2019年10月26日土曜日

認知哲学:心と脳のエピステモロジー

山口裕之 2009 新曜社

これは名著である!

絶対に読んだ方が良い。心理学をする者,心とは何か,私とは何か,意識とは何か,感情とは何かなどなど,古典的基本的なテーマはしっかり盛り込まれつつ,かつ,山口先生本人の考えもしっかり主張されつつ,全編,非常に分かりやすい語り口でもって書かれていて,ものすごく気持ちの良い本になっています。

実を言うと,この本が存在することは前から知っていたのですが,「認知哲学」「心と脳」「エピステモロジー」とあって,なんとなく敬遠していて,手に取らずにいました。特に,「脳」の話にばかりなると面白くないなぁとか,エピステモロジーって何だ?とか,なんとなくタイトルから勝手に内容を想像したりできなかったりして,買わなかったのです。

しかし,全然,脳の話ばかりじゃなかった。エピステモロジーは,フランス思想で言うところの「科学(の)哲学」ということらしい。そして,中身はもっと,「心理学」の話,心理学で扱う対象を哲学する,「意識の科学」「心の哲学」の本でした。

たまたま去年,徳島大学で集中講義をさせてもらって,たまたま徳島大学にある本屋さんをぶらついていたら,徳島大学が誇る哲学者・山口裕之先生(本書執筆時は「准教授」ですが現在はもう「教授」です)の著書が平積みされていて,パラパラと中身をめくり,「おお,これは買おう!」と思った次第です。

買って良かった。そして,読んで本当に楽しかった。人間を考える根本的なところで「感情」を重視しているところも,私としてはフィットするし,勉強になります。山口先生の他の本も読んでみよう。

2019年10月17日木曜日

稽古の思想

西平直 2019 春秋社

「稽古」は単なる練習とは違う,その稽古の特殊性を語る本なのだけれど,身体論でよく出てくる話を引用しつつ,自身の考えを述べるときはその根拠がよく分からない。言いたいことはなんとなく分かるけれども,例えばそこに自身が行ってきた稽古の感覚というのが根拠にあるのならば,ある意味で論理はぶっ飛んでいても説得力はあるのだが,この著者が一体どのような稽古を積んできたのか皆目分からないので,考えや主張にまるで説得力が無い。ページ数を稼ぐために文字もやたらと大きく,行間もやたらと広い。老眼にはやさしいけど,中身は残念。なぜこれが商業ベースの書籍(しかもハードカバー)となり得るのか,理解できない。かくいう私は思わず買ってしまっているわけだけど(笑)。春秋社は懐が深い。批判的ですみません。

2019年10月12日土曜日

他者問題で解く心の科学史

渡辺恒夫 2014 北大路書房

心理学とはどういう学問か。私は心理学者として「心」を扱っているわけだけが,それは一体何をしている学問なのかをよくよく考えたい人は,絶対に読んだ方が良い本です。疑問に思っていたことが,ここにまとめて書いてありました。分かるところとよく分からないところがありますが,それはまたこれから色々と考えていく楽しみになりました。良書です。