2012年12月29日土曜日

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

増田俊也 2011 新潮社

大著。二段組みで700頁。大宅壮一ノンフィクション賞を獲っている。それくらい,綿密な調査と取材で成り立っている本書は,木村政彦への著者の熱い心が伝わってくる。木村政彦の評伝だが,同時に柔道史あるいは総合格闘技史でもあり,さらに第二次世界大戦をまたいだ昭和史でもあり,かなり読み応えがある。柔道や総合の技はマニアックすぎて専門家じゃないとよく分からないところもあるけれども,柔道や柔術や総合をやっている人が読んだら,たまらない描写なんだろうなと思う。木村政彦の人生を一緒に追いかけて,最後の方は少し泣けてきました。著者は現在,『月刊秘伝』で「七帝柔道記」を書いている人です・・・と,ここまで書いて,今,ネットで調べてみたら,なんと,私と同じ高校出身,5つ上の先輩でした。いやはや,奇遇です。

2012年12月8日土曜日

The Recursive Mind: The Origins of Human Language, Thought, and Civilization

Michael C. Corballis (2011) Princeton University Press

ヒトと他の動物(類人猿など)との決定的な違いは,再帰する心である。複雑な言語や「心の理論」を持ち,メンタルタイムトラベルが可能なために,高度な文明や文化を発展させた。そうした言語や「心の理論」やメンタルタイムトラベルの本質こそ,recursionである。Corballisはオークランド大学の実験心理学者・認知神経科学者。とても読みやすい英語であり,言語学,心理学(認知心理学,臨床心理学),霊長類学,人類学,進化論を横断した良書である。随所に心理学の基本的な知見が出てきたり,また,分かりやすい事例も豊富に挿入されていて,読み物として面白いし,ためになる。心理の院生には,オススメである。

2012年11月26日月曜日

日本SF全集1

日下三蔵(編) 2009 出版芸術社

1957年から1971年までに出版された,SF短編15編掲載。日本SF草創期の著名な作家の作品のアンソロジーなので,必ずしもいわゆる「代表作」だけを集めたものではない。編者の選択基準は,巻末の座談会で披露されている。星新一,小松左京,眉村卓,筒井康隆,平井和正,半村良,あたりは私でも(名前だけは)知っている有名どころ。全6巻の予定だが,現時点で第2巻まで出ている。私は1971年生まれなので,この第1巻までがちょうど,生まれる前までのSF。まだ戦争の記憶が新しく,それでいて,今からすればずいぶんとレトロな,それでいて世の中の復興著しい戦後昭和の香りが漂っていて,なんとも感慨深い。親父やお袋は,こういうSFを読んでたのかな(読んでなさそうだなぁ:笑)。

2012年11月15日木曜日

ネットと愛国:在特会の「闇」を追いかけて

安田浩一 2012 講談社

いわゆる「ネット右翼」と呼ばれる人々と,そこから表に出てきた「行動する保守」と呼ばれる団体に関するルポです。その存在と実態を知る上で,良書です。表層的な解説書ではなく,客観的な視点から組織会員の深層に踏み込んでいて,その点でも良書です。講談社ノンフィクション賞と日本ジャーナリスト会議賞を受賞しています。

2012年11月9日金曜日

大山倍達の遺言

小島一志・塚本佳子 2012 新潮社

極真空手創始者・大山倍達先生が死去した後の,極真会館分裂に関するノンフィクション。『大山倍達正伝』の続編です。読み物として,よくできています。もしかしたら空手や武道・格闘技に興味がないと面白くないのかもしれないですが,個人的には,飽きさせない構成で,一気に読みました。大山倍達という人の魅力があまりにも強すぎて,そういうカリスマがいなくなった後の組織というのを,いかにまとまって維持するのが難しいかを証明する好例です。社会心理学,組織心理学の格好なテキストとも言える。

しかし,本書では,福島の三瓶啓二師範(新極真会)が,徹底的に「悪者」的位置づけで書かれていますが(ものすごい悪人で,分裂騒動の元凶は三瓶氏である,と暗に言っているぐらい),いや実際そうなのかもしれないけれど,名誉毀損などで訴えられないのか,要らぬ心配をしてしまいます。半ば人格否定に近い書きっぷりです。そりゃ,新極真会から取材拒否されるだろうな。本書は関係者への取材に基づいて極力主観を交えずに書いたと宣言していますが,しかし,著者(小島・塚本)の主観が混じらない客観的な書き物などありえないので(構成や言葉の選び方など),これはあくまで小島・塚本両氏の立場から見たドキュメンタリーと判断するのが良いでしょう。しかし,読み応えのある,極めて面白い一冊でした。

