2016年9月25日日曜日

鬱屈精神科医,占いにすがる

春日武彦 2015 太田出版

春日武彦氏の著作は,前から好きで,よく読んでましたが,このところご無沙汰していたので久しぶりに目に止まり買って読んだら,うううむ,あれれれ,こんなにネットリした感じの文章を書く人だったっけ,まるで別人とまでは行かないけれど,昔はもうちょっとドライというかシニカルというか,アンニュイだけれどストイックというか,なんかそういう感じの人だと思っていたけど,こんなにウェットで湿度の高い書きっぷりでものを書く人だったっけ,と,そんな感想です。なんか,スマートなキレ味がすっかり抜けて,なんだかとってもネバネバドロドロな感じ。

シニカルで,世間から少し距離を置いた,厭世的というか,諦観してる感じが良かったんだけれど,タイトルに偽りなく,ことごとく「鬱屈」していて,なんだか妙に人間的というか俗っぽいというか,あまりにも普通すぎて,申し訳ないけれど,この程度の思索だったら,なんか素人の私的な自伝(自分史)読んでるみたいで,なんだか読むに値しないなぁと思い,途中で断念しました。

もともとこういう文章だったのかもしれず,そうなれば,原因は読み手である僕自身が変わったのかもしれず,春日氏が変わったのではない可能性も高い。しかし,もう,諦観したシニカルな文章は,書かないのかね。

2016年9月15日木曜日

「モテない人」と「仕事がない人」の習慣:ダメ男,38のエピソード

ヒロシ 2016 バジリコ

結果的には,芸人・ヒロシ氏の半生をざっくり綴ったエッセイで,まぁ,面白かったけれど,タイトルは全然中身とフィットしていない。せいぜい副題が中身を示しているぐらいで,本題は,ちょっとどうかと思う。

ヒロシ氏が,その独自の視点で,「モテない人」と「仕事がない人」の習慣を38の視点から分析する,というものを想像していたけれど,全然違いました。要するに,繰り返しますが,エッセイです。

発見は,ヒロシ氏が,僕と同学年だった,という事実です。いや,もっとずっと若いかと思ってました。応援します。

2016年9月14日水曜日

「超」入門!論理トレーニング

横山雅彦 2016 ちくま新書

本書は,論理(ロジック)とは何かを丁寧に解説した入門書ですが,一方で,よくよく考えれば「日本人にとっての”入門書”」であることに思い至るわけで,そのことから,本書は文化論でもあります。

思い返せば,今から25年(四半世紀!)前の学生の頃,当時,福沢一吉先生(認知神経心理学)がアメリカから帰国され,「ディベート」の授業か何かをされていたのを受講し(あるいは,神経心理の講義中にディベートの話をされたのか記憶が定かでないが),本書にある論理(ロジック)について学んだ(知った)のを覚えています。

おそらく,心理学論文を読む上で必要な知識だから,ということだった記憶があります。科学をする上で,本書の示す論理(ロジック)は,必須の知識です。なぜなら,科学は西洋的な思考の産物であり,西洋はロゴスの世界であり,ロゴスの世界に生まれた人たちにとって論理(ロジック)は空気のようなものだからです。その西洋的科学の世界でやっていくためには,論理(ロジック)を理解しておく必要があります。

福沢先生の授業を聞いて,当時,「おお,なるほど」と感心した覚えがあり,だからこそ,今でもそのことをよく覚えているわけですが,本書を読んで改めて,論理(ロジック)の構造をよくよく理解し直しました。これから研究者になろうとする者,特に心理学のような「科学」をやろうとするならば,こういうのは,学生のうちに身につけておく教養だと思います。論理(ロジック)は,科学的営みの大前提であり,基本中の基本です。

本書によって,日本人にとってなんでこういう入門書が必要なのかが,改めてよく分かります。科学を志す高校生・大学生にとって,必読書です。

2016年9月3日土曜日

ソマティック心理学への招待:身体と心のリベラルアーツを求めて

久保隆司・日本ソマティック心理学協会(編) 2015 コスモス・ライブラリー

「ソマティック心理学」として久保隆司氏を中心に設立された日本ソマティック心理学協会のメンバーによる,身体と心に関する幅広い論考を集めた本です。話題は幅広いので,通して読んでいて飽きませんし,読みたい章だけ読むのもアリです。

副題にあるように,リベラルアーツ,です。「身体」というキーワードを軸に,「心理学」の枠には収まらない,幅広い視点や知識が絡んできます。近年,その「身体」が一つの潮流になっていますが(「身体」からのアプローチ,20世紀後半の認知革命・認知主義に代わる21世紀の身体革命・身体主義,とでも言いましょうか),その一翼が,このソマティック心理学,でしょう。

色々と,勉強になります。