった』とか,どちらも面白かったので,本書も購入。

それなりに面白かったけれど,難点は,著者本人がこの執筆時点で40代半ばということで,怪しい求人広告の潜入ルポというよりは,この年代の男性が応募した場合どうなるかという意味合いが色濃く出ています。つまり,怪しい求人広告も確かにあるけれど,別に怪しくないアルバイトでの単なる40代男性体験ルポになっているものもあり,タイトルにやや偽りあり,か。

ま,タイトルはとにかく手にとって買ってもらうために煽るわけだけど,あれ,これってつまり怪しい求人広告と同じ戦略ですね。ひっかかりました。ただ,各種アルバイトの様子が知れて,それなりに面白かったので,良いです。

2015年5月12日火曜日

鬼談

京極夏彦 2015 角川書店

「 」談シリーズ第四弾。『幽談』『冥談』『眩談』に続く,『鬼談』。怖い。今回は,なんていうか,鬼になってしまった人の話の短編集。最初の一発目の作品はよく分からないエロな感じだったので,初出を見たら『エロティシズム12幻想』ってのに掲載されたものでした。やっぱり。

京極作品は,論理的な謎解きものと,ギャグものと,こういうなんていうか人間の業のような暗い話ものの大きく3種類かと思うんですが(もちろんそれだけじゃないですけど),今回の『鬼談』は,なんか読んでいてもう暗くて暗くて,滅入りました。なのでさっさと読了。

最近年を取ってきたからか,なんか暗い話は,しんどいなぁ。

2015年5月9日土曜日

アイネクライネナハトムジーク

井坂幸太郎 2014 幻冬舎

『首折り・・・』に続き,二冊連続で井坂を読みました。あとがきで自身が語っているように,井坂作品にしては珍しく(?),恋愛モノ,というか,出会いモノ,でした。登場人物それぞれの縁について,まずまずハッピーエンドで終わります。なんといっても,ハッピーエンドだろうと思わせる装置として,場面転換のところで,段落と段落の間に,「♪」マークが挿入されています。それは,本のタイトルが『アイネクライネ・・・』だからという理由もあるだろうけれど,これで不幸な結末だったら,ブラックすぎる。なのでどの話も安心して読める,ほのぼのしたものです。最後の章で,それらの登場人物とそのエピソードが,時間軸を前後しながら,つながってる様子が描写されて,愉快でした。

2015年5月4日月曜日

首折り男のための協奏曲

井坂幸太郎 2014 新潮社

久しぶりに小説を読みました。そしてやっぱり井坂小説は,面白い。仙台に縁のある井坂氏は,震災時,しばらく書く気力が失せたというようなことをどこかで読んだけど,この1~2年の精力的な執筆は,すごい。その生産スピードにまったく付いていけず,ようやく今,「首折り男のための協奏曲」を読むことができました。その他,いくつものタイトルの単行本が出ていますが,取捨選択して数冊購入。その第一弾です。

タイトル通り,最初の数編は首折り男の話ですが,それが続くのかと思いきや,探偵・黒澤の話が途中数編。だから,首折り男にまつわる連作,というわけではありません。最後にまた首折り男が絡んだ話。まぁ,それでも,どの短編も面白いから,良い。

京極夏彦,万城目学,井坂幸太郎,東野圭吾。他には最近,中村文則。この辺りは,世の中の評判通りではありますが,どれも当たりです。

2015年4月29日水曜日

The Lost Interview

The Pierre Berton Show - 9 December 1971 Bruce Lee

1971年12月9日。ブルース・リーが出演したカナダのトーク番組。番組は,香港で収録されているようです。本書は,その音声を文字に起こしたもので,本というよりは冊子です。30分番組ですから,分量はそれほどでもない。

私が生まれた日が,1971年11月26日。我が心の師であるブルース・リーが,そのほんの数日後に香港で語っている記録。東洋と西洋のこと,アメリカのこと,中国(香港)のこと,俳優業のこと,テレビ・映画のこと,そして何より武術(哲学)のことを語るブルース・リー師父は,熱い。

ブルース・リーという人は,マグマのような熱い高密度なエナジーを内側に秘めていて,ついこぼれ出るエナジーのために人を惹きつけて離さない,そんな印象です。映画は,演技として制御されているけれど,こうしてフリーで話す様子を見ると,そのエナジーがじわりと伝わってきます。(なお,番組の映像そのものは,違法なのかどうか分かりませんが,今のところ,Youtubeで見ることができます。)

2015年4月23日木曜日

What is 'Tai Chi'?