2012年11月2日金曜日

<香り>はなぜ脳に効くのか:アロマセラピーと先端医療

塩田清二 2012 NHK出版新書

(メディカル)アロマセラピーに関する最新の状況について書かれた本です。統合医療として,アロマセラピーをいかに医療・健康増進・病気予防に利用するかということについて,科学的に検討されつつある,ということを分かりやすく書いた良書ではあります。しかし,1点,なぜアロマセラピーでなければならないのか,つまり,植物由来の精油が効くという知見があるならば,その成分と適切な含有量を備えた薬を開発すればいいのではないかと思った次第です。薬というのは元来,そういうものなんじゃないのかな。そこでなぜアロマセラピーなのか,と言う点です。それはたぶん,やはり<香り>やトリートメント(マッサージ)によるリラクセーション効果だとか,施術者との会話だとか,そういった,植物精油の薬理学的な効果以外の部分がけっこう大きいと思うのです。代替補完医療が正統医療に組み込まれない理由は,こうした,薬理学的な効果以外の効果を同定・査定できない,また,それはその手法の唱える本来の効果ではないからでしょう。例えばプラシーボ効果。代替補完医療の怪しさは,その手法が唱えている理論や理屈以外の,単なるプラシーボ効果で成り立っているというのが,一般的な理解です。だから,アロマセラピーも,プラシーボを越える効果を科学的に示すことができなければならない。本書に載っている科学的なデータも,統制群の設定がいまいちなものが多い。つまり,これはアロマセラピーだと称して,精油でない合成香料を加えた水かなにかで施術したときの効果を比較検討しなくてはいけない。ただ,やみくもにアロマセラピーを喧伝するのではなく,本書の著者のように科学的にアプローチしようという姿勢は素晴らしいと思います。

2012年10月31日水曜日

The Essence of Budo: A Practitioner's Guide to Understanding the Japanese Martial Ways

Dave Lowry 2010 Shambhala

Black Belt誌に何十年にも渡り武道エッセイを書き続けているDave Lowryの単行本。今はKarate Wayというエッセイを毎月号,書いています。そのエッセイが毎回面白くてためになるので,今回,彼の本を買って読んでみたわけですが,武道を客観的な視点から眺める良いテクストであるし,そもそも,Daveの日本武道に関する理解と洞察は,非常に正確かつ深いので,日本人の書いた怪しい武道関連の書籍やエッセイよりも,数段優れていると思いました。日本文化に対するステレオタイプ的な間違った解釈や偏見も見当たらず,歴史考証も正確で,その辺の日本人より日本文化・日本武道を深く理解している。脱帽です。Daveは空手家なので,主に空手を題材に書いている点も,個人的には読みやすく,かつ,参考になりました。

2012年10月20日土曜日

死体は見世物か:「人体の不思議展」をめぐって

末永恵子 2012 大月書店

かつて私もこの「人体の不思議展」を見に行ったことがあります。たしか2003年の東京展(国際フォーラム)。ごく興味本位で人体の内部,それも模型ではない本物の人間の内部が見てみたいという好奇心のもと,また,展示の希少性のゆえに,行きました(学術的な展示だろうから,今回行かなかったら,二度と見られない,という思い込み。実際はその後も至る所で巡回開催してましたけど)。そのときの心情は,半分は「見世物小屋」見物根性ではないとは言い切れません。

行ってみて思ったのは,「この死体は中国人のようだけど,たぶん,死刑囚とかなんだろうな」と思い,生前の生活を想像すると,ここで展示されていることにちょっと違和感を覚えました。死体ではあっても,人が展示されていることの,なんとも言葉では表しにくい違和感です。こうして展示されてしまったのは,元・死刑囚だからか?元・死刑囚だから何をされても文句は言えない?いやそれはまたおかしい。人は人だ。中国はそういうことが許されている国なのか?この人は生前に,こんな風に展示されると分かってたのかな?(分かってないだろうな,さすがに,東京で一般人向けにこのポーズは)などなど。あとは,死体が展示されているということの,おぞましさ,というか,笑えない感覚というか。そもそもそれが,元々足を運ぼうと思った「見世物小屋」見物根性,つまり,怖いもの見たさの源泉でしょう。

ただ,人間の内部の構造を見るという機会は,模型でさえ普段はないので,貴重な体験ではありました。もしただの模型展示だったら,注意が向かず,動機づけられず,見に行かなかったでしょう。人体の内部を見たからどうだ,というわけではないですが,本物だからこそ,人体の内部をこの目で見たいという動機づけが湧いたのもまた,事実です。私たちには,身体感覚,内臓感覚というものがあります。ですが実際それがどういう形をしているのかということを,普段は,絵や図や写真などでしか見ることはありません。それで十分といえば十分ですが,実際目の前で実物大の身体内部を見ることは,その身体感覚,内臓感覚をよりリアリティ(具体的イメージ)をもって感じることにつながります。人体の内部を見たいという欲求は,その,身体感覚,内臓感覚の裏付けが欲しいという欲求です。ただ,それは普段の生活の中で頭から離れないぐらい強い欲求ではありません。だから,模型の展示であればスルーしてしまうところでしょう。本物の人体であるという強烈なアクセントが,そうした欲求を満たしたいという興味とリンクしたことは,また,まぎれもない事実です。

