2017年1月28日土曜日

悪意の心理学:悪口,嘘,ヘイト・スピーチ

岡本真一郎 2016 中公新書

岡本先生は「ことば」が専門の,著名な社会心理学者です。本書はその岡本先生が,社会心理学と言語心理学の知見をベースに,いろんな状況や場面を例に「悪意」について説明したり考察したりしたものです。

「悪意」ですので,本書を通して見ようとしているのは,話し手(メッセージの送り手)の「意図」です。話し手の意図というものがどう伝わり,聞き手(メッセージの受け手)にどう思われるか,どういう影響を与えるかを,丁寧に分析した本です。心理学の基本的な(教科書的な)知見も散見されますが,そうした基本的知見を「悪意」という横軸でもって横断的に切り取っていくとこういう風に関係するしこういう風に見えてきます,という本になっています。だからとても参考になりました。

岡本先生の文章は,平易で分かりやすい。例文の中には関西の訛りがときどき混じったりしていて,親しみが沸く。愛知学院大学は私の実家のそばというのもあって,これも勝手に親近感を覚える要因になっているかも。愛知学院大学の学生は,岡本先生の講義が聴けてうらやましい。

2017年1月20日金曜日

マインドフルネス入門講義

大谷彰 2014 金剛出版

瞑想実践と臨床経験と仏教に関する造詣の深さを礎に,実証研究(エビデンス)への確かな読み込みもあいまって,非常に勉強になるきっちりとした本です。注や引用文献も豊富で,これをお一人で書いたかと思うと脱帽です。

だからこれは一般書ではなく,専門書,それもかなり高度な専門書です。これからマインドフルネスを臨床実践に使いたいと思う人,研究対象にしたいと思う人などは,読んでおくべきでしょう。

エビデンスにこだわっている良書ですので,その意味でも逆に言えば,出版年である2014年時点での成果です。もうそれから数年経っていますが,特にはニューロサイエンス方面の知見は日進月歩ですので,この方面を研究したい人は,本書は参考程度に読まれると良いと思います。

著者が臨床家ですから,基本的には,臨床応用のためのマインドフルネスに関する話です。その点,仏教的マインドフルネス(本書ではピュア・マインドフルネスと命名)と臨床的マインドフルネスの区別を明確にしている点は,とても勉強になりました。分かってはいるつもりでしたが,ついこれらを区別せずに一緒くたにしてしまいがちで,この辺あいまいでしたが,本書を読んで合点がいきました。そして改めて,自分はどちらかというと,ライフスタイルとしての仏教的マインドフルネスを志向しているんだなと再確認しました。

なので,繰り返しますが,マインドフルネスの臨床応用や研究に興味関心のある人は,本書はとても参考になります。

2017年1月17日火曜日

図説マインドフルネス -しなやかな心と脳を育てる-

ケン・ヴェルニ(著) 中野信子(監訳) 2016 医道の日本社

装丁が綺麗で図や写真も豊富で,そもその「図説」とあるので面白そうだから買いましたが,最初の20ページぐらいですでに何カ所か,うううむ,それはちょっと違うんじゃないかなぁ,という箇所が散見されたので,読むのを止めました。

これは,著者自身が間違っているのか,翻訳が間違っているのか,どちらか分からないですが,マインドフルネスって,僕が思うに,とても微妙な感覚の話なので,言葉の一つ一つを丁寧に使わないと,すぐにピントがずれてしまいます。

本来なら感じるままに伝えたいわけですが,伝達手段として言葉は使わざるを得ず,そうなると言葉の限界ってのがあって,これが誤解や間違いを生む原因になります。だからこうして図や写真を使って説明,というアプローチが考えられるわけですが,しかし,本書を見る限り,図や写真はおまけで,言葉による説明はけっこう多いです。

大型本であり,情報量はけっこうあります。マインドフルネスをどう捉えるかは,武術をどう捉えるかに似ていて,人(師)によって表現の仕方はまちまちです。だから,この本はこの本で,きっと,良いと思える人はいるだろうから,それはそれで良いと思います。装丁や図やイラストや写真は,綺麗ですよ。

僕には合いませんでした。

入門 老荘思想

湯浅邦広 2014 ちくま新書

とても良い。面白い。分かりやすい。中国古典に関する本には,一般書なのになぜか学者然とした分かりにくい論文調の,あるいは書き下し文みたいな日本語だったりして,一般読者を置いてきぼりなものがときどきあるけれど,この本は,ものすごく読みやすい。まず,著者の湯浅先生(大阪大学)の書く文章が平易で整っているので分かりやすい。

本書の特徴は,『老子』と『荘子』の思想を内容的観点や歴史的観点からまとめなおし整理しつつ,かつ,最近出土した新資料に基づいて再解釈もしつつ,という点である。私のような門外漢の素人には,とても勉強になる。

老荘思想,道家思想のポイントや流れを踏まえるには,とても良い「入門書」である。おすすめ。