Peter A. Gilligan (2010) Singing Dragon

イギリス人の太極拳家の書いた,良書です。特に,西洋人に向けて,理解されにくい中国的な(東洋的な)発想や考え方を,丁寧にほぐして解いています。なので,場合によってはやや説明が冗長なところもありますが,とにかく丁寧にほぐして説明している良書です。例えば,言葉の意味から順繰りに説いていくところは,西洋の人にとってとても大切な基本的説明となり,より深く正しく太極拳を知るための手がかりとなるでしょう。太極拳について研究してそれなりに理解している人にとっては,ここで書いてあることは特に目新しいことではありません。でも,西洋の人の書いた西洋の人のための太極拳書,という意味で,丁寧にほぐして概念を説明しているために,洋の東西を問わず,誰にとっても良書となっています。

なお,一点,Daoyinの説明にちょっと引っ掛かりました。「導引」なんですが,最初の説明のところでこれを「道陰」という意味で解釈しています。そういう解釈もあるのかもしれませんが,私は聞いたことがありません。もちろん,その後,「導引」ということも述べているので,最後まで間違っているわけではありませんが。我々は漢字を使うので「導引」を理解するのに,言葉からもある程度イメージを持てますが,向こうの人にとってはDaoyinというアルファベットを無意味に綴った単語でしかないわけです。ここから解きほぐしていく必要があるわけです。こういうところも,ある意味,文化という枠から眺める面白さがあります。

2015年3月25日水曜日

瞑想する脳科学

永沢哲 2011 講談社選書メチエ

テーマは「瞑想と脳科学」ですが,それを軸に,仏教哲学から未来学まで,飛び回ります。近年の瞑想に関する神経科学的なアプローチの流れを知る意味で良書ですし,それが人間の歴史の来し方行く末の中でどう位置付けられるかを俯瞰的に捉えた挑戦的な本でもあります。個人的には,なるほどと思える部分と,何だかよく分からない部分とが入り交じっていて,総合評価としては微妙。でも,瞑想について,あるいは東洋的な心身アプローチについて研究したり考察したりする上では,読んでおいて損はないことは間違いない。

2015年3月21日土曜日

大法輪 平成26(2014)年4月号

2014 大法輪閣

特集が「呼吸法を知るために」ということだったので,前からチェックしていましたが,ようやく手に入れて読みました。目新しいことは書いていないけれど,「呼吸」について,各種宗派の考えだとか,ここでは仏教とは関係ないところでの呼吸法に関する話だとか,読めます。

この,大法輪って雑誌,特定の宗派を超えた仏教関連の情報誌,ということだけど,こうやって毎月毎号,なにかしら話題を提供し続けているってのは,それはとても大変なことで,だからこそとても素晴らしいことだと思うし,こういうのを日本の若い僧侶の方とか積極的に読んで研究しているのだとしたら,それはとても良いことだと思う。そうだとすれば,日本人は,もっと仏教に頼って良いと思う。

仏教と言えば日本だと,葬式仏教なんて言われますが,なんというか,こういう雑誌を見ると,仏教も頑張ってるな~,と思いました。

ヨーガ入門:ココロとカラダをよみがえらせる

佐保田鶴冶 2001 ベースボールマガジン社

日本でヨーガと言えば,佐保田先生。前から名前だけは知っていた。この本は,私が茨城県県南生涯学習センターで身体心理学の実践講座を開いたときに,受講生だった女性の方に最後にいただいた。彼女はこの,佐保田先生のヨーガを昔から実践されていて,私がその講座で話していることと通じるから,是非この本を読むと良い,と言って一冊プレゼントしていただいたものです。ありがとうございました。