一方,展示そのものとは別の次元で感じていた違和感もありました。それは,希有な学術展示だと思っていたので,その後,日本全国で巡回開催をしているのを新聞で見る度に,なんだこれは興業なのか,真面目な学術展示ではなくて営利目的なのか,死体をこんな風に商売に使っていいのか,何だかいやらしいなぁこの興業,という違和感です。

そういう諸々の違和感を抱えていたので,早速,本書を購入。読んでみて,私が抱いていた違和感1つ1つの謎が解けました。何がどう問題なのかが,分かりやすく紐解かれています。この「人体の不思議展」の巡回興行に,言葉では表しにくい違和感を感じていた方は,本書を読むと丹念に言葉で表してくれているので,是非一読を。

2012年10月17日水曜日

サブカルで食う:就職せずに好きなことだけやって生きていく方法

大槻ケンヂ 2012 白夜書房

オーケンの,生き方指南。どこかの(アマゾンの?)書評にもあったけど,生き方指南だから,普段のエッセイみたいな,のほほん全開の語りではない。ですます調だし。けれど,ところどころ吹き出してしまう面白さは,この本にもあります。まぁしかし,エッセイや映画評論の方が,断然面白いな,オーケンは。サブカルで生きるためには,「才能・運・継続」で,後は自分の好きなジャンルに対する情熱と言っているけれど,まぁ,その通り。なお,それは結局,何もサブカルに限ったことじゃないけどね,と本書の中でも言っています。それもその通り。それで,事実サブカルな人ってのは,サブカルで食いたいと思ってなるんじゃなくて,結果的にサブカルで食ってるんじゃないかな,本来。なりたくてなるもんじゃない気がする。気がついたらサブカル者。それが真実かも。

2012年10月13日土曜日

実戦武術物語

姉川勝義 1995 壮神社

本書はある意味,不条理実験小説である。著者の回顧録かと思いきや,いつの間にか(段落や節が変わることなく)一人称の「私」が別の人物になっていたり,どこからどこまでが他書の引用なのか分からなかったり,突如として現代語が古語・近代語に変わったり(たぶん,何かをそのまま引用しているのだと思うが,切れ目がないために,どこからどこが引用か分からない),さらには突然,「以下略」として終わったり。内容も,「だから何?」という話も多く,最後の章などは術技について図入りの解説が並んでいるだけで,これがどういう技術体系のどういう部分の何を表すのかも,はっきりしない。そして予想通り(笑),突然終わって,完。読んでいて目眩のする本書は,だから,不条理実験小説として読めば面白い。しかし,著者である姉川氏が,戦後の混乱する昭和期に,武道・武術を巡って,有象無象の人たちに会い,走り抜いた熱い魂は,ひしひしと伝わってくる。こういう人生は,良い。

2012年10月12日金曜日

Striking Thoughts: Bruce Lee's Wisdom for Daily Living

Bruce Lee, John Little (Ed.) 2000 Tuttle

ブルース・リーのインタビュー,メモ,手紙などの断片集です。30年前(ちょうど没後10回忌のリバイバル)に衝撃を受けてから,私の今ある人生のあり方の多くを方向付けたブルース・リーは,このときすでにマインドフルネスでした(マインドフルネスという言葉は使っていないけど)。本書を読んでまた,勝手に因縁を感じています。ブルース・リーがいかに東洋と西洋の哲学に精通していたか,またそれを実践していたかが,分かります。

2012年9月29日土曜日

Martial arts and Philosophy: Beating and Nothingness

Priest, G., & Young, D.  2010  Open Court

武術(martial arts)を哲学的に解釈した章もあれば,武術を題材に哲学を説いた章もある,そんな本です。どちらかというと哲学の方にウェイトがある。その哲学的解釈やテーマが面白くないと,その章はまったく面白くない。例え武術の話が絡めてあっても。また,各章とも各執筆者がまったく異なるテーマで書いていて,文体も全く違う。哲学っていろいろです。なお,ここで書かれている武術は,試合(競技)をすることを含めているので,厳密に言えば武道(budo)の話ではないところもポイント。いわゆる武術スポーツ(combat sports)の話の中に,執筆者によっては武道的解釈がときどき混じったりする。

