2018年8月29日水曜日

R帝国

中村文則 2017 中央公論新社

良い。すごく良い。一気に読みました。ものすごく面白い。そして本当につくづく,その風刺に感心しました。こうして言葉に紡ぐことは,簡単なようで簡単ではない。日頃思う現代社会,現代日本の様子を丁寧に,本当に丁寧に描写しています。

『銃』『教団X』『私の消滅』もすごく良かった。そして続く今作もすごく読み応えがありました。いつの間にやら,私の好きな作家の一人になっています。次回作も期待。

2018年8月25日土曜日

やわらかな言葉と身体のレッスン

尹雄大 2015 春秋社

『身体の知性を取り戻す』に続いて,著書の本を読みました。そして,うううむ,良い感想が見当たらない。

なんというか,世界をもう一度立ち返って,身体の感覚に立ち返って眺めてみましょう,ということだろうか。一言で言えばそういうことかもしれません。全編覆っているニュアンスからすれば,著者の世界を眺める眼がとても敏感で原初的で,そういうナイーブな観点で眺めてみるのが本質なんじゃないでしょうか,我々人間はそういう本質にオブラートが掛かっていたり,本質からずれていたりして,世界を上手に感得していないんじゃないか,ということを言っていると解釈しました。いや,ぜんぜん違うかもしれません。

2018年8月19日日曜日

空手の合気 合気の空手

泉川勝也 2018 BABジャパン

剛柔流泉武会三代目宗家・泉川勝也師範は,吉丸慶雪師から大東流を学び,剛柔流の術理を深め,長年研究した成果である技法の一端を開陳したのが本書です。

最近こうした技術書をあまり読んでませんでしたが,やはり,いろいろと研究されている人の言うことは,読んでいて面白いです。特には,我が師である小林真一先生や其の師である故・西田稔先生のおっしゃることと相通じていると,空手家として納得・安心できます。そうなってくると,この先生の言うことは信用できる,ということになって,なるほどそういう風にも考えられるのか,そういう観点もあるのか,そういう解釈もできるのか,といろいろと勉強になります。

空手家の方は,読んで損はありません。なお,スポーツ空手(競技空手)をされている方には,あまり得はありません。古流の,沖縄の,本来の空手術を稽古されている方には,勉強になると思います。

2018年8月13日月曜日

トラウマをヨーガで克服する

デイヴィッド・エマーソン エリザベス・ホッパー 伊藤久子(訳) 2011 紀伊國屋書店

本書は,ヴァン・デア・コークの創設したトラウマ・センターで実践されているヨーガ「トラウマ・センシティブ・ヨーガ」の背景と,実際の基本的なワークと,実践における注意点などをまとめた本です。

できれば,ヴァン・デア・コークの『身体はトラウマを記録する』(紀伊國屋書店)も一緒に読むか,むしろ先に読むことをお勧めしたい。『身体は・・・』は,ヴァン・デア・コークの自伝でもあり,トラウマの研究史でもある名著ですが,後半はトラウマの治療における身体の重要性へと焦点が移っていきます。そこではいくつものアプローチが紹介されていますが,その中の一つがヨーガです。

本書は,そのヨーガ・プログラムについて詳しく書かれたものです。だから,トラウマ・センターにおける取り組みをより長いトラウマ研究の中で位置づけ,なぜ身体性が重要なのかという理論的な背景を理解しておくためには,『身体は・・・』の併読がベターということです。

心理臨床に携わる人で,トラウマを扱おうという人は,必ず読むべき本だと思います。