この本は,具体的なヨーガの実践方法について説明してある入門書です。ただその冒頭と最後に,ヨーガとは何か,というその本質が丁寧に説明されています。今時は巷にヨガ教室が溢れ,スポーツクラブにもヨガクラスがありますが,そのほとんどが単なるストレッチングやフィットネス程度にしか扱われていない。習っている人もそのつもりなら,教えているインストラクターもきっとそのつもり(その程度の認識)だろうなぁというのが多いような気がする。しかし,この本に書いてあるのが,本来の「ヨーガ」なのだ。「ヨガ」ではなくて「ヨーガ」ね。

もちろん,こういう本来のヨーガをやっている教室や道場もちゃんとあるだろうから,どうせやるなら,そういう,ちゃんと分かっている先生のところでやるのが,時間の無駄にならなくて良いだろうと,つくづく思います。

2015年3月19日木曜日

禅とタオ

加島祥造・板橋興宗 2012 佼成出版社

詩人・道家である加島氏と禅僧である板橋師との対談本。89歳と85歳の対談。対談本ですから,2時間ぐらいで読めます。タオと禅は,同じだね,という観点で,世の中や人のあれこれをお二人で語っておられます。下段に,丁寧に,出てくる言葉の注が示されているけれど,これはきっと編集の人が後からくっつけたもののようで,二人の思想的背景やポイントとずれているものもあるから注意。たぶん,長い対談を,編集者が分かりやすく短くまとめたので,会話がかみ合っているところとかみ合っていないところ,あるいは,前後で矛盾しているようにも見えるところも,いくつか散見されますが,まぁしかし,89歳と85歳,話す内容の今時具合とクリアさに,驚きます。

日本武道と東洋思想

寒川恒夫 2014 平凡社

本書の書名と,目次に並ぶタイトル(テーマ)はどれも魅力的で,一体,どういう話が展開されるんだろうとワクワクして読み始めたけれど,どうも読みにくい。著者の専門は人類学なので,人類学の文章ってのはこういうノリなんだろうか。どう読みにくいかというと,言いたいことがあっちへいったりこっちへいったりとブレまくる。いや,大局的に見据えよう,という意図なのかもしれないけれど,さっきはこっちの話をしていたのにいつの間にか脱線してそっちの話になって,それが先ほどのあっちの話とどうつながるのか良く分からないまま,終わる。もちろん,一つ一つの話は,回りくどい文章だけれど言いたいことは何となく分かる。けれど,これを続けて読むのがどうも,辛い。なので,3分の1ぐらい読んで断念しました。

2015年3月13日金曜日

こころが軽くなるエクササイズ

越川房子(監) 2007 東京書籍

認知行動療法の様々な技法について,分かりやすく説明してあります。特には自分一人でできるように,簡単にやり方を解説していて,分かりやすい。全面的には出していませんが,越川さんなので,マインドフルネスやそれと相性の良い身体的な技法が数多く紹介されています。本書でも執筆している,関西大学の菅村さんに拙訳書『タオ・ストレス低減法』をお送りしたら。そのお礼にと紹介していただき本書を購入。技法によっては専門家と一緒にやらないとなかなか本質的な効果は狙えないものもありますが,多くのエクササイズが,セルフヘルプ的に試せるものです。すぐに使えるものも多数あって,良い。ただ,やはり,「続けてやった方がいいよ(続けないと効果はないよ)」という部分は,どのエクササイズにも言えることで,本書の中でもそう書いてあります。これは,僕がやっている武術的な東洋的な身体的なエクササイズと同じで,やはり,何かを試したらアラ不思議あっという間に効果テキメン,なんてのはないわけです。本書にあるどのエクササイズも,じっくり根気よく,続けましょう。そうすると,何かが変わってくるはずです。