2012年9月26日水曜日

ホーダー 捨てられない・片づけられない病

ランディ・O・フロスト,ゲイル・スティケティー 春日井晶子訳 2012 ナショナル・ジオグラフィック

日本だといわゆる「ゴミ屋敷」の主のこと。HOLDERではなくHOARDER。hoardは,(財宝・食糧などを)蓄える,ため込むという意味です。ため込む行為はホーディング。本書の著者らを筆頭に,海外ではこのホーディングに特化した役所の部署や民間の組織(自助グループなど)があるようです。日本でもときどき「ゴミ屋敷」のことがテレビで取り上げられ,いつも興味深く見ていますが,主はきっと心を病んでいるんだろうなと思っていましたが,どう病んでいる(可能性がある)のかが,本書で垣間見ることができました。この問題について考える上で,非常に良い本です。

2012年9月18日火曜日

拳聖上野貴第八世宗家に捧ぐ-日本伝神道天心古流拳法

上野義明・日森定雄(監修) 滝口洋一・空岡康雄(編集・文責) 1999 元就出版社

天心流の体系の概要をまとめた本である。天心流の過去の(上野貴先生以前の)流統や史実については判断に迷うことは禁じ得ないが,上野貴という人物が極めて優れた希有な武術家・武術研究家であることは確かなことが分かった。当時の武術・武道を分け隔てなく研究し,自身の一流派としてまとめたその偉業は,称えられるべきである。現在もし,天心流が,糸東流空手だけをやっているとしたら,それは非常に悲しく,もったいない話なので,私は単なる部外者だが,是非,ここに記載されている様々な術を,後世に伝えていただきたい。

100の思考実験

ジュリアン・バジーニ(著) 向井和美(訳) 2012 紀伊國屋書店

哲学,倫理学,社会正義論,道徳哲学,心理学などで出てくる思考実験が,ランダムに100個,並んでいます。思考実験も,ベリーショートショートのような感じで読みやすく,また,その後に続く解説も,思考実験の中身をうまく読み解くヒントになっていて分かりやすい。思考実験は100通り書いてありますが,大別すると数種類ぐらいになると思います。が,どれも一つ一つ,ちょっとずつ問題としているテーマが違っていたりして,その意味でも,思考実験の醍醐味が味わえます。中には有名な話も掲載されているので,思考実験のネタ帳としても使えます。買って損はない,面白い本です。

2012年8月29日水曜日

Bruce Lee: Wisdom for the Way

Bruce Lee, Shannon Lee (Compile), Sarah Drida (Ed.) 2009 Black Belt Books

ブルース・リーが手紙やメモや映画の中で遺した言葉の断片を集めた本です。映画『燃えよドラゴン』の冒頭での"Don't think! Feel."が有名ですが,本書を読む限り,ブルース・リーの思想はまさにマインドフルネスです。32歳の若さで逝去した武術家は,もちろん映画スターとしての方が有名ですが,彼の遺したジークンドーという技術ともに,彼の思想は武術の本質を正鵠に捉えています。

2012年8月25日土曜日

気・修行・身体

湯浅泰雄 1986 平河出版社

「身体論」とほぼ同じ内容の論考です。ただ,本書の方が,ユング心理学と鍼灸(経絡)に関する記述が多い。著者は,心理学=深層心理学=ユング心理学,という立場で徹底して書いているので,現代的視点から見ると違和感はあります。これは鍼灸に対する著者の態度も同じ。「身体論」でも,鍼灸やオカルトに対する態度・立場が独特でしたが,非科学的な鍼灸やらユングやらを持ってこなくても,本書で展開される主張は可能です。現在では,湯浅の論を保証するような(鍼灸やユングに代わる)科学的な証拠が,いくつもありますから。

2012年8月13日月曜日

怒りの作法:抗議と対話をめぐる哲学

小川仁志 2012 大和書房

なにか無理矢理に,これまでの思想家・哲学者の考えを「怒り」にこじつけてる感じが,読んでいて妙にひっかかる。なので,途中で読むのを止めました。著者はもちろん,哲学研究者であり心理学者ではないのでしょうがないけれども,怒りという感情をテーマにするとどうしても個人の内的な心理面を述べざるを得ず,そうなるとどうしてもその面の考察が浅い。また,東洋的な(仏教的な)思想や身体論に関する理解・洞察も浅い(あえて短絡的攻撃的に対比しているのは,意図的かもしれないけれど)。てっきり,怒りという感情について哲学的に深めていく本かと思ったんだけれど,そうではなくて,これまでの思想家・哲学者の考えを「怒り」に絡めて列挙している哲学案内書でした。なので,一つのテーマを題材にした思想・哲学の入門書とすれば,成立していると思います。読みやすいので高校生用。ただ,著者の一方的な断定口調(書き方)が,気になると言えば気になります。なぜそこでその事実を断定できるのだ,エビデンスは?という箇所が散見。この人の本はもう買わないかなぁ,たぶん。

