2013年3月22日金曜日

中村文則 2012 河出文庫

中村文則,初めて読みました。彼のデビュー作『銃』。なんだか切ない話でした。この文庫版には『火』という短編もくっついています。こっちもなんだか切ない。やりきれないというか何というか。『銃』は,いろんなところで高い評価を聞くので,いつか読もうと思ってようやく読めました。やりきれない話だけど,あるね,こういう感覚。Kellyが人はsecretsが必要だ,なんてことをオランダの会議の時に言っていたけど,それはある面その通りです。でも一方で,『銃』の主人公のように,表出もしたくなる。Pennebakerもだから,正しい。大学生ぐらいの時の心情を再び思い返してみたい人は,是非。でも,こういう感覚がまったくなかったっていう人もいるんだろうな,きっと。

2013年3月21日木曜日

堕落論

坂口安吾 2011 ハルキ文庫

安吾の堕落論。20数年ぶりに再び読んでみた。まったくウル覚えで,だいたいこんな事書いてあったよなというイメージぐらいしか残っておらず,果たして,今回再読してみて,そうかこういうことを書いていたのかと思い直しました。ハタチ前後の頃に読む安吾と,アラフォーで読む安吾は,違うなとしみじみ。記憶では当時,「堕落論」というタイトルからして刺激的だったけど(でもって何をこんなに怒りとも叫びとも嘆きとも分からないことと切々と書いているのかと不思議だったけど),今読めばずいぶんとちゃんとしたこと(まっとうなこと)を書いてるなと思う。安吾はでも,49歳で死んでるんだよな。堕落論を発表したのは,彼が40歳のとき。だからか,妙に共感してしまう。

2013年3月15日金曜日

荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論

荒木飛呂彦 2011 集英社新書

ソフトに読める(ホラー)映画論。あの『ジョジョ』の根底に流れている荒木ワールドの源泉の一つ。マニアです。マニアだけど,ハードすぎなくて良い。極端なマニアの,「知ってる人にしか分からない」的な,排他的な映画論でないのが良い。ネタバレの話はほとんどなく(唯一,「シックス・センス」だけ),取り上げた映画を読者がほどよく観たくなる,良い映画論です。プロの映画評論家とはまた違った味がある。しかし,この人,ホラー映画マニアだねぇ。その愛情は,全編にほとばしってます。

2013年3月13日水曜日

「生きづらい日本人」を捨てる

下川裕治 2012 光文社新書

日本を脱出(?)し,アジア(沖縄を含む)で暮らす日本人のルポ。どの話もそれぞれ,日本の「生きづらさ」が浮き彫りにされている。ここで包括的に「生きづらさ」としているけれど,もう少し分解すると,資本主義,拝金主義,バブル崩壊,あるいは物価高,仕事のなさ(リストラなど),要は全部,「お金」に関わることでした。色んな意味でお金に振り回された末に,貧しい生活だけれどもお金に振り回されないアジアの国々に長期滞在(移住)している人たち。冒頭,著者は,「沖縄病」という言葉を使っているけれど,少しだけ分かる気もする。

2013年3月10日日曜日

間抜けの構造

ビートたけし 2012 新潮新書

「間」に関わる,たけしの色んな話。分かってる人の話は素直に読める。なにしろ,この人はとてもバランス感覚が良い。総じてまとめると,間の分かってる人はメタ認知ができている人だ,ということを言っている。まさにその通りだと思う。だいたい間の悪い人は,自分が客観的に見えていない。おまえはどうなんだと言われそうだけど(笑)。たけし自身,どうも若い頃はそうでもなくて,ただでも,嗅覚だけは人並み外れて良かったのかな,きっと。時代を読む嗅覚。空気を読む嗅覚。間を読む嗅覚。まぁ,しかし,たけしのことだから,バランス感覚があるように見えるのもまた高度にメタ認知してのことだと思うけど。つまり,メタ認知していることをメタ認知している。

