2018年5月30日水曜日

シャーデンフロイデ:人の不幸を喜ぶ私たちの闇

リチャード・H・スミス(著)澤田匡人(訳) 2018 勁草書房

本書は,妬みやシャーデンフロイデに関する心理学研究に基づく,科学読み物です。いわゆる専門書ではないので,一般の方が手にとって読みやすい構成になっている本です。内容は,いずれも馴染みやすい例が各章のテーマにちなんで展開されていて(モーツァルトやタイガー・ウッズ,テレビ番組から,ナチス・ヒットラーまで),論を支える心理学研究が分かりやすく解説されています。

そして何より,日本語の訳が良い。丁寧で読みやすくこなれていて,リズムも良い。さすが澤田さん。きめ細かい。彼の性格からも推し量れるが,おそらく,本文中,誤字脱字は一カ所もなかったと思う。(唯一,p.230の図6は,「実際」と「予測」が逆じゃないかと思うだが,違うかな?この通りで正しければごめんなさい。気になったのはそのくらい)

敵意とも関係しているので,怒りや攻撃といった対人関係上の感情や行動として,詳細に分かり,とても勉強になりました。我々人間のこうしたダークサイドを知りたい,理解したい,という人は是非。読み物として面白いです。

2018年5月11日金曜日

整体入門

野口晴哉 2002 ちくま文庫

身体論周辺で,野口と言えば野口三千三先生ともう一人,野口晴哉先生です。ようやく読みました。本書はもともと,1968年に『野口晴哉・整体入門』として東都書房より刊行されたものです。「活元運動」の野口整体です。こういう世界かと,楽しみながら読めました。野口三千三先生の方は,人間という身体的存在の探求,という感じに近いですが,こちら野口晴哉先生の方は,どうやったら治せるか,というところに力点があります。

しかし,これだけのことをたぶん一人で考えて研究して実行して施術して治して,とやるのは,並大抵のエナジーではないかとは,読みながら伝わってきます。それから,昭和30年代40年代の香りのする筆致が,なんだかとても懐かしい感じがしました。

(ちなみに,この記事を書いた5月11日の3日後,5月14日発売の月刊『秘伝』の特集が,「野口整体」でした。なんと奇遇な;笑)

2018年5月1日火曜日

禅マインド ビギナーズ・マインド

鈴木俊隆(著)松永太郎(訳) 2012 サンガ新書

ようやく読みました。スティーブ・ジョブズも愛読したという鈴木師の名著。道元の禅を忠実に実践していると,素人ながらに思いました。仏教イコール実践,実践イコール仏教であり,だからとにかく坐りなさいという鈴木師の話は,全体を通してシンプルです。ただ,シンプルゆえに分かりにくいところもあり,でも,その分かりにくさは禅そのものの言葉で伝えようとするときの分かりにくさであって,鈴木師の話の分かりにくさや翻訳の分かりにくさではありません。不立文字の禅は実践あるのみ,只管打坐の道元禅を,ただただ,アメリカの人たちに伝えようとした鈴木師の真摯な熱意が伝わる本でした。

鈴木師は,私が生まれた8日後に亡くなりました。四十数年して,ようやく辿り着いた,そんな気持ちです。