2012年8月7日火曜日

超常現象の科学:なぜ人は幽霊が見えるのか

リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) 2012 文藝春秋

超常現象を題材とした,極めて優れた心理学の入門案内書になっている。読みやすいし面白い。超常現象の心理学的な解明を平易に解説した本でもあり,また,心理学の入門案内書としても充実している。訳者の日本語が読みやすくてとてもいい点も一役買っているかも。簡単にできる実験などがちりばめられていて,久しぶりに「面白い心理学の本」を読んだ気がする。自分には無理だし面倒だからやらないけれど,こういう,内容が濃くて面白い本を書く心理学者が日本にもいるといいなぁ。高校生か,あるいは心理の学部1~2生ぐらいに,おすすめです。

2012年7月24日火曜日

下り坂では後ろ向きに:静かなスポーツのすすめ

丘沢静也 2012 岩波書店

「静かなスポーツ」。勝敗や結果とは無関係の運動習慣のすすめ。人生を競技的に生きないことのすすめ。プロセスを楽しむことのすすめ。禅です。武道,特に少なくとも空手は本来,こうあるべきなので,スポーツ空手にどっぷり浸かっている人に,この辺りの本質を分かってもらえるとうれしいなと思いつつ,どっぷりな人はここに書いてある本質が,まったく分からないかもしれない。とにかく,非常に良い本です。丘沢先生の他の本も,読んでみよう。

2012年7月19日木曜日

トンデモマンガの世界2

と学会 2010 楽工社

はずれがない「と学会」本。これもひたすらに,面白い。「著者の意図とは異なる楽しみ方ができる」マンガの紹介。1ももちろん,面白い。気楽に読めます。

2012年7月12日木曜日

現象学的な心

ショーン・ギャラガー ダン・ザハヴィ 石原孝二・宮原克典・池田喬・朴崇哲(訳) 2011 勁草書房

半分ぐらい読んで断念。議論していることは(理解している範囲で)面白いしエキサイティングなんだけど,なんせ,難解です。翻訳だからか,あるいは,現象学の議論の仕方がこういう風なのか,よく分からないけれど,僕にとっては少なくとも,難解です。ただ,理解した範囲では,なるほどと思えるところは多々あります。なんていうか,論理展開が複雑でトリッキーなので,もう少しシンプルに,語れないのかな。例えば,文章一つ一つについて,否定形が多用されるのは,この著者の癖なんだろうか。「・・・・ではない」「・・・ということはありえない」「・・・とは考えられない」と来ると,「・・・」の部分の理解をひっくり返されるので,その度に,頭の中で整理し直さなければならず,認知的に負荷が高い。

2012年7月4日水曜日

日本語を使う日々

吉田戦車 2012 小学館

吉田戦車と言えば「伝染るんです。」。このために,さぞエキセントリックな人なのではないかという期待のもと,本書を購入。しかし,意外にも,(本書を読む限り)吉田氏は普通の,まともな人でした。妙な期待が大きかった故に,本書の印象は,なんとなく軽く,薄い感じがします。本書は,言葉に絡めた吉田氏のエッセイです。エッセイごとに漫画(1コマ)が掲載されているんですが,やっぱり,その漫画は,エキセントリックで面白い。この,漫画の濃さとエッセイの薄さに,けっこう,ギャップがあります。吉田氏,ごく普通の一般的な常識人でした。もう50歳近いんですね。衝撃的であった「伝染るんです。」って,僕が大学生の頃だもんなぁ。

2012年6月25日月曜日

精神としての身体

市川浩 1992 講談社学術文庫

1975年出版の文庫版。身体論の名著,ということで読んでみましたが,3分の1ぐらいで断念。ときどき興味深いことが書かれているのですが,自分が知りたいこととはちょっと違いました。

2012年6月19日火曜日

痕跡本のすすめ

古沢和宏 2012 太田出版

痕跡本=書き込みや傷などが残ってる古本。著者の広げる想像は,そこそこ面白い。けど,そうかなぁ,そりゃ考えすぎだろ,と思うときも。でもまぁ,それも痕跡本の楽しみ方の一つで,想像(妄想)するのは自由だと,著者も言っている通り。次回作も買おうと思うほど快作ではないけれど,古本(痕跡本)探しってのも面白いかもと思いつつ,いやしかし,そのためだけにわざわざ古本を買うほど金に余裕はないとも思っています。たまたま買った古本に痕跡があったら,妄想を膨らましてみよう。