2015年3月12日木曜日

苦しまなくて,いいんだよ。

プラユキ・ナラテボー 2011 PHP

非常に良い本です。マインドフルネス瞑想をするなら,一度は読んだ方が良いです。僕の理解では,ここで言っているのは,主には止(サマタ瞑想)で,観(ヴィパッサナー瞑想)までは,説明していません。とりあえず,「気づき」が重要だから,まずは「気づき」だ,と読めました。気づきが観察を自然ともたらすと考えれば,まずはやっぱりawarenessが大切です。本書で紹介されている瞑想は,手動瞑想と歩行瞑想。手動瞑想というのは珍しくて,両手を順番にゆっくり動かしながら座る,というもの。こうなってくるとますます,太極拳や気功とやっていることは同じになってきます。必読です。

2015年3月6日金曜日

禅と武道

鎌田茂雄(編) 1997 ぺりかん社

こういうのを何というのだろう。アンソロジーだろうか。大正から昭和50年代ぐらいまでの,「禅」と「武道」に関する書籍(の一部)や評論を,編者が選集している。例えば,有名どころでは,大森曹玄,オイゲン・ヘルゲル,鈴木大拙,などが出てくる。それぞれ著書からの抜粋や,何かの雑誌に掲載されたコラムのようなものを,掲載発行年など特に関係なく並んでいて,また,この本全体に統一感はなく,また通底したテーマもない。だから読み進めることで何かが深まるわけではない。まぁしかし,一つ一つは面白いものもある。面白くなさそうな章は飛ばしました。

2015年3月3日火曜日

ソマティック心理学

久保隆司 2011 春秋社

ボディワーク(ソマティックス)に関連する心理学・心理療法に関する総覧的な本であり,周辺の概念や理論まで含めた全体を網羅的に眺めた本です。

2015年2月26日木曜日

太極拳『超』入門

陳沛山 2012 BABジャパン

まず第一に,良書です。競技中心の制定拳(簡化24式太極拳など)や健康体操としての太極拳(楊名時太極拳など)とは違う,本来の太極拳について丁寧に詳しく紐解いています。陳沛山師が考案した「四正太極拳」の動作の図解と並行して,21課(最終課を入れると22)に分けて要諦を分かりやすく紹介しています。陳式でない人も,読む価値はあると思います。

でもやはり,この本は,陳沛山師の「陳氏太極拳協会」の会員の人は必読でしょうね。健康体操や表演(あるいは演武競技)が目的なら,それは太極拳ではないとはっきりと繰り返し書いてあります。なぜなら太極拳は武術だから(単なる体操ではない)。なぜなら太極拳は内側の感覚が重要だから(外見で判断する表演はナンセンスである)。激しく同意。その通りだと思います。

僕は楊式ですが,陳式の動きもとても気持ちが良さそうです。

2015年2月25日水曜日

ブルース・リー哲理解析

ロジャー・ロー 2014 オルタナパブリッシング

『ブルース・リー思想解析』の続編です。ブルース・リーファンにとっては,その思想的な側面を掘り下げた,良い本です。『思想解析』に続き,ブルース・リーがおそらく参考にしたであろう各種の思想や理論などが,この『哲理解析』でも紹介されています。特にこっちの『哲理』の方は,ブルース・リーが当時,こういう風に物事を考え,武術や映画を考えていたはずだという,説得力のある仮説が並んでいます。ファンにとっては面白い。特に本来の武術家としてのブルース・リーを考える上では非常に参考になります。『ロスト・インタビュー』と『G.O.D.死亡的遊戯』を観たくなりました。

2015年2月16日月曜日

ブッダの<呼吸>の瞑想

ティク・ナット・ハン 島田啓介(訳) 2012 野草社

同じティク・ナット・ハン師の『ブッダの幸せの瞑想』(サンガ)というのを以前に読みました。日本語訳の発行年を見ると,こちらの方が前に出版されていました。『幸せの・・・』のテーゼが,呼吸に戻りましょう,でしたが,本書はそれをさらに端的に示しています。本書は,アーナパーナサティ・スッタ(安般守意経/安那般那念経)の,ティク・ナット・ハン師による解説本です。ティク・ナット・ハン師は,これを,「呼吸による完全な気づきの経典」と表記しています。その名の通り,呼吸によって気づきをもたらす,呼吸こそ気づきへと至る道だと述べています。止(サマタ)と観(ヴィパッサナー)のことも勉強になりました。読むだけで落ち着く本です。なぜなら,私たちは呼吸しながら読んでるから。

