2015年12月24日木曜日

現実を生きるサル 空想を語るヒト:人間と動物をへだてる,たった2つの違い

トーマス・ズデンドルフ(著) 寺町朋子(訳) 2015 白揚社

2つの違いとは,ヒトが心の時間旅行(メンタルタイムトラベル)することと,他者の心を読むこと(心の理論),という話。どこかで聞いたことのある話だと思ったら,やはり,著者のズデンドルフは,マイケル・コーバリスの直弟子でした。コーバリスのThe Recursive Mindと,基本的には同じことを主張していますので,そのアップデート版だという位置づけでしょうか。

訳は,とても読み易い日本語です。だから,翻訳物でよくありがちな,読んでいてその日本語が分からんよ,ということはない。著者は研究者らしく,地道に知見を積み重ねて結論(暫定的な結論)を導こうとする点,好感が持てます。ただ,読み物(一般啓蒙書)としては,少々,ロジックがくどいかもしれない。要点をまとめれば,半分ぐらいになりそうな気もしないでもない。つまり,この手の話に,読者がどこまで詳しいエビデンスを求めているかに依存すると思いました。

でも,良書です。ヒト(人間)の基本的な心のスペックはどんな具合かを知る上で,勉強になります。

2015年12月5日土曜日

[新版]心を清らかにする気づきの瞑想法

アルボムッレ・スマナサーラ(監修) 2013 サンガ

スマナサーラ師の,「いつくしみの瞑想」(慈悲瞑想)と,各種「ヴィパッサナー瞑想」の紹介をしたDVD付きの本。瞑想の実践方法中心。ヴィパッサナーは,立つ,歩く,坐る,を<実況中継>する方法が説明されています。まずは,理屈や用語などややこしいことはさておいて,とにもかくにも,実況中継瞑想をしましょう,そうすると,少しずつ変化が感じられますから,という本です。

なお,この本には,慈悲瞑想はサマタ瞑想だと書いてあるけれど,うううん,そうなのかな~。慈悲瞑想って,マインドフルネス瞑想(=止観=サマタ&ヴィパッサナー)とは違うと思うんだけど。(マインドフルネス瞑想をする前にしばしば,準備として慈悲瞑想をする,というのは聞きますが・・・)

2015年12月4日金曜日

憎悪の広告:右派系オピニオン誌「愛国」「嫌中・嫌韓」の系譜

能川元一・早川タダノリ 2015 合同出版株式会社

右派論壇誌(右派系オピニオン誌)の新聞広告(中吊り広告)に出ている見出しを元に,近年の右派思想を分析する,という趣旨の本。

いやしかし,普段,確かに新聞の下段に出ている広告だとか,電車の中吊り広告で,見掛けるには見掛けるけれど,それほどちゃんと見出しの文字を追ったこともなかったし,ましてや買って読むこともないし,どういう類の雑誌なのか詳しく知らなかったのですが,こういう雑誌が刊行(主に月刊誌?),それも複数刊行されていて,その中身がどういうものなのか,この本を読んでとてもよく分かりました。

ただ,この本の難を言えば,せっかくなるほどと思える面白い分析をしているのに,分析対象である広告そのものも文字情報だし,本文は当然文字情報だし,さらに広告の説明も細かい文字情報だしで,構成上,目に入ってくる情報が過多な感じがどうしても否めません。また,本文と,その本文が示している広告の図の掲載位置が近かったり遠かったりで,それも読みにくさを助長しています。であるからこそ,もう少し丁寧に,広告の文字を細かく追わなくても,本文を読むだけで楽しめるようになっていたら良かったなと,思いました。(あるいは,1つの広告で,見開き1ページあるいは2ページ構成にする,とか)

あと,なんというか,全部で13章に分かれていますが,各章テーマに違いはあれ,分析(ツッコミ)のパタンが一本調子なので,それもまたちょっと単調で重たい気がしました。

