2013年4月28日日曜日

あなたはなぜ「嫌悪感」をいだくのか

レイチェル・ハーツ(著) 綾部早穂(監修) 安納令奈(訳) 2012 原書房

すごく面白い。いわゆる「科学読み物」の範疇だけど,専門書とも言える情報量。一般に,海外では科学ライターといった職業の人があるトピックについて分かりやすく面白く伝える,というパタンはよく見かけます(日本にはあんまりこの類の本は見かけない)。それは科学ライターという専門職が書く読み物なので,当然,よく書けていて面白い。一般の読者に売ってナンボなので。しかし,この本は,心理学者の書いた本であって,まずは,自分自身の専門分野をこれだけ面白く書けるその文章力に脱帽です。専門のトピックを専門書として書くのは普段の仕事なので何ら難しくないのですが,こうして,一般の読者にも面白く読める文章を書くというのは,なかなか難しいだろうと想像します。そして,今まで読んだ海外の科学読み物の中でもベスト3ぐらいに入る面白さ。読み進めるにつれて,まさに「嫌悪感disgust」ワールドに引き込まれていきます。研究が広がる面白さ,展開する面白さ,あれとこれとが関連する面白さ,人間の奥深い謎を紐解く面白さ。感情研究をしている院生なら是非読むことをオススメするし,学部学生だってこれを読んで感情研究の面白さ,研究するってことの面白さが伝わるんじゃないかなぁ。いやしかし,「嫌悪感」って凄い。研究の対象にしたくなってきた。ちなみに私の嫌悪感受性は(本書の中に尺度があります),普通より結構(かなり)高かった(笑)。ところで,読みやすい理由の一つには,訳文の日本語が分かりやすい,というのもあろうかと思います。だからこの翻訳家の方(安納令奈氏)と監修者の綾部さんのセンスと力量が極めて高い,という証拠でもあります。なお,本書はその監修者の綾部さんからタダで(謹呈して)いただきました。研究室に立ち寄ったときに見つけて「この本,オモシロそうですね~」と言ったら,その場で気前よく一冊下さいました。大いに感謝です。周囲に宣伝しておきます。

2013年4月17日水曜日

ゾンビ日記

押井守 2012 角川春樹事務所

『攻殻機動隊』『イノセント』など,かの押井守氏の小説。小説としては三流。しかし,「死と戦争」「兵器と死」「死と身体」というテーマに関する論考だとして読めばそれなりに。ゾンビの設定は,押井氏が自分の考えを述べるための装置であり,小説の格好をしているだけとも読める。ゾンビものの設定としては奇抜で,この世界では,ゾンビはただ単に徘徊するだけ。襲ってこないし,人肉も食べない。感染もしない。腐らない。原因は不明。唯一,ゾンビを倒す方法は頭部を破壊するという点だけは,踏襲している。でもそのせっかくの斬新な設定が深まっていかない。だから小説としては三流。ゾンビものの新機軸,と思って期待して買うと肩すかしに会う。押井氏のウンチクを堪能したい人は是非。

2013年4月13日土曜日

The Compass of Pleasure

Linden, D.J. 2011 Penguin Books

ドラッグ,脂っこい食事,セックスなど,人の行動を司る脳の快楽回路(pleasure circuit)に関する本。文章は非常に読みやすい。例も分かりやすい。ただ,その背景として神経科学的な解説に終始するので,ちょっと疲れます。疲れたので半分ぐらいまで読んで断念しました。もうおなかいっぱい,という感じです。この本,すでに翻訳されてますね。そのものズバリ,『快楽回路』です。原題は,「快楽のコンパス」。

2013年4月3日水曜日

Martial Arts as Embodied Knowledge: Asian Traditions in a Transnational World

D. S. Farrer & John Whalen-Bridge (Eds.) 2011 Suny Press

武術に関する人類学的?研究。方法論が違うからか,なんだか当を得ない書き方,言葉の選び方なので,途中で読むのを止めました。同じ「言葉」なのに,分野が違うとこうも選ぶ言葉が違うものかな。やはり,心理学だと,読みやすい。なんていうか,使う動詞や文章構造に慣れているというか。その他,何をどう探求していくのか,先行き(展開)が見えないのも,読むのに苦労する理由の一つかな。心理学なら,次はこうなるだろうなとか,こういうエビデンスならこういう風に展開するだろうなというのがある程度予想できるから,読みやすいのかも。

2013年4月2日火曜日

「空気」の研究

山本七平 1983 文春文庫

日本人特有の,「空気」による意思決定の支配。元々の単行本が昭和52年4月発行。分析はその通りであり,今も昔も変わらない。要するに,集団状況における社会的圧力の話で,日本人は特にこの「空気」に弱く,自縄自縛の状態になり,まさに自爆するということ。惜しむらくは,昭和50年頃ってのはこういう文章(日本語)を書くのが通例だったのかどうかは分からないけれど,なんとも読みにくい。本書はたぶん,名著と言われる部類なので,当時はとてもよく売れた本なんだろうけれど,言葉一つ一つが硬いし,文の一つ一つが長いし,順接なのか逆接なのか分かりにくいし,主節と従属節が入り組んでいて意味が捉えにくい。なので,半分ぐらい読んで,読むのを止めました。