2015年1月31日土曜日

ブルース・リー思想解析

羅振光 2014 オルタナパブリッシング

著者の羅振光(ロジャー・ロー)という人,どんな人なのか良く分からないのだけれど,本文中,日本の読者を意識して書いているような節のある箇所がときどき出てくる。この,オルタナパブリッシングという出版社もよく分からない。できて間もない出版社のようだから,書籍も少ない。どうもなかなかアングラなマニアックなカウンターなものを出しているところのようです。また,この本は翻訳のようなのだけれど,その原本の記載がない。だから書き下ろしなのだろうか。翻訳者もカンフー映画の専門のようですから,表紙に名前を出しても良いと思うんだけれど,出してない。ただ,中身はブルース・リー愛に満ちた,まぁまぁの本です。自分の意見や考えを前面に書くというよりは,タイトル通り,ブルース・リーの残した書籍や台詞から,彼はこう考えていたに違いない,という解釈本です。おお,そうだったのか!というような新しい発見は,特にはない。けれど,ブルース・リーの思想的な背景を知る上で,日本語で読める本の一つとしては,良いと思います。

2015年1月23日金曜日

別冊サンガジャパン①実践!仏教瞑想ガイドブック

蓑輪顕量(監) 2014 サンガ

仏教瞑想とありますが,「ヴィパッサナー瞑想」に関する特集です。仏教でいろいろなされているであろう様々な瞑想技法を紹介しているようなものではありません。ヴィパッサナーを徹底的に,あらゆる角度から,いろんな人の目線で,紹介しています。特に「ガイドブック」とあるように,実際にやってみる,というところにウェイトを置いて解説しています。ヴィパッサナーとは何かとか,ヴィパッサナーの(我が国における)普及の歴史とか,どこでどういう修行をしているのか(どういう道場があるのか)とか,認知行動療法やマインドフルネスやACTなども登場して,あれこれとざっくり全体像を知る上でとても勉強になりました。

2015年1月8日木曜日

太極推手入門

劉慶洲(著) NPO法人太極拳友好協会TFA(編訳) 2013 BABジャパン

太極推手の方法がとても分かりやすく説明してあり,良書です。太極拳・太極推手をする上で留意する点も豊富に説明してあり,読み応えがあります。巻末には太極拳に関する古典文献(拳論)が,重要な物はほぼ全て掲載してあり,これも資料的価値が非常に高い。願わくば日本語訳がもう少しこなれていれば,漢字をもう少し分かりやすい日本語に訳してもらっていれば,もっと分かりやすかったかもしれない。加えて,中国語として読ませたい漢字や日本語にない漢字についてはピンインを,一貫してつけてもらえると,もう少しスムースに読めたかもしれません(ちゃんとついている漢字もありました)。しかし,とにかく,内容の濃い良書です。買って損はありません。

2015年1月7日水曜日

「老子」新訳:名のない領域からの声

加島祥造 2013 地湧社

加島氏,大正12年生まれ,(発行時)御年90歳,と著者紹介にある。90歳になったことがないので分からないのだけれど,失礼ながら,最後に付してある解説(「老子私観」)など,90歳のご老体とは思えない,とてもクリアで分かりやすい文章です。言葉に年齢は関係ないだろうことは分かるけど,でも長い文章となると,果たして(そもそも自分がこの歳まで生きるかどうかもそうだが)こんな丁寧で分かりやすい文章が書けるものなのか,非常に疑わしい。大体,うちのばあちゃんが80歳ぐらいのとき,普段何言ってるのか,何書いてるのか,よく分からなかいことも多々あったぞ。

いずれにせよ,加島氏の訳は,良い。分かりやすいし,味がある。老子が語りかけてくる感じがする。タオイズムは,「優しさ」です。「調和」であり,「バランス」です。その通り。まさにそのままタイチーです。