2017年8月19日土曜日

「密息」で身体が変わる

中村明一 2006 新潮選書

2006年に出版されていたのに,本書に今まで辿り着けずにいました。自分の情報収集能力の稚拙さを思い知ります。空手の呼吸法はこの「密息」そのものです。知らずに拙著『空手と禅』では,この(空手の)呼吸法をとりあえず(胸式や腹式や逆腹式とは異なるという意味で,また丹田を充実させ続けるという意味で)「丹田呼吸法」として説明していました。

「密息」とは,骨盤を後傾し,吸いで腹が膨らみ,吐きでも腹を凹まさない,つまり,ずっと腹を出し続ける呼吸法です。私はこれを空手の師から習いました。

なお,身体術として骨盤を後傾させる技法は,日本だけでなく,中国の太極拳でもインドのヨーガでも,やります。太極拳もヨーガも,呼吸法が最重要の要素です。だからこの「密息」をもっと詳しく歴史的文化的に調べて辿っていけば,面白い研究になるんじゃないかと思いました。

2017年8月11日金曜日

比較思想論

中村元 1960 岩波全書

そもそも比較思想論って何だろうと思い,買いました。そのほんの少しだと思いますが,様子をうかがい知ることができました。定価「380円」と印字されています。文章も漢字も,今からするとあまり使わない用法だったりして,興味深かったです。

2017年7月27日木曜日

身体はトラウマを記録する:脳・心・体のつながりと回復のための手法

ベッセル・ヴァン・デア・コーク(著)柴田裕之(訳) 2016 紀伊國屋書店

読むのに約1ヶ月かかりました。大著です。しかし,最後まできっちり読まずにはいられない,そういう本です。これこそ名著であり,これこそ必読書です。

ヴァン・デア・コークはトラウマティックストレスの臨床と研究における第一人者であり,本書に書かれていることの説得力は図抜けています。それは自身の臨床経験と科学的研究に裏付けられています。何よりその情熱と向上心に感動します。

まずそもそも,臨床心理学を志し,臨床心理士になって相談やカウンセリングをしようと思う院生は,絶対に読んでおいた方が良い。というか,読まずに臨床やるのは,半端も半端,モグリだとたしなめても良いと思う。そのくらい,重要なことがぎっしり詰まっています。1ページさえも書いてあることに無駄のない700ページ弱の大著です。トラウマティックストレスの歴史そのものであり,そして最新のアプローチの数々であり,何が重要で何が重要でないか,その本質を丁寧に伝え,訴えている,そういう,熱い本です。かつ分厚い。

だから臨床の院生は修了するまでに絶対に読むべし。

そして基礎の院生も,読んでおいて損はありません。基礎系はやがて衰退し,臨床系一本になるであろう「心理学」という学問で食っていくためには,臨床的な観点と知識は,確実に役立つから,というかこれからは必須だから,若い基礎系の人は読んでおいて損はありません。

2017年6月21日水曜日

マインドフルネス瞑想・ヨガ

山口伊久子 2016 日本文芸社

マインドフルネス瞑想やヨガを用いたマインドフルネス瞑想の実践の書です。3分の2は実践について丁寧に詳しく解説してある一方で,前半(前の3分の1)で,簡潔に理論的な背景や取り組み方などが説明されていて,親切です。

マインドフルネスは何より実践が大切であることは本書にも再三書かれている通りであり,そのために,なるべく易しく取り組めるようなワークがいくつか紹介されています。とにかく,マインドフルネス瞑想をやってみたい人,周りにそういう教室や瞑想会がない人は,本書を読んでみて,一度,ご自身でまずは体験してみる,手探りで取り組み始めてみるのが良いでしょう。

2017年6月9日金曜日

感情を生きる:パフォーマティブ社会学へ

岡原正幸(編著)小倉康嗣・澤田唯人・宮下阿子 2014 慶應義塾大学三田哲学会叢書

まさにタイトル通り,生きられる経験を第一人称的に語る。これを「社会学する」とするこの<感情社会学>という領域は,とても興味深く面白いアプローチでした。不勉強故,こういう学問領域というかアプローチがあるのを初めて知り,これまで抱いていた社会学のイメージが崩れました。

何より,自分の一人称的な生を生々しく,しかし,客観的な視点は維持しながら書くというこの,オートエスノグラフィーというやり方が,心理屋の私からするとすごく新鮮でした。

というのも,一般的な心理学の訓練を受けていれば,一人称的視点での記述は,それが深刻な問題であればあるほど巻き込まれ混乱するし,鼻持ちならない自己陶酔や自己満足に陥って,まるで客観性を保てないとして,避けようとします。ですが,本書で出てくる5編のそれは,どれもそういう落とし穴に落ちることなく(いや,かろうじて保っているのかもしれないけれど),自身の感情体験を,巻き込まれることなく丁寧に追っていて,非常に訴えるものがありました。

得てして社会学は,理論的な話ばかりで生のデータのない難しい学問,データがあったとしても意識調査のような表層的な現象把握的な学問,というイメージでしたが,こういう,生の経験に一人称的に迫った社会学もあるのだと,驚きました。いわば,哲学・現象学と心理学の間ぐらいの感じでしょうか。