2012年6月13日水曜日

おじさん図鑑

なかむらるみ 2011 小学館

壮年期の男性を(女性の目から)観察するとこうなるのか,ということが少し分かりました。勉強になります。

2012年6月8日金曜日

じみへん倫理教室

南部ヤスヒロ 2009 小学館

倫理学で議論されている問題を,中崎タツヤ氏の『じみへん』を題材にして議論するのかと思いきや!実際に書いてある内容は,著者が『じみへん』を使ったりして進めている自分の『倫理』の<授業>に関するエッセイ,でした。つまり,倫理学(の中身)についてはほとんど全く書いていない。高校での倫理の授業の進め方(や高校での生徒との交流)に関するエッセイ(というか個人的な思い)です。帯には「哲学エッセイ」とあるけど,正確には「哲学授業エッセイ」でしょう。文章も,特徴のある口語調で,読みにくい。関連する『じみへん』の先にそのエッセイがあるので,何について書いているのか分からず,これも読みにくい原因の1つ。言っちゃ悪いが,自己陶酔してる高校の先生の個人的なブログを読んでいるようでした。悪書とまでは言わないけれど,この人の本はもう買わないと思います。

2012年6月5日火曜日

羽生善治の将棋を始めたい人のために

羽生善治 2012 成美堂出版

さて早速,将棋をまたやってみようと思って買った一冊。紀伊國屋に並んでいる入門書の中で,一番新しくて,一番分かりやすそうで,初歩の初歩から書いてある本を選びました。見やすくて分かりやすいので良書。でもやっぱり結局,実戦しないと読んでるだけじゃ何も面白くないので,後半は飛ばしました。携帯アプリで将棋を購入したので,隙間の時間にやってみよう。

2012年6月1日金曜日

PK

井坂幸太郎 2012 講談社

井坂幸太郎の本は,けっこうどれも面白い。『死神の制度』『魔王』『砂漠』『モダンタイムス』『終末のフール』『SOSの猿』を今までに読みました。どれも面白かった。しかし,今回の『PK』,面白いと言えば面白い。けど,以前どこかで本人(か,あるいは他の評論家?書評?読者評?)が言っていたんだけど,「オチのない終わり方」が好きらしい,井坂氏。うん確かに今回の『PK』は,投げっぱなし(笑)。この不全感・未完結感が良い,ということなんだろうけど,しかし,今回の『PK』は,どうなんだろう。投げすぎじゃないか。面白いけど。この,投げっぱなしによって読後に余韻が残るのは,多分にツァイガルニク効果によるところが大きい気がする。

2012年5月30日水曜日

われ敗れたり-コンピュータ棋戦のすべてを語る-

米長邦雄 2012 中央公論社

今年1月に開催された第1回将棋電王戦。コンピュータ対米長永世棋聖(日本将棋連盟会長)。結果は,善戦及ばず敗戦。対戦が決定してから当日,および戦後の思いまでを綴った1冊です。米長氏は現役を退いて10年弱ほど経っているとは言え,「あの米長が負ける」ということは,コンピュータ恐るべし,です。昔,小学校の時に一時期将棋がはやって,休み時間に教室でよく指してましたが,戦略や構想は互いにめちゃくちゃのヘボ将棋。本書を読みながら,また将棋をちゃんとやってみようかなと思いました。

2012年5月29日火曜日

歪笑小説

東野圭吾 2012 集英社文庫

短編が12編で,登場人物もつながってる連続もの。ギャグあり涙ありで飽きない。さすがヒガシノだなぁ。『黒笑』『怪笑』『毒笑』も読んだけど,シリーズどれもハズレなし。安心して買えます。

2012年5月23日水曜日

MM9-invasion-

山本弘 2011 東京創元社

『MM9』の続編です。『MM9』がなかなか面白かったので(映画にもなってるみたいだし),さっそく読みました。話の展開はスピード感があって読み応えはあったけど,前編よりご都合主義な部分が多すぎて,そこのところがどうもいまいちでした。SFは設定の整合性の妙が一つのポイントだと思うので,あんまり過度にご都合主義だと,ちょっと萎えてしまう。世界に入り込めない。理屈をつければなんでもあり,ってわけでもない。難しい間合いです。さらに続編があるようなニュアンスですが,たぶん,もう買わないと思います。

2012年5月19日土曜日

警備員日記

手塚正己 2011 太田出版

読み終えるのが惜しい。映画にならないかなー。警備(主に工事現場の交通整理)の場面は是非,図入りで解説願いたい。ドキュメンタリー(ノンフィクション)としても,物語としても,読み応えあり。とにかく,ものすごく面白くできあがっている。なにしろ人物描写が秀逸だ。

2012年5月16日水曜日

怪談

柳広司 2011 光文社

あの『ジョーカー・ゲーム』の柳広司。『ジョーカー』も面白かったが,これも面白い。短編で6編,それぞれの物語の中に精妙なからくりがあって面白い。この世のモノでない何かによる仕業というオチではなく(だったらつまらんね),現実にそれなりに理屈があって事件が起きている,でもそれでいて何かがいるかのような雰囲気。どっちなのか分からない。「魔」あるいは「怪」とは,そういうものだ。

