2020年8月24日月曜日

映像と身体

 立教大学映像身体学科 2008 せりか書房

前からずっと不思議に思っていました。「映像身体学科」。立教大学の現代心理学部の中にあります。つまり,現代心理学の一つの学科です。なぜここに「映像身体学」なるものが入っているのか,まずこれが疑問でした。映像身体学は現代心理学なのだろうか。

もう一つの疑問は,なぜ映像と身体なのか。ただこれはたぶん「イメージ(表象)」という概念を結び目として,身体・イメージ(表象)・メディアという枠組みは,早稲田の文学部にもあります。東京大学にも,表象文化論教室があります。でもどれも,心理学の枠内ではありません。

そこで,そういう枠組みが一体どういうことに焦点を当てて,どういう問題を考えているのか知りたくてこの本を買って読んでみました。第一の疑問はおそらく解かれないとしても(映像身体学が心理学の一部とは到底思えないから),第二の疑問には答えてくれるだろうと思って。

しかしその期待は外れます。結局この本に書かれていることは身体学と映像学であり,残念ながら,決して「映像身体学」のことではありません。一体何なの「映像身体学」。かろうじて後半,映像と身体の話が絡むものもありますが,大半は身体学と映像学の話であり,つまりは寄せ集めです。これで良いのだろうか。ま,立教大学や当の先生達が良ければそれで良いのか。

なお,身体学と映像学それぞれの話はどれも面白いものでした。だから無理矢理「映像身体学」にしなくても良い様な気が,やっぱり,します。新しいモノを作るというよりは,お互いがお互いを制限してしまって,無理矢理感がどうしても拭えません。メディア表象学科とか,身体表象学科の方がまだ良かったのではないでしょうか。そんなネーミングは十分考えた上であえて「映像身体学科」にしたんでしょうけれど(笑)。

そもそも,「映像」をどう定義しているのかが,読んでいてずっとよく分からない。「映像」って?映画?フィルム?写真?絵画?イメージ?表象?心象?二次元?三次元?ってか,視覚で捉えるものなら何でもアリなのか。何でもアリで学問(学科)なのか。学の条件って,学科の条件って,何だ?何でもアリなのか。

でも,繰り返しますが,各章の論考はいずれも,読んでいて面白いです。気になるのは,なんでこれらを「映像身体学」なんてのにまとめようとするのか,です。その意図が全く伝わってこないし,伝えようとしていない(あえて回避しているような,あえて曖昧にしているような)ところが,どうしても腑に落ちませんでした。

2020年8月22日土曜日

人工感情:善か悪か

 福田正治 2018 ナカニシヤ出版

『感情を知る:情動学入門』の福田先生の本。来るAIの世界を想像する「未来学」の本なので,福田先生がさてどんなことを語るのかと読み始めましたが,なんとなく,書かれている情報や論理に新鮮味もなく,どこまで真実でどこまで噂レベルの話なのかもよく分からず,しばしばよく聞かれる危機感やリスクが散りばめられている割に話の筋にあまり深まりや独自性はなく,残念ですが,読んでいてワクワクしなかったので,読むのを止めました。

認知日本語学講座第4巻 認知意味論

 大月実・進藤三佳・有光奈美 2019 くろしお出版

認知意味論といっても,特にカテゴリー論(命名論,色彩語),意味変化・意味拡張,否定の話。専門書だからか,何かを説明するための用語や概念の説明がなく(それは既知だという判断か),とにかく全体的に分かりにくい。ただ,専門の研究者から見ればきっと,情報が詰まっている良い本なのかもしれません。

それから思うに,自分の興味がメタファーにあるので,内容的にちょっと的が違うせいもあるかもしれません。読みにくくて途中で断念しました。

禅の歴史

 伊吹敦 2001 法蔵館

禅に関わる人物や文献(経典)が無数に出ていて,何か言いたいことがあるというよりは,ただ名前と経典が並んでいるだけのように読めてきて,早々に断念しました。資料としては良い本だろうと思いますが,読み物としては厳しい。

2020年8月19日水曜日

認知意味論のしくみ

 籾山洋介 2001 研究社

認知意味論の特に,多義や意味の拡張に関するものでした。初版が2001年なので,話題が少し古いように思いました。学問の世界も,10年20年あれば,当時の理論やタームに代わって新しい理論やタームも出てくるので,そうなると,当時の理論やタームはあまり(あるいは全く)使われなくなることはあるわけです。また,あるタームに関する考え方や捉え方も洗練されてくるでしょうから,時代によって変わるのも当然です。

特にこの認知言語学は比較的新しい学問領域のせいなのか,あるいは,この学問(言語学?)がもともとそういう性質を帯びているのか分かりませんが,短い期間で新しい理論やタームがどんどん作られているように感じます。いやもしかしたら,心理学も端から見れば,似たような理論やタームが乱立しているでしょうから,同じようなものか。

2020年8月18日火曜日

絶対必見!SF映画200

 STUDIO28 2019 洋泉社

スペースオペラ,異星人,ホラー,タイムトラベル,ディストピア,ポストアポカリプス,ロボット,・・・などテーマで分けてそれぞれ5つぐらいの映画をレビューしています。どのレビューも面白いですが,ただ,選んだ基準がよく分からず,なんでこの映画?あの映画はないの?という感じ。

まぁ,たった200に絞り込むのは難しいというのもあるし,一般的に有名な映画を集めたところで本としての特徴は出せないから,どうしてもマニアックなものを選ぶ傾向は出てきてしまうでしょう。その点で,ライターの知識や趣味が出るのは仕方がないか。

この中で一人,書く文章が特徴的で(癖が強くて),生理的にどうにも受け付けないライターがいました。日本語が崩壊している感じで読みにくいし,映画通でないと分からない排他的な感じが鼻につきます。その人のレビューや総論は全部,飛ばしました。

2020年8月13日木曜日

心という難問:空間・身体・意味

野矢茂樹 2016 講談社

非常に読み応えがありました。「眺望論」と「相貌論」のいずれも説得力があります。素朴実在論をどうやって哲学的に説得するかに,約300ページ丸々かけています。どうやったら説得的か,熟慮に熟慮を重ねて,どういう順番で何をどう書くか,丁寧に練られている感じです。

だからとても分かりやすいし,説得的です。そして,これはこれで筋として間違っていないと思うし,生きている実感に一番近いところで着地している論になっていると思います。端的に面白かった。

他我問題については,これを機に,大森荘蔵を読もうと思う。