2019年12月27日金曜日

錯覚の科学

クリストファー・チャブリス,ダニエル・シモンズ(著)木村博江(訳) 2014 文春文庫

我々人間は,認知に関する様々な側面で判断や思考が歪んでる(自分の都合の良いように曲げている)ことを,身近な例から心理学の知見を用いて説いている科学読み物。著者等は,「見えないゴリラ」実験で2004年にイグ・ノーベル賞を受賞した二人。いや実は,恥ずかしながら,この「見えないゴリラ」実験を知らなかったのでyoutubeを見てみたら,こりゃ面白い。

本書に出てくる話はしかし,基本的には心理学をやってれば(研究知見や,統計に関する解釈論など)どの話もどこかで聞いたことのある話であり(でも本書の根幹となってる「ゴリラ」実験は知らなかった・・・笑),ただそれらが上手に「錯覚」という筋に並べられているので,とても分かりやすく楽しい本になっています。日本語の訳も,読みやすいです。

2019年12月15日日曜日

ヤンキーと地元:解体屋,風俗経営者,ヤミ業者になった沖縄の若者たち

打越正行 2019 筑摩書房

これぞ研究。すごい。沖縄の暴走族の若者に混じって参与観察を10年に渡って続けてきた社会学者。驚嘆する。尊敬する。沖縄のヤンキー文化(労働や収入という側面から見れば,極めて過酷な底辺の文化)を垣間見ることができて,その内容の濃さとリアリティと,そしてやっぱり,島特有の閉塞感(単純に,海に囲まれていて,そこから出ることにワンクッションある社会特有の空気)が満ちた本になっています。沖縄は,狭い。でもって,陸続きじゃないから,簡単に離れられない(余所に行けない)。

沖縄は観光面の華やかさばかりが取り上げられるけど,お金を使いに来る観光客は「客」なのであって,リゾート地特有で,本土から移住する人も多い。それもお金を落とすから良いのだけれど,また一方で,当たり前だけど,そこに住む地元の人たちがいるわけです。そのメインの人々の世界って,「客」の視点では見えてこない。だから、こういう本は、ものすごく貴重だと思う。

2019年12月13日金曜日

生きられた<私>をもとめて:身体・意識・他者

田中彰吾 2017 北大路書房

ラバーハンド・イリュージョン,離人症,身体パラフレニア,鏡像認知,BMI,他者問題,心の理論,といった話をもとに,心の哲学や心身問題・他者問題について紡いだ本です。テーマは本当に心躍ります。東海大学の田中先生,このテーマ,この領域では第一人者です。学会発表や論文はこれまで拝見したこともありましたが,著書を読んだのは初めて。文章もとても分かりやすく,つっかえずに読み切りました。身体系の領域でも,また,心の科学(心の哲学)の領域でも活躍されているので,次回作に期待が膨らみます。

私も身体や心の哲学には興味関心が強いので,こういうテーマが大好きなのですが,さて,自分で現象学をやろうと思うと難しいし,方法論的にはなんとなくフィットしない。理論心理学会にも以前に一度入ったけど,読むのは良いがやるのは難しい(ので,辞めました)。自分はやっぱり思考が(典型的な)心理学なのだと,改めて思い直します。好き嫌いと得意不得意(できるできない)は,簡単なところでは同じですが(好きこそ物の上手なれ),突き詰めると別ですね。ということで,現象学的心理学・身体性哲学は,読む専門でやる専門ではないから,(同い年の)田中先生に期待!

2019年12月6日金曜日

心を救うことはできるのか:心理学・スピリチュアリティ・原始仏教からの探求

石川勇一 2019 サンガ

全編,同意です。心理学に関する評価も,原始仏教に関することも,いずれもその通りだと思いました。トランスパーソナルについてはあまりよく知らなかったので,本書を読んで勉強になりました。全体の主張としては,心理学もトランスパーソナル(スピリチュアリティ)も対症療法としては良いけど,根治療法としてはやっぱり原始仏教であって,そこに至るための手段として心理学(臨床心理学,心理療法,認知行動療法)やトランスパーソナル(スピリチュアリティ)を上手に使いながら,最後は原始仏教が教えるダンマ(法)へと通じるセラピーが良いよね,という話です。

一点,「精神分析は(科学的)心理学からのパラダイムシフト」的なことが書かれていますが,そもそもフロイトの頃にはまだ心理学が「実証科学」になりきっていない頃だと思うので,ちょっと違うかなと思いました。でも,気になったのはそこだけ。

ここまで徹底して修行・実践する石川先生はすごい。同い年です。1971年生まれ。尊敬します。