2015年12月3日木曜日

大地に触れる瞑想

ティク・ナット・ハン(著) 島田啓介(訳) 2015 野草社

ティク・ナット・ハン師の,マインドフルな瞑想に関する本。アメリカの書店に行けば,宗教のコーナーの戸棚一段,ティク・ナット・ハン師の本でしたから,海外ではダントツの,絶大な人気です。これまで何冊か訳書を読みましたが,これもその中の一つ。テーマは大地です。

全体を通して,感謝をしながら,今ここにある幸福を感じながら,慈悲や思いやりを持って,マインドフルに,生きましょう,というメッセージです。優しさgentlenessと柔らかさsoftness,が全体を包んでいます。

上座部仏教(南方仏教,テーラワーダ仏教)は,禅仏教に比べると,こういう,優しさや柔らかさ(緩やかさ?)があるような気がします。禅仏教は,もうちょっと,ストイックな感じです。削ぎ落としていくような厳しさがあります。対して道教はもっと「生々しく」活き活きとした感じ。活き活きと柔らかく。でも,どれもやっぱり行き着くところは同じではないかと思います。

いろいろ読むと,アプローチが相対化されて,良い。

2015年12月1日火曜日

「絶対ダマされない人」ほどダマされる

多田文明 2015 講談社+α新書

多田氏の詐欺・悪徳商法に関する最新の新書。これまでもいくつか著書を読んでますが,今回は,現代の詐欺の総覧的な本で,その種類や手口について,紹介しています。世の中ほんとうに,騙そうとする輩がいかに多いか。怖い怖い。これを読んで,ダマされないようにしましょう。

マインドフルネス瞑想入門

吉田昌生 2015 WAVE出版

数々あるマインドフルネス本の中でも,この本はかなり良い。これまで何冊も読んできましたが,この本は,マインドフルネスで押さえておきたいエッセンスを,丁寧に無駄なく,それでいて簡潔に,説明しています。マインドフルネスに関する本は今,巷に数多く溢れていますが,この本は絶対に読むリストに入れておいた方が良いと思う。

この吉田氏は,ヨギーですが,ヨーガ的な説明や解釈に偏らず,いわゆるカバットジン的な(心理学的な)マインドフルネス瞑想をする際の要点やコツを中心に,ほんのわずかにではありますが軽くプラーナとか気とか仏教的背景にもサラッと触れながら(深追いせず),解説しています。入門書だからといって端折ることなく,マインドフルネス瞑想とは何をどうすることなのかについて,押させるべきところは押さえている感じです。

だからとても良い。瞑想を続けていても,ついつい自分よがりになっていきます。なのでときどき初心というか本質を振り返る意味で,たまに読み直してみるとよいだろう,そう思える本でした。

これは買って損はないです。

ただし3点,細かいですが気になる点がありました。だけど,たったの3点。

・「怒り」についてはちょっと別,ということを書いています。確かに書いているようなこともあるかもしれませんが,しかし,僕は怒りも同じように扱えると思っています。マインドフルネスというアプローチを考えると,特にこの場合はこれ,あの場合はこれと,例外を示さないことの方が良く,というか,例外はなく同じように扱えるわけで,その意味で,「怒りは別」みたいな書き方はちょっと誤解を招くかと思いました。

・「脳」に関するところは,間違っていないようで,ただ,後半,あいまいな感じになります。そもそもここでは,脳の可塑性を前提として,マインドフルネスが影響する,ということだけ分かれば良いので,脳に関する詳しい話や厳密な議論は,直接的には必要なかったかもしれません。

・最後に「思考」に関して,認知を変容する,という話になっていますが,しかしこれは,典型的なCBTの話であって,せっかくここまで全編マインドフルネスについてほぼ隙の無い丁寧は本になっているのに,なぜここで少し歴史を戻るのか,と思いました。いやもちろん,マインドフルネスも感情や思考をターゲットにしてはいるのでCBTの流れの中に組み込まれるわけですが,しかし,扱い方が根本的に違うわけで,感情や思考をどう変容しようかという話ではなくてどう付き合おうかという提案なわけだから,ここで認知の変容,のような話はマインドフルネスの本質と拮抗するように読めます。