2012年5月11日金曜日

第2図書係補佐

又吉直樹 2011 幻冬舎よしもと文庫

もっと読みたくなる。それくらい,どのエッセイも面白い。又吉氏が読んだ本に,まつわっていたり,あるいは,内容から連想されたりする,極めて個人的な話が並ぶ。それがどれも面白い。それでいて,紹介されていた本を,自分も読んでみたくなる。

2012年5月8日火曜日

どちらとも言えません

奥田英朗 2011 文藝春秋

雑誌「ナンバー」掲載のエッセイ。面白い。奥田英朗にスポーツを語らせたら,実に面白い。「泳いで帰れ」や「野球の国」もリズミカルに進むスポーツ談義(漫談か?)が心に気持ちよかったが,本書もまた気持ちがよい。読んでいて楽しい。もっと読みたい。奥田英朗という人気作家は,人気作家であるにも関わらず(いや,そもそも人気作家だろうがなかろうが,本来関係ないのだろうけれど),バランス感覚のある人だなと,つくづく思う。計算してバランスを演じているのか,自然にこういう人物なのか,もちろん文字だけからは何とも判断できないけど,いたって正常な感覚の人だなと,そう思います。

2012年5月1日火曜日

武道における身体と心

前林清和 2007 日本武道館

悪くない。前林氏(神戸学院大学教授)は剣道家なので(佐川派大東流の師範でもある),本書の「武道における」というのは,内容的にはほとんど「剣道・剣術における」ということを意味している。日本武道の大半は,その技術や理論や思想について剣術をベースにしているから,これはこれで正しいけれど。しかし,現代剣道は果たして武道なのか。あれはスポーツだと僕は認識しているんだけど。前林氏のような「武道論」の専門家(本職?)でも,武道とスポーツを矛盾なく内的に併存させられている,そこのところがよく分からない。随所で現代剣道を武道的に理解しようとするところに無理がある。読んでいてそれがどうもしっくりこない。

2012年4月22日日曜日

トンデモ本の大世界

と学会 2011 アスペクト

と学会結成20周年記念本。と学会も20年ですか。院生の頃,友人から「とにかく面白いから」と勧められて,腹を抱えて読んだ『トンデモ本の世界』(1995年)から,その後ずっとと学会関連の本は出るたびに(たぶん)全部読んでますが,本書はそのおさらいとして,これまた存分に楽しめました。

2012年4月14日土曜日

原っぱで夕焼けを見ていた頃:サザエさんをさがして5

朝日新聞be編集グループ・編 2010 朝日新聞出版

これまでシリーズの1~4巻も買って読みました。読むときの気分によって違うのかもしれないけれど,5巻はあまり面白いと感じなかったなぁ。同じパタンに飽きたかな。今回は特に,新聞屋の語り口調(いや,書きっぷり,か)が鼻につきました。

「ほう,○○とはなつかしいですね」
掲載作を見ながらこう語るのは,○○県で○○業を営む○○さん(○○歳)。

こればっか。次はもう買わないかも。

2012年4月12日木曜日

辛酸なめ子の現代社会学

辛酸なめ子 2011 幻冬舎

読後感は普通。可でもなく不可でもなく。辛酸氏の真意がどこにあるのか,あいかわらず煙に巻かれたような内容(それが味なんだけど)。中身は大半が漫画なので,30分で読めます。ネタが2004年~2009年のものなので,リアルタイム感は薄い。ああそういうこともあったね,という気分です。

2012年4月11日水曜日

MM9

山本弘 2007 東京創元社

面白い。と学会の山本弘氏の本業(SF作家)。と学会やその関係者の著書は愛読してますが,そこで出てくるようなマニアックな知識(用語や解説)が随所に登場して,SFとして面白さを増している。SFはやっぱり,設定やディテールをいかに理屈づけるか(架空の理論や物質や存在によって,小説の中の非現実的な世界や現象を”矛盾なく”説明する),に醍醐味があると思います。ディテールがない,設定も破綻している,矛盾している,説明されていない,というSFは,面白くない。というか,ついていけない。仮面ライダーで言えば,オーズは面白いけどフォーゼは面白くない。なお,本書は話の構成も面白い。一気に楽しく読めました。たしか続編があったような気がするので,さっそく買おう。