2013年3月9日土曜日

2013年3月7日木曜日

箱根駅伝を歩く

泉麻人 2012 平凡社

私は箱根駅伝ファンである。また,かつて泉麻人氏の著書を読んで面白いと思った記憶もある。そこで,購入。しかし,結論を先に言えば,あんまり面白くないぞ,この本。いや,もしかしたら,東京や神奈川の地理に詳しい人であれば,結構面白いのかもしれない。しかし,東京や神奈川に直に住んでなくて,箱根駅伝のコース周辺について,土地名や道路名だけで位置関係やイメージが湧かない人にとっては,まったく面白くない。加えて,泉氏が実際に歩いて,コース周辺の名所旧跡を探訪するという企画だが,話の大半はその歴史的由来ばかり。平坦な紹介ばかりで話に浮き沈みがない。ときに,思い出したように無理矢理ランナーの気持ちと重ねたりして,それもあざとい。まぁ,「箱根駅伝地理派」と自称しているので,良いんだけど。半分まで読んで,読んでいて何も感じないので,読むのを止めました。

2013年3月6日水曜日

教科書に載っていないUSA語録

町山智浩 2012 文藝春秋

アメリカという国のリアルな生活実態,アメリカ人のリアルな心象風景を垣間見るには,この,町山智浩氏の著書が良い。もちろん,これもまた町山智浩という人の目から見たアメリカだし,そもそも書いていることが全部本当かどうかも分からないけれど,とてもリアリティがあるし,かつ,軽くて面白い。この,町山氏のアメリカ話も面白いけど,本業?の映画評論の方もまた面白い。

2013年3月1日金曜日

現代坐禅講義:只管打坐への道

藤田一照 2012 佼正出版社

強為ではなく云為で坐る。坐禅は身体運動である。副題にあるとおり,道元の唱えた只管打坐とは何か,その本質を徹底的に追求した,良書中の良書です。著者の藤田禅師の言いたいことは痛いほど分かります。全面的に同意します。初心者,入門者でも坐禅の妙味は味わえるはずだし,そうでなければ坐禅ではない,という思いもよく分かります。坐禅に対する偏見を払拭したい,本来の坐禅を伝えたい。そのことを追求されている藤田禅師は素晴らしい。縁があれば,その座禅会に参加したい。まぁ,求めずとも,縁があれば会えるだろうし,縁がなければ会えないでしょう。ただそれだけです。しかし,やはり難しいのは,坐禅というものに初めて接する人にとっては,この本に書いてあることはたぶんあんまりピンと来ないのではないかと思う,ということです。坐禅をしてあれこれ考えて考えた末に,あれこれ自分なりに実践して実践した末に,あれこれ探求して探求した末に,ここに辿り着けば,この本に書いてあることは,本当に,なるほど確かにそうだ,そうそうこの感覚だ,こういうことなんだよ,というような,ためになることが宝石箱のように詰まっています。でもそれは,実践してきた人にしか,たぶん,なかなか伝わらないのかなとも思いました。坐禅とは何かを分かった上でやらないと時間の無駄になる,という本書のサブメッセージも,分かります。が,坐禅とは無縁だった人に坐禅とは何かを伝えるというのが,いかに難しいかということも改めて読んで感じます。空手も同様で,本来の空手とは何かを伝えるために,空手に対する偏見を払拭する必要があって,そうでなければ,本当の空手の良さは伝わらないし,せっかく空手(らしきもの)をやっても意味はないしと思いつつ,一体どうやってそれを伝えようかは,常日頃思い悩んでいますが,なかなか良い答えが見つかりません。試行錯誤です。藤田禅師が坐禅について目指そうとしていることと,同じだなと,読みながらつくづく思いました。でも,だから,本書は,その意味で意欲的で挑戦的な,良書中の良書です。日々坐ってる人にとっては,読んで損はない,必読書です。