2012年4月6日金曜日

クリックしたら,こうなった

多田文明 2009 メディアファクトリー

『ついていったら,こうなった』も面白かったが,この本もなかなか面白い。1時間ぐらいで気楽に読めるし,なるほど,こういう仕組みになっているのかと勉強にもなる。潜入ルポなので,言葉巧みに取り込まれていく様子に臨場感がある。身を挺してのルポに,読む方もちょっとどきどきする。しかし,こうしてだまされて(だまされた振りをして)払ったお金は,経費(取材費)で落ちるのかね。落ちるだろうね,当然。日テレの『イマイ』シリーズも面白いが,イマイ氏が冷めた口調でとことんまで問い詰めていくスタンス(性悪説)であるのに対し,多田氏は素朴に信じてあれよあれよという間に騙されていくスタンス(性善説)なので,これもまたオリジナリティがあって面白い。

2012年4月4日水曜日

身体教育の思想

樋口聡 2005 勁草書房

文章がわかりにくい。日本語が読みにくい。難しく書くことと中身の質は,決して相関しない。優れた文章家は,内容の難易に関係なく,分かりやすい日本語を使う。本書のテーマはいずれも興味深いが,読むのに疲れるので,残念だ。

2012年4月3日火曜日

絶望名人カフカの人生論

フランツ・カフカ 頭木弘樹 編訳 2011 飛鳥新社

ネガティブ!ことごとくネガティブ。逆に,自分を含む多くの人がいかに自分をだましながら,なだめすかしながら,ごまかしながら生きているかがわかる。真実を知る人は,この世の中は生きにくい。

2012年3月30日金曜日

禅の思想と剣術

佐藤錬太郎 2008 日本武道館

前4分の1は中国禅の歴史,後ろ4分の3は武道伝書の解説。中国禅の歴史的展開と,これを踏まえて,武道の伝書(奥義書)に出てくる禅思想を知る意味では意義深い。文章も平易で分かりやすい。著者は剣道の教士七段であり,ときおり自身の剣道修行における体験と意識に触れている。ただし,自身のそうした稽古・修行と体系的に絡めた武道論ではなく,あくまで例として間欠的に修行体験を添える程度。剣道家にはどれもピンと来るのかもしれないけれど・・・。武道伝書に関する,半ば事典的な学術書。

2012年3月23日金曜日

広辞苑の中の掘り出し日本語

永江朗 2011 バジリコ

何度も新聞広告に出ているのでさぞ人気で面白いのかと思ったけれど,あんまり面白くなかったぞ。そもそも,著者は日本語やその意味,および関連知識が(物書きにしては)少ない。物書きなんだよね,この人。しかも今,早稲田大学の教授ときた。もちろん,大半は聞いたことのない言葉を取り上げてのエッセイだけれど,「これぐらいは分かるでしょう」というのも2割ぐらいは含まれていたし,未知の単語についての著者の類推も背景知識が少ないためにとんちんかんだったりして,深みがない。「こころ」と「からだ」に関する言葉を取り上げました,とあるから,僕がそう思うのもしょうがないのか。本書の冒頭には,「面白くない本は最後まで読むべきではない」と薦めているので,何度も途中でやめようと思ったけど,それだと著者に迎合しているみたいなので,最後まで読み切りました。

2012年3月16日金曜日

芸道におけるフロー体験

迫俊道 2010 渓水社

武道芸道が目指す境地を,チクセントミハイのフロー概念で解釈したもの。著者の博士論文がベースになっている。書いてあることは,知識として参考になりました。1点だけ,本書を通して気になるところ。一般的に,仏教的あるいは禅的な悟りの境地を水で喩えることは多いんだけど,だから(水だから)それを「フローだ」というのは議論として乱暴だ。何ものにもとらわれない心とフロー体験は,厳密には違うと思う。

2012年3月9日金曜日

遺品整理屋は聞いた!遺品が語る真実

吉田太一 2008 青春新書

前著「遺品整理屋は見た!」は新鮮だった。本書はその第二弾。著者は何らかの教訓を毎稿の最後に引きだそうとするんだけれど,そういう教訓めいたものは要らないんじゃないかな。30分もあれば読めます。

2012年3月6日火曜日

身体論-東洋的心身論と現代-

湯浅泰雄 1990 講談社学術文庫

身体論の名著。1977年の著書がベース。身体論を語る上で必読。いやはや,この時すでに,ほぼ言い尽くしている。感服。なお,最後の方に出てくる,鍼と超心理学に関する議論だけは,今読むと,本書の質を下げるので,ここは飛ばして読むのを薦める。

2012年2月15日水曜日

「銅メダル英語」をめざせ!

林則行 2011 光文社新書

極めて良い。もともと根っから英語好きという人”以外”に向けた英語学習法についての,現実的で経験的で良質なアドバイス。この著者は,物事をよく分かってる。

2012年2月から

昔は読書メモを書いていた時期もありましたが,いろいろ忙しくて,面倒だと思って止めました。でも,やっぱり,何を読んだのかの記録ぐらいは付けておいた方がいいかなと思ったので,また付け始めることにしました。読書メモついでに感想を一言付けます。